2012年  自然観察大学

テーマ別観察会
アブラムシを観察しよう

  2012年6月3日
  千葉県市川市 大町自然観察園
  講師:松本嘉幸先生
  ご協力:金子謙一先生・福士融先生・宮橋美弥子先生(市川自然博物館)
2012年度最初のテーマ別観察会が、千葉県市川市の大町自然観察園で開催されました。
今回のテーマはアブラムシ。普段は嫌われ者の彼らですが、しっかり観察していくと、そのユニークな生態と生存戦略に驚かされます。当日の写真とともに、観察会の様子を報告させていただきます。
なお、今回は市川自然博物館の金子謙一先生、福士融先生、宮橋美弥子先生にご協力をいただきました。ありがとうございました。
講師の松本嘉幸先生
当日観察できたアブラムシ・関連昆虫
散策路
 
イヌシデクロマダラアブラムシ
キヅタミドリアブラムシ
モミジニタイケアブラムシ
ホリニワトコアブラムシ
ニワトコヒゲナガアブラムシ
サルトリイバラアブラムシ
ムネアブラムシの一種
クヌギミツアブラムシ
木 道
 
モモコフキアブラムシ
イバラヒゲナガアブラムシ
カヤツリグサクロアブラムシ
エゴノネコアシアブラムシ
ヤノイスアブラムシ
タデヨツオヒゲナガアブラムシ
天 敵
 
ヒラタアブの一種
テントウムシの一種
真剣に講習を受ける参加者の皆さん
まず始めに、博物館の会議室を借りて室内講習会が開催されました。
今回の観察会はこれまでと少し異なり、「自分でアブラムシの寄生する植物を見つけ、図鑑で調べてできる限り独力で種を同定する」という方針で行われました。そのため参加者の皆さんも、いつもに増して集中して松本先生の説明に聞き入っていました。
講習会では、「アブラムシ入門図鑑」(松本嘉幸著/全国農村教育協会)がテキストとして用いられました。このテキストは既存の図鑑とは異なり、寄主の植物の科名からアブラムシを検索することが出来る画期的なものです。筆者も今回、実際にこの図鑑を片手にアブラムシを探索しましたが、同定に際して注目すべき点が細かに記載されており、とても分かりやすく作られていると感じました。これからアブラムシについて学んでいきたい人に最適の書となっています。
「アブラムシ入門図鑑」の詳細はこちらhttp://www.zennokyo.co.jp/book/musi/ab_nz.html
講習会が終わり、さっそく野外での観察会が始まりました。
始めに観察されたのはイヌシデクロマダラアブラムシ。松本先生の「目の高さの枝を丁寧に見ていくとすぐに見つかりますよ」というアドバイスのおかげで、あちらこちらで参加者の皆さんの「見つけました!」という声が上がりました。
先生のヒントを頼りにアブラムシを探す
続けて見つかったのは、カエデの葉裏のモミジニタイケアブラムシ。今回観察されたのは「越夏型」の幼虫で、寄主植物内の窒素分が多い春と秋は普通型の幼虫として暮らし、炭素分の増える夏の間は形態を変え、成長を止めて固着生活を行うそうです。
大勢の客でにぎわうバラ園の横で、一見何の変哲もない道端の木に群がる参加者の皆さん。バラ園のお客さんに不思議な目で見られながら観察しているのは、ニワトコの樹上で行われている食物連鎖です。
ホリニワトコアブラムシとニワトコヒゲナガアブラムシの2種のコロニーが観察されました。各ステージの幼虫や成虫の産仔が見られる一方、アブラムシの何倍も大きい白色のウジ型の幼虫も見つかりました。これはヒラタアブの幼虫で、アブラムシを暴食します。普段は益虫として扱われるヒラタアブも、アブラムシの観察者にとっては悪者の一つです。その他、アブラムシの排泄物に集まるアリや、ヒラタアブと同様にアブラムシを捕食する各種テントウムシなど盛りだくさんの生物が観察されました。
ホリニワトコアブラムシを捕食するヒラタアブの幼虫
モモコフキアブラムシと天敵のテントウムシの卵
後半からは大町自然博物館の金子先生にも合流していただき、湿地の上にめぐらされた木道で観察会が行われました。
最初に松本先生が注目したのは、ヨシの葉につくモモコフキアブラムシ。名前の通り、生活環の中でヨシとモモ、アンズ、ウメなどとの移動を行います。これを寄主転換といい、寄主転換を行うアブラムシは「移住性アブラムシ」と呼ばれています。
次のエゴノネコアシアブラムシも移住性アブラムシ。初めはエゴノキに寄生し、その側芽が「エゴノネコアシ」と呼ばれる虫こぶになります。その後成長するとイネ科のアシボソ類に移住します。エゴノネコアシはとても独特な形をしており、皆さん一様に虫こぶを割って中の様子を観察していました。
このエゴノネコアシアブラムシは不思議な習性を持っています。虫こぶを作るときに、その内部に入り損ねて締め出されてしまった幼虫は、虫こぶを狙う敵たちに対し攻撃性を示すのだそうです。それらの幼虫を手の上に乗せると、口吻で攻撃するために軽いかゆみを感じるといいます。今回は惜しくも時期が違うため試すことは出来ませんでした。
独特の形状をしたエゴノネコアシ
虫こぶだらけのイスノキの葉
最後の観察ポイントでは、イスノキの葉がほぼすべて一様にこぶだらけとなっていました。その犯人はヤノイスアブラムシ。このアブラムシもまた特異な生態を持っていて、通常移住性アブラムシは草本と木本で寄主転換を行いますが、このヤノイスアブラムシはコナラとイスノキという二つの木本で寄主転換を行います。虫こぶを作るのはイスノキのみで、例年この時期ではコナラへ移住してしまっているのですが、今年は気候が不安定なせいか、穴の開いていない虫こぶを開いてみるとコナラに移住する有翅虫が少し残っていました。
今回観察されたアブラムシはおよそ10数種でしたが、そのすべてが全く異なった生態を持っており、この種族の奥深さを実感するには十分すぎるほどでした。筆者にとっても、それまではどちらかというと嫌悪感を持ってしまう昆虫でしたが、今後はコロニーを発見したらルーペでじっくりと観察し、もっとよく調べたいと思いました。とてもユニークで興味深い観察会となりました。
報告:自然観察大学事務局 脇本
ページトップに戻る

2012年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告
テーマ別観察会:アブラムシ
テーマ別観察会:農場の自然観察