パプアニューギニア
人・鳥・自然
写真と文・唐沢孝一
カラサワールド自然基金
2018年12月31日 発行
170×180mm、86ページ
頒価 1,500円
申込先:カラサワールド  http://www.zkk.ne.jp/~karasawa/u-bird.html
唐沢さんが主宰するカラサワールド自然基金からの7冊目の刊行が「パプアニューギニア・人・鳥・自然」である。本文85ページと既刊のものよりかなり重量級である。先ず表紙から中のページを繰っただけで、華麗で迫力のある写真に満たされているのに驚く。
昭和初期生まれの私にとっては、ニューギニアというと、あの大戦時代にポートモレスビーとかソロモン諸島とかいう激戦を繰り広げた地名が、新聞紙上に出ていた記憶が蘇る。戦後(というのは1945年以後)になって、地球上の植生分布などといったことを少しかじるようになっても、ニューギニアについて知る機会はほとんどなかった。
この本の「はじめに」に、著者がニューギニアについての一般的な認識であろうことに触れているが、私もそれに近かったと思う。唐沢さんたちは2001、2003、2005年と連続3回現地を訪れ、なかなか訪れることのできない奥地の自然保護区などの生きものに、観る目をもって触れてきた。
3回とも8月を選んだのにはわけがある。この時期に催される民族の祭典「シンシン」との出会いを大きなねらいにしたからである。これは国を挙げての一大イベントで、パプアニューギニアの人々を知る絶好の機会である。本の2章に詳しく紹介している。
男のグループ、女のグループ、子どものグループなどがド派手な装飾で身を包み、パフォーマンスを繰り広げる様は圧巻である。この極楽鳥の羽などの装飾品からも現地の動植物の一端を窺い知ることができる。
3章と4章には、標高2000mを超える高地での人との触れあい、それを通じての鳥や有袋類、多足類、クモ類などとの出会いが紹介されている。もちろんそれらは初めて名を聞くものばかりで、ここにどれを選んでいいかも私にはわからない。ここでは、しみじみとしたシンシン、石器時代にタイムスリップしたかのような住民のくらしなどとにも出会う。自然とともに生きゆったりと時間を過ごす人々に、ある種の感銘を受ける。反面そんな奥地にも未だ戦争の爪痕が残されていることにも驚きを覚える。
唐沢さんたちがパプアニューギニアを訪れてから10年以上が経つ。見聞した資料がぼう大でその整理に時間がかかったと思われるが、今回刊行にこぎつけたことは喜ばしい。
この本は単なる観光ガイドでもなければ自然ガイドでもない。はるか昔から都市文明と距離を置いてきた人々の生活、それと関わりをもつ生きもののくらし、といった目で見たドキュメントといえようか。
そして同時に、ここにも迫っている自然破壊の巨大な爪音を感じさせるのである。
自然観察大学名誉学長 岩瀬徹
ページトップに戻る