2008年  自然観察大学 第1回
2008年5月11日(日)
場所:見沼田んぼ
2008年5月11日(日)、埼玉県さいたま市の見沼田んぼにて、今年も自然観察大学が始まりました。
風が強く冷たい雨の中にもかかわらず、たくさんの参加者の皆さんが集まってくださいました。皆さんの自然観察に対する熱意にとてもうれしい気持ちになりました。
今回も本観察会の目的である「形を見る、くらしを考える、そこから名前に近づく」をもとに、植物・野鳥・昆虫など身近なフィールドの生き物を楽しみながら観察できたと思います。
それでは、自然観察大学 新人スタッフが当日の様子を一部ご紹介させていただきます。
浅間先生 浅間先生
村田先生 村田先生
ゴミグモについて浅間先生からお話です。 村田先生と一緒に踏みつけに強い雑草を観察しました。

当日に話題になった生き物のリスト

植物
● 草本
アカツメクサ
アカミタンポポ
アコウグンバイ
アメリカフウロ
イタドリ
エゾノギシギシ
オオスズメノカタビラ
オオバコ
カスマグサ
カラスノエンドウ
カラスムギ
カントウタンポポ
グンバイナズナ
スズメノエンドウ
スズメノカタビラ
セイヨウタンポポ
ナガバギシギシ
ネズミムギ(ホソムギ)
ハルジオン
ヒメジョオン
ヘビイチゴ
ヤブヘビイチゴ
● 木本
アカメガシワ
イヌシデ
ウワミズザクラ
エノキ
カシワ
ケヤキ
コナラ
コノテガシワ
サルトリイバラ
シロダモ
ミズキ
 

 

昆虫
アカタテハ幼虫(カラムシ)
アワダチソウグンバイ(セイタカアワダチソウ)
エノキトガリタマバエ/エノキハトガリタマフシ
キゴシジガバチ巣
クコハムシ(クコ)
ケヤキヒトスジワタムシ/ケヤキハクロフシ
コガタルリハムシ(ギシギシ類)
ニタイケアブラムシ属の一種(トウカエデ)
ニホンミツバチ
フタモンアシナガバチ
   
クモ
ギンメッキゴミグモ
ゴミグモ
   
アオサギ
オオヨシキリ
キジ
キジバト
コチドリ
シジュウカラ
セッカ
ツバメ
ドバト
ヒバリ
ムクドリ
モズ
   
そのほか
カワニナ
タイワンシジミ
トウキョウダルマガエル
カシワの話
この観察会のシンボルツリーのように立派にそびえ立つカシワの木。前回(2005年度)の観察会でも話題にあがっていました。近くにアカメガシワも見られました。こちら両者とも名前は似ていますが、カシワはブナ科、アカメガシワはトウダイグサ科で同じ科ではありません。カシワは「炊ぐ(かしぐ)葉」からという意味で、食べ物をくるむことのできる大きな葉を持つものはカシワの名が付けられたそうです。五月の節句にはかかせない柏餅の葉はカシワの葉だけではなく、西日本では主にサルトリイバラの葉、神津島ではカクレミノの葉など、日本全国で地方によっていろいろな葉が使われていることが紹介され驚きました。
(岩瀬徹 学長)
岩瀬学長 岩瀬学長 岩瀬学長
大きなカシワの木の下で、カシワの名の由来をお話しする岩瀬学長。
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トウカエデのアブラムシ
トウカエデの葉裏をルーペで見てみると、白い平べったい小さな幼虫が多数観察できました。幼虫の特異な姿から、このアブラムシはニタイケアブラムシ属の一種であることが分かります。和名の「ニタイ」=「二態」とは幼虫が、今回観察できた夏越しをする姿と通常のアブラムシの姿の2型あることに由来し、毛が目立つアブラムシなので、このような名前がつけられたそうです。アブラムシの多くが寄主特異性の高い生物であり、この属のアブラムシでは主にカエデ類にみられます。えさの植物の状態が悪い時期(カエデ類は夏には葉が開ききり水溶性の窒素の含有率が低くなる)では幼虫で夏眠し、植物の状態が良くなる秋に活動を復活するそうです。
(松本嘉幸 先生)
松本嘉幸 先生 松本嘉幸 先生 松本嘉幸 先生
「いっぱいアブラムシの幼虫がいるなぁ。」
トウカエデの葉を見て、みなさん驚きの様子。
モミジニタイケアブラムシの幼虫 モミジニタイケアブラムシの幼虫
モミジニタイケアブラムシの幼虫:越夏型
 
