2011年  自然観察大学 第2回
2011年6月26日(日)
場所:見沼田んぼ
前回の5月15日からおよそ一か月、変化と動きを観察するというたのしみがあります。
心配された雨もなく、絶好の観察日和でした。
担当講師(敬称略)については、【講師紹介】 をご覧ください。
植物担当は岩瀬先生と村田先生に分担していただいたため【植物】としました。

当日話題になった主な生物リスト

植物
つる植物
カナムグラ
クズ
トコロ
ヘクソカズラ
ヤブガラシ
アオツヅラフジ(カミエビ)
アケビ
ツルウメモドキ
ノブドウ
フジ
・草本
オオバコ
コヒルガオ
セイヨウタンポポ(雑種型)
ツユクサ
ドクダミ
ヘビイチゴ
・木本
アカメガシワ
アカシデ
イヌシデ
エノキ
エゴノキ
カシワ
クコ
クサギ
クマシデ
クワ

 

昆虫、ムシ
アメリカシロヒトリ幼虫
アワダチソウグンバイ
エノキワタアブラムシ
オオスカシバ幼虫
クコフシダニ虫こぶ
クサギカメムシ
クワゴマダラヒトリ
ゴマダラチョウ幼虫
(あるいはアカホシゴマダラ幼虫)
テントウムシ(ナミテントウ)
ナナホシテントウ(越夏中)
トホシクビボソハムシ(クコハムシ)
ニレハムシ幼虫
ブチヒゲカメムシ
マイマイガ幼虫
マダラマルハヒロズコガ
ヨツボシクサカゲロウ
クモ
オオヒメグモ
オニグモ
カバキコマチグモ
クサグモ
サツマノミダマシ
オオヨシキリ
カッコウ
カワセミ
カワラヒワ
コゲラ
ツバメ
その他
タイワンシジミ
トウキョウダルマガエル
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■ ツバメ調査
駅前の駐輪場のオーナーがツバメを大切にしておられて、ここでたくさんのツバメが営巣している。
観察会の開始早々、そのツバメを見ながら唐沢先生からツバメ調査の例を紹介いただいた。
唐沢先生が使っている調査カードを使用し、全員が実践してみた。
※ ご希望の方にこの調査票のPDFをお送りします。事務局までご連絡ください。
駐輪場のツバメ
ツバメ調査カード
■ つる植物とパイオニア植物
駅からほど近いフェンス周辺の植物を見る。
【植物】つる植物はからみつきながら急速に伸びて、ほかの植物を覆うようになります。
ヘクソカズラのように主軸がからむもの、ヤブガラシのように巻きひげのあるもの、カナムグラはとげでひっかかりながら伸びる、というようにいろいろなタイプがあります。
他物にからみながら伸びるだけでなく、つる植物同士がからんで、支え合って強く伸びることができていますね。
フェンス沿いにはいろいろなつる植物が見られた
ヘクソカズラのにおいに驚くTさん
【植物】フェンスの周りでは、草本にまじってクサギ、アカメガシワ、クワなどの樹があります。
ここははじめ裸地だったと思われますが、これらのように、他に先駆けて生えてくる樹木を“パイオニア植物”と言います。
今紹介したつる植物、パイオニア植物は、どれもごく普通に身近で見られる植物です。
自然観察大学では、このような “普通の生物のくらしと形” をじっくり見ていきたいと思います。
もしも今日、珍しい植物が見つかったとしても、それはあえて無視します。(笑い)
川沿いのクコで、トホシクビボソハムシを見る。クコの葉は穴だらけになっているが、虫の数はずいぶん減っている。幼虫は前回5月に見た世代の残りか? 成虫は1頭だけ確認できた。
平井先生とトホシクビボソハムシ(クコハムシ)を見る
たくさんいた虫たちは、どこへ移動したのだろうか? 地中に潜ったのか?
■ カシワとアカメガシワ
【植物】カシワは葉の緑が濃くなっています。今は小さな果実ができたところですが、秋の観察会ではドングリが見られるでしょうか…
アカメガシワは赤い芽を次々に伸ばして新しい葉を展開します。これを“順次開葉(じゅんじかいよう)”といいますが、早く成長して光をたくさん受けるのには都合がいいでしょう。さっき話した“パイオニア植物”であることも関係しているでしょうね。
アカメガシワは雌雄異株(しゆういしゅ)で、今ちょうど雄花と雌花が観察できます。雌の樹か雄の樹かは花が咲かないとわかりません。
それとアカメガシワでは花外蜜腺(かがいみつせん)も観察できます。花外蜜腺はサクラ、イタドリなどいろいろな植物にありますが、アカメガシワのように葉にあるタイプや、葉柄にある植物などがあります。
花は、もともと茎や葉が進化したものとされていますから、茎や葉に花外蜜腺があるのは不思議ではない、という見方もできます。
