2007年  自然観察大学 第3回(その2)
2007年9月30日(日)
場所:都立 野川公園
秋の自然観察大学2回目の報告です。
観察会当日はあいにくの雨でしたが「雨の日は雨の日なりの観察ができる」というのが唐沢先生の考えです。この言葉のように、雨の日なりの観察〜雨をじっとやり過ごしている昆虫たちと出会えました。
幹の窪みのアブラゼミ、クマノミズキの葉の重なっている箇所に集団でいるアカスジキンカメムシの幼虫、生垣に潜むヤガなどです。
中でも参加者の皆さんの目を引いたのがヤマトシジミ。
「何故こんなところで?」と首をかしげたくなるような雨ざらしの場所で沢山の個体がじっとしていました。植込み(大人の腰ほどの高さ)の上部です。
参加者の方からの「雨に濡れないように葉裏などに隠れないのでしょうか?」という質問がありました。その質問に山崎先生が答えてくれました。
アカスジキンカメムシの幼虫
アカスジキンカメムシの幼虫
(野川公園9/24撮影)
雨の中の観察会 雨の中の観察会 雨の中の観察会
雨ニモマケズ。この植込の中にヤマトシジミが多数とまっていました。
ヤマトシジミの雨宿り―雨をやり過ごす昆虫たち 山崎秀雄先生)
質問:何匹ものヤマトシジミが、葉の上で大雨に打たれながら止まっているのを見て、驚きました。(略)どうして葉の裏に隠れなかったのでしょうか?
回答:ヤマトシジミの夜を過ごす場所とその姿勢がわからないとはっきり言えないのですが、植込みの上のほうに静止している個体数が多いので、このように夜を過ごすのが一般的だと思われます。夜間、植込みの上部で休んでいたところ雨が降り出してきたのでしょう。
雨を避けるために“移動しなかった”のか、“出来なかった”のかははっきりしません。気温が低かったために“動けなかった”可能性があります。
気温の高い夏に、同じような条件でヤマトシジミの行動を観察できれば、確かなことがいえると思います。
個人的には『頼もしいやつ』だと、思いました。
解説中の山崎先生 解説中の山崎先生 解説中の山崎先生
室内講習で解説中の山崎先生
さて、ここからはあまりの雨の激しさに私たちも“雨宿り”をすることとしました。
以降は、室内講習の紹介です。
ミズキとクマノミズキの冬芽 (岩瀬徹学長)
9月になると両種ともはっきりと冬芽がわかります。
ミズキの冬芽は鱗片(芽鱗)に被われているので、鱗芽と呼ばれます。クマノミズキの冬芽は鱗片をもたないので裸芽と呼ばれます。葉を落としてしまっても芽をみれば区別がつきます。
クマノミズキの葉は対生、ミズキは互生なので、葉痕からもわかります。
覚え方として、中安先生が「はだかのくまのたいしょう(裸の熊の大将)」と説明されていましたが、「くまのたいら(熊野対裸(熊野平))」と覚える方法もあります。
ただし“裸芽”といっても決して裸なのではなく、芽はごく小さな葉で包まれてしっかり保護されています。
クマノミズキの冬芽
クマノミズキの冬芽−裸芽−
(野川公園9/24撮影)
クマノミズキの冬芽
ミズキの冬芽−鱗芽−
(野川公園9/24撮影)
ページトップに戻る
果実食鳥と種子散布 (唐沢孝一副学長)
クマノミズキやミズキは、小さな花がまとまって咲きます(散房花序)。
花が分散せずに集約することは、送粉昆虫にとって吸蜜効率が高くなります。植物にとっては受粉効率が上がります。また、秋に果実が熟したときの鳥による被食効率も高くなります。
果実のついている枝の太さと果実食鳥の体重、果実の大きさと嘴の幅の関係なども密接な関係があり、植物と果実食鳥との相互適応がみられます。
日本での果実食鳥の代表はヒヨドリ、ムクドリ、ツグミなどです。これら中型の鳥よりも体重が重い鳥では、体重がかかると枝が揺れたり曲がったりしてバランスを欠いてしまいます。枝の太さと果実食鳥の体重も密接に関係しているようです。
*詳しくは、唐沢副学長の著書『マン・ウォッチングする都会の鳥たち』(草思社 p.216-226)、「校庭の野鳥」(p.10)をご覧下さい。
*「花に集まる虫」、「種子散布と鳥」については、中安先生の解説も再度ご覧下さい。
唐沢副学長 唐沢副学長 唐沢副学長
「岩瀬学長のクマノミズキとミズキの話に触発されて、鳥の立場から解説しました。」と、唐沢副学長。
 
