2011年  自然観察大学

テーマ別観察会
きのこの生態観察

2011年10月16日
埼玉県さいたま市 見沼自然公園
コガサタケの仲間。きのこは学問的にまだ整理されてないことが多く、このコガサタケの仲間のような地味なグループは、ほとんど名前がないそうです。
(撮影:金林さん)
今日は自然観察大学でははじめてのきのこの観察会。特別講師として『きのこ博士入門』の著者、根田仁先生をお迎えしました。待望のきのこの観察会を、やっと実現できたのです。
名前を知るだけではない、きのこの生態を観察するのが目的です。テキストはもちろん『きのこ博士入門』。
前日までの雨で、きのこには絶好の条件のはず… 期待が膨らみます。
『たのしい自然観察 きのこ博士入門』
(全農教発行)
はじめに、地元見沼の地域ボランティアガイドをされている二宮さんから、見沼自然公園の概略と魅力を紹介していただきました。この公園は “見沼田んぼ” のほぼ中心にあり、復元された沼地に集まる多数の冬鳥と、ハンカチノキ、ボダイジュ、メグスリノキなどの豊富な樹種が楽しめるそうです。
サルノコシカケ
【根田】サクラについているのはコフキサルノコシカケですね。
サルノコシカケの仲間は枯れ木や樹勢の弱ったところに生えます。
サクラは切れませんが、たぶん中には菌糸がびっしりまん延しているはずです。
【根田】ちょっと固いですが、カサを切ってみましょう。
断面を見ると、下側がすじ状になっています。このすじは縦孔になっていて、孔の表面に胞子をつくります。
多年生のサルノコシカケは、年ごとに縦方向に段を重ねるように大きくなります。
このサルノコシカケはまだ一年ものということですね。
※ きのこ博士入門のp70サルノコシカケ類を参照。
きのこを作らないサルノコシカケ
【根田】剪定した切り口が白くなっていますが、これもきのこで、サルノコシカケの仲間です。
くし歯状または迷路状のヒダの表面に胞子をつくります。
オオシロカラカサタケ
<<落ち葉などが堆積したところに、多数の白いきのこを発見。前日の雨のおかげか、それともみんなの心がけが良いため?>>
【根田】これはカラカサタケの仲間で、オオシロカラカサタケです。ずいぶん大きなものもありますね。南方系のきのこですが、最近よく見かけます。
腐生性のきのこは、腐植質などから栄養を得ています。
ちょっと掘ってみましょう…
地表面下に白く糸状に見えるのが菌叢で、おそらくこのあたり一帯に広がっているでしょう。
きのこの本体は実はこの菌叢で、地表のきのこは、全体のほんの一部です。

 

