2012年  NPO法人自然観察大学 第3回
2012年9月30日(日)
場所:我孫子市岡発戸
(おかほっと)・都部(いちぶ)谷津
後援:我孫子市
台風が近づきつつある中、今年最後の岡発戸・都部谷津での観察会が開催されました。少し駆け足となってしまいましたが、秋晴れの空の下で多くの生き物を観察することができました。
今回のレポートは、NPO会員の西田恵美子さん、金林和裕さん、事務局の脇本で報告させていただきました。

担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物担当は岩瀬徹先生・川名興先生・村田威夫先生・飯島和子先生に分担していただいたため(植物)としました。

当日に話題になった生き物のリスト

植物
・草本
ノブドウ
カラスウリ
ヤブガラシ
エノコログサ
アキノエノコログサ
キンエノコロ
ヒガンバナ
ガマ
クズ
ススキ
オギ
ツルボ
ツリガネニンジン
チヂミザサ
カントウヨメナ
ヤマハッカ
カナムグラ
オオブタクサ
ブタクサ
セイタカアワダチソウ
アキノウナギツカミ
ツユクサ
ヨシ
イネ(黒米)
カラスウリの果実
 
木本
クリ
マテバシイ
シラカシ
アカガシ
シダ植物
ワラビ
カニクサ

 

動物
・昆虫
ノブドウミタマバエ
ヤマトシリアゲ
スズバチ
ヒラタアブ
コハナバチ
キアシトックリバチ
アオスジハナバチ
ツチイナゴ
クビキリギス
コバネイナゴ
オンブバッタ
マメハンミョウ
オオホシカメムシ
・クモ
ジョロウグモ
ナガコガネグモ
アシナガグモ
シロカネイソウロウグモ
ナガコガネグモの卵のうとそれを保護する親グモ
・鳥
モズ
ヒヨドリ
・哺乳類
カヤネズミ
 
