2010年度

自然観察大学 第2回
2010年6月27日(日)
場所:都立野川公園
前回5月16日から約40日後の観察です。蒸し暑い日でしたが、この季節に雨が降らなかったのは何よりでした。A、Bの2チームに分かれて少人数での観察です。
植物担当の岩瀬、川名、村田、飯島の4人の先生は交替でお話いただいたので、以下のレポートでは【植物】と表記しました。
話題になった生物
植物
・草本
カントウタンポポ
オオバコ
シロツメクサ
カタバミ
チドメグサ類
ドクダミ
イヌワラビ
アレチウリ
オオブタクサ
・木本
イチョウ
クスノキ
アカマツ
ミズキ
クマノミズキ
エゴノキ
ヒマラヤスギ
プラタナス
ヤマボウシ
イヌザクラ
タブノキ
 

 

昆虫
オオヒラタシデムシ
ヒメバチの一種(ホウネンダワラチビアメバチ?)
クサギカメムシ?(幼虫)
エサキモンキツノカメムシ
コハンミョウ
ケラ
ツクツクボウシ(セミ塚)
モンキゴミムシダマシ
ハグロトンボ
プラタナスグンバイ
クヌギミツアブラムシ
ナミテントウ
ナナホシテントウ
モンキチョウ
モンシロチョウ
スジグロシロチョウ
クモ
ササグモ
コクサグモ
アサヒエビグモ
ジョロウグモ
ハシブトガラス
イチョウ
【岩瀬】5月の観察会から1箇月ちょっと。まわりを見ると、わずかな間にずいぶん様変わりしています。クスノキの葉もすっかり入れ替わっています。
先ほどイチョウの実を拾ってきました。もうかなり大きくなっています。これはもう胚珠(はいしゅ)ではなく、かといってまだ銀杏(ぎんなん)にもなっていない。『若い種子』というところでしょうか。
この中には花粉が入っていて、花粉は9月ごろに動き出します。めでたく受精ということになります。これを発見したのが平瀬さんという日本人で、世界的に注目されたようです。

公園入り口のイチョウと落ちていた若い種子
>> イチョウは裸子植物で、正確には果実ではない。銀杏はイチョウの種子ということか。
花粉の話が気になったので、あとで調べたら、9月ごろ花粉の中の細胞は分裂して2個の精子をつくり移動するということだ。ということは、今は未受精の状態で肥大しているということか。最後まで未受精の場合もあると思うが、その場合の銀杏はどうなるのだろう。次の観察会が楽しみだ。
参考になる図書:『写真で見る植物用語』(全農教)
イチョウの受精の話やその発見の話が紹介されています。
■オオヒラタシデムシ
【山崎】この写真はオオヒラタシデムシです。写真中央が成虫で、まわりにいるのが幼虫です。野川公園ではいま、この虫がたくさん観察できます。今日も歩きながらどこかで遭遇すると思います。
漢字で書くと“死出虫”というのは、死体があるところに出てくるからでしょうか。あるいは死体を埋める仲間もあることから“埋葬虫”ともいわれますが、これは英名のburying beetlesの和訳です。
名前の印象はあまりよくないのですが、ミミズなどの死骸を食べることで、分解をたすける自然界の重要な位置にあります。

ミミズの死骸に群がるオオヒラタシデムシ
(撮影:唐沢)
【山崎】写真の成虫は昨年生まれて成虫で越冬したもので、こんな姿ですが意外によく飛びます。幼虫は大きいのも小さいのも今年生まれたもので、これから成虫になって越冬します。
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■クマノミズキとミズキと昆虫

>> この観察会のシンボル的な存在であるクマノミズキはほぼ花が終わったところ。一方ミズキは果実が大きくなってきている。クマノミズキはミズキの約一箇月遅れといったところか。

花がほぼ終わったクマノミズキ(左)と果実をつけたミズキ(右)
【平井】クマノミズキの花柄にマユがぶら下がっています。ヒメバチの一種の“ホウネンダワラチビアメバチ”あるいはその近縁の種と思われます。特徴的なマユの形から“豊年俵”と言われますが、ダイズ畑や水田でよく見かけます。水田では稲作ではフタオビコヤガというイネの害虫に寄生するので、豊作につながるのかもしれません。
マユには下部に穴が開いて、すでに羽化脱出しています。ここでは、おそらくクマノミズキについたハマキムシ類に寄生していたと考えられます。

