■イチョウの雌花・雄花(植物)
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※今回の観察会のスタート地点にはイチョウの雌株が、ゴール地点には雄株がありました。それぞれの違いについての解説です。
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雄花と雌花を手に持つ岩瀬先生 |
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イチョウの雌花にはごらんのとおり花弁やがく、雌しべがなく、胚珠だけです。このように、胚珠が子房に包まれていないものを裸子植物と呼んでいます。いわゆる銀杏(ぎんなん)は果実ではなく、種子ということになります。胚珠は通常、柄の先に2個つきますが、3、4個つくこともあります。
4月ごろ、雄花で作られ風で飛ばされてきた花粉が胚珠の先について受粉し、中に入ります。その後しばらく休眠し、9月ごろ花粉管がのび中に2個の精子ができます。卵細胞までの移動距離は極短いです。これが卵と受精します。ですから精子は胚珠の中でないとみられません。
精子の観察は雄花や花粉では不可能で、雌花の先端部分の内部を顕微鏡で丁寧に観察します。精子の発見は明治年間の日本人による世界的な業績でした。(西田・鈴木) |
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■クスノキの葉の交代(植物)
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新しい葉が目立つクスノキ
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クスノキは常緑樹ですが、じつは去年出た葉はすでに落ち始めており、1年間でほとんど全体が入れ替わってしまいます。新しい葉が出てから古い葉が落ちるので、葉がなくなる時期はありません。なので常緑樹の対義語を『落葉樹』としているのはあまりしっくりはきません。
クスノキは常緑樹では葉の寿命が短いです。同じ仲間のタブノキでは葉の寿命は2〜3年ほどになります。(西田) |
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■アカマツ(植物)
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※園内には何本かのアカマツの大木があり、よく見るといくつかの松ぼっくりをつけています。
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花穂を観察する村田先生 |
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アカマツは雌花と雄花が1本の木についていますが、大体は枝ごとに分かれていて、おなじ枝に両方がつくことはまれです。
新しく出た枝(新梢)の先についている赤く丸いものが雌花穂。別の新梢の基部の方についている茶色いものが雄花穂です。
今年伸びた茎の基部には緑色の松ぼっくりがついています。これは去年の果実(球果)で、内部には若い種子ができています。花粉が飛ぶのは1年に1回限りで、その時に受粉します。さらにその下の茶色の松ぼっくりは2年前のもので、去年の秋に種子を落として、松かさのみが残ったものです。(西田) |
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■ミズキとクマノミズキ(植物)
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ミズキの仮軸成長のようす
新しい芽が交互に出るのでジグザグに見える |
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この木はミズキです。大きな枝を水平に広げて、より多くの葉が日光を受けられるようになっています。
枝に注目してください。枝(主軸)の先端が花になりますので、先端は成長が止まり、新しい芽はその近くの葉のわき(腋芽)から伸びています。このように、新しい枝がリレー式に交代しながら伸びていく成長形態を「仮軸成長」といいます。
同じ仲間のクマノミズキは、ミズキと同様に仮軸成長を行いますが、全体的な樹形はミズキほど横には広がっていかないようです。またクマノミズキのほうが花の時期が1月ほど遅く、葉が対生になっています。今の時期は出ていませんが、冬芽もミズキは鱗片に覆われた鱗芽であるのに対し、クマノミズキは毛におおわれたのみの裸芽になっています。この2種の違いは「クマノタイラ」(クマノミズキは対生・裸芽)で覚えてみてください。
なおミズキという名は、春先に枝の先を切ると断面から水が滴ることに由来するといわれています。(西田) |
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■アカガネコハナバチ(田仲先生)
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手書きのイラストで解説される田仲先生 |
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※予定のポイントではありませんでしたが、アカガネコハナバチの巣を見つけた田仲先生が即興でイラスト付きの解説をしてくださいました。アリの巣のような地面の小さな穴からハチが顔を出すと、大きな歓声に包まれました。 |
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■エドヒガンコブアブラムシ(松本先生)
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この桜の木にはエドヒガンコブアブラムシの作る虫こぶがあります。同じように見えますが、実は2通りに区別することができます。
葉が大きく膨らんでいるタイプのものは幹母(越冬した受精卵から生まれる第1世代)の作る虫こぶで、中には幹母、第2、第3世代のアブラムシがいます。そして葉のふちが少し丸まっているタイプは第2世代の虫こぶです。
第2世代は幹母の虫こぶから若い葉に移動し、そこで筒状の虫こぶを作ります。この中には第2、第3世代がいます。第3世代の有翅虫は、風に乗ってグライダー式に滑空し、8〜9月にヨモギの根に移り寄生します。
アブラムシの仲間には、このように途中で別の植物に寄生する「寄主転換」を行うものがいます。 |
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■ツバメの尾羽(唐沢先生)
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ツバメなどの野鳥の羽の標本は大変貴重です。ぜひ、じっくり観察しましょう。
尾羽はごらんのとおり6枚ずつの左右対称になっており、バランスを取ってまっすぐ飛ぶことができます。特に両端の羽が長くなっています。「燕尾服」のように長くなっているのがこの部分で、飛ぶときのコントロールに役立ちます。
尾羽に白い文様がありますね。これをホワイトスポットといい、雄ではこれが大きいほど雌によくモテるのだそうです。また、両端の尾羽がより長いほうが、やはりつがいを作るのに有利だといいます。モテる雄とつがった雌ほど、子育てをがんばります。抱卵する時間が長くなるのです。そうするとヒナがはやく育ち、早く成鳥になり渡りにも有利になります。(坂部)
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※この標本は、NPO会員で長野県安曇野から参加いただいている小椋さんが作って持ってきてくださったものです。小椋さんは、長野で自然観察ガイドをされており、今回のツバメの羽も正式な手続きを経て用意してくださいました。いろいろとご協力いただき、ありがとうございます!
