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1ヶ月経って・・・
岡発戸のその後 |
前回、5月に観察した植物は、その後どうなったでしょうか。
道沿いのアカマツは、前回は雄花、雌花が見られましたが、今回、雄花はすべて落ち、雌花(花穂)がやや大きくなっていました。新枝の基部に緑色の球果がついていましたが、これは昨年の雌花で、今年の秋にマツボックリになるそうです。
初夏の植物がたくさん観察できました。前回花盛りだったハルジオンは目立たなくなり、今回はヒメジョオンの花が一面に咲いていたほか、オカトラノオ、タカトウダイ、アキカラマツ、クサフジ、ヤブジラミなども見られました。前回あったオヤブジラミは花の時期が終わって、実も落ち始めていました。草は成長が著しく、ヨモギ、セイタカアワダチソウ、ススキなどが高く伸びていました。
林内の道では、シラカシの枝から葉の新旧交替が見られました。先端にこの春伸びた新しい枝、その基を辿ると前年伸びた枝、さらに基部にはもっと前の枝があり、3年4年経った古い葉がついています。シラカシは常緑樹ですが、常緑樹は葉がまったく落ちないのではなく、古い葉が落ちる時期に新しい葉が出るため、常にどこかしらに葉がある状態なのだということはご存知の通りです。常緑樹の葉は、寿命が長くて丈夫です。
一方、シラカシの隣りには、落葉樹のムクノキが生えていました。落葉樹はこの時期、全体が新しい葉に生え変わっています。葉の寿命は短く、4〜10月頃にしか葉がないことから夏緑樹ともいわれます。葉は一般に薄いので、手で触って比べてみると、常緑樹との違いがよく分かると思います。 |
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斜面林を眺めてみると、5月の観察会の時より緑が濃くなり、外観では常緑樹、落葉樹の区別ができなくなっていました。秋には、またどうなっているのでしょうか・・・ |
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アカマツの新枝に今年ついた雌花穂。来秋マツボックリになります。今秋マツボックリになる球果は、これよりももっと大きく、枝の基部についています。 |
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初夏の花々が咲いていました。 |
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オカトラノオ
その名の通り、虎のしっぽのように花が房状につきます。 |
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多くのムシが集まるクリの花 |
クリの花は終わりに近く、遅咲きの雄花が咲き、その独特の匂いに誘われて虫たちが集まっていました。花の蜜や花粉を求めて集まる昆虫もいれば、それを狙うクモもいます。
クリの花序はほとんどが雄花で、雌花は基の部分についています。
ところで、イガの中に入っている実の数は、花序につく雌花の数と同じだって、知ってましたか?
雌花が3〜4個ならば、実の数も3〜4個なのだそうです。秋になってイガグリが落ちてきたら、中身を数えてみましょう。 |
参考:『校庭の樹木』 |
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クリの木に集まる虫を観察しています。
クリの花にあつまっていた昆虫:セマダラコガネ、ヒラタハナムグリ、シロテンハナムグリ、アオカミキリモドキ、カトウカミキリモドキ、キタテハ、ヒカゲチョウ、キマダラセセリなど |
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脱皮したばかりのキアゲハが草むらの葉っぱに止まっていました。脱皮直後は抵抗力が十分についていないため、珍しがって捕まえたりせず、そっと見守ってあげることが大事です。 |
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林縁の草原にて。初夏は、昆虫たちにとって恋の季節。
※写真を提供してくださった参加者の坂部重敬さん曰く、「受付を早く済ませたので、先にスタート地点へ出向き、それとなく近くを歩いてみました。すると、クサフジやそれに吸蜜するクマバチ、カメムシ、キザハシオニグモなど、始まるまでのわずかな時間に幾つかの生き物に出会うことができました。早行きは三文の徳?