>> ミズキではエサキモンキツノカメムシが観察できた。背中のハート型が特徴的だ。子育てをするカメムシとして知られている。
クマノミズキで見つけた“豊年俵”(左)とミズキで見つけたエサキモンキツノカメムシ(右)    
■ミズキの仮軸成長
【植物】ミズキの枝を例に、仮軸成長の話をします。
いま先端にある新梢(花序)は成長を止め、代わりに腋芽が成長して主軸のようになって伸びます。さらに次の年は… というように毎年主軸を交替していきます。
主軸が止まり腋芽が成長するのを“仮軸成長”といいます。これに対して主軸が伸び続けるのを“単軸成長”といいます。単軸成長のほうが一般的ですね。

各自で仮軸成長を確認(左)。ミズキは次々に下から枝を継ぎ足したような形になる(右、前回5/16撮影)

『写真で見る植物用語』(全農教)より
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■コハンミョウ
【山崎】この写真はオオヒラタシデムシです。写真中央が成虫で、まわりにいるのが幼虫です。野川公園ではいま、この虫がたくさん観察できます。今日も歩きながらどこかで遭遇すると思います。
漢字で書くと“死出虫”というのは、死体があるところに出てくるからでしょうか。あるいは死体を埋める仲間もあることから“埋葬虫”ともいわれますが、これは英名のburying beetlesの和訳です。
名前の印象はあまりよくないのですが、ミミズなどの死骸を食べることで、分解をたすける自然界の重要な位置にあります。
>> 全員が四つんばいになって“追い込み猟”のような形でじりじりと前進すると、なにやら動く虫がいる。
【山崎】コハンミョウは歩くのは早いですが通常の生活では飛びません。地上で効率よく餌を捕らえるのに飛ぶ必要がないということでしょう。
コハンミョウは雌の前翅に、ピカピカの鏡のような鏡紋(きょうもん)という斑紋があるので遠くからでも雌雄が見分けられます。

コハンミョウ雄成虫(左)と鏡紋のある雌成虫(右)。鏡紋は左右の前翅中央やや上部の黒く見えるところ。
【質問】どうして草の生えたところでなく裸地にいるんでしょうか。
【山崎】そうですね。確かに裸地にいます。理由はハンミョウに聞いてみないとわかりませんが、たぶん裸地が歩きやすい、餌を捕らえやすい、ということでしょう。
ところで、ハンミョウは夜も活動しています。夜に照明を用意して観察するのも面白いと思います。
■ササグモ
【浅間】この垣根のところに、クモがたくさんいます。多くはササグモです。さっき私がざっと数えたところ25頭いました。みなさん探してみてください。
【浅間】ササグモは網を張らずに餌を捕らえます。脚にはたくさんの“とげ”があって獲物をはなさないようになっています。
クモは捕らえた獲物に毒液を注入し、消化液を注入して溶かしてから吸います。かじって食べるわけではありません。ちなみに毒液は人間には影響ないので大丈夫です。安心してクモに触ってください。
【浅間】ササグモの雌雄の見分け方は簡単です。雄は黒い大きな触肢(しょくし)というものがあり、この中に精子を貯めています。
雄は雌に対して求愛行動として第一脚を振ります。“俺は餌じゃないよ”と雌の機嫌を伺いながら近づきます。
ササグモの雌。脚はとげだらけ

黒い触肢を持ったササグモの雄
■ケラ
>> 排水口の網に落ち葉がたまっていて、中で何か動いている。ケラだ。
【平井】ケラはこのところほとんど見かけないので、貴重です。かつては稲作で、育苗中にイネの根を食べる害虫とされてきました。雑食性で植物の根や小動物も食べます。外に取り出すと前脚で土をかき分けて潜り込みます。頭部も潜り込みができるように頑丈にできています。夏には夜間電灯に向かって飛んできます。
ジージーという音で鳴き声を出しますが、むかしはこの声はミミズの鳴き声とされてきました。
>> 「先生、ケラの鳴き声をここに録音してあります。」鳴く虫を研究しているSさん、なにやら機器を取り出し、鳴き声を再生してくれた。 … 一同しばし聞き入る。

ケラのいた排水口(左)。撮影用に捕らえたケラ(右、撮影:平井)
【事務局より】排水口にケラがいたのは驚きだが、とっさに鳴き声を披露できるSさんには、なお驚かされました。Sさんのホームページで鳴く虫の声を聞くことができます。
http://www.bekkoame.ne.jp/~sibutaka/nature/index.html Sさんのホームページにリンクさせていただきました。
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■草刈跡の雑草
【植物】前回5月の観察会で刈り取られたカントウタンポポですが、その後また草刈があったようです。でもちゃんとまだ残っているようです。ほかにもオオバコ、シロツメクサ、チドメグサ、カタバミなどが見られます。これらはみんな地表近くに芽をもち、姿勢を低くして、草刈りに強い雑草と言えます。

