2012年  自然観察大学 第2回
2012年6月24日(日)
場所:我孫子市岡発戸
(おかほっと)・都部(いちぶ)谷津
後援:我孫子市
1回目の観察会から1か月半、今年2回目となる岡発戸・都部谷津での観察会が開催されました。懸念されていた台風も無事通過し、天気にも恵まれて多くの生物たちを観察することができました。
今回のレポートは、NPO会員で観察会スタッフの西田さんと澁谷さん、事務局の大野と脇本で報告させていただきました。

担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物担当は岩瀬先生・村田先生・川名先生に分担していただいたため(植物)としました。
第1回は欠席だった唐沢学長が復帰。
鳥たちも沢山の鳴き声で迎えてくれました。

当日に話題になった生き物のリスト

植物
・草本
ガマ
セイタカアワダチソウ
クサイ
オオブタクサ
ネズミムギ
イヌムギ
カモジグサ
クサフジ
クズ
・木本
クリ
シロダモ
ウツギ
アカマツ
マテバシイ
シラカシ
アカガシ
コナラ
ムクノキ
シダ植物
ワラビ
スギナ
イヌスギナ
 

 

動物
・昆虫
オスグロハバチ
コフキゾウムシ
マルカメムシ
オジロアシナガゾウムシ
シロナガハナバチ
ベニシジミ
ヤマトシジミ
イチモンジセセリ
キアゲハ
ナミアゲハ
モンシロチョウ
クマバチ
ナミガタチビタマムシ
ノシメトンボ
コノシメトンボ
メスグロヒョウモン
ツマグロヒョウモン
ツボミクサカゲロウ
ヤマトツツグモバチ
アキアカネ
イネドロオイムシ(イネクビホソハムシ)
当日最もたくさん見られたトンボ・ノシメトンボ
・クモ
ヤマトコマチグモ
カバキコマチグモ
ジョロウグモ
ナガコガネグモ
コガネグモ
オニグモ
ゴミグモ卵嚢
コガタコガネグモ
キララシロカネグモ
カタハリウズグモ
オオシロカネグモ
コシロカネグモ
クサグモ
コクサグモ
アオオビハエトリ
トリノフンダマシ
オオトリノフンダマシ
・鳥
ホオジロ
トビ
ツバメ
ハシボソガラス
ウグイス
キジ
オオヨシキリ
オオタカ
コゲラ
・カエル
ニホンアカガエル
ウシガエル卵
 