そうした中で、カノコガ(キハダカノコ)の色鮮やかな黄色が目に留まり、お楽しみのところ失礼して、パチリと1枚撮らせてもらいました。」 |
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岡発戸の豊かな自然を象徴する生き物たち |
林の中に、ユニークな交尾行動をとるシリアゲムシの仲間、ガガンボモドキがいました。求愛の際、雄が餌を使って雌を誘うことが知られています。
餌を捕まえた雄は、餌を抱えたまま草や枝などにぶら下がり、フェロモンを出して雌を待ちます(すべての種ではありませんが)。雌は餌につられてやって来ます。雌が餌を食べ始めると、その間に交尾をしてしまうというわけです。
当日は餌を持った雄に出会うことはできませんでしたが、別の日に講師の鈴木先生により、確かに餌を持っている雄の姿が確認されています(残念ながら雌はやって来ませんでしたが)。 |
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餌を差し出す(?)ガガンボモドキ雄。雌を待ち伏せ。 |
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でも、待ちくたびれて・・・・・・
お腹が空いちゃった。せっかくの雌へのプレゼントを食べちゃいました。 |
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昭和40年代までは、関東地方でも平地林に普通に生息していたであろうガガンボモドキは、宅地化の進行と平地林の消失とともに、数を減らしていっています。環境省のレッドデータブックには載っていないものの、千葉県、埼玉県などのレッドデータブックでは、ヤマトシリアゲとともに、希少種や保護生物に指定されています。生息場所が減り、姿を見かけなくなった今、岡発戸の自然環境の豊かさに感嘆せずにはいられません。 |
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3箇所で、ホオジロの雄のさえずりが聞こえました。電線やゴルフ場のフェンスの上、樹木の頂などに止まり、胸を張ってさえずっています。
都心や都市化された地域からはすっかり姿を消してしまいましたが、ここ岡発戸では今でもごく普通に見られる鳥です。しかし、一方で周辺部の宅地化、他方で放棄した水田などの遷移が進むことによって村落耕地型の環境が失われてしまえば、やがては姿を消してしまう可能性がないとはいえません。時には、こうした視点から、千葉県鳥「ホオジロ」を見直してみましょう。 |
参考:『野鳥博士入門』 |
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クモたちのいろいろな生態 |
前回見られたジョロウグモのまどい(卵のうから出てきた子グモが、しばらく周辺で固まって過ごすこと)が成長して、あちこちに小さな網ができていました。小さなうちは、姿からは他のクモと見分けがつきにくいのですが、網を見れば、目の細かさや、前後に張られた不規則な糸から、区別できるとのこと。夏の終わりには、クモももっと成長し、大きな網が目立つようになります。
ニガキの葉っぱにちょこんと乗っていたのは、サツマノミダマシ。夕方〜夜にかけて素早く網を張るので、観察するのにもってこいです。理科の自由研究にいかがでしょうか。
ススキやヨシの葉を折りたたんだのは、一体誰の仕業でしょう? 中にいるのは、ヤマトコマチグモだそうです。これらフクログモ類は、アリなどの天敵に食べられないよう、葉っぱを折り曲げて作った産室の中で産卵します。どんなに中身が気になっても、そっと見守りましょう。
粘球のついた巧みな網で前回話題に上った、オオヒメグモもいました。細い糸の下の部分をルーペでよく見てみると、確かに粒状に光る粘球が見えました。ダンゴムシなどがくっつくと同時に糸が切れて、吊り上げられるという仕掛けです。
高く伸びた草や隣接したゴルフ場のフェンスには、大きな円網を張ったコガネグモが目立ちました。網の中央にはX字状の隠れ帯があり、体がすっぽりと収まります。餌が豊富な草原を好むコガネグモは、近年、その数を減らしているといわれます。8箇所で観察することができたことは、この岡発戸が、餌の豊富な環境であることを物語っています。
集合場所では、ギザギザの隠れ帯をつけたナガコガネグモも見られました。網に手を触れてみると、盛んに網を揺さぶっています。成長すると隠れ帯は縦の一本になるそうです。 |
参考:『改訂
校庭のクモ・ダニ・アブラムシ』 |
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フクログモ類の卵のうが入っているようですが、決して開けてはなりません。 |
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エノキの幹で見たアリとアブラムシの関係 |
林縁の日陰に生えていたエノキの幹に、何やら黒い影が見えます。この正体は、クロクサアリ。
そして、アリが集まっている部分をルーペでよく見てみると、アブラムシがいました。
クロクサアリに囲まれていたのは、ヤノクチナガオオアブラムシで、名前の通り口が長く、体長5mmほどの大きなアブラムシです。アリに触られて、アブラムシがお尻から甘露の粒を出しているのが見えました。
ヤノクチナガオオアブラムシは、エノキの皮目(ひもく)に差し込んだ口針で、師管から汁を吸いますが、この口針は非常に長いため、すぐには引き抜くことができません。つまり、天敵に襲われる可能性が高いのです。そのため、甘露を与える代わりに守ってもらうアリとの共生関係は、この場合、どんなアブラムシよりも強固だといえます。
一般的に両者は、蟻道(ぎどう)という土を塗りこめたトンネルの中にいるのですが、ここでは何らかの理由で蟻道が壊れていたため、その様子を観察することができたのでした。 |
参考:『改訂
校庭のクモ・ダニ・アブラムシ』 |
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ヤノクチナガオオアブラムシとクロクサアリがいました。
アリがアブラムシに群がり、甘露をもらっています。 |
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水位による植生の違いを見てみよう |
湿地に花穂をつけたガマがたくさん生えていました。
ガマには、ガマ・ヒメガマ・コガマの3種があり、上方の雄花穂(ゆうかすい)と下方の雌花穂(しかすい)がくっついているとガマかコガマ、くっついていないとヒメガマです。
