全農教 観察と発見シリーズ
カメムシ博士入門


安永智秀・前原諭・石川忠・高井幹夫/共著
全国農村教育協会
2018年9月17発行
B5判、212ページ
定価(本体2,770+税)
出版社からの紹介 http://www.zennokyo.co.jp/book/hakase/Dr_km.html
待望の書が出た。ご同慶の至りである。
拙著「昆虫博士入門」の作成が大詰めとなるころ、「カメムシ博士入門」の企画があることを聞いて、期待していた。当初の完成予定よりもかなり遅れたようだが、そのかわりに内容はたいへんに充実している。
本書は昆虫類でもきわだって多様化した目の一つであるカメムシ目、そのうちカメムシ亜目が対象である。いわゆるカメムシ類に的を絞ってていねいに説明している。(アブラムシ・カイガラムシ類、セミ・ヨコバイ・ウンカ類は扱っていない。)
カメムシ目は針状の吸収口で液体を吸収する。幼虫から成虫まですべて液体で過ごせるのは驚異の栄養利用と言わざるを得ない。不完全変態(外翅類)の昆虫で最も分化したグループであり、生息圏も広い。
それらの要因を"形とくらし"を見ながら解き明かしてくれるのが本書である。
第1章 カメムシの形とくらし(54ページ)
ここでは形態と生活様式が詳しく解説される。細部の拡大写真がていねいに紹介され、それを見ればカメムシの多様性と繁栄ぶりに納得がいく。
第1章に限ったことではないが、全編を通して「カメムシはカメムシから学ぶ」の姿勢が貫かれている。屋外に出ての観察、標本観察など実物から学ぶ自然研究の定石どおりである。
第2章 カメムシを探そう(34ページ)
本章は言い換えれば"どのようなところに住んでいるのか"という観察場所、採集場所の案内でもある。
カメムシの生息場所は樹林地、草地、農耕地、住居地など。さらには水中・水面、海水面、乾燥砂地、海岸砂地などである。したがって、いつでもどこでもカメムシを発見できる。
第3章 いろいろなカメムシ(77ページ)
カメムシ亜目、全55科の解説である。カメムシの多様性は写真を通して実感できる。
目を引くのは水性または湿地性のカメムシ類である。
タイコウチ下目10科、アメンボ下目6科、計16科である。これらに属する種類数は多くないが、科の数では1/3近くにもなる。
水性カメムシ類は、その生息場所である溜池、小川など生息環境の消失や悪化に伴い減少または絶滅傾向の種がある。このような状況下で水生カメムシにスポットを当てるのは貴重であり、またうれしいことでもある。
第3章 カメムシの系統と分類 より
第4章 カメムシ博士をめざして(付録とあわせて29ページ)
研究に野外観察は当然のことだが、前人の研究成果として文献に学ぶことも欠かせない。もちろん、採集と標本の取り扱いも必須である。
本書ではビギナー向けの採集方法から、専門家による徹底した方法までていねいに紹介されている。"ここまでやるの?"と思うものもあるが、種の生息確認・発見には必要なのだろう。
採集して標本を保管することは、その種の存在を示すものであり、確証になる。また、外部形態、内部形態を詳しく知るためにも標本は必要になる。
カメムシは美しい
私にとっては、地域の昆虫相の調査・解明がテーマであり、同定のため日常的にビノキュラ―(双眼実態顕微鏡)で昆虫を観察している。そこで見たカメムシ類は、じつにきれいである。背面の斑紋を拡大して見るとさらに美しい。私のメインとする甲虫類にくらべて、カメムシは別世界といってもよい。
カメムシは悪臭、害虫、いやな虫のイメージを持つ人が多いかもしれないが、一度じっくり観察することをおすすめしたい。
自然観察大学講師 山崎秀雄
 

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