アカメガシワの雄花
アカメガシワの雌花
アカメガシワの花外蜜腺にアリが来ている(撮影:勝野さん)
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小さな公園(見沼通船堀公園)に移動する。この公園ではモウソウチクの竹林や、エノキ、エゴノキ、ケヤキ、シデ類などの樹種が見られる。
■ 公園の雑草
【植物】この公園は、つい最近草刈りをされたようです。オオバコやタンポポは踏みつけに強いですが、低いロゼットの形で成長点が地表近くにあるので、草刈りにも耐えています。
5月に開花していたハルジオンは、今はロゼットが見られます。
タンポポはこのごろ少しややこしいことになっていて、雑種型のセイヨウタンポポが増えています。ここにあるセイヨウタンポポはどうやらほとんど雑種型のようです。
これまで『タンポポ調査』などでは総苞片の反り返りで在来のタンポポと区別していましたが、現在は顕微鏡で花粉を見なければわからないという状況になっています。
踏みつけや草刈の対象となる雑草。環境で雑草の優占種が変わり、また同じ草種でも環境によって形を変える。
雑種型のセイヨウタンポポ。総苞片だけでは区別できなくなってきた
■ クチナシのオオスカシバ
【鈴木】ここにオオスカシバの幼虫がいます。クチナシの葉を食べる、スズメガの仲間の蛾です。
オオスカシバの幼虫は比較的大きなイモムシですが、意外に見つけにくいものです。探すときはまず糞や食べられた葉を見つけると、その近くにいる幼虫が見つかります。
成虫の写真を紹介しましょう。翅が透けているのでスカシバと言われていますが、翅の鱗粉がないためです。
ふつう蛾や蝶の鱗粉は簡単に落ちることはないのですが、オオスカシバは羽化するとすぐに鱗粉が落ちてしまいます。どうして落とすのかわかりませんが、オオスカシバは速く上手に飛びます。
クチナシでオオスカシバ探し
オオスカシバ幼虫
通船堀沿いにドクダミが群生し、いっせいに開花している。
■ ドクダミの花
【植物】ドクダミはこのような半日陰を好み、地下茎を盛んに伸ばして群生します。
嫌なにおいがするので嫌われがちですが、西洋では大事にされ、園芸用に栽培されているようです。
ドクダミの花を拡大して見ると、小さな花が集まってできていることがわかります。小さな花には雌しべと雄しべがあります。
…とすると、ドクダミの白い花びらのようなものはなんでしょう。
これは花弁ではなく、総苞(そうほう)ということになります。
ドクダミの花
『形とくらしの雑草図鑑』
(岩瀬徹、全農教)より
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田の中の林に移動する。ここにはアカメガシワ、クワ、エノキ、ケヤキ、ミズキが生育する。
■ アメリカシロヒトリ
【山崎】クワの枝先にアメリカシロヒトリの幼虫がいます。若齢の時期は巣網をつくって集団で生活し、大きくなった幼虫は分散します。
アメリカシロヒトリは第二次大戦後に米軍と一緒に入ってきたと言われています。
アメリカシロヒトリは市街地に多く、サクラ類やプラタナスなど非常に多くの植物を食べる害虫とされています。
市街地以外の自然度の高いところではほとんど見られませんが、これはおそらく天敵が多いために存続できないのではないかと考えられます。
見方を変えれば、アメリカシロヒトリは都市の野鳥の貴重な食糧になっているのかもしれませんね。
アメリカシロヒトリ幼虫の巣網
アメリカシロヒトリ幼虫
■ クワの実
【植物】月に見たクワの実が赤くなってきました。林床のヘビイチゴの果実と比べてみましょう。
* クワは花の集まり(花序)が果実になったので“複合果”
* ヘビイチゴは一つの花にたくさんの雌しべがあって、それぞれが果実(表面の粒々が果実)になるので“集合果”
ということになります。
クワの果実は複合果。このあとさらに熟して黒くなる
ヘビイチゴの果実は集合果。表面の粒は種子ではなく一粒ずつが果実。写真右はヤブヘビイチゴ
『雑草博士入門』岩瀬徹・川名興、全農教 より
【植物】さてそれでは、さっき観察したドクダミはどっちだと思いますか?
…たくさんの花の集まりだから、複合果ということになります。
なお、一般に図鑑などでは複合果と集合果を区別せず、まとめて複合果としていることが多いようです。
■ タイワンシジミ
【浅間】この用水路にはタイワンシジミがいます。
タイワンシジミは在来種のマシジミと違って、この用水路のように比較的どこででも生活できます。

