2009年  自然観察大学 第2回
2009年6月21日(日)
場所:我孫子市岡発戸
2009年6月21日(日)に第2回自然観察大学が、我孫子市岡発戸・都部谷津の谷津ミュージアムにて開催されました。
前回の天気は雨模様でしたが、当日はそれ以上に大雨の中での開催となりました。それにもかかわらず予想以上の人数の方々に参加していただきました。雨で虫たちがあまり観察できなかった分、先生方のお話はいつも以上に盛りだくさんだった気がします。当日のようすをレポートで紹介させていただきます。

観察会風景

観察会風景

当日に話題になった生き物のリスト

植物
・草本
アキカラマツ
オオブタクサ
ガマ
キキョウソウ
クサフジ
クズ
ショウブ
セイタカアワダチソウ
ツリガネニンジン
ドクダミ
ノハラアザミ
ヒメガマ
ヤブジラミ
・木本
アカガシ
アカマツ
クリ
シラカシ
シロダモ
スダジイ
タケ
ニガキ
ヌルデ
マユミ
マテバシイ
シダ植物
カニクサ

 

昆虫
ガガンボモドキ
ジャコウアゲハの蛹
ツマグロヒョウモンの蛹
ナガメ
(クズの昆虫)
オジロアシナガゾウムシ
クズノチビタマムシ
コフキゾウムシ
マルカメムシ
(クサフジの訪花昆虫)
クマバチ
シロスジヒゲナガハナバチ
モンシロチョウ
(ハチ)
アメリカジガバチ
キオビツヤアナバチ
キゴシジガバチ
ケオリツヤアナバチ
ヤマトツツクモバチ
ルリジガバチ
(アブラムシ)
ガマノハアブラムシ
ホリニワトコアブラムシ
ヤノクチナガオオアブラムシ
ヨモギクダナシアブラムシ
クモ
ジョロウグモ
ヤマトコマチグモ
(ヤマトツツクモバチが寄生)
ウグイス
オオヨシキリ
ホトトギス
 
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秋の草―ゴルフ場の斜面
  この観察会は谷津の奥に当たる部分からはじまり、右手にゴルフ場の林を見ながら進みます。岩瀬先生はコースを進みながらゴルフ場の斜面を前に足をとめ解説を始めました。
「5月の観察会が終わった直後に草刈りが行われたようですが、それでも草が伸び出し大きくなっています。ツリガネニンジンやアキカラマツ、ノハラアザミなども伸び出しています。秋には花が期待できそうです。今の様子を覚えておいて、9月に比較するのも面白そうですね」と、岩瀬先生でした。
観察会風景 観察会風景
開会式の岩瀬先生。まずここでオオブタクサの解説がありました。「現在のオオブタクサは葉は対生。ブタクサは途中から互生に変わりますが、オオブタクサはどうでしょうか?」9月に続きます。
ゴルフ場の斜面 ゴルフ場の斜面
除草後、一ヶ月たったゴルフ場の斜面