モミジニタイケアブラムシの幼虫と成虫:通常型
このようなアブラムシについては、松本先生著の「アブラムシ入門図鑑」をごらんになると、詳しくいっそう楽しめます。
ハルジオンとヒメジョオン
似た植物の見分け方を、講師の川名興先生に遊びを使って紹介していただきました。今回はハルジオンとヒメジオンを見分ける方法です。両者はよく似ていて見た目だけでは簡単には区別することは難しいです。しかし、ハルジオンの茎は中空で、ヒメジョオンの茎は中空ではないという違いがあります。ハルジオンの茎をつんでストローのようにして先生が透明なコップの水の中に先生が息を吹き込むと「ブクブクブク……」これで、ハルジオンということがはっきりとわかりました。他にもタンポポの首飾りなどの子どもが興味を持ってくれそうな遊びも紹介され、似た植物の見分けが楽しくなりそうだと思いました。
(川名興 先生)
川名先生。 川名先生。
ハルジオンの茎でブクブクをしている川名先生。
アキアカネと田んぼ
アキアカネは秋に田んぼに卵を産みつけ、そのまま卵で冬を越します。冬の間、田んぼが干上がってしまってもアキアカネの卵は乾燥に強いため平気なのです。春、稲作が始まり田んぼに再び水が入れられると卵も活動を再開します。田んぼのサイクルにあわせ、アキアカネも成長していきます。しかし、最近は田んぼの減少や、栽培様式の変化が原因でアキアカネが減少している悲しい現状にあります。
(鈴木信夫 先生)
身振り手振りでわかりやすい説明をしてくださる鈴木先生。
この田んぼにも卵が産み付けられているかな。
鈴木先生
鈴木先生
鈴木先生
花外蜜腺とアリ
植物には花外蜜腺(花以外の部分にある蜜腺のこと)を持つものがあり、肉眼でも確認することができるものもあります。参加者の皆さんも一緒に花外蜜腺探しをしました。今回はイタドリ、アカメガシワ、サクラ、カラスノエンドウなどで観察することができました。花外蜜腺から分泌される蜜をなめに来るアリも観察できました。アリは植物にくる害虫を追い払うガードマンの役割を果たしてくれるそうです。サクラの花外蜜腺は若い葉でよく発達しており、食害から守ってほしい成長途中の枝葉にアリが集まるようになっているそうです。花外蜜腺にはいろいろな種類のアリが来ますが、中でもシリアゲアリの仲間は気が荒く、特にガードマンに向いているのだとか。
(中安均 先生)
アリを探している様子 アリを探している様子
花外蜜腺にいるアリを探してみよう。
トビイロケアリ
イタドリの花外蜜腺に来たトビイロケアリ
(撮影:中安均)
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オオヨシキリのさえずり
見沼田んぼにはヨシ群落が形成されている部分があり、そこではオオヨシキリのさえずりを耳にしました。オオヨシキリの雄は雌より早く渡ってきて、縄張りをめぐってギョギョシ、ギョギョシと激しく鳴いて争います。後からやってくる雌に雄を選ぶ選択権があるようです。では、雌は雄のどこをみてえらぶのでしょうか・・・。羽の色つや、声の張り、あるいは縄張りにしているヨシ原かもしれません。また、オオヨシキリは一夫多妻になることもあります。今回、オオヨシキリを観察できた方もいらっしゃるそうですが、残念ながら私は見られず、悔しい思いをしました。次の観察会では期待します。
(唐沢孝一 副学長)
オオヨシキリ
(撮影:中安均)
オオヨシキリ
オオヨシキリ
モズのはやにえ
線路沿いの有刺鉄線でモズのはやにえを観察しました。モズは分類上スズメ目に属し、猛禽類のように足の力は強くありません。そこで、捕らえた獲物を有刺鉄線や木の刺などに刺して固定し、ちぎって食べる習性があります。これをモズのはやにえといいます。はやにえは一年中見られるそうです。
(唐沢孝一 副学長)
モズのはやにえ
モズのはやにえ
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アワダチソウグンバイ