ところでみなさん、雌雄の見分け方はわかりますか?
…実は雌雄同体です。(笑い)
タイワンシジミは雌雄同体で、雄性生殖。しかも卵胎生です。
つまり精子が稚貝になるということです。
不思議ですね。
タイワンシジミはマシジミと似たところが多く、同一種とする考え方もあります。
タイワンシジミのいる用水路
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芝川沿いのクワの大木、頭上で異変が… 想定外の唐沢先生の出番だ!
■ コゲラとカワラヒワ
【唐沢】今、コゲラがクワにつく虫を食べています。面白いシーンですね。コゲラは樹幹を突ついて孔を開け、中の虫を食べるということで知られていますが、わざわざ孔を開けなくてもよいのなら、こうして虫を食べます。
【唐沢】別の鳥もいますね。カワラヒワです。
クワの実を食べています。よく見ると熟した果実ではなく、白い果実を食べているようですね。
カワラヒワは本来ヒマワリの種子のような硬いものを食べるとされていますが、クワの果実も食べるんですね。
これはすごい発見です。
このカワラヒワは、よく見ると若鳥であることが分りました。若鳥が知らずに食べてみたら、桑の実も食べられることがわかり、やがては成鳥も食べはじめ、ガラヒワの食性の幅が広がっていく… そんな想像をしてみました。
クワの果実を食べるカワラヒワ
(わかりにくい写真ですみません)

……そのほか、紹介しきれない話題をフォトレポートにしました……
ツユクサの花。ひとつ失敬して村田先生が分解してみる。半円形の総苞葉の中に3-4個の花が隠れていて、交替で一つずつ花を開く
虫の眼で見たコヒルガオの花。浅間先生がお得意の紫外線写真を目の前で撮影! 中心に訪花昆虫を誘導するような配色
クサグモ。通船堀沿いの生垣に、集合住宅のように多数観察された。まだ幼体だが、大きさはほとんど成体と同じ
おそらくゴマダラチョウの幼虫。新顔のアカボシゴマダラも似ていて、どちらもエノキにつく。(撮影:勝野さん)
ヨツボシクサカゲロウ成虫。顔の四つ星が名前の由来。おそらくエノキワタアブラムシを捕食していたと思われる
飛び入り参加のコガタノミズアブ。蛍光色のような緑がとても綺麗でオモチャみたい。(撮影者:勝野さん談)

たのしく充実した観察会でしたが、今回はいつも以上に時間がのびて、予定した解散地点まで到達できずに終了となりました。申し訳ありませんでした。
参加いただいたみなさん、そして講師の先生方、どうもありがとうございました。
このHP用に写真をご提供いただいた方、そして当日の観察記録をご提供いただいたみなさん、本当にありがとうございました。おかげさまでなんとかこのレポートを仕上げることができました。
次回は10月2日、2011年度の最終回です。3回とも参加いただいた方には“価値ある修了証”を進呈します。
居残りの少数の方々だけで記念写真を撮影しました。
ご希望の方に写真データをお送りしますので、事務局までご連絡ください。
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2011年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告
テーマ別観察会:ク モ
テーマ別観察会:きのこ