冬芽の保護と植物の季節変化 (川名興先生)
ミズキは鱗片で、クマノミズキは小さな葉で冬芽を保護しています。
では、プラタナスはどのように冬芽を保護しているのでしょうか?
プラタナスは葉柄の基部がキャップのようにすっぽりとかぶさって、冬芽を保護しています。このように冬芽を保護する方法は植物によって様々です。
また、同じ樹木内の冬芽でも上の方と下の方とでは、その生長具合が異なります。
私は、定期的に決めた樹木の枝の観察を行っているのですが、続けているとこのような不思議なことに気がつきます。毎月、観察を続けていると、いつ枝を伸ばすか、いつ葉を開くか、いつつぼみをつけ、花が咲くか、といったような植物の季節変化が実感できます。
枝葉の生長を初めから観察できるので、冬芽の時期はフェノロジー調査の開始準備に良い時期だと思います。今から目立ってきた冬芽を観察してみてはいかがでしょうか?
プラタナスの冬芽 プラタナスの冬芽
プラタナスの冬芽
(左:冬芽、右:葉柄)
プラタナスの冬芽断面
プラタナスの冬芽断面
川名先生
川名先生
声が大きくてゆっくりと話すので“わかりやすい”と評判の川名先生です。
ページトップに戻る
フンの中の種子 ― 散布される種子の調べ方 (中安均先生)
中安先生は鳥によって散布される種子の調べ方を紹介してくれました。
フンを茶漉しに入れて洗い、残った種子などを種類ごとに整理します。
名刺ホルダーに入れて保管するのがお勧めです。フンの中には種子だけではなく、動物や昆虫の遺骸も入っているかもしれませんね。
中安先生 中安先生 中安先生
これは見やすそうですね。
ヒマラヤスギの球果 (岩瀬徹学長)
5月には緑色だった球果が、大きく褐色になり遠くからでも目立つようになってきました。間もなく鱗片がばらばらになり種子が散るでしょう。
やがて今年の花が咲き、来年、熟します。日本の針葉樹の花期は春ですが、ヒマラヤスギ(ヒマラヤ西部〜アフガニスタンが自生地)の花期は秋です。野川公園にヒマラヤスギは多いのですが、花穂の着く個体はごく限られているようです。

 

ヒマラヤスギの球果 ヒマラヤスギの球果
目立ってきた球果(野川公園9/24撮影)
ドングリのはなし (久保田三栄子アシスタント)
秋は実りの季節です。いろいろな木の実、草の実を観察することができます。
ドングリも秋の木の実の一つです。野川公園でも何種類かのドングリを観察することが出来ます。
いずれもブナ科に属する樹木ですが、落葉樹(クヌギ・コナラなど)、常緑樹(カシ・シイ類など)と共にあり、ひとくちに“ドングリ”といってもそれぞれ個性的です。
ドングリは、一目でその種類がわかるものと、区別がつきにくいものがあります。わかりづらいものは、ドングリの殻斗(帽子、受け皿、キャップ)で見分けます。
今年はドングリが豊作です。雨のため野外で観察できなかったのですが、これをもとにドングリ拾いをされてはどうでしょうか?
クヌギのドングリ
クヌギのドングリ
(野川公園9/24撮影)
コナラのドングリ
コナラのドングリ
(野川公園9/24撮影)
ドングリ ドングリ ドングリ
形や大きさがそれぞれ個性的です。
<殻斗の形>
コナラ、ミズナラ、マテバシイ、ウバメガシ:うろこ状の鱗片がかわら状につく。
クヌギ、カシワ:線状の鱗片がびっしりと反り返ってつく。
シラカシ、アラカシ:鱗片は輪を作る。
スダジイ:ドングリを覆う。
ページトップに戻る
シダの話―お待たせいたしました。待望の“シダ”のお話しです。 (村田威夫先生)
野川公園でお勧めできるシダの観察ポイントは湧き水広場です。湧水をひいている「せせらぎ」に10数種類のシダが見られます。せせらぎの水しぶきが届く狭い範囲〜水面より10〜20cm〜にぎっしりと生息しています。
せせらぎの岩上では、岩にへばりついた『前葉体』をみることができます。学校の生物の教科書などで『前葉体』の名前を知っている方は多いと思いますが、実物を見たことがある方は、少ないのではないでしょうか?
前葉体は細胞層が1層しかないので、上手く剥がさないとなんだかわからなくなってしまいます。
(*最近の教科書では『前葉体』を『配偶体』と表記しているものもあるようです。)
村田先生 村田先生 村田先生
急遽、室内講習に変更となり、解説のためにシダを採集に走った村田先生、ありがとうございます。
シダの同定は、よく見かける普通の種から覚えてゆくと良いでしょう。
同定のポイントは、葉の裏側にある胞子嚢の形や葉柄の毛の有無(ツルツル・ザラザラ)です。
わかりやすいもので、良く似た種類の「イヌワラビ」と「オクマワラビ」は胞子嚢の形が黒丸か、または長丸かで見分けます。〔黒丸:イヌワラビ、長丸:オクマワラビ〕。
「ミドリヒメワラビ」「イワヒメワラビ」もよく似た種類です。葉柄の毛の有無(ツルツル・ザラザラ)で見分けます。〔ツルツル:ミドリヒメワラビ、ザラザラ:イワヒメワラビ〕
シダを覚えたい人は、詳しい人と一緒に歩いて覚えることをお勧めします。目標はまず10種類です。頑張ってください。
アキアカネとウスバキトンボ (鈴木信夫先生)
秋の天気の良い日には、野川公園でもたくさんの“赤トンボ”が見られると思います。一般的に赤トンボとは、秋に雄が赤くなるトンボの総称と考えていいでしょうが、厳密にはアカトンボ属(Sympetrum)のトンボを指し、アキアカネはその代表格です。
「ウスバキトンボ」も赤トンボと混ざって一緒に飛んでいますが、色は黄色く、赤くなりません。
アキアカネもウスバキトンボも、ともに飛翔能力の優れた種ですが、ウスバキトンボのほうがより長い距離を移動することが知られています。
アキアカネのほうが一回り小型なので、2種の体長を同じにした場合の翅面積を比べてみたところ、ウスバキトンボのほうが、前翅で10.5%、後翅で14.5%、計25%もアキアカネより広い翅をしていました。ウスバキトンボのほうがより飛翔に適した翅を持っているようです。
鈴木先生 鈴木先生 鈴木先生
解説中の鈴木先生。
<種の解説>
アキアカネは、平地の田んぼや池などで幼虫(ヤゴ)時代を過ごします。羽化後、未成熟な個体は夏に暑さを避けて山地へ移動、秋に成熟個体が集団で山から下りてきます。
アキアカネは平地と山の往復をするため、飛翔能力を必要とします。
ウスバキトンボは、熱帯から亜熱帯に分布する種です。日本では西南諸島などに分布しています。面白いことに発生した個体は、海を渡り北上する性質があります。渡った先で繁殖し、さらに孵った個体も、世代を重ねながら北上します。しかし、寒さに弱いため九州以北では越冬できずせっかく北まで行っても死んでしまいます。
クモの網の標本のつくり方 (浅間茂先生)
浅間先生が“クモの網の標本”のつくり方を紹介してくれました。
クモの網の目の大きさからそのクモが捕る餌の大きさがわかります。ジョロウグモの網は大きく目も細かいため、大小様々な大きさの獲物をねらっている事がわかります。
浅間先生 浅間先生 浅間先生
ヒシガタグモはY字型の網をつくります。面白いので、ぜひ見つけてみてください。と浅間先生でした。

