2009年  自然観察大学 室内講習会 第1回
2009年12月20日、2009年度 自然観察大学第1回室内講習会を開催しました。
今回は、飯島和子先生の「植物群落は動く−東京湾岸校庭での調査−」と村田威夫先生の「シダ植物の分類−分類の形質−」の2本立てで、講演していただきました。

植物群落は動く
−東京湾岸校庭での調査−
飯島和子先生

「校庭の雑草-CD付-」の共著者である飯島和子先生は、『植物群落の遷移は非常に長い時間を要する現象ですが、初期の段階は観察、調査することが可能です』と、東京湾岸の埋め立て地の校庭で行った17年間の遷移調査と教材化する工夫についてお話しいただきました。
詳しい調査方法、手順、調査結果は、「校庭の雑草-CD付-」の「群落は動く-植物遷移をとらえる-」のページをご参照いただくとして、本には載せきれなかったお話をご紹介したいと思います。

 

飯島和子先生
元千葉県立衛生短期大学生物学研究室教員、前千葉県立農林総合研究センター森林研究所研究員。東京湾岸埋立地の植物群落の遷移や植物の特性を調べている。野外観察や植物の栽培を行いながら植物の教材化を試みている。著書に「イネ・米・ごはん」、「校庭の雑草(CD付)」(共に全国農村教育協会、共著)
■土地の確保
遷移の観察はまず土地の確保から始めました。
飯島先生は、学校の創立初年度から学校に赴任していたため、造成後間もない校庭の一角を使用することができました。が、「遷移の観察」に周囲の理解があったわけではなく、「畑をつくる」ことにして土地を確保しました。初年度はサツマイモを“畑”に植え、翌年はサツマイモを半分、半分は実験区として観察をスタートさせました。
実験地設置の前年秋。サツマイモ畑。
文化祭では生物部の学生と焼き芋の販売も行いました。
■実験地の維持
実験地を継続して使用するには周囲への働きかけが必要と感じ、趣旨を示した説明板を実験地に立てて、何をしているのか知ってもらうようにしたそうです。
校庭の除草作業の際に一緒に刈られてしまう恐れもあります。校庭の除草作業は入札で決まるため、落札した業者は業務をきちんとこなさないと翌年の入札に参加できなくなると、草だらけの実験地を非常に嫌がったそうです。学校内の関係者も含めその都度説明するなどの気配りは大切です。
裸地化1年目12月
 
裸地化6年目秋
説明板の変遷
「除草しないで下さい」から「立入禁止」に。
「いつの間にか態度が大きくなっていますね(笑)」と飯島先生。
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●植物群落調査表
参加者の方も体験ということで植物群落調査表が配布されました。
植被率,被度,個体数,草高,成長段階などの調査項目が区画毎に記入でき、後々まとめやすいようになっています。
飯島先生は、調査表に「受粉型」、「散布型」の記入欄を設け「花粉が何によって運ばれるか」、「植物の種はどこからくるのか」という視点からも観察していたそうです。
みなさんも是非ご自分のフィールドや学校で、遷移の観察をしてみてはいかがでしょうか?
■教材化の工夫
長期にわたる実験なので、調査は担当者が変わっても引き継がれるのが理想です。
調査区を1年ごとに設置していけば、数年間の遷移を同時に観察することができます。
調査は植物の名前を知っておくと効果的です。各ステージの姿がわかるような図鑑類の活用をお奨めします(→推奨図書「校庭の雑草」「日本原色雑草図鑑」。あらかじめ調査地周辺の植物を見ておくのもよいし、種子の採取の可能な植物については種子を鉢やポットに播き、芽生えや成長段階をみてスケッチや写真に収めておくといっそう確実です。飯島先生は、オオアレチノギク,ヒメムカシヨモギ,コマツヨイグサ,スズメガヤなどを記録にとったそうです。

裸地化1年目秋
オオアレチノギクのロゼット

裸地化2年目5月
トウネズミモチの幼植物
ロゼットや芽生えがわかると調査は楽しい。
■野外で見られる二次遷移の例
野外で身近に見られる遷移もご紹介いただきました。駅前の空き地やスギ人工林などは人の手が加わることにより形成される群落ですが、長い時間をかけて変化する遷移の一時の姿であることがわかりました。
オオブタクサ(キク科1年草)群落
放置後数年経過。定期的な草刈により遷移の初期段階に留められている。奥にはアキノエノコログサがみられる。
ススキ(イネ科多年草)優占群落
放置後5年以上経過。やがて木本が侵入、時間をかけて林になることが予想される。もしかしたら竹林に?
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●皆さんの質問より
毎回、参加者の方には事前に質問などをお伺いしておりますが、尚美さんから思いがけない次のようなご質問をいただきました。(ちなみに尚美さんは、自然観察大学の常連さんで、いつもご夫婦でご参加いただいております)

「庭の野草のクマガイソウなどがいつの間にか日陰に植えたのに庭の一番良い場所に移動していたり、日向に植えたものが木陰に移動していたり、宿根草なのにと植物の移動が気になっていたので楽しみです。」

今回の内容と少しズレるなと募集要項を改めてみたところ “遷移”(時間による植物の動き、変化)の話だということがタイトルからわからないことに気がつきました。
講演後のアンケートからも尚美さんのように思っていた方が他にもいたことがわかり、タイトルの大切さを感じました。タイトルは内容がわかりやすく、興味を持ってもらえるようにと考えるのですが、まだまだ配慮が足りませんでした。
尚美さんをはじめ他の方々から「思っていた話とは異なったけれど、遷移の話もおもしろかった」と感想をいただくことができ、ありがたいなぁと思うと共に、皆さんの興味をかき立てる講演をしていただいた飯島先生にも感謝です。

