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いろいろな生き物たちがいて、それらは相互に依存して生活しているということ、その多様性が大事という思いから『生物多様性』という言葉ができたと言われています。
私たち人間は、生物多様性が支える生態系から物質的、精神的な恵みを受けています。生物多様性については今とても注目されていて、いろいろな視点、考え方がありますが、植物と昆虫、天敵生物に関する分野では、それらの相互作用を『機能的生物多様性』と定義し、調査研究が行われています。
今回は私の専門である農業分野から見た機能的生物多様性と、自然観察大学らしく身近な自然ということを主軸にして、農地や菜園の生物多様性について話をさせていただきます。 |
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■イギリスの例 |
写真はイギリスの典型的な農地の風景です。
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イギリスではかつて森林を開拓して牧草や麦などの農地にしました。その結果として食料自給率は70〜80%を確保したと言われています。
ところが現在は生き物が減少してしまい、生産性から環境重視に転換し、生物多様性を活用しようという方向になっています。
たとえば、森林と農地の間のエコトーンと言われる帯状地帯に作物以外の植物を育て、受粉昆虫マルハナバチのための花を作っています。また、クモなど捕食性の天敵のためにビートルバンクと言うものも設置しています。これらに対しては国からの補助金も出ています。 |
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指標となる生物は、花粉や蜜源となる植物、花粉媒介者(ポリネーター)であるマルハナバチなど、そしてヒラタアブやテントウムシなどの捕食性の天敵生物。
さらに実利的な面以外でも、生活の質を上げるという理由から小鳥などやその餌になる昆虫(ハバチ)、そしてイギリスらしくハンティング対象となるノウサギやキジ、ウズラなども保全(指標)生物とされています。
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■身近な実践例 |
先ほどのエコトーンやビートルバンクは“生態補償地(エコ調整地)”と言いますが、写真は私の家庭菜園の生態補償地です。 |
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きれいですよね。
実はコマツナを栽培して収穫したあとを放置しておいただけなのですが、アブラナ科らしいきれいな花が咲きました。
身近な生物多様性の向上に貢献するとともに、地域の快適な環境も提供(アメニティー効果)すると自負しています。
花にはニホンミツバチが飛来しますが、このニホンミツバチで自然度をはかるという提唱があります。
・100平方メートルに100頭のミツバチ:自然度は申し分ない
・100平方メートルに数頭のミツバチ:自然度はかろうじて保たれている
・100平方メートルに0頭のミツバチ:自然度はゼロ。人が生活するのは危険
ということです。 |
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これはニホンミツバチの分蜂です。集団で移動しながら新しい営巣場所を探しているのです。写真はウメの古木の集団ですが、最終的に巣はサクラやエノキなどの樹の洞に見られます。
ニホンミツバチはセイヨウミツバチと違って、ほとんど刺すことがないおとなしい性格なので、私はこれを採集して飼育しています。蜂蜜をいただくわけでもなく、ただ観察しているだけです。 |
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■テントウムシの話題 |
捕食性天敵昆虫はクサカゲロウの仲間やアブの仲間などがありますが、今日はテントウムシの話を紹介しましょう。
テントウムシ類は植物食やカビを食べる仲間もありますが、ナミテントウはナナホシテントウとともにアブラムシを捕食する天敵として知られています。
原産地は日本を含む東アジアとされていますが、1990年代後期から欧米で農業害虫の生物的防除を目的として導入されました。
現地ではいわゆる侵入生物ですが、定着後急速にテントウムシ社会の優占種になりました。
導入したナミテントウが在来のナナホシテントウなどを食べてしまう、というのです。 |
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しかし、別の説明もあって、ナミテントウが侵入する以前からテントウムシ類が減っていたという報告もあります。ほぼ同時期にムギへの窒素肥料節減によってテントウムシの食料であるアブラムシが減少していたというのです。 |
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余談になりますが、ナミテントウの体色と斑紋の変異について調べてみました。体色が黒で赤い斑紋が2個のタイプが圧倒的に多いという結果になりました。 |
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それにしてもテントウムシは盛夏にはほとんど見られなくなりますね。夏にアブラムシがいなくなるからと考えられますが、どこでどうしているのか、今後観察したいと思います。 |
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■昆虫の集まる植栽 |
私はテントウムシが集まる庭木としてグミやムクゲを植えています。これらの樹はアブラムシが多くつくので、テントウムシ類も集まるというわけです。
バタフライブッシュと言って、ブットレア(クサフジウツギ)などのチョウの集まる植物を植えるのもいいですね。
写真は私の庭でのバタフライブッシュに来たチョウです。 |
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モンシロチョウ、ヒメアカタテハ、セセリチョウの仲間、アオスジアゲハです。ほかにクロメンガタスズメ、アサマイチモンジ、ハラビロカマキリも確認しました。 |
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都会の庭を、生態系を意識したものにしよう、身近な生物多様性を守るために個人でできることを実践しよう、という活動が一部ではじまっています。
先に紹介したイギリスの農地の“生態補償地”ですが、日本の農地では広域的な農地を除いて不要だとされています。その理由は、“日本の生態系は豊かだからその必要はないだろう”“栽培法や病害虫の防除方法を工夫するのが優先だ”ということだそうです。
生物多様性に恵まれた日本であることを意識して守って生きたいですね。 |
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