ツリガネニンジン

伸び出したツリガネニンジン。葉が十字対生です。9月にはどのようになっているでしょうか?
実はこの斜面、ゴルフ場の方が草を刈ったのは第一回目の観察会があった翌日でした。谷津の守人の方たちが「観察会があるので草刈りを待ってください」とお願いしたそうです。おかげで良い状態で観察会ができました。
気を配っていただいた谷津の守人の方たち、はやる気持ちを抑えて除草を待って下さったゴルフ場の方たちに感謝ですね。
葉っぱチマキの住人―ヤマトコマチグモ と ヤマトツツクモバチ
●ヤマトコマチグモ
ゴルフ場の土手の斜面にススキがツンツン突き出しています。
その葉の先がチマキのようになっているのがたくさん目につきます。田仲先生がこの謎を解説してくれました。
田仲先生によるとこのチマキをつくったのは“ヤマトコマチグモ”。産卵期を迎えた雌がススキなどのイネ科の葉先をチマキのように形作って産室を作ります。その中で産卵し仔グモが3齢になるまで守ります。仔グモは3齢になると牙を持ち自分で獲物を狩りはじめるのですが、一番初めの獲物は親グモで、親グモを食べてから、チマキの産室を旅立ちます。
解説中の田仲先生 解説中の田仲先生
ヤマトコマチグモの解説が田仲先生によってはじまったとき“あれ?”と思ったあなたは自然観察大学の通ですね。さらに、先が読めた方は自然観察の通?
ヤマトコマチグモ
産室の中のヤマトコマチグモ。親グモの下に卵嚢がみえます。
●ヤマトツツクモバチ
さて、この時期のチマキの中を覗いて見ると、卵嚢(らんのう)を守る親グモをみることができます。ところが、卵嚢は見られず背中に幼虫を背負っている親グモに遭遇することがあります。これはヤマトツツクモバチの幼虫でヤマトコマチグモに寄生します。ヤマトツツクモバチの親はチマキの中に入り込み、ヤマトコマチグモの脚を押さえ込み麻酔をし、腹部の背面(ヤマトコマチグモの脚の届かない場所)に卵を産みつけます。3日もすると卵は孵りヤマトコマチグモの背中で体液を吸いながらゆっくり成長します。最後にはヤマトコマチグモの大アゴだけを残して食べ尽くし、蛹になります。
ヤマトツツクモバチの麻酔液には、ヤマトコマチグモの産卵を抑制する物質が含まれており卵を産みつけられたヤマトコマチグモは産卵をしないそうです。ヤマトコマチグモは、お腹に卵をかかえたまま、全て食べられてしまいます。
ツツクモバチ ヤマトコマチグモの巣を調べているツツクモバチ。
(撮影:田仲義弘)
ヤマトツツクモバチの前蛹 ヤマトツツクモバチの前蛹。田仲先生によると1週間前にはまだ幼虫だったそうです。
キオビツヤハナバチ―セイタカアワダチソウの住人
今春、伸びたセイタカアワダチソウなどに混じり、昨年のセイタカアワダチソウの枯れた茎も立っています。スタスタ通り過ぎてしまうような場所ですが田仲先生はここでキオビツヤハナバチの解説をしてくれました。
キオビツヤハナバチは、セイタカアワダチソウなどの枯れ茎の髄を掘り、子どものための小部屋を用意します。掘り進んだ髄の屑で仕切られた小部屋の中には細長い花粉団子と上にのったバナナ型の卵が見られ、この卵は雌の腹部の2/3もの長さもある大きな卵です。
セイタカアワダチソウの茎を割ってみると、中に並んでいる小部屋と髄を掘っている最中の親蜂を見ることができました。
草むら 草むら
一見、何も無いような場所ですがキオビツヤハナバチの観察ができます。
キオビツヤハナバチ キオビツヤハナバチ。体長は8〜9mm。後脚に花粉の塊がみられます。
(撮影:田仲義弘)
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樹木の観察
●斜面林の色の移り変わり
前回の5月と同じ場所から対岸の斜面の森の様子を観察しました。前回は明るい若葉の色が目立ちましたが(写真左)、今回は緑が濃くなり、樹種ごとの特徴の違いが分かりづらくなっていました(写真右)。タケは茶色がかった緑色から鮮やかな緑色に変わってきており、新旧の葉の交代が進んでいる様子が分かりました。次回、秋の観察会にはどんな色づきの斜面林になっているか楽しみですね。
斜面林/5月
5月10日撮影(撮影:中安均)
斜面林/6月
6月21日撮影
●単葉と複葉
雨に濡れて気持ちよさそうな樹木を観察しました。今回は葉の形態について先生方のお話を聞きました。
マユミは葉が独立した単葉です。葉は1枚1枚パラパラと落葉します。単葉のそれぞれのつけ根に芽がついています。冬芽は芽を包んでいる芽鱗(がりん)があります。
ニガキは葉が複数の部分に分かれている複葉です。単葉と思ってしまうものは、1枚の裂片で小葉といわれるそうです。右下のニガキの写真では、印の部分が1枚の葉ということになります。複葉では小葉のつけ根に芽がないそうです。ニガキの冬芽は複葉のつけ根の部分にあり、芽鱗のない裸芽(らが)だそうです。ヌルデは、複葉の様子がよくわかる樹木だそうです。
マユミ
マユミ。単葉の葉をもつ。
ニガキ ニガキ
ニガキ。複葉の葉をもつ。
似ている樹木に見えますが、よく観察すると葉のつき方や冬芽の形態は違うのですね。
このように、葉や芽のつき方を観察すれば、単葉か複葉か見分けられそうですね。
もうこんな時期から冬芽ができていることに驚かれている参加者の方もいらっしゃいました。樹木はいろいろな視点から観察することができとてもおもしろいと思いました。
元気に生い茂るクズ
