自然観察大学 室内講習会(第2回)を開催しました。

2005年2月13日、自然観察大学では2004年度第2回室内講習会を開催しました。
今回は「ツバメと私たち」「動物に種子を運ばせる植物−共進化の視点から」がテーマです。
唐沢副学長からは「野鳥博士入門」を踏まえて、私たちの周りで子育てを行なうツバメの暮らしを紹介いただき、中安均先生からは植物が巧みな工夫によって、動物に種子を運ばせている例を数多く紹介いただきました。

講演中の唐沢副学長
「ツバメと私たち」
  講演中の唐沢副学長
ツバメは夏鳥として日本に渡来し、人家やビルなどに営巣し、飛翔昆虫などを捕食する習性があります。ツバメはなぜ人家の中や軒下が繁殖するようになったのか、その利点や危険な点などについて解説しましょう。
ツバメと人の付き合いの歴史は、江戸時代はもとより平安・奈良時代の物語や詩歌、さらに弥生・縄文時代にまでさかのぼることができます。 ツバメ
●ツバメが巣を作る場所
ツバメの営巣場所選択の条件としては、天敵や風雨に対する安全性、巣材や餌の確保、巣材の泥の付着しやすさ、人による保護などの条件が考慮されています。

巣のあと

泥を集めるツバメ

壁面に泥をつけた跡   巣材のドロを集めるツバメ
段ボール内で育つ雛 ツバメのための人工巣   ツバメのための出入り口
段ボール内で育つ雛
壊れた巣から落下した雛をここに移したところ、親ツバメが給餌して育てました。
  ツバメのための人工巣
人工的につくった巣でも繁殖することがあります。
ツバメのための出入り口
ビルのシャッターが降りるとツバメは建物内の巣に出入りできなくなります。このビルのオーナーはシャッターに穴を開け、ツバメが出入りできるようにしています。
 
●ツバメと天敵
早朝や休みの日にカラスに襲われることが多くあります。
また、スズメに巣を乗っ取られることもあります。
 
●ツバメの食性調査
雛は巣の下に糞を落とすので、糞内の破片から何を食べているのかを調べることができます。
フンを水洗いする
フンを水洗いして糞内の破片をとり出しています→
 