・その他
タヌキ(足跡)
田んぼに残った親タヌキと子ダヌキの足跡
 
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谷津田の生態系と周辺環境(浅間先生)
はじめに浅間先生から、谷津田の生態系と、それを支える周辺環境についての解説がありました。
谷津田を前に解説される浅間先生
この岡発戸・都部谷津では、かつては目と鼻の先にある手賀沼の藻を田んぼの肥料として利用していました。手賀沼には多くの藻や水草が生え、それらは水中のリン・窒素を吸収することで水質浄化に貢献していました。ところが冬になり藻が枯れると、再びそれらの養分が水中に放出されてしまいます。そこで、枯れた藻を谷津田に運び田んぼにすき込むことで、水質低下の防止と谷津田への養分の補給を行うことができていたのです。今は、灌漑用水として手賀沼の水が使われています。手賀沼の汚れがひどかった時は、窒素分が多すぎてイネが伸びすぎ倒れてしまうことがあり、水田の水切りを早くしたことがあります。
生活排水は流域下水道の処理場で浄化が行われ、利根川に排水されています。何故処理水を手賀沼に排水しないのでしょうか。それは、処理水は窒素やリンが多く、再び沼に入ると植物プランクトンになり汚れの原因になるからです。手賀沼に流入水が減ってしまうのを防ぐため、北千葉導水事業で利根川の水を手賀沼に放水しています。そのため、手賀沼は、魚類の餌となるプランクトンが減少し、生息する魚類の量を大きく減らす結果となりました。きれいになると魚は減ってしまうのですね。手賀沼には利根川の生物が入り込み、この谷津田には灌漑用水から手賀沼の生物が入り込んできています。
生態系はその地域だけで完結するものではなく、周辺の環境と深くかかわりあいながら育まれてきました。
環境が激変していく中で、この谷津を守り続けていくことの難しさと大切さを考えるきっかけとなりました。(脇本)
ガマ(植物)
谷津田のガマの穂に注目しながら、村田先生の解説がはじまりました。
ガマの穂はガマの花で、2つに分かれていて、上の細い方が雄花の集まり、下の太い方が雌花の集まりです。雄花は花粉を飛ばしたら終わりで、風で飛んで行ってしまいます。雌花の方は受精したら太くなってきます。
「因幡の白兎」では、大黒様の兄が皮を剥がれたウサギに塩水に浸かって風に吹かれるように言いますが、これでは痛くて大変です。そのあとに通りがかった大黒様は、真水で体を良く洗ってからガマにくるまるように言います。一般には「穂棉にくるまる」とされていますが、もとは花粉だったと考えられます。ガマの雄花の花粉には止血作用があり、蒲黄(ほおう)という漢方薬になっています。
ガマの雌花の熟した物を昔の人はほぐして綿の代わりに使いました。
ガマに似たものにコガマがありますが、ガマに比べ穂が全体的に小さいです。
ソーセージのようなガマの穂と村田先生
(西田)
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スギナのハバチ(田仲先生)
斜面のスギナを観察する田仲先生と皆さん
道路わきのスギナにいる虫はオスグロハバチというハバチの幼虫です。スギナもイヌスギナも両方食べます。
残念ながら幼虫の時期が過ぎてしまったようで、だいぶ数が減ってしまいましたが…
地中に潜って蛹になるので、たぶん今ごろはこの下を掘って見ると、蛹がいると思われます。
前回5月の観察会の後に撮った産卵の写真を紹介します。オスグロハバチはスギナの茎の中に卵を産み込んでいます。
ハバチの仲間は植物食ですが、この産卵管が進化して、狩蜂や寄生蜂などの針になったと考えられます。つまりハバチ類はハチの中では原始的なグループということです。
産卵するオスグロハバチ成虫 (田仲義弘)
ハバチの幼虫をよく見てください。一見するとチョウやガの幼虫のイモムシに似てますね。見分けるポイントの一つは腹脚という腹部にある脚の数で、ハバチは5〜7対、イモムシは通常4対です。
もうひとつは眼です。イモムシの眼は小さいのがいくつもあって、あってなんだかよくわかりませんが、ハバチの幼虫は大きめの眼(単眼)が一対です。
ようするに、オメメがクリクリして、脚がたくさんあって、イモムシに比べて全体にかわいいのが『ハバチ』ということになります。
明らかに蜂びいきの田仲先生でした。(大野)
 