小道沿いに生い茂っていた雑草で、クズについて川名先生の解説を聞きました。
クズは複葉をもち、3枚の小葉からなる3出複葉です。小中学校教員だった川名先生はよく子供たちから、単葉だけを見せられ「何の葉っぱ?」と質問されることがあったそうなのです。クズの小葉はわかりやすい形をしていますが、複葉をもつ植物は小葉だけでは識別することは難しいものも多く、大変だったとおっしゃっていました。自然観察をより充実させるためには、葉の形やつき方もポイントになるのだなと感じました。
クズは昔、牛馬のえさとして人間の生活に必要とされていたそうですが、今では繁殖力がとても大きいことから、邪魔者扱いされがちです。人間による植物の見方は、環境の変化など時代によって変化しているようです。
また、夏に咲くクズの花はとてもよい香りを放ち、形はフジの花と似ているそうです。しかし、垂れずに上向きに花が咲くので「のぼりふじ」と呼ばれることもあるのだとか。
根は何年もするととても太く長くなるそうで、こちらからでんぷんを取り出したものが本当の葛粉になるそうです。写真-5よりも、もっと太く長くなるそうなので、根を掘り出すのはとても苦労するそうです。
川名先生
小葉が3枚で1枚の葉となることをわかりやすく説明してくださった川名先生。
クズの花 クズの花。甘い香りがします。
「雑草博士入門」より抜粋)
クズの根 クズの根
クズの根。もっと太く長くなる。
「雑草博士入門」より抜粋)
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マテバシイの衣替え
マテバシイの木の下にはたくさんの落ち葉が観察できました。マテバシイは、常緑樹なのに落葉するのかな? と思いました。しかしマテバシイの葉は生えそろっています。マテバシイの葉の交替について川名先生が紹介しました。
マテバシイなどの常緑樹は落葉樹と異なり、新しい葉が出ると2、3年前の古い葉は落葉するそうです。落葉期は初夏で、今ごろが葉の新旧交替の時期だそうです。新しい葉が出たら、古い葉は落葉していくということなのですね。
川名先生はこの葉の交替を追うために、毎年出た枝に紐(ひも)をつけて目印としたそうです。何年前の葉が落葉したか、まだ残っているかどうかが観察できますね。この方法で自宅の庭の木でも観察できそうですね。
マテバシイの落ち葉 マテバシイの落ち葉
マテバシイの落ち葉。厚くて固いので分解は遅いそうです。
マテバシイの観察 マテバシイの観察
川名先生の足元にはマテバシイの落ち葉がいっぱい。しかし、見上げると新しい葉もすでに展開しています。
アカマツの松ぼっくり
ゴルフ場に生えているアカマツの枝が丁度いい具合に伸びてきており、岩瀬先生はこの枝を使ってマツの雄花と雌花について解説をしました。
アカマツのこの春伸びた枝はまだ緑色をしており、その枝の先にはまだ雌花穂が着いています。基部には前年の雌花穂が大きくなって着いています。これが今秋には松ぼっくりとなって種子を散らします。受粉してから種子が熟すまでは一年半ほどかかります。枝には種子を飛ばしてしまった古い松ぼっくりもたくさん残っています。雄花穂はすっかり落ちてしまい、今、枝を見ただけではどこに着いていたのかわかりませんが、雄花穂と雌花穂が着く枝は通常が別々になります。
解説中の岩瀬先生
解説中の岩瀬先生
「写真で見る植物用語」p83より抜粋)
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雨が降っても大丈夫!自然観察お役立ちグッズ
最近の自然観察大学では、雨の日が続いています。そんな中でも、講師や参加者の皆様は雨の中でもしっかりと観察できるスタイルで臨んでおられます。雨の日でも楽しく自然観察を楽しむために、参考になりそうな情報を今回の観察会で、いろいろ発見しましたのでご紹介いたします。
自然観察のフィールドは舗装されていない道がよくあると思います。そういった道の雨の日は普通の靴では、水がしみ、泥だらけになってしまいます。そんなときは、写真-7のような、長靴が役立ちます。防水にもなり、汚れたら簡単に洗えます。写真は参加者の方を撮らせていただきましたが、当日は長靴をはいた方々大勢いらっしゃいました。
長靴
雨でも濡れない長靴
カサを差しての観察は片手がふさがって不便です。唐沢先生のようにカッパを着ていれば平気です。
唐沢先生
カッパを着た唐沢先生
メモをとっても雨の中ですと、紙が濡れて、破れて書けなかったり、インクがにじんだり、鉛筆は使えなかったり・・・・・・。
そんな雨に濡れても書くことのできる野帳の紹介を松本先生がしてくださいました。ロウが紙の表面に塗布されていて鉛筆書きできるので雨にも強い耐水性だそうです。先生がご愛用されていたものは、コクヨの測量野帳(セ−Y11)でした。これで、雨の中でもしっかり記録できそうです。
野帳
濡れても書ける野帳
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ジョロウグモ
スタート地点からしばらく進んだところにフェンスがあります。フェンスの網をよく見ると、菱形の合間合間に小さなクモが見られました。ジョロウグモの幼体です。今回はお休みの浅間先生の代わりに、ピンチヒッターとして唐沢先生がお話してくれました。
ジョロウグモの幼体
フェンスに網を張るジョロウグモの幼体
(撮影:唐沢孝一)