ガマといえば、古事記の「因幡の白兎」。毛皮を剥がされた痛みをガマの穂綿にくるまって治癒した兎の話が有名ですが、実際に薬効があるのは、蒲黄(ほおう・ほこう)といって漢方でも用いられているガマの花粉の方なのだそうです。白兎は、本当は、穂綿ではなく花粉にくるまったのかもしれません。
ガマの傍にはヨシとオギも生えていました。地下水位が高いところから低いところにかけてガマ、ヨシ、オギの順に分布しています。これらの植生を見ることで、土地の湿り具合を知ることができます。
植生は、環境の変化と時間の経過に応じて移り変わります。休耕田やその周辺では、最初は1年生草本群落だったものが、時が経つにつれて、多年生草本群落、木本群落へと遷移していきます。 |
参考:『写真で見る植物用語』
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斜面林側に生えているオギ
畦道を挟んでガマ、ヨシと棲み分けている。 |
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田んぼの脇の用水路を、全長数mのアオダイショウが泳いでいました。
頭はどこにあるのでしょうか? |
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ハンノキキクイムシからみた斜面林の物質循環 |
林内で見つけた異様なアカメガシワ。枯れた幹から、ところてんのようなものがたくさん出ています。一体何なのでしょう。
これは、虫糞と木の屑から成るフラスと呼ばれるもの。枯れ木に潜入したハンノキキクイムシが木質部を掘り進んで押し出したものです。
成虫の体長はわずか2oほど。雌は、幹の中に巣を作り、産卵の際、背中に貯蔵しているアンブロシア菌という菌の胞子をまきます。これが坑内壁に繁殖、孵化した幼虫は、この菌を食べて蛹に。その後、羽化した成虫は交尾して、雌は枯れ木から脱出、新たな枯れ木へと移動し、産卵、繁殖するというサイクルを繰り返します。雌が交尾の前に取り込む菌の胞子は、産卵を促がすとともに、新しい巣で再び幼虫の食糧となるのです。
こうして、ハンノキキクイムシとアンブロシア菌は共に分布を拡大させ、枯死した樹木の解体・分解を促進しているのです。アカメガシワをはじめ、森林における先駆種である陽樹は、明るい条件下では素早く成長しますが、暗い条件下では成長できません。このため、森林の遷移に伴い他の樹種が増えると、十分な光を浴びられなくなり、枯死する運命にあります。一部では害虫とされるキクイムシですが、斜面林における遷移や物質循環という観点から見てみると、彼らは森の健全なサイクルを維持するためになくてはならない分解者なのです。
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ハンノキキクイムシが棲みついている枯死したアカメガシワ |
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ハンノキキクイムシ成虫(撮影:梅谷献二) |
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生き物たちの生き残り競争 |
前回の観察会では、トウキョウヒメハンミョウの幼虫を釣る「ハンミョウ釣り」遊びが話題となりましたが、
その幼虫が、初夏のこの時期に活動期を迎えたツヤアリバチに襲われるとの話から、巣穴を再現した手作りのセットで観察しました。当日、セットの中での戦いは途中で時間切れに終わってしまったので、順を追っておさらいしていきましょう。
ツヤアリバチの針で、脇の下に麻酔が注入されたトウキョウヒメハンミョウ。徐々に毒が回り、完全に動けなくなってしまいます。巣穴に入り込んだツヤアリバチは、巣の奥の方を崩して柔らかくします。そして、トウキョウヒメハンミョウの腹部の表面に卵を産みつけ、巣穴に砂粒を詰め蓋をしてしまいます。こうして、巣穴は、ツヤアリバチの子どものための揺りかご代わりになってしまうというわけです。 |
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こんな装置で観察してみました。 |
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ツヤアリバチがトウキョウヒメハンミョウの幼虫に針を刺そうとしています。 |
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コース終着点のヨシ群落でさえずっていたのは、オオヨシキリの雄です。
その巣を狙う鳥がいます。観察会の1週間前の下見の時には、ヨシ群落を臨む住宅地の電線やテレビアンテナの上でさえずっていたのですが、当日は姿も見えず声も聴こえなかったので、講師の唐沢先生が鳴き声を代行しました。カッコウです。
カッコウが、オオヨシキリに対して企んでいるのが托卵です。他の巣に卵を産み、宿主に卵を温めさせた上、孵った雛の子育てまでやらせるという習性で、ホトトギスなどにも見られます。
カッコウは、オオヨシキリの巣が留守の時を狙って卵を産みつけ、同時にオオヨシキリの卵を1個取り出して捨ててしまいます。また、孵化したカッコウの雛は、巣内のオオヨシキリの卵を外に捨て、餌を独占してしまいます。一方、宿主のオオヨシキリの側も、カッコウの卵を見分けて捨てるなど、対抗策を講じます。これに対しカッコウ側は、宿主の卵にそっくりの卵を産んだり、宿主を転換するなどして托卵を維持しようとします。
このように、両種をめぐる関係は興味がつきません。 |
参考:『野鳥博士入門』 |
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■スジモンヒトリ幼虫の死因について |
第1回目の観察会で大量死していたスジモンヒトリの幼虫の死因について、専門家に幼虫の死体を分析してもらったところ、エントモファーガという疫病菌が検出されました。この菌の分生子が幼虫に寄生することにより、体内の水分や養分が奪い取られ、死に至ったと考えられます。疫病菌の侵入力と昆虫の防衛力とは、温度や湿度などの環境条件によって大きく左右されるとのことで、大量死の背景には、病気が大流行するに十分な条件が整っていたのでしょう。 |
参考:『虫を襲うかびの話』(青木襄児/著、全国農村教育協会/発行) |
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