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シリーズ/日本の鳥を見てみませんか
チョウゲンボウ
鳥を呼ぶ鎮守の杜
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DVDビデオ 上映時間33分
定価(本体3,048円+税)
企画・制作・著作:コア・T・9
販売:全国農村教育協会 |
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出版社からの紹介→
http://www.zennokyo.co.jp/book/DVD/DVD_01.html |
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ハヤブサの仲間チョウゲンボウは、鉄橋やビル壁面のダクトなど都市環境で繁殖する猛禽類として話題になることがある。しかし、都市に進出する前にはどんな場所で繁殖していたのであろうか。チョウゲンボウの繁殖地といえば、長野県中野市の十二崖(国指定天然記念物)、栃木県矢板市の箒川の崖(県指定天然記念物)など断崖のテラスがよく知られている。が、本作品の舞台である山形県天童市では、なんと鎮守の杜のケヤキの樹洞で集団繁殖を行っており、きわめて珍しい事例である。
映像は、小雪舞う3月に4羽の雄が飛来するところから始まる。後からやってくる雌と番いを形成し、交尾、抱卵、育雛、巣立ち、そして最上川の河川敷で幼鳥が狩りの訓練をおこなう8月までを、丁寧に追っていく。本作品の特徴は、第一にチョウゲンボウの繁殖生態を記録した貴重な映像にある。営巣にケヤキの樹洞を利用するシーン、空中からハタネズミを襲うシーン、巣立った幼鳥たちが狩りの技術を学ぶシーンなど、実に見応えがある。雄は捕らえたネズミを雌に渡し、雌はそれを巣立った幼鳥に与える。未熟な幼鳥はネズミを落下してしまうが、しかし、失敗を積み重ねつつ生きる術を学んでいく。そうした姿は人の「子育て」にも共通しており共感をよぶ。
そして第二の特徴は、人々が守ってきた鎮守の杜という環境にある。樹齢800年ものケヤキの巨木が13本もある杜は、地域の人々にとっては信仰や祭りの場でもある。人も猛禽類も生活圏を共有しており、巣の下では人々が集い、天敵の猫もいる。「地球環境の保全」「生物多様性の保護」といったスローガンを声高に唱えるのではなく、当たり前のように巨木が守られ、チョウゲンボウの繁殖を人々が見守っている、人と鳥が一体となって共存しており、日本人特有の自然観が読み取れる。さらに、鎮守の杜はトビやムクドリ、ハシボソガラスといった様々な鳥類の繁殖の場であり、チョウゲンボウをメインとした農村生態系が自ずと理解できる作品として仕上げられている。チョウゲンボウにとってケヤキの樹洞は、鉄橋の橋梁の穴やビルのダクト、断崖のテラスと同じように見えるのかもしれない。 |
環境教育に関心のある人、学校の先生、野鳥愛好家などに広くお薦めしたい。 |
※補注)作品の中でチョウゲンボウの分類を「タカ目ハヤブサ科」としているが、現在は「ハヤブサ目チョウゲンボウ科」である(日本鳥学会編「日本鳥類目録・改訂7版」2012)。 |
NPO法人自然観察大学学長 唐沢孝一 |