オスグロハバチ幼虫 (田仲義弘)
ヤマトコマチグモ(浅間先生)
ススキの葉が「ちまき」のように巻かれているところがたくさん見られました。これについて、浅間先生の解説です。
特徴的なヤマトコマチグモの巣
これはヤマトコマチグモが作ったもので、親はこの中に卵を産んで子を育てます。
近縁のカバキコマチグモも葉を巻いて中で子育てし、子供に自分の体を与えるクモとして有名ですが、このヤマトコマチグモは葉の巻き方が違い、また、自分の体を子に与えることはしません。
(ススキの葉の巻かれている部分を少し開けて観察)
このメスはこれから卵を産み、子どもを育てます。葉を巻くことによりアリから子を守っています。葉を開けた部分は糸で修復します。
巣を作る植物は決まっているわけではありません。ススキは作りやすいのでよく見られますが、シロダモなどに作る場合もあります。
(澁谷)
休耕田の乾燥化・ワラビ(植物)
谷津田を見下ろしながら村田先生の解説です。
休耕田の中に、セイタカアワダチソウや木本が生え始めています。セイタカアワダチソウや木本は乾燥化の指標となる植物なので、ここの休耕田は乾燥化してきているといえます。
道端にワラビが生えています。食べられる時期のワラビは知っていても、大きくなったワラビを知らない人がいます。
成長したワラビ
これが成長したワラビです、と言って足元の伸展したワラビを指さすと、参加者の方から意外そうな声が漏れました。
(西田)
クモの生態の違い(浅間先生)
クリの木にとても立派なコガネグモが巣を作っていました。ふたたび浅間先生の解説です。
ギザギザの隠れ帯がある網にいるのがコガネグモ類の子供です。
ナガコガネグモは冬につぼ型の卵のうを作ります。その中で卵がかえり、2齢幼虫で冬を越します。6月の初めに卵のうから出てきて、このように網を張ります。大きくなると縦の隠れ帯を作ります。隠れ帯を作る理由は捕食者から身を守る・餌の誘引などのいろいろな説がありますが、はっきりとは分かっていません。
立派なコガネグモ
コガネグモのメスの成体が大きな網を張っています。
コガネグモは秋にかえって、外で幼体の状態で冬を越します。コガネグモのように昼網を張るクモの多くは、大きくなると腹部は黄色と黒の目立つ模様になります。これはハチに姿を似せて、捕食者に食べられないようにするためです。一方、夜網を張るオニグモなどは黒っぽい色をしています。
ジョロウグモは卵のうの中で卵のまま越冬します。
卵のうの中で脱皮して幼虫になり、6月頃になると卵のうから出てきて、2齢幼虫で「まどい」を作ります。その後脱皮して3齢幼虫になると自分でえさを捕ることができるようになるので、糸を出して空中を飛んで分散し、今はそれぞれ小さな網を張っています。網の目が細かいのが特徴です。
(澁谷)
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アカマツのその後(植物)
先月に比べ、マツの花の花らしいイメージが無くなりましたね、と村田先生。前回の観察会との変化に注目しながら観察が行われました。
褐色と緑色の松ぼっくりをつけるアカマツ。枝先の小さいのが今年のもの
(金林和裕)
褐色になっている松ぼっくりは種が落ちて残った残骸です。緑色のものは去年の雌花が今年の春受精して大きくなったものです。前年春に受粉した胚珠のなかで、花粉は1年余り待機しやっと卵と受精しました。その後急に大きくなります。
枝の先には今年の春咲いた雌花がついています。
(西田)
 
