2017年  NPO法人自然観察大学
テーマ別観察会
江戸東京の歴史と自然・野鳥観察
講師:唐沢孝一先生(自然観察大学学長)

2017年1月22
場所:皇居・東御苑

2017年1月22日(日)のテーマ別観察会「江戸東京の歴史と自然・野鳥観察」が皇居・東御苑で実施されました。1月12日の下見での観察も含めて報告させていただきます。なお、同じテーマで2013年12月1日にも実施しましたので、重複する部分は「→2013年観察会」 をご参照ください。
また、テキストとして 「野鳥博士入門」 (唐沢孝一 著、全国農村教育協会)を使用しました。関連するページを示しましたので本書を持っておられる方はあわせてご参照ください。
お濠の水鳥と個体識別
この季節、お濠ではたくさんの水鳥が越冬しています。
カモ類ではヒドリガモ、ハシビロガモ、オカヨシガモなど(p.102-107)、カモメ類ではユリカモメ、セグロカモメなど (p.108-109)
また、留鳥ではコブハクチョウ(→2013年観察会)、カルガモ、カイツブリ、ダイサギなども生息しており、ダイサギが大きなボラを捕食したこともあります。海の魚であるボラがなぜお濠にいたのか、魚類学者でもある陛下が関心を示されたそうです。
お濠の岸辺にユリカモメが止まっていたら、足環(カラーリング)に注意してみましょう。いつ、どこで捕獲されたものか履歴が分かります。例えば写真の「D/P」の個体は、2016年12月に上野不忍池で観察したものですが、「2013年3月18日に行徳で捕獲して放鳥した雄」であることが分かりました。
ユリカモメ(唐沢孝一)
足環の拡大(唐沢孝一)
■江戸城と大手門、石垣など「→2013年観察会」
■果実と果実食の鳥の関係
三の丸休憩所の前ではマンリョウが真っ赤な果実をつけていました。すでに鳥に食べられ形跡もあります。
マンリョウの果実のサイズをノギスで測定してみると7.1±0.05mmでした。果実を食べる鳥の代表はヒヨドリ(p.26-27)、ツグミ(p.150)、ムクドリ(p.95)などですが、その口幅は14〜17mmです。果実を丸呑みしやすいことが分かります。
1羽のヒヨドリが、連続してマンリョウの果実を何個食べられるか観察してみました。最高は27個でした。(→果実を食べる鳥については、p.26-31を参照してください。)
マンリョウ(唐沢孝一)
■二の丸雑木林の野鳥
昭和天皇のご意向により、旧二の丸にクヌギ、コナラ、イヌシデなどの雑木林が造成されました。
1月18日の下見では、シジュウカラ、ヤマガラ、メジロ、コゲラ、エナガなどからなる「混群」を観察しました。異なる種の鳥が一緒に行動すれば、天敵への警戒が高まることが期待されます。しかし、観察会の当日は種類ごとにバラバラで、混群は見られませんでした。
鳥類の観察では、下見の通りにならないことばかりです。しかし、その代わりに、予定外の観察もありました。
枝伝いにコゲラが接近し、頭部に赤い羽が見えました。赤羽は「雄」の特徴ですが、普段は観察しにくいのでラッキーでした。ヤマガラが地面からエゴノキの実を取り出して食べるシーンや、上空でノスリを追いかけるハシブトガラスなども観察できました。
コゲラ雄。頭部の赤い羽が特長
(唐沢孝一)
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■モグラ塚とツグミやシロハラの観察
東御苑の二の丸の芝生のモグラ塚の近くでツグミの採餌を観察しました。
石井秀夫さん(自然観察大学会員)の観察によれば、「シロハラがじっと地面を見つめており、ちょっと地面が動いたときにミミズを捕らえた」とのこと。モグラの振動を感じたミミズが地表に逃げてきたところを捕食した可能性があります。
自然観察で大切なことの一つは、こうした「視点をもって観察すること」です。
江戸川の土手で、モグラ塚の近くにいるツグミを見つけました。「ミミズを捕食するのではないか・・」、そう思って見ていると、案の定ミミズを捕らえました。
「アメリカでは道具を使って地面を振動させて釣り用のミミズを捕らえている」という話しを紹介しました。すると事務局の脇本哲朗さん曰く、「先生、四国では棒一本で地面を振動させてミミズを捕らえている人がいる」とのこと。
