佐倉の植物誌

佐倉の植物誌編纂委員会
千葉県 佐倉野草会
2016年3月発行
A4判 164ページ
佐倉野草会は、千葉県佐倉市とその周辺の、おもに植物観察の同好者の会である。お互いに野草趣味を楽しむ一方で、地域の植物を調査し記録して、保全にも役立つような活動を続けてきた。1976年の創立で2016年に40周年を迎えた。その記念事業として「佐倉の植物誌」が刊行された。
この会ではこれまで複数回地域の植物目録を作っているが、今回は集大成ともいうべきA4判164頁(内カラー24頁)の大作である。(編纂委員長は自然観察大学講師でもある村田威夫氏)
全体は3部構成で、1部は「写真で見る佐倉の植物」として、植生と植物相の観点から多くのカラー写真でまとめられている。代表的な植生からごく身近な群落までを紹介している(植生に関する用語に若干気になる点もあるが)。また種類相については希産種から普通の雑草にいたるまで目を向けている。希産種については保護の見地から産地を伏せる配慮がなされている。
2部では、これまで得られたさまざまな植物の知見から15テーマを取り上げ解説している。佐倉の自然、植物の概要、谷津、印旛沼、佐倉城址といった地域の解説から、シダ、カタクリ、アオハダ、セリバオウレン、クサナギオゴケなど注目すべき種について述べられている。特にシダ植物は会員に研究者を擁しているだけに、3部の目録とともに精細である。
3部は植物誌の根幹をなす植物目録である。長年の会員の資料の蓄積に新たな知見を加え、現時点での最高のレベルになっていると思われる。基本的には野生種であるが、栽培種の逸出、帰化なども注記してある。その判断には困難がつきまとうようであるが、ここでは一定の基準から整理されている。
近年、DNAの解析を導入した分類体系の見直しが進み、新しい分類体系が提起されつつある。現在は過渡期であるが、将来のことを考慮し本書では新体系との関連に触れている。それはきわめて意欲的であるが、内容が複雑なので凡例の説明だけでは理解がむずかしい面もあろう。
また、千葉県のレッドデータリストから佐倉に生育する要保護種を列記してある。さらにこれに佐倉における評価と独自のリストを加えたレッドデータ佐倉版というべきものが望まれるが、これは次の課題といえるであろうか。
この植物誌は特定の研究者のみによってまとめられたものではなく、40年の歴史の中での多くの会員の力が合わさってできたという。そのことが頁の随所に読み取れる。地域の植物誌のあるべき姿を示したものとして高く評価されよう。
NPO法人自然観察大学名誉学長 岩瀬徹
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「佐倉の植物誌」を希望者する方は下記で入手可能です。
頒価 1,500円(税・送料込)
問合わせ先 〒285-0825 千葉県佐倉市江原台1-18-16 村田威夫

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