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ノブドウ(植物)
※受付から集合場所の移動する途中の斜面一面にノブドウが沢山の実を付けていました。
正常なノブドウの実とノブドウミタマバエによる虫こぶ
(金林和裕)
ノブドウが実を付けていますね。この中には、見かけ上実のように見えますが虫が中に入り込んで肥大したものがあります。ふわふわして大きい柔らかい実は本当の実ではなくて、割ってみると中に小さな幼虫が入っています。これは虫こぶ又は虫えいと言います。堅いのは本当の実で、中にウメやモモと同じ核という堅い皮に包まれた堅い種が入っています。
この虫こぶはノブドウミタマバエによって作られています。12月には虫こぶを詳しく研究されている先生の講習会があるので是非参加してください。(金林)
エノコログサ類(植物)
※スタート地点の広場に、「猫じゃらし」が群生していました。よく見るといくつかの種類があるというのですが…
(大きな穂を指さし)これ、立派ですよね。これは、皆さんが小さい時からなじみの有る猫じゃらしです。猫じゃらしはエノコログサの仲間のことですが、エノコログサといっても色々あります。6月頃から出てくるものはほとんどがエノコログサで、穂がすっと立っています。遅くなって熟し、ちょうど今頃穂が垂れ下がっているのが、アキノエノコログサです。
エノコログサを解説する村田先生
最近、市街地にこの時期でもエノコログサが目立ちます。エノコログサはアルカリ性の土壌を好むので、市街地のコンクリートや側溝のところに生えるのではないかと思っています。これは10〜20年前にはなかったことなので、一度外国に出たエノコログサが出戻りで帰ってきたものではないかとも考えられています。
見分け方はいろいろありますが、葉に毛があるのがエノコログサ、ないのがアキノエノコログサです。
また、穂の粒 (小穂)を拡大すると、
エノコログサは苞えいに小花の護えいが全部かくれている。
アキノエノコログサは苞えいから小花の護えいが少し見えている。
キンエノコログサは苞えいから小花の護えいがほとんど出ている。
といった点で区別ができます。この他にコツブキンエノコロ、アワとの雑種と思われるオオエノコロというのもあります。(西田)
エノコログサの小穂の違い
「雑草博士入門」より抜粋
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斜面林の遠望(植物)
斜面林を観察する
向こう側の斜面林を見るのは今日で3回目ですが、それぞれの緑の違いが分かりますか。
5月の時は、落葉樹は黄緑、常緑樹は濃い緑で色の差が大きかったです。
6月になると、落葉樹も常緑樹も緑が濃くなってあまり違いがありませんでした。
そして9月、落葉樹の葉が傷みはじめており、クズが伸びて木の上を覆っています。
近くを見ると、前回観察したガマの早いものは穂が崩れはじめています。これを昔の人は蒲団にしました。(西田)
モズ(唐沢先生)
※この時期、高い梢からモズの高鳴きが聞こえます。
これから何処かで聞こえると思いますが、この時期モズは電線や木の梢で高鳴きをします。モズの親は3月頃繁殖をして、子育てが終わると自分のなわばりを出て高原に移動し2回目の繁殖をします。
哺乳類は普通子供が縄張りを出ますが、モズは親が出て子供がそのまま残り自立し生活します。親は高原での2回目の子育てが終わると、秋にまた子供たちのいる所に戻ってきて、雄も雌も今年生まれた子供も関係無く縄張り争いをします。
はじめは声合戦から、次第に取っ組み合いの激しいけんかを行い、地上に落ちることもあり、手のひらに載せてもやっていることがあります。縄張りをもつ理由は餌の確保のためで、その縄張り内で餌を探し、高いところから飛び降りてトカゲやバッタを捕まえます。
狩りに使うエネルギーは同じなので、なるべく大きな獲物をねらい心臓に近い首に致命傷をあたえ、木のとげなどに刺します。いわゆる「はやにえ」ですね。
春の求愛行動は雄が左右の顔の黒い線(過眼線)を雌に交互に見せ、その時に色々な鳥の鳴き声を聞かせて雌の気を引きます。鳴き声のレパートリーが多い方が雌にもてるようです。時季外れの鳥の声を聞いたときにはモズの可能性があるので注意が必要ですね。(金林)
見ごろを迎えたヒガンバナと、モズの説明をする唐沢先生
ヤマトシリアゲ(鈴木先生)
※第1回の観察会で登場したヤマトシリアゲが、同じ場所で観察されました。しかし、春とは少しようすが異なるようです。
ヤマトシリアゲ雄成虫春型
ヤマトシリアゲ雄成虫夏型
この斜面ではヤマトシリアゲが数多く見られます。しかし、春に見られたものとは体色が異なっています。ヤマトシリアゲは夏に次の世代が羽化するのですが、春の個体は黒色をしているのに対し、夏以降の個体はベッコウ色をしています。これらは40年前までは「ベッコウシリアゲ」という別の種類のシリアゲムシだと考えられていましたが、その後研究が進み、同じ種の別の型であるということが判明しました。
このベッコウ型(夏型)の個体は、標高があまり高くない場所(長野県ではおよそ1000m以下)でしか観察されていません。つまり、低地では年2化であるのに対し、標高の高い(1000〜1500m)地域では春型のみの年1化であると考えられます。(脇本)
谷津の休耕地(植物)
カナムグラの雄花とつる