「動物に種子を運ばせる植物― 共進化の視点から ― 講演中の中安先生
  講演中の中安先生
植物はさまざまな方法で種子を散布します。風や水を利用する、動物を利用する、はじき飛ばす、自然落下するなどの方法があります。いくつかの散布法を組み合わせて使っている植物もあります。
●動物を利用して種子を運ばせる
動物を利用した種子散布には、食べさせて運ばせる(被食散布)、くっつけて運ばせる(付着散布)、貯蔵場所に運ばせる(貯食散布)などの方法があります。
タヌキは雑食性で、果実もよく食べます。秋に見つけた糞(写真1)の中には大量の種子が入っていました。
タヌキの糞 ヒサカキ・カクレミノ モチノキ・アケビ類
↑写真1   タヌキの糞から取り出した種子(左;ヒサカキ・カクレミノ、右;モチノキ・アケビ類)
テンと思われる動物の糞(写真4)の中からはアケビ類の種子が見つかりました(写真5)。白い部分は、エライオソームと呼ばれる付属体です。エライオソームのついた種子の散布にはアリがかかわっています。アリはエライオソームのついた種子を巣穴の中に運び込み、エライオソームの部分だけを餌として利用し、種子の本体は巣穴の外に捨てます。
テンの糞 アケビの種子
↑写真4   ↑写真5
シカなどの草食動物も飲み込んだ種子を散布する場合があります。バンテン(ボルネオ島の野生牛、写真6)の糞の中からメヒシバの仲間が芽生えていました(写真7)。
バンテン バンテンの糞
↑写真6   ↑写真7
バンテンの糞はさまざまな昆虫の餌として利用されます。タマオシコガネは糞の一部を丸めて運びます(写真8)。このとき、糞の中の種子も一緒に運ばれていきます。
タマオシコガネ ←写真8
ヒトも自分では気づかないうちに種子散布に利用されていることがあります(写真9)。雑草の細かい種子は、動物の濡れた体に付着したり、泥と一緒に足の裏(靴底)についたりして運ばれることもあります。 
靴底についた種子 ←写真9
●種子散布に貢献する鳥・しない鳥
種子食の鳥は飲み込んだ種子を体内で壊してしまうので、種子を散布する可能性は低いと考えられます。身近な鳥ではスズメ、カワラヒワ、キジバトなどがこれにあたります。種子を餌として利用できる鳥の筋胃(砂のう)では筋肉が厚く発達しています。
果実食の鳥の筋胃の筋肉層は薄く、種子は破壊されずに体内を通過し、糞と共に排出されます。ヒヨドリは雑食性ですが、果実をよく食べ、飲み込んだ種子を散布する代表的な鳥です。
スズメの胃 ヒヨドリの胃
写真10 スズメの胃   写真11 ヒヨドリの胃
●鳥による種子散布の証拠
ハボタンの上にアオキ・ネズミモチ・ハマヒサカキの種子がありました。葉をついばみに来たヒヨドリが残していった置き土産です(写真12)。
鳥がよく止まる樹木や建造物などの下にはたくさんの種子が落ちています。しかし、その種子がそこで芽生え、生き残れるかどうかは運次第です。
サツキの植え込み クスノキの木の下のサツキの植え込みの中で育った樹木の実生。
ユズリハ・エノキ・ネズミモチが見られる。
ハボタン ←写真12
●動物を利用して種子を運ばせる
作戦1「見つけさせる」
目立つ色の実を目立つ位置につけます。鳥によって種子が被食散布される植物の果実の色で多いのは赤や黒紫色です。ヒトの目にはあまり目立たない紫系統の色も鳥の目には目立つようです。
作戦2「種子の周囲を被食部で覆う」
植物が果実に被食部をつくることは、鳥に種子を運ばせるのに必要なコストといえます。果実には子房壁が発達するタイプ(真果)と子房壁以外の場所が発達するタイプ(偽果)があります。
タチバナモドキは花床が発達した偽果(バラ状果)で、種子のように見えるのは正確には果実です(写真14)。
タチバナモドキの実は一見おいしそうですが、実際にはほとんど味がありません。鳥が食べる果実はおいしいとは限らないのです。それどころか、クロガネモチ(写真15)のように、とても苦い果実さえあります。苦い果実は鳥に食べつくされるまでに時間がかかります。たくさんの鳥が一時期に集中しすぎないようして、長期間にわたって広範囲に種子を散布させる植物の作戦なのかもしれません。
タチバナモドキ クロガネモチ
↑写真14   ↑写真15
作戦3「食べられるまでじっと待つ」
マンリョウの実は冬の間に食べられてしまうのが普通です。ところが、この写真のマンリョウは夏になって花が咲いてもまだ実がついたままでした。鳥が食べに来にくい玄関脇にあったためのようです。風散布型や重力散布型の種子・果実が枝から簡単に離れやすくなっているのとは対照的に、鳥散布型の種子・果実は離れにくい特徴を持っています(写真16)。
写真16→
マンリョウ
作戦4「飲み込ませやすくする」
鳥散布型の果実は球形ないしは俵形で、表面には突起がなくなめらかです。果実を種子ごと丸飲みさせるには、その径が鳥の口の幅より小さくなければなりません。そのため、大きな果実の場合は俵形にならざるを得ません。
作戦5「種子を壊さずに運ばせる」
鳥散布型の植物の種子はたいていの場合、丈夫な殻で覆われ、保護されています。種皮が堅くなっている場合と、内果皮が堅くなっている場合とがあります(写真17)。
種子 ←写真17
●被食散布における果実と種子の擬態関係
鳥散布型の果実はたがいにとてもよく似ています。たがいに共通する信号で鳥に対する広告効果を高めていると考えることができます。
よく似た果実の中には被食部がとても少ないものもあります。また、果実によく似た目立つ種子もあり、その中には被食部が全くないような場合もあります。こうした果実や種子は、被食部が発達している果実や種子に擬態して利益を得ているというとらえ方ができそうです(岡本1999,上田1999)。
似た種子
たがいによく似た果実や種子
(ツルウメモドキとヤブランは種子。その他は果実)
   
このような鳥散布型の果実や種子における複雑な擬態関係の背景には果実食鳥との共進化の長い歴史があると考えられます。
●参考文献
  上田恵介編著(1999)種子散布.助け合いの進化論<1>.鳥が運ぶ種子.築地書館.
岡本素治(1999)鳥と多肉果のもちつもたれつの関係 果実の形態、生長・成熟フェノロジーとヒヨドリの好み.前掲書
浅間茂・中安均(2003)校庭の生き物ウォッチング.全国農村教育協会.
 
2004年度 室内講習会
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