2008年 自然観察大学 第3回
2008年10月5日(日)
場所:見沼田んぼ

2008年10月5日(日)自然観察大学の第3回が埼玉県見沼田んぼで開催されました。
秋晴れの第1、2回目では見られなかった清々しい天気の中、秋の自然を観察することができました。当日のようすをレポートで紹介させていただきます。

山崎先生 山崎先生 山崎先生

当日話題になった生き物のリスト

植物
● 草本
アメリカセンダングサ
アレチウリ
イボクサ
イヌタデ
オシロイバナ
カラスウリ
スズメウリ
タイヌビエ
タウコギ
ツユクサ
ホソアオゲイトウ
メドハギ
ヤナギタデ(ホンタデ、マタデ)
つる植物
アオツヅラフジ(カミエビ)
アケビ
イシミカワ
カナムグラ
クズ
トコロ
ノブドウ
ヘクソカズラ
ヤブガラシ
ヤマノイモ
● シダ植物
イヌワラビ
ベニシダ
ミドリヒメワラビ
● 木本
アカメガシワ
エゴノキ
カシワ
ソメイヨシノ

 

昆虫
アオスジアゲハ幼虫
アカスジキンカメムシ幼虫
アワダチソウグンバイ
イラガ類幼虫
エゴノネコアシ(エゴノネコアシアブラムシ)
オオスズメバチ
カマバチsp.
キジラミ
クサギカメムシ
クロツヤテントウ
ナミアゲハ幼虫
ニホンミツバチ
フタトガリコヤガ幼虫
ホウネンダワラチビアメバチ
モンシロチョウ
ヨコヅナサシガメ
ヤノクチナガオオアブラムシ
● トンボ
アキアカネ
ウスバキトンボ
ナツアカネ
ノシメトンボ
クモ
クサグモ
コクサグモ
ゴミグモ
ジョロウグモ
モズ
アマツバメ
その他
ハリガネムシ

!注意!イラガに気をつけて
観察会に繰り出す前に山崎先生より観察会で気をつけたい生物のお話がありました。
イラガについては葉の裏にいることが多いので葉を観察する際、うっかり触ってしまう恐れがあります。ですから、葉の縁を持って注意してめくるのがポイントだそうです。
イラガはアカメガシワ、カキなどの葉に多く、色はきれいですが刺されると腫れてしまいとても危険です。
蜂の巣については巣の入り口に立ちふさがる位置で観察すると刺されてしまいますので気をつけましょう。
アオイラガ アオイラガ
カキの葉の裏にヒロヘリアオイラガがたくさんいました。
イラガ刺し傷 イラガ刺し傷
事務局の一人がイラガに刺された跡。とても痛々しいですね。
ページトップに戻る
つる植物〜フェンスを観察しよう〜
線路沿いのフェンスには、つる植物が生い茂っていました。たくさんの種類のつる植物が観察できました。
◇つる植物の生きる戦術
つる植物は自身でからだを支えず、他のものに頼って高い位置へ長く伸びます。そのための戦術があるそうです。アケビ、ヘクソカズラのように、からだ全体が巻きつくタイプ(巻きつき方にも右巻き方向と左巻きがあるそうです。)やヤブガラシ、カラスウリなどのように巻きひげでつかんでのぼるタイプ、トゲでひっかかったり寄りかかったりするタイプ(イシミカワなど)、貼りついてのぼるタイプでナツヅタやキヅタなどがあるそうです。
◇アオツヅラフジからアンモナイト?!
フェンスにからまるつる植物の中に紫色の実がなっているものがありました。
この実をつぶすと中には・・・・小さなアンモナイトが!?皆さんびっくりした様子でした。このアンモナイトの正体はアオツヅラフジ(カミエビ)の種子だったのです。それにしても、本物みたいでした。
中安先生
中安先生
中安先生
ロープを使って右巻き左巻きの説明をしてくださった中安先生。
アオツヅラフジ雄花
アオツヅラフジ(カミエビ)の雄花
アオツヅラフジ果実
果実をつぶして中を見ると……
アオツヅラフジ種子
アンモナイトだ!!!
 