谷津の斜面の木々と湿原の草原の間に位置するフェンスは、ジョロウグモが網を張って生きていくのに最適な生育環境だそうです。木々と湿原の間を様々な虫が飛び交います。その間のフェンスに網を張ることでジョロウグモの幼体は豊富に餌が捕獲できるというわけです。
このジョロウグモは3齢の幼体です。1〜2年前齢の時には「まどい」といって集団で生活していましたが、3齢になると分散し、このように単独での生活をはじめます。
またフェンスに菱形がたくさんあることでジョロウグモの個体が分散されて、個々が住みやすい環境ができているそうです(人がマンションに住むような感覚でしょうか?)。
補足としてジョロウグモの一生を先生がわかりやすく話してくださいました。今回観察したジョロウグモの幼体は図の幼体(6/13撮影)にあたります。

ジョロウグモの一生 ジョロウグモの一生
(図)ジョロウグモの一生(撮影:唐沢孝一)
10月中旬ころ、ジョロウグモのオスは、メスが食事に夢中になっていたり、脱皮中など、「メスが油断している時」に接近して交接します。うっかりメスに接近すると、餌と間違えられ食べられてしまうからです。
10月中〜下旬ころ、メスは木の幹や葉などに卵を産んで糸で貼付け、卵で越冬します(図の卵のう)
春、卵から孵化した仔グモたちは「まどい」と呼ばれる集団生活を送ります(まだ、口が開いていないので共食いなどせず集団生活を送れるそうです)。
さらに脱皮をして3齢になると、分散し、網を張って餌を捕らえ、独立していきます(この頃には口が開いて餌を捕獲できるようになっています)。
産卵を終えたジョロウグモのメスは、晩秋には大部分が死んで一生を終えます。ところが千葉県市川市では、越年し、1月下旬まで生き延びている個体が観察されているそうです。
9月の3回目の観察会では無事育って成体になった大きなジョロウグモが見られるかもしれません。
観察会の様子 観察会の様子
激しい雨もなんのその! みなさん熱心に聞いています。
ヨモギに住むアブラムシ
ヨモギの葉が赤くなって巻縮(けんしゅく)している様子が観察できました(写真左)。病気にかかったヨモギの葉かなと思っていると、こちらについて、松本先生が紹介してくださいました。
これは、ヨモギクダナシアブラムシの虫コブだそうです。「クダナシ」とは、アブラムシ科が備えている角状管が「ないようにみえる=目立たない」ということを表しているそうです。このアブラムシは、虫コブのように体色も赤く1年中ヨモギ類でくらし、いろいろな株を転々とするそうです。
葉の赤色が目立つのですぐに発見できそうですね。詳細は「アブラムシ入門図鑑」p61をご覧下さい。
アブラムシの虫コブ アブラムシの虫コブ
ヨモギクダナシアブラムシの虫コブ
「アブラムシ入門図鑑」p61より抜粋)
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ガマの穂
湿地にガマが穂を出していました。上半分が雄花穂(先端の細い部分)、下半分が雌花穂(その下の太い部分)に分かれています。ヒメガマの穂は、ガマの穂より細長く雄花穂と雌花穂の間が離れているので見分けられます。一般的に休耕田などにはガマが多く、沼や川のへりにはヒメガマが多く生息します。
観察会の1週間前にはガマの雄花穂が黄色い花粉を出していました。この花粉を漢方では“蒲黄(ほおう)”といって止血剤に用いたそうです。因幡の白兎の神話に出てくる“ガマの穂綿(ほわた)”は秋の熟した穂のワタではなく、このガマの花粉のことでしょう。
ガマの穂 ガマの穂。黄色い部分が雄花穂で花粉が見られます。
自然観察大学の一週間前です。
因幡の白兎の神話
海の対岸に渡りたかった白兎が海にいたワニ(サメ)をだましてその背中伝いに海を渡っていたところ途中で嘘がばれてしまい、ワニに毛をむかれてしまいました。海水はしみるし痛くて泣いていたところ、通りかかった大国命主が親切にガマの穂綿にくるむと良いと手当てしてくれたというお話しです。