カナムグラの花が咲いています。カナムグラは雌雄異株です。触ると白い粉が出ましたね。これは花粉で、今の時期目立つのは雄花です。カナムグラは風媒花で、この花粉がぜんそくの元になる人もいます。
カナムグラには伸びる方向と逆向きのとげが生えています。これで他の植物の上に這い上がり他の植物を覆ってしまいます。
オオブタクサもたくさん生えています。休耕田の開発地にはまず最初にブタクサが入り込み、そのあとに、オオブタクサ、セイタカアワダチソウ、クズなどが入り込みます。この頃、ブタクサはあまり見られなくなりましたね。(西田)
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ジョロウグモと居候グモ(浅間先生)
※道を横断するように大きなクモの巣が張られています。それを見上げながら、浅間先生の解説です。
3種のクモが住む巣
右端の点がシロカネイソウロウグモ
ここに大きなクモが網を張っていますね。このクモは…そう、ジョロウグモです。でも、果たしてみなさんにはそれ以外のクモが見えていますか?
実はこの網には4つの大きさの違うクモがいます。一番大きいのはジョロウグモの雌の亜成体です。そしてその横にいる中くらいのクモが、ジョロウグモの雄の成体です。一般に網を張るクモは、成体になると網を張ることができなくなります。ジョロウグモは、雌の網に居候して餌のおこぼれをもらっています。雌が脱皮をして成体になるときがチャンスで、雄が近づき交接します。
雄の近くにいる小さいクモはアシナガグモの幼体で、ジョロウグモの網を利用して自分の網を張っています。さらに、もっと小さな仁丹のようなクモがいます。これはシロカネイソウロウグモで、居候して網にかかった小さな餌を盗んで生活しています。ジョロウグモの網は網の目が細かいので、このように多くの小さなクモが居候をしています。(脇本)
マテバシイ(植物)
下に大きなドングリがたくさん落ちていますね。
ここで5、6月のころマテバシイの花が咲いていました。その下に小さい実がついていました。それが今下にいっぱい落ちています。マテバシイは2年で実が熟すことが分かります。
6月のマテバシイ
雄花と雌花、左下に前年の果実
9月のマテバシイ
前年の果実が熟してきている
マテバシイは千葉県に多い木ですが、葉が厚いので下草が伸びなくなって困っています。千葉県では、マテバシイの枝を海に挿して海苔の種を付けるひびにしていたのでこの木が多いのではないでしょうか。(西田)
トックリバチの巣(田仲先生)
※コンクリートで作られた作の土台に、泥でできた団子のようなものが張り付けられています。これは実はハチの巣だといいます。
スズバチの巣
(田仲義弘)
これはトックリバチの仲間のスズバチというハチの巣です。腹部のくびれが鈴のように膨れているのでこのように呼ばれています。トックリ状の巣を作るハチの中では日本最大の種で、横長のトックリ状の部屋を並べていくつも作り、最後には全体を泥で覆って隠してしまいます。この巣は1つしか部屋がありませんので、あまりいい場所ではなかったのでしょう。
※その後、法面に生えた枯草の上に、別のトックリバチの巣が見つかりました。
キアシトックリバチの巣
こちらはキアシトックリバチの巣です。スズバチのものと比べるとはっきりとしたトックリ状をしています。このように植物の茎に巣を作ることが多く、それぞれ離れたところに作るため、一度にたくさんの巣を観察するのは難しいです。これは、セイボウなどの寄生蜂に全滅させられることが無いようにしているのだと考えられます。
よく「ハチの観察をしていて刺されたりしませんか?」という質問をされますが、狩蜂の毒は節足動物にのみ効果があるものなので、仮に刺されたとしても腫れることはありません。スズメバチやアシナガバチといった社会性のハチは、集団で生活する上でクマなどの巣を襲う哺乳類、鳥類に対抗するための毒を持つようになったので、我々ヒトにも効果があるのです。(脇本)
(西田)
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カニクサ(植物)
シダ植物の地上部分はほとんどが葉っぱです。このカニクサも形は変わっていますが、シダ植物です。通常の葉はつけ根に葉柄があり、これで1枚の葉だと分かりますが、このカニクサではどうでしょうか?
実は、このつる全体が1枚の葉です。カニクサは葉の先端が成長して伸びていきます。
カニクサには栄養を取るだけの羽片と胞子嚢を付ける羽片があります。胞子嚢を付ける羽片は葉の先の方に付きます。
カニクサの先の方が何かの具合で枯れてしまうと、その手前の短い羽軸の先の小羽片の間にある芽から葉が伸びていきます。(西田)
栄養をとる羽片(左)と
胞子嚢を付けた羽片(右)
カニクサの胞子葉の裏側
ツユクサ(中安先生)
群生するツユクサ
ツユクサの花
ツユクサの花をよく見てください。
黄色い葯が目立つ3本の短い雄しべには稔性のある花粉ができないため、仮雄しべと言われます。これらは虫を呼ぶためのものです。
その前にある1本と一番前にある2本の雄しべには稔性のある花粉ができます。雌しべは長い2本の雄しべの間に1本あります。
ツユクサの受粉の仕方は2 通りあります。一つ目は小さなヒラタアブやハナバチなどによる受粉で、主に午前中に行われます。二つ目は同じ花の中で起こる同花受粉で、お昼頃、雌しべと雄しべが丸まってきて、その時に起こります。花が開くときも同花受粉をします。(西田)
