自然観察大学 室内講習会(第1回)を開催しました。  

2008年12月21日、自然観察大学では、2008年度第1回室内講習会を開催しました。
今回は「剣(つるぎ)の誕生 ―寄生蜂から狩人蜂への進化―」と「遊びからはじめる植物観察」がテーマでした。
田中義弘先生からは、蜂のおもしろさを寄生蜂から狩人蜂への進化をテーマに、わかりやすい図解や写真、動画を交えながら、熱く講演していただきました。
小林正明先生からは7月に出版した「草花遊び図鑑」の発刊記念講演として、植物のつくりと草花遊びの関係をふまえて、なぜ草花遊びができるのかということを講演していただきました。

『剣の誕生』
 −寄生蜂から狩人蜂への進化― 

田仲義弘先生
大妻中学高等学校教諭
日本昆虫学会会員
狩人蜂の行動を長年研究
生物写真家としても活動し、インセクタリウム高崎賞を受賞
著書は『校庭の昆虫』など。
田仲先生
田仲先生によると「蜂のオモシロさは、時期と場所を選んでじっくり見ないと理解しにくい部分があるので観察会などでの紹介が難しい」そうです。
今回の講習会では無理をいってそのオモシロさを紹介していただきました。が、残念なことにご専門の狩人蜂の紹介にたどり着く前に時間切れとなってしまいました。先生が講義に用意された画像、動画、図説はフィールドに通わなければ用意できないような資料で、なかには初めて撮影されたという生態写真もあり、先生の話と合わせて聞いていると蜂の世界の奥深さを感じさせる素晴らしいものでした。
前半はハチ目の解説、後半は各種の寄生蜂をホストの生活環境や寄生箇所で整理し、進化にからめて説明していただきました。
講演の様子 講演の様子
「蜂は、各種の行動や習性を比較することで進化の過程をイメージできます」とおっしゃられていた田仲先生は、現在ハチの本を執筆中です。一部、講演にも使用されたご自身による生態写真や図説が満載の予定です。ご期待ください。
モンシロチョウの幼虫に寄生するアオムシコマユバチの蛹に寄生する蜂などの重寄生、イヌビワとイヌビワコバチとの共進化、オオヒメグモに寄生する寄生蜂の産卵の一連の動画、コナラの冬芽や葉に虫こぶをつくるナラハウラマルタマバチの両性世代と単性世代は別種だと考えられていた事と撮影できた事、ある寄生蜂がお茶に寄生することで植物の出す防御物質により最高品質のお茶ができる事、エサと親蜂の大きさの関係、などです。
スタッフの私は蜂の毒の様々な働きがおもしろかったです。特に、内部寄生をする寄生蜂の毒液は、寄主の体内に産みつけた卵が異物として排除されないように寄主の免疫をごまかしつつ、寄主が外部からの病原菌にやられないための免疫を温存させる、という毒液(保護液?)だというのには驚きました。
田仲先生の講義の面白さを伝えきるのは難しく、概要になってしまいますが、ご紹介いたします。なお、以下四点の図は全て田仲先生によるものです。
アオムシコマユバチ アオムシコマユバチ アオムシコマユバチ アオムシコマユバチ
アオムシコマユバチ(内部寄生蜂)の生活
寄生するアオムシコマユバチも寄生されます(印:蛹に寄生されている)
<ハチ目の解説>
ハチ目の分類
ハチ目は、広腰亜目と細腰亜目に分けられます。
広腰亜目は幼虫が植物食(キバチやハバチ)、細腰亜目は、狩人蜂、寄生蜂、アリも含む多種多様な種や習性を持ちます。ミツバチやスズメバチはこちらのグループです。
ハチ目の系統図 ハチ目の系統図 ハチ目の系統図 ハチ目の系統図
ハチ目の系統図
剣の進化
本来の機能は産卵管ですが、やがて卵を安全に産みつけるための機能〜植物に切れ目を入れるのこぎりの役割、毒を注入する針の役割など〜も備わってきます。剣が針と進化したグループでは巣の防御に針を使ったり、毒を持つようになったようです。
産卵管の模式図 産卵管の模式図 産卵管の模式図 産卵管の模式図
ハチ目の産卵管の模式図
“毒”は卵を生む際の潤滑油に様々な化学成分が含まれて発達してきたと考えられています。蜂の大部分のグループは、植物や無脊椎動物(昆虫・クモなど)に対しての毒で、人に影響を及ぼす毒は、哺乳類に幼虫や蜜が狙われるような巣をつくる社会性を持ったグループ(スズメバチなど)に発達しました。
植物食の広腰亜目は、卵の産卵と共に親の体内で共生している菌も植物体に移し、その菌の働きで腐朽した部分を幼虫は食べて大きくなります。
寄生蜂の一部と狩人蜂の毒は麻酔液です。寄生蜂は、確実に産卵するための寄主を眠らせる麻酔液、狩人蜂は幼虫のエサとして狩ってきた獲物が腐らないようにするための生かさず殺さずの麻酔液です(寄生蜂のなかには麻酔を持たない種もいます)。
クリタマバチ クリタマバチ クリタマバチ クリタマバチ
クリタマバチ(寄生蜂)の生活史
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『遊びからはじめる植物観察』