武蔵野線の線路沿いに生えていたセイタカアワダチソウの一部の葉が白く斑点状になっていました。この白い正体は最近日本に侵入して来た、アワダチソウグンバイで、プラタナスグンバイ、ヘクソカズラグンバイとともに「最近外来グンバイ3兄弟」と呼んでいいものだそうです。アワダチソウグンバイは前胸側縁と前翅の縁がギザギザしているのが特徴だそうです。他にも、ヨモギ、ナス、サツマイモを食害するそうです。みなさんもぜひ自分の周りを探してみてください。新発見があるかもしれません。ご報告お待ちしております。
(山崎秀雄 先生)
アワダチソウグンバイ(体長3mm)
「最初の発見は2000年兵庫県西宮市、九州・四国・本州に分布。本州の東限は千葉県と茨城県でしょうか。」
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴ
赤いかわいらしい実がたくさんなっていたのはヘビイチゴとヤブヘビイチゴ。今回はこの2種の見分け方が紹介されました。
ヘビイチゴよりヤブヘビイチゴのほうがプチプチしていて光沢がある果実であるということを教わり、参加者のみなさんも二つをじっと見比べていました。とてもおいしそうに見えたので、実際に食べてみるとスカスカとして味はほとんどなく想像とは違い少し残念でした。 今回、果実に見えるのは本当の果実ではなく(偽果というそうです)種に見えるつぶつぶが果実だそうです。
(久保田三栄子さん)
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの果実 ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの果実
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの果実 ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの果実
ヘビイチゴとヤブヘビイチゴの果実の部分。
「形とくらしの雑草図鑑」より
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●斜面林の観察
斜面林では、林の構成や樹木の季節ごとの変化や、斜面の中と林縁部の樹木の種類の違いを観察できます。今回は新芽がたくさんのび始めたシロダモが観察できました。シロダモのような常緑樹は落葉しないというイメージがありますが、葉はつねに新旧交替します。枝の出方をたどっていくと3年前の葉が残っているのがわかります。これからが古い葉の落葉の季節です。これに比べて落葉樹の葉は7〜8箇月の寿命で短いそうです。斜面林の林縁部のような日当たりが良いゾーンではどんな種類の樹木があるか調べました。エゴノキ、ヌルデ、クサギ、アカメガシワ、クワなどの低木が見られました。次回の樹木たちの季節による変化も楽しみですね。
(岩瀬徹 学長)

今回も、初めから終わりまで盛りだくさんの内容でした。雨の中の自然観察も晴れの日とはまた違う経験ができ楽しく思い、終わった後も爽快な気分になりました。参加していただいた方々、そして御指導いただいた講師の方々にはこの場を借りて御礼申し上げます。
キジ キジ
キジ(♀)がおすましをして歩いていました。
(撮影:田仲義弘)
コゲラ コゲラ
帰り道に、とてもかわいらしいコゲラの雛が顔を見せてくれました。元気に育ってほしいですね。
(撮影:田仲義弘)
今回の「自然観察大学 新人スタッフレポート」は楽しんでいただけたでしょうか。本年度の観察会は、たくさんの参加のお申し込みを頂き、抽選の結果、ご希望に添うことが叶わなかった方々には、大変申し訳ありませんでした。
次回は6月22日(日)、良いお天気になるといいですね。

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2008年度 野外観察会

[テーマ別
街なかでの雑草観察

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