2003年 自然観察大学 第1回
今年も自然観察大学が始まりました。今年は千葉県市川市にある大町自然観察園が会場です。5月18日(日曜日)、曇り空ながら雨の心配がないまずまずの天気で開始です。
今年のコースは全長3kmと距離は短いのですが、谷津田に作られたこの公園は見るべき生き物も多く、予定時間をオーバーしてしまいました。
ここではその一部を紹介しましょう。
公園設立紹介
始まる前に大町自然公園設立の経緯を紹介。
解説する講師
東屋でノキシノブの解説。
地図1 地図4 地図7
地図2 地図5 地図8
地図3 地図6 地図9
 大町自然観察園の特徴
下総台地の西縁に位置する大町公園は長田谷津(ながたやつ)と呼ばれた谷津に作られた公園です。湧水量が多く、水田が作られていました。昭和45年頃、休耕田となっていたここに都市公園を作る計画が持ち上がったのですが、今回の講師である岩瀬先生、山崎先生、唐沢先生を始め、地元の学校の先生方が生息調査などに尽力され、調査結果を踏まえた、谷津の景観を生かした自然公園にするよう要望を出し、それに添ってこの公園ができました。
ところで、谷津田とは台地の斜面林に挟まれた谷間に形成された田んぼのことです。斜面から水が湧きだし、水をたたえるこうした場所では多くの動植物が生息する豊かな自然を残しています。
公園風景
公園の風景(湿地にはハンノキが見られる)
 ミズキとクマノミズキ

斜面から大きく張り出した木がありました。ミズキとクマノミズキです。両種ともやや湿った場所を好みます。ミズキは副芽が伸びていくため、枝が段階状に水平に広がっています。両者はよく似ていますが、葉のつき方がミズキでは互生で、クマノミズキでは対生という違いがあります。ちなみに、街路樹にハナミズキが増えていますが、ときどき使われるアメリカハナミズキは和名として誤りで、ハナミズキが正しく、アメリカが付く場合はアメリカヤマボウシとなるそうです(校庭の樹木より)。
ミズキの葉
ミズキ(左)は互生に、クマミズキ(右)は対生に葉をつける。
クマミズキの葉
 湿地帯のつくし−イヌスギナ
湿地の中にスギナが見られます。イヌスギナです。スギナの緑色の部分(栄養茎といいます)の先に「つくし」の穂が付いていて、スギナとは違った形です。スギナと同じシダの仲間ですが、スギナが乾いた草地に生えるのに対して、イヌスギナは湿った場所や休耕田で見られます。ちなみに、「つくし」の部分は胞子葉と呼ばれ、内側に多くの胞子嚢をつけています。
イヌスギナ
栄養茎の上に穂をつける。
ページトップに戻る↑
 ク  モ
今回の観察会では多くのクモを見ることができました。
湿地帯を周回するコンクリート橋の下で、黄色と赤・黒の帯を持つ、きれいなクモが見つかりました。コガネグモです。このクモは大型の餌が多い自然度の高い草原に生息するので、都市部ではほとんど見られなくなっています。草原上に、垂直円網をかけ、時に網の中心にX字状のかくれ帯をつくります。このかくれ帯はウズグモでは餌と関連があることが分かってきました。コガネグモではどんな働きがあるのでしょうか。
草原のところどころで、イオウイロハシリグモが見られます。背中の斑紋を見ると異なる種のように見えますが、実は両方ともイオウイロハシリグモです。多型と呼ばれる現象ですが、左の全面が茶色の個体をイオウイロ型、右の白い斑紋を持つものをスジボケ型と呼びます。このクモは卵のうを口にくわえて移動することで知られ、小グモがかえった後も見守っています。
コガネグモ
円網を張るコガネグモ(浅間原図)
林縁部ではギンメッキゴミグモを見つけました。頭を上にして網にいる特徴があります。人の手が入った林を好むクモです。
このほかにも、林縁部の杭でギンメッキゴミグモ、東屋でオオヒメグモ、湿地の草原上でアシナガグモやオオシロカネグモ、水辺周辺の木の枝先でクサグモやコクサグモなどが見られました。クモが多くいるということは、餌となる昆虫や小動物がいることでもあり、この公園が豊かな環境であることの証明といえます。
イオウイロハシリグモ イオウイロハシリグモ
イオウイロハシリグモの多型(左:イオウイロ型、右:スジボケ型)
 エゴノキに住む虫
エゴノキの花が咲いています。葉を見るときれいに丸められたものがいくつも見つかりました。近くの葉では小さな黒い虫が歩き回っています。エゴツルクビオトシブミです。この丸められた葉は巣となりますが、ゆりかごと呼ばれています。小さな体を賢明に動かしてゆりかごを作っていきます。葉を一方の端から主脈を越えて切っていき、反対側の端を少し残した状態にしておきます。さらに葉を左右二つに折り、下から巻き上げて、最後に残っていた端を切ってゆりかごを地面に落します。しかし、ここでは下が水面ということもあるのでしょうか、切り落とさずに枝に残したままにしています。
落とし文
ゆりかご(右)を作っているエゴツルクビオトシブミ(左)
エゴツルクビオトシブミ
 キショウブとセイヨウミツバチ

湿地の中では鮮やかな黄色いキショウブが目立ちます。移入種であるキショウブは公園が作られた後で植えたものだそうです。これにひっきりなしにセイヨウミツバチが飛んできて、花の中に潜っていきます。ミツバチは花に潜り込んで奥にある蜜を集めているのですが、本来はキショウブの花粉を媒介するのはマルハナバチで、キショウブの花はマルハナバチが雄しべの下をすり抜けする時、背中に付けるしかけを持っています。一方、花柱の先端の柱頭が雄しべを覆っているため、ハチが帰っていく際にはマルハナバチに付いた花粉は柱頭に付くことはなく、他の花から花粉を持ってきた場合のみ、柱頭に触れる構造をしています。しかし、体の小さなセイヨウミツバチは花粉を付けられることなく蜜だけをもらっていってしまいます。

キショウブ
キショウブの黄色は公園の中でも目立つ色である。
 ハンノキ

湿地にハンノキが生えています。この木は湿地を好むことで知られています。この公園では周辺の民家の目隠しに植えられたとのことですが、この環境にしっかりと定着しています。枝先には、前年の果実が残っていました。果実からこぼれた種子はとても軽く、水の流れに乗って下流方向に種子散布されます。水中という特殊な環境を生かした巧みな種子散布といえます。

ハンノキ
前年の実を残すハンノキ
観察会の最後に、カワセミが現れ、池ではアオダイショウが泳いでいるのが観察されました。これらについては後日ご報告いたしましょう。
今回はエゴノキ、キショウブ、イヌザクラなど、春から初夏にかけての花が見られましたが、次回6月28日の観察大学では果実ができているでしょう。ご期待ください。

ページトップに戻る↑
2003年度 野外観察会の報告
第1回目
第2回目 第3回目
  第4回目