カラー版
目からウロコの
自然観察


唐沢孝一/著
中央公論新社(中公新書)
2018年4月25日発行
182ページ
本体1,000円+税
まさに"見る・読む自然観察大学"というべき本
唐沢孝一さんは自然観察大学の学長であり、世に知られた鳥の研究者である。しかし、学術論文を競う学者とか、珍しい鳥を追いかける"撮り屋"などとはかなり行き方を異にしている。それは一口にいえば"鳥のくらしから自然を見る"といった立場の観察者ではないかと私は思っている。
その観察の目は鳥に止まらず、虫から、カエルから、植物まで、限りなく広がっていく。観察したことを記録し、考え、それらを世の人と共有すべく洗練された文や写真などを駆使して誌していく。これまでにも多くの著書を創ってきたが、今回新たに「目からウロコの自然観察」を上梓された。
十数年前、私たちは唐沢さんや有志の者で自然観察大学を立ち上げた。従来自然観察というと多くの名前を知ることが先行する傾向があったが、それから脱して生きものの形、くらしぶりをよく観察し、それを誌そうという観察会を試みてきた。「目からウロコの自然観察」はまさに"見る・読む自然観察大学"というべき本となった。
ここで取り上げているのは45項目であるが、内訳は植物が18、鳥や小動物が17、虫やクモが10と幅が広い。それらが春、初夏、夏、秋、冬の季節に分けられている。日本の生きもの季節として初夏の位置づけは大切である。
その大半は身近に見られるもので、植物でいえば路傍の雑草やアカメガシワ、ヒガンバナなど、そしてカタクリ、シモバシラといった人気の高いものが配されている。オシロイバナ、ツユクサ、サルスベリなどの観察では、たしかに"目からウロコ"を感じさせられる。
秋になるとヒガンバナの花は誰しも気づくし、今年は早いかな遅いかなとまでは話題になるが、たいていはそこまでである。著者は10年以上にわたって開花日や満開日を記録した。そこには年による変動があるが、それぞれの年の気温の変動とを合わせ考え、ある傾向を探り得た。楽しい観察に科学の域が入り込んだ。
ホソミオツネントンボが雑木林の中で成虫で越冬する姿に出会って感動した様子は、そのまま伝わってくるようである。もちろん著者の専門とする鳥についてはその記述もいっそう冴えている。なかでも海水を飲むアオバト、ヒヨドリの渡り、40万羽のアトリなど、鳥に疎い私にもその光景が伝わってくる。
唐沢さんの観察力、記録力、表現力などを改めて感じさせる本でもある。今回いい足りないこともあるだろうし、収まりきれない事例もたくさんあることであろう。早くも続編を期待させられる。
自然観察大学名誉学長 岩瀬徹
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