クリの花(植物)
植物の観察ポイントが続き、村田先生は忙しくも少しうれしそうです。下見の時の画像と比較しながら、クリの花の穂について解説がはじまりました。
栗の花は強烈な臭いがします。一般的に動物でも植物でも雄が臭います。
栗の花は穂になっている部分が雄花序の集まりです。穂の付け根の方に頭の先にイガのようなものがついている丸いものがありますね。これが雌花序です。普通3個の雌花がまとまってついています。雌しべの下の丸い部分にはとげのようなものが生えています。この部分は総苞です。実が熟した時にイガを開けると、大体3個の果実が入っているでしょう。片側が丸く膨らんでいて片側が平らなもの二つの間に、両側が平らなものがひとつ。
クリの雄花と成長しはじめたイガ
参加者の方から、クリは風媒花でしょうか、虫媒花でしょうか、という質問がありました。虫がたくさん集まってきていることからも分かるように虫媒花です。下見の際は雄花に多くの昆虫類が集まっていましたが、台風で落下してしまい本番ではそれほど多くの昆虫を観察することはできませんでした。それでもクリの木は花粉、幹、果実が多くの昆虫によって餌となっているため、昆虫採集や観察においては非常に重要なポイントとなるのだそうです。
(西田)
常緑樹の葉の交替・ドングリの生育の違い(植物)
前回、川名先生が「成長の確認に」と目印のひもをつけていたシロダモ。果たしてどのような変化が起こっているでしょうか。常緑樹の葉の交替について川名先生が解説されました。
青々と成長したシロダモと川名先生
木には常緑樹と落葉樹がありますが、1年以内に葉が落ちるものを落葉樹、1年以上たって葉を落とすものを常緑樹と言います。シロダモの葉は何年光合成をして役割を終えて落ちるのでしょうか。
(葉の位置を確認しながら)
今年出た葉、1年前に出た葉、2年前に出た葉、3年前に出た葉、4年前に出た葉、大体4〜5年で落ちるようですね。
続けて、マテバシイの大木を見上げながら、村田先生によるドングリの解説がはじまりました。
クリは一つの穂に雄花序と雌花序がついていましたが、マテバシイは雄花の穂と雌花の穂が別で、何本かの雄花の花序と一本の雌花の花序が枝先にひとまとまりでついています。
ドングリは1年で熟して落ちるものと2年で熟して落ちるものがあります。マテバシイは去年できた雌花で今年受精が行われ、秋に成熟して立派なドングリになります。
(それぞれの木のところで)
アカガシのドングリは2年で成熟します。同じ常緑樹のアラカシのドングリは1年で成熟します。落葉樹のコナラのドングリは1年で成熟します。一口にドングリといっても様々な生育サイクルがあるのです。
(西田)
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クズに来る昆虫(平井先生)
経路の途中、田んぼの中の道を渡っていくところに、両側からクズが生い茂っています。平井先生が、このクズに集まる昆虫たちの興味深い話をされました。
マルカメムシの卵を探す平井先生と皆さん
クズにはマメ科植物共通の昆虫や害虫が集まることが知られており、ダイズなど豆類の畑が近くにあると大きな被害を受けてしまいます。ここのクズの茎にダイズ害虫として知られているマルカメムシが群をなしています。
平井先生の掛け声で、このマルカメムシの卵をみんなで探すことになりました。2列に並ぶ卵はとても小さく、皆さん四苦八苦しながら葉の裏やつるの先を探していましが、やがて何人かの方から声が上がりました。
規則正しく並べられた卵には、大きな秘密が隠されています。この卵の袋隙間には黒い袋が挟まれており、この中にはマルカメムシの共生菌が入っています。マルカメムシの雌は、このを先に葉につけ、その周りに卵を産み付けていくのです。ふ化した幼虫はまずその袋の中の共生菌を吸い、体内に住まわせるのです。これを吸うことがでなかった幼虫は生存率が大幅に下がるという研究報告(→→)もあります。
平井先生は「ほ乳類の初乳のようなものではないか」と例えられました。
またこのマルカメムシは、翅にもユニークな特徴があります。通常のカメムシ類は前翅が開き、その下から後翅があらわれて飛翔しますが、このマルカメムシは小楯板(左右の前翅の隙間を埋めている三角形の部分)が延びて腹部全体を覆い、翅はその下の隙間から滑り出すようにあらわれます。その翅も、通常の昆虫では左右2枚ずつの4枚になっていますが、マルカメムシではそれぞれ留め金状のものでつないで羽ばたき面を広くして飛翔しているようです。チョウやガの仲間にも前翅と後翅をつないで、前後翅を一緒に羽ばたき推進力を高めている種類もいます。
マルカメムシ卵
マルカメムシ成虫
マルカメムシの飛翔のようすはこちらのページでご覧いただけます。
【鎮(チン)さんの自然観察記〜写真録〜
一見すると華もなく地味なマルカメムシですが、たくさんの面白い秘密が隠されており、自然観察の醍醐味を感じられる昆虫であると感じました。
(西田)
クサフジと訪花昆虫(中安先生)
田んぼのわきに、美しい青い花がたくさん咲いています。フジに似ている小型の草本なので、クサフジという和名がつけられました。この花に集まる虫たちについて、中安先生が解説されました。
クサフジとキアゲハ