植物の空間移動についてはフェノロジー調査(植物観察。植物の季節的な成長の仕方を調べる)でわかることが多くあります。いずれ取り上げてみたいテーマです。

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シダ植物の分類−分類の形質−
村田威夫先生

今回の村田先生の講義は、シダ植物の分類についてのお話です。
図解や写真が盛りだくさんのお話で、シダ植物について詳しく知らなくても、シダの特徴や他の植物との違いがわかりました。その講義の様子を一部レポートいたします。
村田威夫先生
プロフィール; 前千葉県立佐倉高等学校教諭。千葉県のシダ植物相を研究している。主な著書に、「シダ植物」(全国農村教育協会 共著)、「森の野草」(学習研究社 共著)、「新版千葉県植物誌」(井上書店 共著)、「湾岸都市の生態系と自然保護」(信山社サイテック 共著)、「千葉県植物ハンドブック」千葉県生物学会編(たけしま出版 分担執筆)
 
■シダ植物の特徴
植物には、コケ植物、シダ植物、種子植物の3グループがあります。これらのグループは以下のように分類されます。
シダ植物は、胞子体が発達しており、配偶体は独立して生活しています。維管束の有無では、コケ植物は維管束をもたず、シダ植物と種子植物は維管束をもつというように分類されます。
■シダ植物の配偶体
本来の機能は産卵管ですが、やがて卵を安全に産みつけるための機能〜植物に切れ目を入れるのこぎりの役割、毒を注入する針の役割など〜も備わってきます。剣が針と進化したグループでは巣の防御に針を使ったり、毒を持つようになったようです。
シダ植物の配偶体は前葉体と呼ばれ、図のようなハート型の形をしています。
シダ植物の普通見る植物体は胞子体であり、配偶体(前葉体)は微小で目立ちません。
ハートのくびれ付近に造卵器ができその中に卵細胞が、先端近くに造精器ができその中に精子がそれぞれ造られます。
 
(撮影:村田威夫)
野外でも前葉体を見ることはできます。1cmくらいと小さいですが、見つけやすいポイントを紹介します。

・ 崖地の日陰の植物が生えていないような斜面。
・ 受精して出来た若い胞子体の周辺。

写真のように、若い胞子体を発見すれば、前葉体も発見できそうです。

 
(撮影:村田威夫)
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■シダ植物の葉
シダ植物は、古くから葉の特徴によって、以下のように、4グループに分類できます。
写真のマツバランは無葉類で、ほぼ全体が茎のみからなり二叉に分かれています。分化した根も明らかな葉もありません。根も葉もない植物です。そのため、かつてはそれらが分化する前の原始的なものの生き残りと考えられていました。
(最近の分子系統学的見解は異なっています。)
 
マツバラン(撮影:村田威夫)
写真のタチクラマゴケは、1枚の葉に1本の葉脈しかない小葉をもつシダ植物で、小葉類と呼ばれます。
トクサ類は大葉が特殊化した葉をもつことから楔葉類に分類されます。
 
タチクラマゴケ(撮影:村田威夫)
■シダ類の分類と胞子のう
身近に見るシダ植物と言えばほとんどがシダ類に分類されます。みなさんがよく知るワラビやゼンマイもシダ類です。
シダ類の葉は、形が比較的大きく扁平で、葉脈の分枝も複雑であり、小葉と異なります。このような葉を大葉と呼びます。(種子植物の葉は全て大葉です。)
シダ類は、かつては右のように、胞子のうの発生過程によって大きく2つに分類されました。
真嚢シダ類は、数個の細胞が元になり、分裂して胞子のうを形成します。1つの胞子のうには数百〜数万の胞子が含まれています。写真はフユノハナワラビで、1つの胞子のうが、肉眼で確認できます。
薄嚢シダ類は、単独の細胞が分裂をし、完成した胞子のうは単一の細胞層に包まれています。1つの胞子のうには数十の胞子が含まれています。
フユノハナワラビ
(撮影:村田威夫)
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■胞子のうの環帯のいろいろ
牧野植物図鑑には多くの薄嚢シダ類はウラボシ科に含まれています。これは胞子のうにある、環帯という細胞群の特徴で分類したときに図のオオイタチシダのような環帯をもつシダをウラボシ科とするコープランドの分類に従ったからです。
つる植物のカニクサ(カニクサ科)やお正月の御飾りに使う地域もあるウラジロ(ウラジロ科)も、図のように変わった環帯の位置をしています。これらの胞子のうは薄嚢シダ類に分類されます。
現在用いられている分類は、多くのいろいろな形質を考慮した分類です。
野外ハンドブック「シダ植物」 p.29
(全国農村教育協会)より
 
●シダの名前の語尾
シダの名前には右のような語尾がみられます。まとめると右のようになります。シダ植物であっても○○コケなどと語尾につくものもあるのですね。名前にコケがつくからといって、安易にコケ植物だ!とはいえないようです。(例:クラマゴケなど)
分類が難しそうなシダ植物も分類の基準を知れば、おもしろくなるなと思いました。参加者の皆様もシダ植物について新しいことを知ることができたという感想をいただきました。村田先生ありがとうございました。
2010年秋に村田先生によるシダ植物のテーマ観察会も予定されております。お楽しみに!

 
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