シンボルツリーカシワ
毎回観察しているカシワの木。今回は葉がススで真っ黒になっていました。これはキジラミの発生による症状だそうです。キジラミやアブラムシ、カイガラムシはストローのような口で木の師管液を吸い上げ、排泄物として甘露を出します。そして、葉についた甘露にカビが生えて、すす病になってしまうのだそうです。
カシワの葉 カシワの葉
カシワの葉が真っ黒に……
浅間先生 浅間先生 浅間先生
浅間先生がキジラミとすす病菌の走査電子顕微鏡写真を用いて説明してくださいました。
ヨコヅナサシガメ
サクラの幹にたくさんのヨコヅナサシガメの幼虫が観察できました。帰化昆虫で、おそらく昭和初期に九州に侵入したものと考えられているそうです。脱皮直後が紅色、落ち着くと黒色の体になります。幹肌と一体化していて気づかなかったけれど、よく見るとたくさんのヨコヅナサシガメが観察でき、皆さん驚いたようすでした。
ヨコヅナサシガメ ヨコヅナサシガメ ヨコヅナサシガメ
サクラの幹にいたヨコヅナサシガメ
ページトップに戻る
エゴノキの実で遊ぼう
川名先生からエゴの木の実を使った遊びを教えていただきました。エゴノキの実を水の入ったペットボトルに入れてシャカシャカと振ると、白い泡が立ちました。地方ではエゴノキを、この泡立ち水が白くにごることから、シャボンダマやセッケン、コメミズとも呼ばれているそうです。
川名先生 川名先生
川名先生がエゴノキの実と水が入ったペットボトルを振ると……
エゴノキの実 エゴノキの実
こんなに泡立ちました。
エゴノネコアシアブラムシの観察
6月の観察会では、このアブラムシの幹母の幼虫がつくった棲家であるバナナのような虫こぶ(エゴノネコアシ)がエゴノキで見られました。10月の観察会ではそのアブラムシたちがアシボソ類に移住している姿が観察できました。アブラムシが一次寄主(エゴノキ)から二次寄主へ寄主転換したさまを実際見ることができて感動しました。「アブラムシ入門図鑑」p103に詳しく載っています。
エゴノネコアシアブラムシ エゴノネコアシアブラムシ
アシボソにたくさんのエゴノネコアシアブラムシが。
松本先生 松本先生
松本先生のアブラムシの詳しい解説をみなさん熱心に聞き入っておられます。
シダ植物の葉
村田先生にはシダの葉のお話をしていただきました。葉は葉柄と葉身からなり、葉身は単葉から細かく羽状に分かれる複葉まで多様です。葉の切れ込みの程度や羽状に分かれる複葉の分かれ方によっても用語があります。その用語を理解することが大切です。葉の形態や用語が理解できれば、図鑑を見ながら観察できますね。(野外観察ハンドブック「シダ植物」p40参照)
村田先生
村田先生
村田先生
いろいろな葉の形がシダ植物にはあるのですね。
ページトップに戻る
トンボの話
鈴木先生
2種を比較する鈴木先生。真っ赤できれいなトンボがたくさん飛んでいました。
秋の田んぼにはトンボがたくさん飛んでいました。アキアカネもナツアカネも体色が真っ赤でとてもきれいで似ているのですが、この2種には産卵方法に大きな違いがあるそうです。アキアカネは雌雄連結したままで、雌が腹部の先端で水(または泥)をたたくようにして、卵を産み落とす打水産卵(あるいは打泥産卵)をし、ナツアカネは雌雄が連結したまま水草や稲穂のすぐ上で空中から卵を振り落とす、打空産卵が基本だそうです。秋の田んぼにトンボが飛んでいる風景がこれからもずっと続いて欲しいですね。
ジョロウグモ、コクサグモ
ジョウログモについては、大きな網になると張り替えにエネルギーを使うため、半分ずつ張り替えるそうです。 他の円網を張るクモでそのような習性を持つクモはいないようです。網の目が細かいため小さな昆虫を捕らえることもできるため、環境が悪化しても生きながらえていると言われています。雌の網にはいっている小さなクモは雄で、雌の網に居候生活をしながら、雌の脱皮直後や餌を食べているときをねらって交接するそうです。網を張るクモは成体になるとほとんど網を張らず、雌を求めて動き回るとか。コクサグモは今がちょうど交接の時期で、雄が雌の網に入り込み、脚でトントンと雌の体をたたくと、雌は催眠術にかかったように動かなくなり、それから交接するそうです。雄のクモはおなかでつくった精子を小さな網(精網)につけ触肢の先の膨らみに貯めて、それを用いて交接し、雄は亜成体になると触肢が膨らみ、成体になると複雑な構造を持つようになるそうです。コクサグモの網は粘らず、飛ぶのが下手な虫が来て糸に引っかかって落ちた所でかみつくのだとか。粘球がないため、網は張り替える必要がなく、穴の空いた所を補修するそうです。
クモと網 クモと網
たくさんのクモと大きな網を観察できました。
ページトップに戻る