ガマノハアブラムシ
ガマの紹介の次に、ガマに住むアブラムシ「ガマノハアブラムシ」を松本先生が紹介しました。
ガマノハアブラムシは長細い葉身の根ぎわからコロニーを発達させ、アリを伴っているそうです。観察会当日も、下右の写真のようなコロニーに黒くて光沢のある成虫が観察できました。天敵は、ヒラタアブやアブラバチだそうです。
松本先生 松本先生
湿地で説明されている松本先生の背後にはガマがたくさん生えていました。
ガマノハアブラムシ ガマノハアブラムシの無翅成虫
「アブラムシ入門図鑑」p51より抜粋)
コロニー ガマノハアブラムシのコロニー
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ビーナスの姿見
湿地帯から少し離れた土手にキキョウソウが咲いていました。講師の中で紅一点、アシスタントの久保田さんが解説しました。
キキョウソウははじめに細長い茎に開花しない閉鎖花だけをつけ、その後ふつうに開花する開放花をつけます。閉鎖花のがく片は3枚、開放花は5枚です。
葉は間隔をあけて茎を巻くように付き、段ができているように見えるのでダンダンギキョウとも呼ばれるそうです。
円筒の形をしたキキョウソウの果実は熟すと横に穴があきます。そして子房の壁があげぶたのようにめくれ上がり、種子がこぼれ落ちます。
そののぞき窓のような形の穴に由来して、キキョウソウのことを英語で“Venus looking-glass(ビーナスの姿見)”と呼ぶのだそうです。なんだかロマンティックですね。
解説をする久保田さん 解説をする久保田さん
キキョウソウの解説をする久保田さん
キキョウソウ キキョウソウ
ふたが開き中に多数の種子が見え、「ビーナスの姿見」といわれる。
「形とくらしの雑草図鑑」p101より抜粋)
巻きつくシダ植物―カニクサ〜
シダ植物ではめずらしい、つる性のカニクサについて村田先生が紹介しました。カニクサは地上部にある葉の部分は他のシダ植物に比べてとても長く、つる状に伸び他の草木に巻きついたりするそうです。
長いつるの茎に、多数の葉がついているように思っていたのですが、驚いたことにつる全体が1枚の葉ということになるそうです(写真左)。葉だと思っていたものは羽片(うへん:シダ類の複葉の場合、小葉を羽片と呼ぶ)にあたるそうです。茎は地下にあり、葉を地上に伸ばしているそうです。2枚の羽片の柄の間に不定芽(休止芽)ができ(写真右)、主軸が損傷したりすると不定芽が伸びて枝のように延びていくそうです。このような不定芽をもつシダ植物として、お正月の御飾りに使われるウラジロが近い仲間だそうです。
カニクサ
カニクサの1枚分の葉
(撮影:村田威夫)
カニクサの不定芽
カニクサの不定芽
(撮影:村田威夫)
観察会風景 観察会風景
つる性のシダ植物に皆さん珍しそうにしていました。
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ガガンボモドキ
鈴木先生にガガンボモドキについて解説していただきました。
ガガンボモドキは肢体が華奢なつくりをしており、飛ぶ力が弱く少し飛ぶとすぐに、近くの茂みの小枝などに留まってしまうそうです。しかし、弱々しい見た目と違い肉食で、前脚で木の枝や草の葉などにぶら下がり、中脚と後脚で獲物を捕食します。
ところでガガンボとガガンボモドキの違いは何でしょうか?
ガガンボは蚊の仲間で2枚翅、ガガンボモドキはシリアゲムシの仲間で4枚翅。同じように見えても全く違うグループです。
ガガンボモドキはシリアゲムシと同様に「珍しい求婚のしかた」が知られています。
求婚のステップとしては、
まず、オスがメスの気に入るような餌を確保します。