自然観察大学ブログ()にも詳細な説明がありますので、あわせてご覧ください。
クリの実(植物)
クリの実のつくりを説明される岩瀬先生
ここに秋の味覚のクリがあります。クリの木に似た木にクヌギがあります。実の形で簡単に区別できますが、実がない時は葉で見分けます。葉の縁の鋸歯の先まで葉緑素があって緑色なのがクリです。葉が枝から上に立っているように見えるのがクヌギ、平らに見えるのがクリです。
被子植物では種子は種皮という皮に包まれ、その中に胚がはいっています。種子は子房が変わった果実に包まれます。クリの果実は堅い果皮に包まれ中に1個の種子があります。
種子の中は養分を蓄えた子葉で満たされ、それを食べています。(西田)
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カヤネズミの巣(浅間先生)
※湿地帯のカヤがソフトボール大に丸められていました。浅間先生の解説です。
カヤネズミの巣
イネ科の大きな植物を俗称でカヤと呼びますが、あそこのカヤが丸まっているのが見えますか? あれはカヤネズミの巣です。カヤネズミは日本で最も小さなネズミで、重さは7g、500円玉1枚分しかありません。全体はオレンジ色で腹側の毛は白く、長い尻尾が特徴です。カヤネズミの巣は鳥の巣と違い、出入り口が分からないように作られているので識別は簡単です。また巣材を運んでくる鳥と違い、近くのカヤを利用して巣をつくります。巣に緑色の葉が混じっているかどうかで、今使われている巣かそうでないかが分かります。行動半径が10mほどしかないので、その中に生活していくために必要なすべてがそろっている必要があります。そのため、環境指標生物としても重要です。(脇本)
黒米(今嶋さん)
今回の観察会の参加者で、谷津守人でもある今嶋さんに、収穫期を迎えた黒米について解説していただきました。
黒米は、昔の中国の皇帝しか食べられなかった米です。色素が黒く、この色素の中に栄養があります。実った後は自然に1粒1粒落ちていきます。
6月に種をまき、10月に刈り取ります。丈夫で育てやすく、うるち米やもち米と作業時期がずれているので助かっていますが、1粒が小さいので収穫量が少ないです。食べ方は、うるち米1合に黒米を大匙1ー2杯入れて炊くことが多いです。
収穫したもみを取っておいて次の年にまいていたら、だんだんに背丈が低くなってきてしまいました。他の場所の黒米と交配させてやらないといけないかなと思っています。
岡発戸では、黒米、赤米、緑米をつくっています。黒米は黒の色素、赤米は赤の色素、緑米は緑の色素をもっています。(西田)
黒米の穂
ツチイナゴとマメハンミョウ(山崎先生)
※谷津中で数多くのバッタ類を観察することができましたが、その中でもよく目立ったツチイナゴと、バッタ類の天敵のマメハンミョウについて、山崎先生の解説です。
ツチイナゴの幼虫(左)と成虫(右)
このツチイナゴは、幼虫のときは緑ですが、成虫は茶色です。幼虫の時は翅が短いので、腹部の1節目にある鼓膜を観察することができます。バッタの仲間はすべての翅を折らずに閉じるので、かつては直翅目と呼ばれていました。
マメハンミョウ
さて、そのツチイナゴは卵を地中に産むのですが、その卵塊を食べる昆虫がいます。それがこのマメハンミョウです。成虫になると植物食でマメ類の葉を食べるのですが、幼虫の時は動物食で地中の卵塊を食べます。体液にはカンタリジンという成分が含まれており、皮膚につくと水ぶくれを起こす毒として知られていますが、かつては毛生え薬として利用されたこともあるといいます。ハンミョウという名前ですが、通常のハンミョウはゴミムシに近い種であるのに対し、このマメハンミョウを含むツチハンミョウ科はカマキリモドキやアリモドキに近い種です。(脇本)
果実を吸うカメムシ(平井先生)
水田脇の排水路に茂っていた、アカメガシワには、赤褐色で、黒丸が目立つオオホシカメムシが群がっていました。よく見ると、あちこちの葉の裏側に7〜8匹、葉影に隠れた果実に数匹、約2?の大きさの成虫がいました。近くにはやや小ぶりのヒメホシカメムシもいました。
平井先生の説明によると、ホシカメムシ類はミカンやモモの果実を吸汁することで知られている害虫です。これらのホシカメムシは本州以南に生息し、成虫は越冬に入る前に、養分をたくわえると思われます。
ちなみにクズにいるマルカメムシは茎葉や莢から、前回の農場で観察した、クモヘリカメムシはイネ穂から、越冬中の養分を確保しているとのことです。
オオホシカメムシ
(平井一男)
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今年の岡発戸・都部谷津での観察会は今回で終了です。1年間にわたりご支援いただいた我孫子市職員の方々と谷津守人の皆様、講師の先生方、そして参加者の皆様、ありがとうございました。
野外観察会の皆勤賞のしるしでもある修了証ですが、今年は30名以上の方にお渡しすることができました。
観察会修了後、新学長の唐沢先生より修了証が授与されました
2012年度 修了証
 
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2012年度 野外観察会
第1回の報告 第2回の報告 第3回の報告
テーマ別観察会:アブラムシ
テーマ別観察会:農場の自然観察