見沼田んぼ
見沼たんぼと称されている地区は、埼玉県さいたま市の1260haある水田地帯一帯を指し、今回の自然観察大学で歩いたのは、見沼田んぼのほんの一部に過ぎません。
集合場所であるJR東浦和駅周辺は大宮台地の上にあり、海抜約30m。そこから見沼たんぼの見沼代用水西縁へと下りました。代用水と低地の中央を流れる芝川との高低差は約3mあり、用水の水は水田を潤し芝川へと流入します。また芝川と東西の代用水とは閘門(こうもん)式運河で結ばれ、代用水は利根川へとつながり舟による物流を支えてきました。
“見沼たんぼ”と称されようになったのは江戸時代中期、徳川吉宗の命により井沢為永弥惣兵衛が行った干拓事業以降です。
それ以前は、江戸時代初期に伊奈忠治(いなただはる)が行った築堰工事により下流の田畑の農業用水としての見沼溜池(面積1200ha、平均水深1m)が広がっていました。
江戸時代には台地では畑、低地では水田、その間は斜面林として利用されていました。現在は台地が住宅地などに一部変化していますが、その利用形態が今も残されています。自然観察にあたっては、こうした台地、斜面林、低地といった地形とそれを利用してきた人々の歴史にも目を向けたいものです。
見沼たんぼ解説 見沼たんぼ解説 見沼たんぼ解説
解説中の唐沢先生。
排水路としてつくられた芝川のほとりで。
岩瀬徹学長の雑草話
◇休耕田の雑草 
5月の観察会では、最近まで耕作されていたと思われる田んぼにイネ科の芽生えがびっしり生えているのが見られました。今回10月の秋の観察会で、その正体がわかりました。穂の形状よりタイヌビエ、ケイヌビエだといえます。
タイヌビエは、穂をつけるまでの生長過程の形態がイネと似ているため区別がつかず紛らわしいのですが、穂をイネより高い位置でつけるので田んぼの中で大変目立ちます。
イネの刈取り前に実が熟し、種子をばら撒くタイヌビエ。このようにイネに姿を似せ、正体がバレル頃には既に種子散布は終了しているこれら雑草は、知恵モノといえそうですね。
◇“たで喰う虫”のタデ 
刈取りの終わった田んぼにはいろいろな雑草が生えてきますが、その中にヤナギタデがあります。マタデ、ホンタデともよばれます。葉っぱを噛んでみると、じわーっ、と辛くなってきます。料理のツマにされるタデはこの芽生えです。こんな辛い葉にもつく虫がいるというので「蓼食う虫も好きずき」のことわざができたといわれています。
解説中の岩瀬学長 解説中の岩瀬学長 解説中の岩瀬学長
解説中の岩瀬学長。
参加者の皆さんは足元のタデの葉を噛みながら耳をかたむけていました。
ページトップに戻る
モズの高鳴き
「キー、キチキチキチ」と電線に止まって鳴いているのが「モズの高鳴き」で、俳句では秋の季語です。この高鳴きの仕組みはこうです。平地で繁殖を終えると、若い子の世代がそのフィールドに残り、親の世代はどこかに消えてしまいます。初夏のころに高原でも繁殖をすることから親の世代は、夏は高原に移動して繁殖しているのではないかと考えられています。秋、親の世代は再び平地へと降りてきますが、そこは若鳥たちが縄張りを張って生活しているため、場所を巡って争うことになります。その時の縄張り争いが「高鳴き」の声です。
 激しい闘いを通して冬の縄張りが形成されます。雄の場合、冬の縄張りを持てた個体は春の繁殖にも参加できます。春、うららかな陽気に誘われるように雄は雌に向かって求愛の歌を歌いますが、他の鳥の鳴きまねもします。鳴きまねをしつつ、頭を左右に激しく振って黒い過眼線を誇張して雌に接近します。モズの高鳴きについては『校庭の野鳥』(p98)、ハヤニエについては『野鳥博士入門』(p24-25)を参照してください。
解説中の唐沢先生 解説中の唐沢先生 解説中の唐沢先生
モズの鳴き声も聞こえました。
カマバチsp.とウンカ
カマバチの解説は、収穫を間近に控えた田んぼを背にして田仲先生によって行われました。
なぜならカマバチは、イネの害虫としても名高いウンカをエサとし、田んぼを主な生活場所としているからです。
カマバチは、色や大きさなどアリによく似た姿のハチです。と、いってもよく似ているのはメスだけで、オスはハチの姿をしています。
カマバチの雌の前肢は、がっしりとしたカマ状になっており、イネの葉の上でウンカをじっと待ち構え、捕らえます。捕らえたウンカが十分な大きさだったら卵を産みつけ、まだ若い小さなウンカだと自分のエサにしてしまいます。
カマバチに寄生されたウンカの体には、黒っぽいコブ状のものがみられ、これはカマバチの幼虫が呼吸のために体の一部を外に出しているからだ、といわれています。
解説中の田仲先生 解説中の田仲先生 解説中の田仲先生
解説中の田仲先生。
手に持っているのは吸虫管です。中にカマバチがいます。
<田仲先生に質問>
「ウンカはジェット気流に乗って東南アジアからやってくる個体がたくさんいると思うのですが、ウンカとともにやってくるカマバチもいるのでしょうか?」と、質問があったので聞いたところ「ある文献にはウンカとともにやってくる代表的なウンカの天敵として、トビイロカマバチ、キアシカマバチがあげられています。カマバチは、セジロウンカ、トビイロウンカに寄生した状態で日本にやってくるようです。」と、トビイロカマバチの写真を送ってくれました。その文献によるとトビイロカマバチはセジロウンカを、キアシカマバチはトビイロウンカを中心に寄生するそうです。
トビイロカマバチ
ウンカに産卵するトビイロカマバチ(雌)。
アリに似ているのは雌のみ。
(田仲義弘撮影)
ページトップに戻る
観察写真館
ホウネンダワラチビアメバチ ホウネンダワラチビアメバチ(フタオビコヤガの寄生蜂)。
スリーピング法 スリーピング法
野原にいる昆虫を集める方法のひとつ「スイーピング」を田仲先生が行っていました。
ハラビロカマキリに寄生したハリガネムシ ハラビロカマキリに寄生したハリガネムシ
ハラビロカマキリに寄生したハリガネムシ。黒いひもかと思いきやハリガネムシでした。
勇敢な田仲先生 勇敢な田仲先生
ニホンミツバチを襲うスズメバチと格闘する勇敢な田仲先生。
ページトップに戻る