小林正明先生
前 長野県立飯田高等学校長
現 飯田女子短期大学教授、信州大学農学部非常勤講師
伊那谷自然友の会会長
南アルプスのシカ食害で希少生物絶滅問題に取り組むほか、生物季節に興味をもつ。
自然観察大学 特別講師
著書は『花からたねへ -種子散布を科学するー』など。
小林先生
■ 子どもたちに草花遊びで原体験を
今回初めて自然観察大学で講演してくださった小林先生には『草花遊び図鑑』発刊記念として、主に本の内容の中から草花遊びを紹介して頂きました。方法だけではなく、なぜ草花遊びができるようになったのか、植物のつくりと遊びの関係について写真を交えて詳しく講演していただきました。
講演の様子 講演の様子
草花遊びは子供たちにとって大切な原体験となります。
■ カナムグラで輪投げ
カナムグラの茎を丸めると、簡単に輪を作ることができます。いろんなサイズのわっかを作って輪投げ遊びをしたり、小さな輪を作って、小枝にひもをつけて結べば、けんだまの出来上がり。
どうして丸めるだけで輪が出来上がるかというと、カナムグラの茎には小さな突起がたくさんあるからです。この小さな突起で、つる植物のカナムグラは他の植物をよじ登り、寄りかかって暮らしています。
カナムグラの茎の輪
カナムグラの茎の輪
カナムグラの茎
カナムグラの茎には小突起がある
■ 花占いに“勝つ”方法
「好き・嫌い・好き・・・・・・」と、花びらを一枚ずつ自分の願いや思いをとって占う花占い。この花占いも、使う花の特徴を踏まえて花選びをすれば、勝つことができます。
例えば、桜を使うときは“好き”から始め、菜の花を使うときは“嫌い”から始めます。
このように花選びをするとき、桜は5枚、菜の花は4枚といった花びら(花弁)の数と、花弁が偶数なら“嫌い”から、奇数なら“好き”から始めるといったことを意識するのがポイントです。
キク科の花は、花によって花びら(舌状花)の数が一定ではないので、どちらが勝つかわからないドキドキした勝負や占いができます。
マメザクラ
桜(マメザクラ)の花弁は5
菜の花
菜の花の花弁は4
キクイモ
キクイモの花。キク科の花は花弁の数が決まっていないので、花占い向きです。
◇葉っぱでも勝負や運だめし
フジ、ニセアカシア、クサフジなど複葉を持つ葉を使っても、勝負や運ためしができます。

〜遊び方〜

1. 2〜5人ほどで、各自自分の小葉を決め、葉の一部に印をしておく。
2. いろはにほへとちりぬる(散りぬる)と小葉を数えていく。
3. “る”になった小葉を切り取る。
4. 切り取った葉の次の葉から、また「いろはに・・・」と繰り返し、
  最後に自分の葉が残った人が勝ち
この遊びは葉の小葉を使っています。
小葉のできるわけとしては、
1. 1枚の葉が大きいと、風や雨で傷つきやすい。
2. 病気や虫害から被害を少なくできる。
3. 葉が重なったときに下の葉にも光が届きやすい。
  という理由によるのではないかと考えられるそうです。
小葉 小葉 小葉
■ 花の蜜を吸う
花弁をつまんで、基のほうを口に含んで吸うと、甘い蜜が出てきます。アカツメクサ、レンゲ、スイカズラ、オドリコソウ、サルビアなど花が筒型をしている種類が適しています。筒型の花は花底に蜜があるので吸いやすいのです。
マルハナバチなどの昆虫は花の形で種類を覚える能力を持っています。ですから、花は筒型のように形を変化させ、特定の昆虫だけに同じ種類の花に来てもらい蜜を吸えるようにしています。花粉を効率よく運んでもらうために植物のしくみもつくられるそうです。
アカツメクサ
アカツメクサ(マメ科)
ツリフネソウとマルハナバチ
ツリフネソウとマルハナバチ
■ ひっつきむしで遊ぼう
◇ オオオナモミのマジックテープ
オオオナモミの実のまわりにはたくさんの突起があり、その先はJ字型に曲がっているので服にひっつけたりして、遊ぶことができます。このフック状の突起はマジックテープが発想された根源になったそうです。
オオオナモミ
オオオナモミの実
◇ ヌスビトハギでお絵かき
最近は、ヌスビトハギの仲間のアレチヌスビトハギが増えています。この果実も衣服にくっつきます。細長く種子ごとにくびれ、ちぎれるので、絵を描くのには使いやすい果実です。
アレチヌスビトハギ
アレチヌスビトハギの果実
アレチヌスビトハギで描いた絵
アレチヌスビトハギの果実をひっつけて描いた絵
◇ センダングサでダーツ
センダングサの果実には鋭い逆刺があり布にくっつきます。タオル地の布に的の円を描き、それを目指して実を投げれば立派なダーツ遊びができます。
センダング
センダングサの果実の先にはひっつくための逆刺がある
センダングでダーツ
布に向かってダーツに挑戦!
このような果実のつくりになっているのは、動物の毛について種子散布してもらうためだと考えられます。いろいろな種子散布の方法で植物は拡がっていくのですね。
このほかにもいろいろな草花遊びや植物のつくりについて紹介いただきました。
植物のからだのつくりもいろいろな意味があっての構造であると気づきました。
草花遊びもただ遊ぶだけではなくどうして遊べるのか植物を観察して考えることも大切であると思いました。
植物のつくりを良く観察して知っていれば、更にいろいろな草花遊びが発見できるかもしれませんね。
たくさんの写真と小林先生の詳しい解説に参加者の皆様も熱心に聞き入っておられました。
小林先生ありがとうございました!
2008年度 室内講習会
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