自然観察大学 室内講習会(第1回)を開催しました。

2004年12月19日、自然観察大学では2004年度第1回室内講習会を開催しました。
今回は「花と実の話−用語を通して見る植物のくらし−」「シリアゲムシのくらしとかたち」がテーマです。
岩瀬学長からは5月に出版した「写真で見る植物用語」を踏まえて、用語と植物の暮らしのいろいろを紹介いただき、鈴木信夫先生からはあまり知られていないがどこにでもいるシリアゲムシのいろいろな生活を、昆虫一般の話を交えて紹介いただきました。

 
講演中の岩瀬先生
「花と実の話−用語を通して見る植物のくらし−
  講演中の岩瀬学長
●カキとナシの果実
カキとナシの実をくらべてみます。カキで「へた」と呼ばれる「がく」を下にするとナシではがくの位置が上になります。カキは果実と種子構造がよくわかります。リンゴは偽果といって構造が違います。
それを断面で見ます。
カキの断面 ナシの断面
カキの断面   ナシの断面
●花のつくり
イチョウやソテツの裸子植物では、胚珠の部分が裸出した状態にあります。この胚珠の周りを心皮が包みこむように子房を形成したの被子植物です。裸子植物には本当の果実はないのです。
イチョウ 子房ができる仕組み
イチョウの胚珠(雌花の先端に胚珠がみられる)   子房ができる仕組み
植物学ではシュートという用語がよく使われます。これは枝と葉が一体となったものを指します。花はシュートの上部が特殊に変わったものです。花は一般にがく・花弁・おしべ・めしべからできています。これらを一部欠いた、花らしくない花もいろいろあります。ここではいくつかの例を紹介します。
イヌタデ1
イヌタデ2
イヌタデ
ドクダミ
ドクダミ
ニワゼキショウ
ニワゼキショウ
イネ
イネ
●受粉と受精
雌しべでは雄しべからの花粉を受粉し、受精が行なわれます。その時の雄しべ、雌しべをよく観察するとどちらかが先に成熟し、もう一方は遅れて成熟するものがあります。これにより自花〔自家)受粉を防ぐことができます。雌しべが先に成熟するのを雌性先熟、おしべが先に成熟するのを雄性先熟といいます。
スズメノヤリ キキョウ
雌性先熟:スズメノヤリ   雄性先熟:キキョウ
   
ある種の植物では、花を開かないまま実を結ぶいわゆる閉鎖花を付けるものもあります。 では子房のなかでどのように受精されているか。模式図にまとめてみました。被子植物では二重の受精が行われ胚と胚乳ができます。
子房全体は果実になり胚珠は種子になります。
受精の行なわれ方
ホトケノザ
閉鎖花:ホトケノザ
        受精の行なわれ方
●果実と種子のいろいろ
果実にはたくさんの用語があります。ここにはその基準によって整理してみました。これだけでも大変です。
私たちが食べる果物や穀類で、構造上どこを食べているのか考えてみましょう。
トマトとブドウ
トマト(左)・ブドウ(右)

スミレ

クヌギとアカガシ クリ
スミレ   クヌギ(左)・アカガシ(右)   クリ
イチゴ イチジク
イチゴ   イチジク
 
用語の分類
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「シリアゲムシのくらしとかたち」 講演中の鈴木先生
  講演中の鈴木信夫先生
●昆虫とシリアゲムシ
昆虫は1,000,000種が生息するといわれ、種類数の上では地球上でもっとも繁栄している生物といえます。昆虫のからだは、体節といわれる節を基本とした構造からできています。進化の過程で各体節の付属肢を口器や6本の歩脚に変化させ、さらに翅を獲得することで昆虫が誕生しました。今日お話しする「シリアゲムシ」は翅をもっている昆虫ですが飛翔力は弱く、完全変態類の中でもっとも早く地球に現れたグループの一つと考えられています。
●国内のシリアゲムシ
シリアゲムシやガガンボモドキはシリアゲムシ目(長翅目ともいいます)に属するグループですが、国内には5属44種がいます。ヨーロッパや北米にいるユキノシリアゲムシ科は国内にいてもおかしくないと思い、雪の上をずいぶん探したのですが見つかりませんでした。ところが最近、夏の大雪山系で見つかりました。外国のユキシリアゲは成虫が冬に出現するのに対して、日本の種類は成虫がなんと夏に出現するのです。
一般に小昆虫や傷ついた昆虫などを食べますが、植物も食べます。
●ヤマトシリアゲの生活史
シリアゲムシのなかでごく普通に見られるヤマトシリアゲの生活史を紹介します。
本種は低地で年2回発生、高地(1,000〜1,500m)では年1回発生します。低地では、1化目は5月の初めに、2化目が8月に発生します。雌は土中に産卵し、幼虫・蛹の時代を土中で過ごします。2化成虫による卵は孵化し、終齢幼虫で越冬します。
1化目の成虫は黒色で、2化目の成虫はべっこう色であることから、1化と2化の成虫は別種といわれた時代もありました。
●シリアゲムシの交尾行動
シリアゲムシの仲間には雄が交尾のときに雌にプレゼントをする種がいます。それらの種では、雄が出した唾液の球を雌がなめている間に、雄は交尾をします。北米産のガガンボモドキの観察では、大きくておいしい餌(昆虫)をプレゼントする雄が長時間、交尾できます。プレゼントが悪いと交尾できなかったり、5分以内の交尾しかできません。6分以下の短時間の交尾では精子の受け渡しがないことが調べられています。
交尾
ガガンボモドキの交尾。
   雌(右)にプレゼントして交尾する雄(左)
●シリアゲムシを探しにいこう
シリアゲムシは植物の葉の上によくいるので、雑木林の縁のやや日当たりのいい場所(ただし、乾きすぎたところは嫌いです)は、格好の探索ポイントです。まず、葉や枝をたたいてみてください。シリアゲムシは驚いて飛びたちますが、飛翔力が弱いため、すぐに近くの植物にとまります。そこを観察するのがいいでしょう。熟した桑の実やアケビの実を食べにくることもあります。
葉の上で休むシリアゲムシ
●参考文献
  Suzuki, N. 1990. Embryology of the Mecoptera(Panorpidae, Panorpodidae, Bittacidae and Boreidae). Bull. Sugadaira Montane Res. Cen. (11): 1-87.
Hori, S. and K. Morimoto. 1996. Discovery of the Family Boreidae(Mecoptera) from Japan, with Description of a New Species. Jpn. J. Ent. 64(1):75-81.
 
2004年度 室内講習会
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