修了式●
春に始まった今年の自然観察大学観察会も今回で最終回。3回とも参加してくださった方には岩瀬学長より修了証の授与が行なわれました。ご参加くださった方々、一年間ありがとうございました。
修了証の授与 修了証の授与 修了証の授与
修了証をいただくと達成感が沸きますね。
Kさん 毎回毎回熱心に観察してくださるKさん。
いつもありがとうございます。
集合写真 集合写真 集合写真 集合写真 集合写真 集合写真
今年は天気の関係もあって、集合写真は今回のみ撮ることができました。貴重なワンショット。


最後に・・・・。
今年の観察会も毎回、盛りだくさんで濃い内容となり、無事終了いたしました。各回とも、さまざまな得意分野を持つ講師陣に、大活躍していただきました。私自身、植物、動物のくらしぶりの観察方法を学んだり、実際に観察したり、広い視野で自然観察ができるようになったと思います。終了予定時間を過ぎてしまい皆様にはご迷惑をおかけいたしました。そして、御指導くださった講師の方々にはこの場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございました。
スタッフ一同 スタッフ一同
講師の方々、参加者のみなさま、
ありがとうございました。
(スタッフ一同)
見沼たんぼ 見沼たんぼ 見沼たんぼ 見沼たんぼ 見沼たんぼ 見沼たんぼ 見沼たんぼ
ページトップに戻る
2008年度 野外観察会

[テーマ別
街なかでの雑草観察

第1回の報告 第2回の報告 第3回の報告