自然観察大学室内講習会(第1回)を開催しました。
2002年12月22日(日)、自然観察大学“室内講習会”を実施しました。室内講習会としては今回が第1回目となります。
講習会の様子
自然観察大学では、2002年5月から3回にわたって野外観察会を行ってきました。
 野外では実際観察する楽しみを体験できますが、なかなかまとまった講師のお話を聞くことはできない…、そこで、室内講習会を開くことに致しました。
…生き物の名前を覚えることも大切ですが、彼らのかたちを見る、くらしを考える、それから名前に近づくようにします。ちょっとした自分のなりの発見が、自然観察の入り口になります。…

自然観察大学の志を根っこに置いた、充実した講習会となりました。
 伊豆大島や長野など遠方よりお越しの方をはじめ、たくさんの方々にご参加いただき、盛会のうちに第1回目を終えることができました。
 参加者の皆様、講師の方々に、深く感謝申し上げます。

 第2回は、2003年2月15日(土)に開催されました。テーマは、「クモのくらしとかたち」、「アブラムシのくらしとかたち」です。
 第1回室内講習会 概要
 2002年12月22日(日)12:30〜16:30
 (参加者 49名)
 テーマ1 雑草のくらしとかたち(講師:岩瀬 徹)
 テーマ2 野鳥のくらしとかたち(講師:唐沢孝一)
 話題(講習内容から)
 当日はたくさんの興味深いお話を聞くことができました。ここに一部をご紹介いたします。
講演中の岩瀬先生講演中の岩瀬先生
◆雑草と野草はどう違う
 雑草と野草とはどう違うのか。よく耳にする疑問です。
 「雑」とは、もともとは悪い意味で用いられてきた言葉ではなく、おおもとの語源をたどれば、「襍」と書き、「いろいろな衣の集まった様子」をいったのだそうです。
 その意味を受け継ぎ、雑草の特徴として、「多様性をもつ」ことが挙げられます。
 雑草は、生育できる場所が比較的自由で、小回りがききます。例えば農耕地では耕作のすき間を縫い、早いサイクルで生活しています。環境に順応する能力に優れているので、空き地や道端など、めまぐるしく条件が変わる場所でも暮らすことができます。
 一方、野草は、生育条件が限定されています。例えば、土壌条件、他種との関係、日照時間、温度などに大きく影響を受け、それらの条件が満たされないと、生育できません。
 おおまかにいうとこのような違いがあります。
セイヨウタンポポ
空き地のセイヨウタンポポ(雑草の例)
カタクリ
林床のカタクリ(野草の例)
   
◆雑草・野草と人類の共存とは…
 地球規模で危惧される環境問題として、「砂漠化」があります。
 日本という国は、空き地でも校庭でも、少し目をはなすとすぐに雑草が生えてきます。
 これは、砂漠化が進んでいる地域からみれば、たいへんうらやましい話です。砂漠にならない日本の自然環境のありがたさ…、雑草のたくましさにあらためて目を向けてみてはどうでしょうか。草一本ない校庭が果たして美しいのか。人間と競合する場合、適切なコントロールの中で、共存していくことを考える時代にきています。
 一方、野草は、地域本来性を保たなくては、生き延びることができません。人間が、その本来性を壊してしまった場合、なんらかの手助けが必要です。
 このように、雑草・野草とのかかわりを見直し、よいつき合いを求めていくことが、環境保全にもつながっていくのです。


※ その他、「雑草のくらしとかたち」の講習の中では、“雑草と帰化植物”、“1年草、多年草など草のくらしの様式”、“雑草群落の遷移”などについてもお話いただきました。

講演中の唐沢先生 講演中の唐沢先生
◆もう一つのスズメ〜イエスズメ
 ロンドンのセント・ジェームス・パークのスズメの話をご存知の方も多いと思います。
 残念なことに数年前から忽然と姿を消し、手に乗って餌を食べるあの光景は、現在みられなくなってしまいました。
 それにしても、日本では人の姿を見るとすぐに飛び立つくらい警戒心の強いスズメが、欧米ではなぜ、あのように人を恐れないのでしょうか。
 実はあの手に乗って餌を食べているスズメは、イエスズメといって日本でよく見られるスズメとは別なものなのです。頭の色も、私たちに馴染みのスズメは褐色なのに対し、イエスズメは灰色をしています。
 イエスズメは、日本のスズメと同じように、人家近くで繁殖しています。繁殖力が旺盛で、西方に分布を広げ、シベリア辺りまでやってきています。やがて日本にも到達すると予測され、事実、利尻島でも観察されています。
 人への警戒心が強いかどうかは、その地域の野鳥保護の歴史や程度と関係しています。
 日本では稲の害鳥としてスズメを駆除の対象としてきた歴史があり、欧米は、野鳥を保護してきた歴史が長い。そういったことがイエスズメとスズメの「飛び立ち距離」(飛び立つときの人と鳥との距離)の違いに影響しているのでしょう。
ロンドンのイエスズメ 手から餌を食べるイエスズメ
◆花ごと落ちる桜の謎
 花見の季節、はらはらと散る桜の花びらは、日本の春の風物詩となっています。
 ところが、ある年、この風景に異変がみつかりました。
 花びらが1枚1枚散るのではなく、花が丸ごと、ぼたぼたと地面に落ちているのです。いったいどうしたことだろう…、調べていくうちに原因がわかりました。
 花を柄のところからちぎり落としている犯人は、スズメでした。
 では、いったいどういう理由で、このような不思議な行動をとるのでしょうか? 調べてみると、スズメは花の根元の蜜のでるところを切って舐めて捨てていたのです。スズメのくちばしは短く太く、花の中に突っ込んで蜜を吸うのには適していません。ですから工夫をしてこんな行動をとるようになったのでしょう。
 くちばしの細いメジロやヒヨドリは、花の奥にある蜜を啜ることができます。その際に、花粉が鳥たちに付き、別な花へと運ばれていく…、こうやって鳥たちに花粉を運んでもらっていた桜から見れば、花を柄ごとちぎられてはたまったものではありません。
 あちこちから寄せられた報告によると、スズメのこのような行動は、1930年ころにはすでに目撃されているそうです。江戸時代には、三熊花顛という画家が、スズメのそのような行動を想像させる画を残しており、おそらくもっと以前から、スズメはそうやって蜜を舐めていたのだと思われます。また、シジュウカラやワカケホンセイインコなどでも同様の行動が見られます。
 鳥たちのくらしぶりを垣間見ることのできる、エピソードです。
落ちた桜の花 花柄ごと落ちた桜の花(中安均原図)

※「野鳥のくらしとかたち」の講習の中では、ほかに、“スズメの起源”、“スズメの群生相と定着相”、“スズメの巣づくりの工夫”などについてもお話いただきました。
 アンケートから
 ご参加いただいた皆様より、感想をいただいています。一部ご紹介いたします。
岩瀬先生の雑草と野草に関してのお話に大変興味をもった。自分自身で、また身近な人々と一緒に野外観察の時間をもちたいと思う。
唐沢先生のスズメの話に興味を持った。単なるバードウォッチングではなく、生活史や人とのかかわりを推理してみるのも楽しそうです。
熱心な質疑が参考になった。唐沢先生の話術に感銘した。
岩瀬先生の名前を覚えるだけでないとの話が、たいへん参考になった。
面白くて肩がこらない。受講料も手ごろ。
本で読むのと違ってとてもわかりやすい。これからも続けてほしい。
 
その他多数いただいております。ご協力ありがとうございました。
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2002年度 室内講習会
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