>> 草刈り後でもしっかり観察するのが自然観察大学だ。なお、カントウタンポポの件で今後は草刈りの時期を遅らせていただけるように、公園のほうにお願いしてあります。
■セミ塚
>> エゴノキの下に立入禁止のラインが引かれた。息をのんで話を待つ。
【山崎】ここに土が盛られています。モグラではなくミミズでもない、セミ塚です。雨の多い今ごろの季節にだけ見られます。あちこちにあるので、踏まないようにラインを引かせてもらいました。
ラインの外から遠巻きに観察する

地表のセミ塚。別名“セミの塔”とも言うらしい
【山崎】土塊を除くと中に穴が開いています。セミの幼虫があけた穴で、何のためにこのようなことをするのかは分かりませんが、水分の多いときに呼吸のために地表近くに出てきたものかもしれません。全部のセミがセミ塚を作るわけではないらしく、私はツクツクボウシでしか確認していません。
これは先日別の場所で撮った写真です。偶然幼虫がいました。写真の左下に映っているのがツクツクボウシの幼虫です。
セミ塚で見つけたツクツクボウシ幼虫。一円玉は大きさ比較のため(撮影:山崎)
■モンキゴミムシダマシ
>> ベンチとしておかれた丸太にキノコが生えている。誰かがキノコにつく昆虫を発見した。モンキゴミムシダマシだ。ゴミムシダマシはゴミムシの仲間とはまったく別のグループで、一部にキノコを食べるグループがいるということだ。小さいがよく見るときれいな昆虫で、その場でしばし撮影会になった。

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■ヒマラヤスギ
【植物】上のほうにマツボックリのようなのが見えますね。ヒマラヤスギは“スギ”という名前がついていますが、マツの仲間であるということが分かります。どうしてスギという名前になったんでしょうね。ヒマラヤスギのマツボックリは普段あまり見かけませんが、ここではところどころについています。
【植物】ヒマラヤスギは10月ころに雄花をつけて花粉を散らします。今見られる若い“球果(きゅうか)”は、去年の同じ10月ころの雌花ということです。裸子植物なのでほんとうは果実はないのですが、通称“球果”と言います。球果はこのあと秋に熟します。いま地面に落ちているのは、去年の秋に熟した球果の残骸です。種子はもうなくなっているようです。雄花の残骸も落ちていますね。
■イヌワラビ
【植物】この一画は木陰で、立入禁止としてロープで囲まれています。ここではイヌワラビが目立ちます。イヌワラビは一番普通に見られるシダ植物ですが、シダの話は今回はやめにして、秋の『シダ植物観察会』を期待してください。
ほかにはドクダミあるいはエノキやコブシ、ムクノキなどの実生が見られます。草刈もされず、踏まれず、人の手が入らないとこんな感じになるんですね。
人手の加わらない木陰ではイヌワラビが目立った
 
■ハグロトンボ
>> イヌワラビの一画で、数頭のハグロトンボが見られた。ある程度きれいな水流がなければ住めないといわれるトンボだ。立入禁止なので、遠くから双眼鏡で見るだけだ。羽化後、成熟するまではこのようなところで生活し、産卵期に川へ移るらしい。
【事務局より後日談】野川で活動する『はけの森調査隊』のブログでハグロトンボの記事を発見した。隊長のOさんは自然観察大学の学生でもある。ようすをうかがったところ、次を紹介いただいた。
野川でのハグロトンボ復活の話 http://hakenomori.seesaa.net/article/126378538.html
『はけの森調査隊』 http://hakenomori.seesaa.net/ は自然観察大学と相互リンクさせていただいています。ちなみにこのブログで狩蜂の田仲先生の活躍も見られます。
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■ヤマボウシ
【植物】ヤマボウシの花が咲いています。花の構造を見てみましょう。
花びらに見えるのは花弁ではなく、総苞(そうほう)といって多数の花が集まった花序を包むものです。ドクダミも似た構造で総苞がありますね。タンポポでは“がく”のようなところが総苞です。総苞片(そうほうへん)というのはその一枚を言います。

ヤマボウシの花と村田先生
■タブノキ
【植物】前回5月に新芽を観察しましたが、いまはすっかり開いています。今年伸びた当年枝で、この付け根に芽の痕である“芽鱗痕(がりんこん)”があります。これがひとつの冬芽から展開したということです。
【植物】先端にはもう来年のための冬芽が準備されています。まさしく“夏来たりなば、冬遠からじ”ですね。動きがないように見えても、植物は一年中活動しているんですね。
タブノキの当年枝