なお、当日用意した標本に誤りがありました。ここで紹介した写真が正しいものとなります。 |
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■クモの話(浅間先生)
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※クモの観察はどこでもできるのが良い、と浅間先生は言います。今回はルートの途中にあったサクラの木で、木に住むクモを観察しました。
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木のクモといっても、網を張るクモと徘徊性のクモがいます。
ここにクモの網がありますね。これはオオヒメグモの網です。不規則な形をしていますので、不規則網といいます。一般的なクモ網のイメージである円網では横糸が粘りますが、不規則網では餌の捕り方はいろいろです。オオヒメグモの場合は糸の下に粘球があり、釣り上げ方式で、獲物がかかると粘りのある糸を投げ動けないようにします。がんじがらめにした獲物に消化液を注入し、半ば消化したものを吸っているのです。だからいずれのクモも、不消化物は少なく、糞はわずかです。 |
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オオヒメグモ(浅間茂)
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※すこし移動して |
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こちらにはキハダエビグモがいますね。こちらは徘徊性のクモで網を張りません。この個体は脚が取れてしまっているようですね。脱皮をすると新しい脚が生えてきます。
目だたない色をしていますね。樹皮に擬態しており、隙間に隠れて獲物や敵の目を欺いているのです。こういうところに生息するクモは、体が平べったくて素早く走る徘徊性のものが多いです。
一口にクモといっても、餌の捕り方も網もさまざまです。クモはどこにでもいますから、観察次第ではとても面白い対象となるでしょう。(坂部)
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キハダエビグモ(浅間茂)
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■タンポポと紫外線(浅間先生)
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カントウタンポポ(浅間茂) |
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同 紫外線写真(浅間茂) |
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※おなじみとなった浅間先生の紫外線写真。園内にたくさん生えているカントウタンポポを紫外線カメラで撮影すると、驚きの写真が撮れました。 |
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ヒトの眼には黄色一色にしか見えないタンポポも、紫外線カメラで撮るとこのように、中心が黒く写ります。この黒い部分に蜜があるということを、昆虫たちに教えているのでネクターガイドと呼ばれています。
昆虫は我々よりもずっと視力が低く、0.04ぐらいしかありません。ですが紫外線を見ることができるため、このネクターガイドを頼りに蜜のありかを知ることができます。
クモも魚も紫外線を見ることができますが、我々ヒトをはじめとしたほ乳類は見ることができません。それは遠い昔、ほ乳類の祖先が夜行性であったため、紫外線を感じる細胞を失ってしまったからなのです。もう1色の細胞も失い、ほ乳類は2色の細胞だけしか見えなくなりました。しかし、ヒトを含む旧世界ザルは、突然変異により緑が見えるようになり、赤青緑の3つの色を認識する細胞で見ることができるようになりました。他の哺乳類は1つか2つの色しか見ることができません。(坂部)
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■オオワラジカイガラムシ(山崎先生)
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オオワラジカイガラムシ雄
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このクヌギの若木にはたくさんのオオワラジカイガラムシが生息しています。日本最大のカイガラムシで、雌は大きさ1cmを超えるものもあります。
一般的にカイガラムシは成虫になると脚が退化し固着生活をするのですが、オオワラジカイガラムシは成長しても脚があり、移動することができます。裏返してみてみると、腹部に黒い点があるのが分かります。これは口吻で、これを伸ばし木の汁を吸います。腹部に口吻があるので腹吻類と呼ばれています。
さて、今ここで見ているのはすべて雌のオオワラジカイガラムシです。雄は翅があり、まるでガの仲間のように見えます。雌のところに飛んできて交尾をします。下見の時は観察できたのですが、普段はなかなか見ることができません。(澁谷) |
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オオワラジカイガラムシについて、トピックスに掲載中の山崎先生の記事もあわせてご覧ください。
「ベニヘリテントウは美人局?」→→ |
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■マイマイガ(平井先生)
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卵から孵る幼虫
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このクヌギにはマイマイガの卵塊もついています。クヌギ以外にサクラ、マツなどたくさんの木に産卵します。秋に1mmほどの卵をたくさん産み、天敵に食べられないように上から鱗毛をかぶせます。
幼虫はブランコケムシとも呼ばれ、樹上から糸を吐いてぶら下がっているのがよく観察されます。また、欧米では、放浪するガという意味のジプシー・モスという名で呼ばれています。幅広い樹種を食害する森林害虫です。(澁谷) |
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■クワキジラミ(平井先生)