【根田】きのこは胞子を作って飛散させるための繁殖器官で、子実体(しじつたい)と言います。植物で言えば花に相当するものですね。
カサの下のヒダの表面には胞子が作られます。
胞子は風で飛散したり、昆虫などの動物に食べられることよって広がります。
胞子は小さく10μmくらいなので、残念ながらルーペ程度では見ることはできません。
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エリマキツチグリ
【根田】これはヒメツチグリの仲間です。いわゆるホコリタケの仲間ですね。
袋の部分を突いてみましょう。
<<胞子が煙のように吹き出る>>
【根田】袋の中にはたくさんの胞子があります。一つの袋で数十億個の胞子があると言われています。
※「きのこ博士入門」のp74ツチグリの仲間、p122ツチグリの胞子飛散を参照。
共生菌か?
【根田】このきのこはもしかすると共生菌かもしれません。共生菌は腐生菌と異なり、生きた樹木の根と共生関係を築いて菌根(きんこん)をつくります。
例えば“ほだ木”で育てるシイタケは腐生菌ですが、マツタケはアカマツなどとの共生菌です。共生菌は人工的な栽培が難しいんですね。
きのこは樹木の根から栄養をもらい、樹木は菌根によって悪い菌から守られるというメリットや、毛細根が発達するという共生関係があります。
地球上で栄えている樹木はすべて菌類との共生関係にある、という見方もできるんです。
※ きのこ博士入門のp108〜菌根の項を参照。
【根田】それでは掘って菌根を見てみましょう…
(撮影:金林さん)
<<全員が期待して注視する中、掘りながらルーペで確認する根田先生。しかし菌根は見当たらない。>>
【根田】菌根は見当たりませんね。すみません。勘違いのようです。(てれる根田先生)
はじめはテングタケの仲間かと思ったのですが、どうもヌメリカラカサタケのようです。ヌメリカラカサタケの仲間はさっきのオオシロカラカサタケのように腐生菌なので、菌根は作りません。
さんざん共生菌の話をしてしまって恥ずかしいですが、おかげで共生菌のことは理解していただけたのではないかと思います。(笑い)
<< “先生、こっちに変な形のきのこがあります!” という声に救われたように移動する根田先生。>>
ツマミタケ
【根田】これはツマミタケというスッポンタケの仲間です。
先の部分の粘着質のところに胞子があります。とても臭いきのこで、ハエなどの昆虫を呼び寄せて、胞子を運ばせると考えられています。 …ちょうどハエが来てくれたようですね。
<<一人ずつ交替で地表にかがみこんで鼻を近づけ、クサイことを確認しては、みな顔をしかめる。傍から見るとカンペキに怪しい団体!>>
【根田】ツマミタケの根もとに白い膜状のものが見えていますが、どうなっているのか掘ってみましょう。
実は、白い膜状のものははじめ袋状で、未熟なきのこは全体がこの袋に入っていました。成熟したきのこはこの袋を突き破って出てきたもので、膜状のものは袋のなごりです。
※ きのこ博士入門のp77スッポンタケ参照。
スッポンタケの幼菌
【根田】ちょうどここにスッポンタケの仲間の未熟なものがありました。
さっきのツマミタケとは別種ですが、スッポンタケの仲間ははじめ袋状の形で、熟すと柄が袋を突き破って出てきます。その結果さきほどのツマミタケのようになるんですね。
【根田】袋の中を割ってみましょう。
中心の白いところが柄になります。黒っぽい部分には胞子がびっしり詰まっているのがわかりますね。
フミヅキタケ
【根田】これはフミヅキタケといって、やはり腐生菌です。周りが白っぽくなっているのは菌叢です。この林床のかなり広い範囲で菌叢が確認できます。
文月(ふみづき)というと7月ですが、このきのこは夏に発生するからでしょうか。
<<菌叢の中から大きなカブトムシの幼虫が出てきました。ちなみに写真の手はA.E.さん(8歳の虫愛ずる姫)の小さな手です。>>
【根田】ずいぶん育ちのよいカブトムシですね。
カブトムシの幼虫は腐植質を食べるといわれていますが、もしかすると栄養のある菌を食べているのかもしれませんね。
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スジチャダイゴケ
林床の一角に、直径5mmほどの小さなきのこを発見。
(撮影:金林さん)
【根田】ほう、小さいのに、よく見つけましたね。
これはチャダイゴケの仲間で、縦にスジがあるのでスジチャダイゴケでしょう。
コケという名前がつきますが、立派なきのこです。
コップのような形の中に碁石状のものがありますが、この中に胞子がたくさん入っています。この碁石のような形のままで、降雨時に胞子を飛散させます。いわゆる“雨滴散布” ですね。
(撮影:金林さん)
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観察会では、ほかにもさまざまなきのこが観察できたので、写真で紹介します。
カワラタケの仲間。
カサの下側には小さなツララのような突起がたくさん。
シワタケの仲間。
似たものをよく見かけますが、これも“きのこ”とは…
コウヤクタケの仲間。これでもきのこ。
(撮影:金林さん)
コムラサキシメジ。食べられます。
テキストの『きのこ博士入門』では、全編が伊沢正名さんのすばらしい写真です。
このHPレポートとは比較になりません。ぜひ手にとってご覧ください。
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休憩時間などを利用して、根田先生のサイン会がありました。
“菌は単独ではなく、かならず植物や昆虫など他の生物とともに在る” という意味で、『きのこ博士入門』で言いたかったことだとか… その思いを込めて、ひとつずつていねいにサインしてくださいました。
もちろんそれは、今回の観察会にも共通したテーマです。

 

見沼自然公園のような身近な場所で、充実したきのこの生態観察ができることがわかりました。
きのこ観察は秋と考えがちですが、乾燥する時期でなければほとんど一年中観察可能だそうです。
みなさんもぜひきのこに注目して、植物や昆虫などとの関係、自然界でのきのこの役割を考えてみましょう。
参加いただいたみなさん、そして担当講師の根田先生、どうもありがとうございました。
じつは前週の下見では目立ったきのこがほとんど発見できず、とても心配していたのです。ところが実際の観察会ではすべて吹き飛ぶような、きのこラッシュでした。前日の雨と、みなさんのきのこハンターとしての眼のおかげと感謝しています。
テーマ別観察会はじっくりと観察できるのが特徴です。考えたり写真を撮ったりと、時間にも比較的余裕があります。
またいつかきのこの観察会をやりたいですね。
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自然観察大学 特別講師 根田 仁 (ねだひとし)
(独)森林総合研究所 きのこ研究室長。博士(農学)。日本菌学会会員。
きのこについていろいろなことに興味があるが、主に分類の研究をしている。
30年以上きのこを採集しているが、きのこを見つけるのは苦手。
【主な著書】『たのしい自然観察 きのこ博士入門』(全国農村教育協会)、『植物病原菌類図説』(全国農村教育協会、共著)、『きのこ博物館』(八坂書房)、『きのこの100の不思議』(日本林業技術協会、共著)など、きのこ・菌類に関する著書多数。
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テーマ別観察会:きのこ