さらに、参加者の方が、「シロハラやトラツグミは、地面をつついてミミズを追い出しているのでは・・・」。話しが発展して面白くなりました。「そう思って観察してみる」と、モグラ塚の近くにいるツグミやシロハラからは目が離せません。
モグラ塚(唐沢孝一)
二の丸のモグラ塚を前に、ツグミの採餌法を解説する唐沢学長
モグラ塚の近くでじっとするツグミ(唐沢孝一)
ミミズを捕らえたツグミ(唐沢孝一)
梅林坂で観察したメジロの吸蜜行動
梅林坂は、その名のように梅の名所です。
1月下旬には早咲きの梅が開花し花の香りも漂っています。ここでは、花で吸蜜するメジロを観察する予定でした。が、メジロが来てくれるかどうかは分かりません。
梅やサザンカの花で吸蜜しているメジロの写真は準備しましたが、しかし、写真だけではもの足りません。
そこで持参したのがメジロの死骸です。嘴を開き、舌の構造が見えやすいように工夫しました。メジロの舌の先端部はブラシ状になっており、吸蜜しやすく、しかもストロー状の管になっています。
梅林坂に到着すると、ラッキーなことに、メジロが目の前の枝で吸蜜中。じっくりと観察した後、用意した死骸で舌の構造を見てもらいました。
吸蜜するメジロ(唐沢孝一)
メジロの舌の構造(唐沢孝一)
■汐見坂で東京の地形を読む「→2013年観察会」
ユズリハの葉を食べるヒヨドリ「→2013年観察会」
ヒヨドリは、何故か狂ったようにユズリハの葉を食べます。
汐見坂を登って旧本丸に入ったところにあるユズリハは、ヒヨドリに葉をすっかり食べられています。「ヒヨドリが実際に葉をついばむシーンを皆さんに見てもらいたい」、と思っていると、何と、ヒヨドリが飛来してついばみはじめました。なぜか東御苑の野鳥は自然観察大学にとても協力的でした。
ヒヨドリが狂ったようにユズリハの葉を食べる理由について、「葉の中に麻薬のような成分があり、中毒症状を起しているのでは・・・」、という考えを紹介しました。
すると、参加者の一人がその場でネット検索し、「ユズリハには30種類ものアルカロイド系の物質がふくまれている」と教えていただき、話しが盛りあがりました。(佐々木教祐1994「ユズリハに含まれる新アルカロイドの分子構造」 健康と文化10月号)。
ちなみに、トリカブトの毒などもアルカロイドの一種だそうです。
ユズリハの葉を食べるヒヨドリ(唐沢孝一)
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■旧本丸展望台のタヌキのため糞
都内の公園緑地にはタヌキが生息し繁殖しています。皇居でも一般の立ち入りが制限されている吹上御所に生息しています。
ため糞の中からはギンナンやカラスの羽毛が見つかっています。タヌキはカラスをどのよう捕食したのでしょうか。飛んでいるカラスをタヌキが捕獲するのは難しいので、オオタカなどがカラスを捕食した時の残骸を食べたのかもしれません。
2016年11月、東御苑の「旧本丸の展望台」でため糞が見つかりました。
1月18日の下見でも確認できました。1月22日の観察会本番の日にも糞が残っており、ギンナンや果実の種子などを観察することができました。
さらに興味深いことには、ため糞の中の種子を食べるドバトの存在です。果実や種子をタヌキが食べ、その糞内の種子をさらにドバトが食べる・・・、というように動物たちが重複的に果実を利用していました。
タヌキのため糞、吹上御所で撮影(唐沢孝一)
ため糞内の種子を食べるドバト(本多滋和)
ため糞の中の種子(唐沢孝一)

以上、天候にも恵まれ、メジロやヒヨドリ、ヤマガラなどの協力もあり、盛り沢山の観察会は無事に終了。大手町のビル街をバックに、本丸展望台で記念撮影をして解散しました。
(レポートまとめ:事務局)
当日はお寒い中ご参加くださいましてありがとうございました。
※希望者には集合写真のオリジナルデータをお送りいたします。
 
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