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※クヌギの横に自生していたクワの葉裏に、白い綿毛のようなものがたくさんついています。
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クワキジラミ幼虫と腹端から吐かれた紐状ロウ物質(平井一男) |
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この綿毛のようなものは、クワキジラミの幼虫です。腹端から数本の紐状のロウ物質を分泌しています。
このロウ物質は長いものでは10cmを超えるものもあります。これには毒はありませんので、触っても大丈夫です。
クワの新葉に寄生し、大発生することはないのですが、葉の養分を吸うのでクワの害虫となっています。 |
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■野川公園の概要(鈴木先生)
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※東八道路を渡り、野川の向こうにこんもりと茂った森を見ながら鈴木先生の解説です。
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ハケを背に解説される鈴木先生
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かつて更新世に、多摩川が武蔵野丘陵を削り、ハケと呼ばれる崖を切り出しました。崖の上の面に降った雨が崖の下に湧き出し、それを集めて野川が生まれました。正面に見えるのが切り出されたハケで、かつてはその上の大地に桑畑が広がっていました。
その後、零戦の製造で有名な中島飛行機が研究所の用地としてこの周辺を買収しましたが終戦後に解散、昭和25年に国際基督教大学が土地を購入し開学しました。やがてその土地はゴルフ場として転用されるようになりました。今までずっと歩いてきた道は、芝のグラウンドと木が生えているところが混在していましたが、グラウンドがフェアウェイ、木がコースとコースの境目でした。
昭和49年に、今度は東京都がこの一帯を買収し「武蔵野の森構想」の一環として野川公園を開園し、現在に至ります。(坂部) |
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野川公園の地図 崖に沿った野川の流れやゴルフ場の名残が見える
(野川公園公式ブログ掲載の画像を改変) |
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■川虫の話(鈴木先生)
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※きれいな湧き水が小川となって流れています。中の石をひっくり返すと、多くの川虫を観察することができました。
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一口に川虫といっても色々な種類があります。最初に紹介するのはカゲロウとカワゲラの幼虫。よく似ていますが、エラの位置で見分けることができます。エラが胸部のところにのみあって腹部の脇にはないのがカワゲラ、お腹のほうにエラがあるのがカゲロウです。
また、カゲロウにはほかの虫にはない面白い特徴があります。昆虫では通常、幼虫から成長し脱皮して翅が生え、成虫となります。翅が生えたらもう脱皮はしません。しかしカゲロウでは、翅が生えた後にもう一度脱皮を行い成虫になります。成虫の前の段階ということで「亜成虫」と呼びます。
他にも、水質の関係でも違いが見られます。カワゲラは比較的きれいな水に生息しますが、カゲロウには止水域を好む種もいるので、川虫がいるからと言って、その水域がきれいであると言い切ることはできません。 |
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さらにもう1種、トビケラというガに似た昆虫も、幼虫時代は水の中で暮らします。この写真のように巣を作って暮らす種類と、巣を作らずに裸のまま動き回る種類がいます。トビケラは毛翅目と呼ばれることがありますが、翅を拡大するとこのように、毛がびっしりと生えています。よく似ているガはいわゆる鱗翅目で、翅が鱗粉で覆われていますが、あまり大きな違いとは言えず、互いに非常に近い仲間と考えられています。(坂部) |
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■シロチョウ科(平井先生)
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※広場の一角に、イネ科植物やギシギシなどが刈られずにそのまま残されているところがありました。観察用に残してくださったのでしょうか、とてもありがたいことです。
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シロチョウ科は、幼虫が「アオムシ」green caterpillar
と総称されることで知られています。ここではいくつかのシロチョウ科のチョウを観察することができます。
飛び交っている黄色いチョウはモンキチョウで、幼虫の食草はクローバ、ダイズなどのマメ科植物です。幼虫は体の脇に黄色い側線があるアオムシです。
モンシロチョウに一見似ていますが、翅に黒い翅脈があるのがスジグロシロチョウ。こちらは日陰に多く生息し、イヌガラシやハナダイコンなどに寄生します。山地ではワサビの大害虫としても警戒されています。
そしてモンシロチョウ、こちらはキャベツなどの葉の裏に卵を産みます。 |
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3種とも、卵は丸く細長い形をしており、天敵タマゴコバチに寄生されにくくなっています。チョウ目が天敵から卵を守る方法としては他に、ヨトウガのように1カ所にたくさん産む方法や、マイマイガのように卵塊を毛で覆ってしまう方法、カイコやヤママユガのように卵殻自体を固くしてしまう方法、ジャコウアゲハのように卵に粘着成分をつけて回避する方法が知られています。(澁谷)
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モンシロチョウの卵(左)と
スジグロシロチョウの卵(右) |
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