クサフジはたくさんの昆虫が蜜を求めて集まります。虫たちは花の蜜を吸い、花粉をもらう代わりに、花粉の媒介を手伝うことで植物と共生関係にあると考えられています。では、次の3種の昆虫たちは、みなクサフジと相利共生関係にあるのでしょうか。
1.ヒゲナガハナバチ
2.クマバチ
3.アゲハチョウ
中安先生からのクイズに、皆さん頭を悩ませています。
正解ですが、まず1番は○。ハナバチなどのハチ類が蜜を吸うために花にとまると、雄しべと雌しべが飛び出してハチの体に花粉をつけたり、ハチの花粉を雌しべにつけます。これは参加者の皆さんも多くが正解しました。
2番は×。クマバチは大型のハナバチ類ではありますが、蜜を吸うときに花の付け根に穴をあけてそこから吸うために花粉が体につかず、花粉の媒介を行わないのだそうです。これは半分ほどの方が正解。
3番も×。チョウ類は長い口吻を伸ばして蜜を吸うため、体に花粉がつかないのだそうです。これは皆さんも意外そうな顔をしていました。
ニッポンヒゲナガハナバチ
訪花の前(左)と後(右)
なお、クマバチの雌雄は、顔を見るとすぐわかります。顔に黄色い鼻のような三角形の模様があるものが雄です。
そういって中安先生がクマバチを手づかみで袋から取り出すと、参加者から驚きの声が漏れました。
もちろん雄なので刺さないのですが…手づかみに挑戦される方はどうぞご自身の責任でお試しください。
(脇本)
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ムクノキのチビタマムシ(山崎先生)
ムクノキの葉がギザギザにかじられていますね。
犯人がどこにいるかわかりますか?
チビタマムシという虫で、葉の上にいるごく小さな虫です。いま、成虫が葉の上にいますがよく見ないとわかりにくいですね。
チビタマムシを探す皆さん
チビタマムシの成虫と幼虫の食痕
(金林和裕)
成虫は葉を食べてギザギザにしますが、幼虫は葉に潜って葉肉だけを食べます。葉の一部分だけが茶褐色になっているのが、幼虫の食べた痕です。
ナミガタチビタマムシ成虫
ナミガタチビタマムシ幼虫。  
葉の中では糞が乾燥してつながっています。 (山崎秀雄)
ムクノキを食べるのはナミガタチビタマムシという種ですが、チビタマムシの仲間にはクズにつくクズチビタマムシなど何種類もいます。チビタマムシはタマムシの仲間で、みなさんよくご存知のタマムシ(ヤマトタマムシ)などのきれいなタマムシなども、同じ“タマムシ科”という仲間になります。
タマムシの仲間の標本を集めてきたのでみなさんで見てください。
タマムシの標本(右下の方がチビタマムシ) (山崎秀雄)
山崎先生の用意してくれたタマムシの標本は宝石箱のようでした。
このムクノキにはチビタマムシがたくさんついていますね。小さいので確認しにくいですが、葉をつかむとすぐにポロリと落ちるので、なるべくそっと見てください。
そうは言ってもみんなそれぞれ観察したいので、つぎつぎにチビタマムシが落下… 後続のチームに申し訳ないです。(観察会はA・Bの2チームに分かれて実施しています)
(大野)
ヤマトツツクモバチ(田仲先生)
ヨシの葉を巻いているのは、先に浅間先生から紹介されたヤマトコマチグモの巣です。
これから紹介するのは、このクモに産卵するハチの話です。
ヤマトツツクモバチはクモバチの仲間で、この仲間は最近までベッコウバチと言われていました。クモを狩る狩蜂です。
ヤマトコマチグモの巣をそのまま自分の子どものために利用します。巻いた葉を脚でこじ開けて、中のクモを麻酔して、その背中に産卵します。
ヤマトツツクモバチの幼虫を採集しておいたので、みなさんで見てください。
(サンプルを回覧する)
「ワッー、この白いのが蜂ですか?」
「すごい! こっちの幼虫はクモをガシガシとかじってますよ!」
全員が興奮気味。
ヤマトツツクモバチを観察する
ヤマトコマチグモとヤマトツツクモバチ幼虫
(田仲義弘)
巣の中のクモに産卵するので寄生蜂のようなイメージですが、立派な狩蜂です。
寄生蜂の場合は寄生されたほうはその後も成長を続けますが、ヤマトツツクモバチに麻酔されたクモは産卵が阻害されてストップします。
ちなみに、産卵間近なヤマトコマチグモだけを選ぶらしく、狙った獲物が産卵後だったりすると、取りやめにして別の獲物を探すようです。
ちょっとややこしい狩蜂ですが、幼虫のかじるところは迫力でした。(大野)
田んぼの昆虫類(鈴木先生・平井先生)
当日は谷津のいたるところで赤トンボが飛び交っていました。中干しが行われたばかりの田んぼの傍らで、鈴木先生がトンボと田んぼの関わりについて解説されました。
アキアカネの羽化 (田仲義弘)
一口に赤トンボといっても、岡発戸でこの時期もっともよく見られるノシメトンボをはじめ、アキアカネやナツアカネなどいくつかの種類があります。これらのトンボは稲作文化に適応し、数を増やしてきました。ノシメトンボやアキアカネの卵は乾燥に強く、稲刈り後の田んぼにできた水たまりに産卵された卵は、発生の途中で休眠して、乾燥した冬を越します。春になって田んぼに水が入ると、再び発生が進んですぐにふ化します。シオカラトンボなど、ヤゴで越冬するトンボの仲間は、冬に水がなくなるので、田んぼでは生き残ることができません。
 
