雑草のくらしから自然を見る
北の丸公園で雑草を観察しよう
丸の内さえずり館フィールドイベント
講師:岩瀬 (自然観察大学名誉学長)
主催:自然環境情報ひろば ―丸の内さえずり館―
協力:NPO法人自然観察大学
2013年4月5日と12日の2回にわたって、丸の内さえずり館の主催で、岩瀬先生の雑草イベントが開催されました。5日はさえずり館館内で「雑草のくらしから自然を見る」というテーマの講習会が、翌週12日には北の丸公園を歩き実際に雑草を観察するフィールドイベントが行われ、二本立ての豪華なイベントとなりました。また当日は、飛び入りで飯島先生にもご参加いただきました。簡単に報告させていただきます。
まずは5日の室内講習会。夜の6時30分からと遅めの開催でしたが、多くの方にお集まりいただきました。
岩瀬先生の解説に聞き入る参加者のみなさん。
まずは、雑草という言葉の解説から。この言葉に対するイメージは概して悪く、高校生へのアンケートでも「しぶとい」「じゃま」「厄介」といったネガティブな言葉が並びましたが、「役に立つ」「にぎやか」「元気が出る」といったようなポジティブな意見も見られました。「雑」という字は本来は「いろいろな衣が集まる様」を表し、多様性を意味していたため、「雑草」は決して悪い言葉ではない、と先生は強調されました。
また、雑草と野草の違いについては「人の作用」の影響によって考えることができ、人によって攪乱された環境にいち早く適応できる雑草と、小回りが利かず急な変化に対応できない野草を、セイヨウタンポポと在来タンポポを例に解説されました。
そのほかにも、戦後焼け野原になった広島に真っ先に生え、人々を勇気づけた雑草や砂漠の緑化に役立つ雑草(これについては「黄砂への挑戦」(一前宣正、全農教)が詳しいです)などを紹介し、雑草が生えることのありがたさについて説明されました。
後半は雑草の生活史や生活型(休眠型、生育型、1年草、多年草…)といった生態的な視点や、ロゼット、分枝、ほふくなどといった用語の説明も行われました。また岩瀬先生が実際に観察された「雑草と野草の綱引き」のエピソードも紹介されました。城跡の外側にセイヨウタンポポが多く観察されたのに比べ、城壁の内側では在来のタンポポがたくさん見られたことを、在来タンポポの『籠城』とたとえられたのには参加者からも笑いが起こりました。
最後に、雑草との理想的な付き合い方を紹介されました。雑草は校庭や町中の空き地などとても身近な場所で観察でき、人の手が加えられた環境下でも多様性を担うことができる大切な存在ですが、除草などで簡単に失われてしまうものでもあります。上手に付き合っていくためには相手をよく知る必要があります。そのための研究や観察の必要性について話され、セミナーは終わりました。
セミナー後「校庭の雑草」にサインする岩瀬先生と飯島先生。
続けて翌週12日、北の丸公園での観察会。東京大学の入学式と重なってしまい、ものすごい混雑の中のスタートとなりましたが、陽気にも恵まれ絶好の観察日和となりました。
田安門をくぐってすぐの植え込みにはたくさんの雑草が生えていました。その中でもひときわ目立っていたのが、さわやかなレモンイエローのカントウタンポポ。岩瀬先生がセミナーで「籠城」に例えたとおり、皇居内に入るとすぐに在来種のタンポポが観察できて皆さんうれしそうです。ここではカントウタンポポやカスマグサをはじめ、いくつかの雑草を観察することができました。
田安門のすぐ内側で咲き乱れるカントウタンポポ。
つつじが咲き始めた生垣の下にもいくつかのタンポポが咲いています。先ほどのカントウタンポポとは違った雰囲気の個体はセイヨウタンポポ。その1メートルほど横にも似た花があり、これもセイヨウタンポポ…のように思えますが、岩瀬先生によるとこれは雑種の可能性が高いとのこと。総苞片のめくれ具合で判断できることをご存知の方もたくさんいましたが、それでも雑種となると判断が難しそうです。
石垣の隙間から出ていたのはミチタネツケバナ。熟した果実にさわると果皮がめくれあがり、種子を飛ばします。カタバミやカラスノエンドウなど、自力で種子を飛ばす植物は身近にも多く見られますが、めくれ上がった果皮のようすが面白く、皆さんルーペを使い真剣に観察されていました。
このミチタネツケバナをはじめ、ロゼットを形成する雑草がたくさん見られましたが、ハルジオンのように茎を立てて花をつけているものやキュウリグサのように斜めに茎を広げているもの、ウラジロチチコグサのようにまだロゼットの状態になっているものなど、多くの状態を観察することができました。
特徴的なミチタネツケバナの果実
キランソウ
続けて林の中の散策路へと進みます。林床には日光が届きづらく、落ち葉がつもり土もフカフカになっているため、雑草に加え野草も多くなってきます。
ここではムラサキケマンやキランソウなどの紫色の花が目立ちました。
またフラサバソウという不思議な名前の外来雑草も絨毯のように群生していました。Franchet・Savatierという2人の植物学者の名前から名づけられたのだそうです。
林を抜けるとお堀沿いの道に出ます。北白川宮様の銅像の下は、毎回必ずカントウタンポポが観察できる人気ポイント。「宮様が、セイヨウタンポポから守ってくれているのかもしれませんね」と岩瀬先生のコメント。
皇居周辺の観察会で一番人気のオドリコソウ
そのまま進んでいくと最後のポイント、お堀沿いの桜並木。通行人はみな上(サクラ)を眺めながら進んでいくのですが、私たちは足元ばかりを見ながら進みます。
ここでは一番人気の、オドリコソウの群落を見ることができます。今回は運よく花が咲いている個体を観察することができました。都内ではかなり希少になってしまったオドリコソウが、東京23区の中で観察できることに皆さん大興奮でした。
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今回の参加者のみなさんの中には、ふだん自然観察大学に参加いただいている方はあまり多くなかったのですが、皆さんとても真剣に観察されていて、都会の真ん中でここまで様々な雑草・野草が観察できることに感動されているようすでした。今回は、北の丸公園を管理されている協会の方にもご同行頂いたのですが、参加者の方から講演や皇居の自然に関する要望をたくさんいただいたとおっしゃっていました。身近なところから環境保全を意識するきっかけになるなら、これほどうれしいことはありません。
咲き始めたツツジにも、満開の八重桜にも惑わされず雑草観察に没頭する岩瀬先生と参加者のみなさん
レポーター:事務局・脇本

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