次に確保した餌をさしだして、メスをおびきよせるフェロモンを出します。

そして近づいてきたメスはオスのプレゼントが気に入れば受け取り、めでたくカップル誕生です。このことを婚姻贈呈というのだそうです。

最後、メスが餌を食べている間に交尾をします。
オスにとって”いかにメスが気に入る餌を確保できるか”が、重要で、死活問題になっていきます。
また、メスがプレゼントを気に入らず受け取り拒否をしたり、外国にはメスの振りをしてプレゼントの餌を横取りしていくオスがいたりするそうで、なかなか昆虫にも個性があり、虫の世界のプロポーズにもドラマがあるようです。
ガガンボモドキ 餌をささげるガガンボモドキのオス
(撮影:鈴木信夫)
講義の様子 講義の様子
講義の様子。みなさんガガンボモドキに興味しんしんです。
ジャコウアゲハの蛹
谷津の奥から出発した観察会は、谷津の入口にあたる場所までやってきました。
小さな梅林がありその前の簡単な竹垣に変わった蛹が数個体下がっていました。山崎先生によるとジャコウアゲハの蛹との事。ここでジャコウアゲハの解説がありました。
ジャコウアゲハの幼虫は、ウマノスズクサという植物を食草とし大きくなります。
幼虫の体には突起のようなイボイボがあり、黒地に白が一部、よく見ると赤い点があります。一見、アゲハチョウ類の幼虫らしくありませんが,触ると臭う角を出すので,この仲間とわかります。蛹は黄色く縁にデコボコがみられ、独特な形をしています。この蛹は昔の人の想像力を刺激したらしく、枝から下がっている様子を江戸の町に大火事をもたらしはりつけの刑にされた“おしち”と呼んだりしたそうです。
交尾を終えた雌はウマノスズクサを見つけ出しては卵を産みつけます。しかしウマノスズクサの量と幼虫の食べる量がつりあわず、エサ不足に見舞われることがよくあるそうです。葉を食べつくしてしまうと茎までかじりはじめ、最後には共食いもみられるとか。またある程度の大きさまで成長できた幼虫は蛹になってしまいます。
食草のウマノスズクサには捕食者の鳥にとって有害な成分が含まれているので、これを食べて育ったジャコウアゲハの幼虫、成虫ともに狙われにくいといわれています。
山崎先生
ジャコウアゲハの解説中、バラバラになったカブトムシを発見。バラバラになりながらも動いているカブトムシに皆、びっくり。山崎先生の手にあるのがそのカブトムシです。
ジャコウアゲハの蛹 ジャコウアゲハの蛹。
観察会の1週間前。
ジャコウアゲハの幼虫 ジャコウアゲハの幼虫。
観察会の1週間前。食草が刈り取られたので、茎までかじります。
ジャコウアゲハと谷津の守人たち
岡発戸のウマノスズクサは梅林の前の簡単な竹垣にからみついており、蛹もその垣根で観察できました。
さて、この垣根ですが、初め梅林と小道を隔てるものかと思っていたのですが、谷津の守人の方たちによるとウマノスズクサが草刈りの際、刈り取られてしまわない様に設置したそうです。さらに話しを聞いてゆくと、このウマノスズクサも初めからこの場所にあったわけではなく、谷津の他の場所から一部移植したそうです。その後、誤って刈ってしまったりと、トラブルはあったそうですが、幼虫(の一部?)はどうにか蛹になることができました。幼虫の旺盛な食欲のせいか、ウマノスズクサの株がまだ小さいのか、あっという間に茎だけになってしまったそうです。一度、食べつくされてしまったウマノスズクサが再び茎を伸ばしているのを守人の方たちは発見し小さな歓声をあげていました。踏まれてしまう恐れのあった近くの蛹もこちらの垣根へ移動させてあったりと、守人の方たちの細かな心遣いを感じる場所でもありました。
観察会風景 観察会風景
雨の中、熱心な山崎先生と皆さん。
ウマノスズクサの垣根も見えます。
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終わりに
たくさんの雨の中の観察会でしたが、講師の方々の盛りだくさんのお話もあり、とても盛りだくさんの会となりました。当日は、谷津の守人の方々にも参加のご協力を頂きました。ありがとうございました。
第3回目は9月27日(日)の開催です。1、2回目では観察できなかった秋の自然がたくさん観察できるといいですね。
田仲先生 田仲先生
生き物たちに出会える場所ならどこへでも立ち向かう情熱的な田仲先生。
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2009年度 野外観察会
第1回の報告 第2回の報告 第3回の報告 特別観察会