 
次の田んぼでは、平井先生によってイネを食害する昆虫の解説が行われました。
この目の前に田植え後約1か月の広い水田が広がっています。よく見ると緑色の田と黄緑色の田が見えます。緑色のイネは窒素肥料がよく効いているものです。さて水田の畦畔におりてイネ葉上にある白線条痕を見つけてください。これはイネクビホソハムシというハムシの食害によるものです。この虫は、一般的にはイネドロオイムシと呼ばれています。幼虫が自分の糞を背中に背負っていることに基づいて名づけられた名前です。糞は幼虫を乾燥から守るものです。稲葉を眺めると白い繭(蛹入り)と成虫も同時に見られます。成虫はやがて周辺の越冬地に移動していきます。
イネクビホソハムシ幼虫と食痕
【イネクビホソハムシの繭と成虫の写真はこちら】→→
農家の方に「イネクビホソハムシ」と言っても伝わらないそうで、正式な和名も広く知られた名前もどちらも重要なのだと感じさせました。
(脇本)
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ウグイスとホオジロとオオタカ(唐沢学長)
鳥の鳴き声の解説をする唐沢学長
いま、ウグイスの声が聞こえました。みなさんどう聞こえましたか?
…「ホーホケキョ」ですかね。実は平安時代のウグイスは「ウグィースッ」と鳴いたらしく、それでウグイスという名称になったようです。
鳥の声を文字で表現するのは難しいですね。これを“聞きなし”と言って、平安時代の人々はそのように聞きなしたと言うことでしょう。
ウグイスのように森や藪の中で生活する鳥は、姿が見えないために、雄が主張できるのは声だけになります。いい声でなく雄ほど、雌に人気があるということになります。
反対に見通しのよい草原で暮らすキジの雄は、真っ赤な頭部のように姿かたちで雌にアピールします。
ところで、あそこにホオジロが来てくれました。ホオジロは地元千葉県の鳥で、本当はここで鳴いてくれることになっていたんですが… 
<しばらく待つ…> 
都合よくいきませんね。
オオタカの鳴き声に振り返る唐沢学長。この直後に驚きのでき事が…
ゴルフ場の高いフェンスにホオジロがとまっているが、逆光でよく見えない。
鳴き声を待つ間に後方からオオタカの声が聞こえる。
何ごとかと皆で振り返ると、オオタカがカラスに追われて森から飛び立つ。
今の見ましたか? すごいシーンでしたね。
おそらく、あそこにカラス(ハシボソガラス)が営巣しており、接近してきたオオタカを警戒して追い払ったものと思います。
唐沢先生の話には、いつも幸運なハプニングがついてきます。(大野)

参加いただいたみなさん、我孫子市と谷津守人の皆さん、そして講師の先生方、どうもありがとうございました。
話題がたくさんありすぎて終了時間が遅れてしまい、最後は少し駆け足気味になってしまいました。申し訳ありませんでした。
次回は9月30日、2012年度の最終回です。3回とも参加いただいた方には“価値ある修了証”を進呈します。

付録:ベニシジミ 〜参加者の方からのレポート〜
クサフジを吸蜜するベニシジミ
(石川恵子)
自然観察会ありがとうございました。前回からの変化が興味深かったです。毎回の事ですが、クモがたくさんいて、本当に自然が豊かだと感じました。
ピンぼけの写真が山のようにある中、チョウだけ少しよかったので、嬉しくて送らせていただきました。
(NPO会員石川恵子さんのレポートです。)
 
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2012年度 野外観察会
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テーマ別観察会:アブラムシ
テーマ別観察会:農場の自然観察