用意するもの:厚手の画用紙、のり、はさみ、カラースプレー、透明シート(図書館などで書籍を保護するために使われている透明のシートです。図書館の方たちは“ブッカー”と呼んでいるようです。)

1. まずクモの網を見つける。
 
2. クモを網から退去させる。(重要です!)

3. カラースプレーで網に着色する。

4.網の後から画用紙を当てる。

5. 画用紙の四隅に縦糸を貼り付け、外側の縦糸を切り取り、
  網をすくい取る。

6. 透明シートと網のついた画用紙を貼り合わせる。

このとき透明シートを机に置き画用紙を載せた方が作りやすいです。

7.完成です!この標本から皆さんは何を読み取りますか?

クモの巣の標本1
クモの巣の標本2
クモの巣の標本3
以上、野外講習にも劣らない、内容盛りだくさんの屋内講習の紹介(一部)でした。一部)でした。
最後に、岩瀬学長より3回皆勤賞の皆さんに“修了書”を授与致しました。
パチパチパチ。
修了書の授与 修了書の授与 修了書の授与
おめでとうございます!&ありがとうございました。
記念撮影 記念撮影 記念撮影
記念撮影 記念撮影 記念撮影
最後に参加した皆さんと講師の先生方と記念撮影です。
<おまけ>  
参加者の方よりメールと画像を頂きました。アシナガバチがオオスカシバの幼虫を狩る様子を観察されたそうです。
“おかげさまで私も少しは自然観察ができるようになり、自宅の庭で営まれている小さな命のせめぎあいなどにも気づくようになりました。”と文章が添えられていました。迫力のある画像ですね。
『“セグロアシナガバチ”です。前伸腹節、胸部の最後の節が真っ黒なのが特徴です。
キアシナガバチは、ここに細長い黄紋が二本あります。』と、田仲先生。ありがとうございます。
セグロアシナガバチ
2007年度の自然観察大学に参加してくださった皆様、HPを訪れていただいた皆様、ありがとうございました。
また、講師の皆様方にも大変感謝しております。ボランティアにもかかわらず毎回熱心に準備、講義して頂き、本当にありがとうございます。

ページトップに戻る
2007年度 野外観察会
第1回の報告 第2回の報告 第3回の報告/その1 第3回の報告/その2