岩瀬先生から“ヤマコウバシ”のご報告が届きましたので、皆さんにお知らせします。
ヤマコウバシの不思議(2題)
岩瀬 徹
(1)昨年度の自然観察大学室内講座の折に、出席者の方から“ヤマコウバシは雌雄異株だが雄株がないと図鑑などに記載されているが、それでどうして実を結ぶのか”という疑問が提起されました。私はヤマコウバシの花をよく見ていなかったのでその場では何ともいえませんでしたが、花の時期になったらよく観察してみましょうということにしました。
 4月になり、ヤマコウバシが咲き出しました。小さい花で観察しにくいですが、花被片は6個で中心に1個の雌しべがあります。雄しべは退化して(葯の機能のない)仮雄しべとなっているというのですが、やや見えにくいです。仮雄しべの並ぶ間に目立つ橙色の粒は、初めは葯かなと思いましたが、それは腺体(蜜腺)でした。
 これは両性花であったものが雄しべが退化して雌花になったと理解できます。雄しべの残った花があれば花粉ができて問題ないのですが、観察の範囲ではわかりませんでした。いまのところ両性花か雄花をつけた株はないという記載に従うしかありません。
 ヤマコウバシのことは以前からネット上でも話題になっていたようで、質問に対して専門家が答える形のものもあります。
 それらによりますと、やはり雄株は見つからないということで、それなら受粉なしで種子ができる、つまり単為生殖であるのかということです。植物の単為生殖の例はありますが、その過程はさまざまといいます。ヤマコウバシもその可能性があるのですが、直接それを研究した成果がまだ知られてないようです。少し意外です。
 秋に黒い果実ができ、中に1個の種子があります。この種子はどれくらい発芽するものか、飯島和子さん(自然観察大学講師)が採取してくれた果実を何人かで分けて試してみることにしています。
ヤマコウバシの冬芽からは複数の花序と葉が展開する。撮影:林聰一郎氏
(2)ヤマコウバシは落葉樹ですが、葉が黄褐色になったまま落ちないで春まで残っています。その姿が冬の落葉樹林の中で目立ちます。“落ちない木”というので受験生に人気があるそうです。
 知り合いの植物愛好家のKさんから、ヤマコウバシの葉が変わった落ち方をしているという話がありました。それを聞いて注意してみると、なるほど面白いことがありました。葉身が、葉柄に近い5mmほどの位置できれいに横に切れて上が落ちるのです。落ちた跡が三角形に残ります。ある枝はどの葉もこんな落ち方をしていました。
 一般に落葉のときは葉柄の基部と茎の間に離層ができますが、葉身の途中から切れるのはどうなっているのか。私にはよくわかりませんが、情報があったら教えていただきたいと思います。(自然観察大学事務局まで→ jimu@sizenkansatu.jp
 これから3月にかけてが観察できる時期です。
枝の三角形。撮影:岩瀬徹 2010年3月
葉身がそのまま残っている葉もみられる。撮影:岩瀬徹 2010年3月