来年のための冬芽が準備されている
■スジグロシロチョウとモンシロチョウ
【平井】この草地は残念ながら草刈りされてしまいました。草刈り前はスジグロシロチョウが盛んに産卵していました。イネ科雑草やマメ科雑草の優占する中に少しだけあったアブラナ科のイヌガラシを選んで産卵していたのです。
スジグロシロチョウはモンシロチョウによく似ていますが、翅脈に黒い鱗粉が多く黒いすじになっているので見分けられます。日当たりのよいところを好むモンシロチョウに比べて、スジグロシロチョウは日陰を好み、街なかの草地ではむしろモンシロチョウより多く見られるようです。

『校庭の昆虫』(全農教)より
【平井】スジグロシロチョウとモンシロチョウは卵でも見分けられます。スジグロは先端付近がちょっとくびれたような形をしています。色は産卵直後は白色でその後黄色くなるので、両種とも違いはありません。

スジグロシロチョウ卵(左)とモンシロチョウ卵(右)、その違いを示す平井先生
【平井】シロチョウ科の卵は縦に細長い形をしていて、一粒ずつ産み付けられます。そのためか天敵の“タマゴバチ”の寄生を受けにくいようです。ある調査では寄生率はわずかに1%程度ということでした。ほかのチョウやガに比べてかなり低い寄生率です。ただし、幼虫に産卵する“アオムシコマユバチ”の寄生は多くなります。
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■アレチウリとオオブタクサ
【植物】野川沿いの草地がきれいに刈り取られていますが、その後からアレチウリとオオブタクサが芽生えてきています。草刈りをしたためにこのようにいっせいに芽生えたものと考えられます。前回見たネズミムギなどのイネ科雑草がそのままだったらどうなっていたでしょうね。
アレチウリの芽生えは子葉と本葉の感じが、いかにもウリ科という形ですね。

>> 「先生、アレチウリの巻きひげがよく見えます。」という声。
【植物】そうですね。きれいに巻いています。巻きひげはほかのものに先端を巻きつけて、それからひげを巻いてしっかり絡みつきます。巻くというのは一方向だけでは不可能なので、よく観察してみると中間で方向が変わっているのがわかります。このことは『雑草博士入門』などの本に詳しく出ていますから、あとで見てもらうといいと思います。
『雑草博士入門』(全農教)より
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■カラスの習性
【唐沢】野川沿いのこの場所で、下見のときに面白い場面に遭遇しました。目の前で、ハシブトガラスがモグラの死骸をくわえて飛び立ったのです。たまたまそのときの写真が撮れたので見てください。
【唐沢】獲物の前肢がはっきり見えるのでモグラとわかります。しかし、地中に住むモグラを、このカラスがどうやって手に入れたのかは分かりません。モグラの頭がないのは、捕らえた獲物の頭部を切り落とすからです。カラスは“貯食”の習性があって、獲物を一時隠します。先日見たのは、貯食しておいたモグラを取り出し、他の場所へ運ぶところだったようです。
(撮影:唐沢)

(撮影:唐沢)
【唐沢】これはこの場所で拾ったもので、カラスのペリットです。ペリットは、胃の中で消化しにくい部分を一まとめにして口から吐き出したものです。早く体の外に捨てることにより軽量化し、空を飛ぶのに役立ちます。ペリットの中身は大部分が植物の種子で、公園内のサクラの種子と思われます。
公園内で実生がごっそりと生えているのを見つけたら、おそらくカラスのペリットによるものでしょう。カラスも植林に協力しているんですね。
カラスのペリットを取り出した唐沢先生
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■さいごに
熱心に観察いただいたみなさん、そして講師の先生方どうもありがとうございました。
終了後の唐沢先生のご挨拶で“すべてを覚えようとしないで、まずは楽しむこと”というのが印象的でした。
予定外の“ケラ”の登場などで、またまた予定時間を越えてしまいました。申し訳ありませんでした。
●お願い
当日参加いただいた方のなかで採集した方がいるのではないか、という指摘がありました。
その方も撮影等のあとで元に戻していることと思いますが、自然観察大学では『原則として採集禁止。たとえ雑草でも大勢で手折ったりしない』としています。ご理解いただきますよう、改めてお願いいたします。
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2010年度 野外観察会
第1回の報告

第3回の報告

テーマ別観察会:農場 テーマ別観察会:
シダ植物観察入門