2013年  NPO法人自然観察大学
テーマ別観察会
街なかの雑草を観察する
2013年4月27日(土)
場所:都立木場公園
絶好の天気の中、ゴールデンウイーク初日の4月27日、雑草だけの観察会が実施されました。木場は名前のとおり木材の集積地だった場所で、木場公園もかつては東京湾の海の中でした。つまり陸生植物は埋め立てられた時から生育をスタートしたわけで、ある意味で雑草のためにあるような公園といえます。
担当講師の岩瀬徹先生、飯島和子先生は、観察会のテキスト「校庭の雑草」の著者でもあります。テキストの「校庭の雑草」は、自然観察を実践するために作られた野外観察図鑑ですから、たいへん充実した観察会となりました。
※「校庭の雑草」の紙面を利用しながらレポートさせていただきます。
ロゼット植物
踏まれやすいところでは、踏みつけに強いタンポポやオオバコのようなロゼット植物が多くなります。ロゼットから花茎を出すタイプで、葉は花茎にはなくて、根生葉しかありません。
ヘラオオバコ(左)とオオバコ(右)のロゼット
みんなでいろいろなロゼットを観察
ここではほかにウラジロチチコグサやハルジオン、ヒメジョオンのロゼットも見られます。コマツヨイグサもありますね。これらはロゼットから茎を出して、花をつけるタイプです。ハルジオンはもう花が咲いていますね。
『校庭の雑草』の巻頭にはいろいろなロゼットがまとめて載っていますが、なかなかきれいなものですね。
オオバコとヘラオオバコの花
オオバコとヘラオオバコの花は、多数の小さな花が集まって花序になっています。“下から咲き上がる”と表現されますが、ちょっとわかりにくいですね。ヘラオオバコのほうが大きくて観察しやすいので、よく見てみましょう。みなさんそれぞれ近くのヘラオオバコを見てください。
真ん中あたりの、花が咲いているように見える部分は、雄しべが出ている状態です。糸状のものが雄しべで、先に葯があります。
その先の部分に雌しべの出た花があります。トゲのようにツンツン出ているのが雌しべです。先端の雌しべの出てないところは、つぼみということですね。
下のほうの茶色っぽくなった部分は、花が終わって実になろうというところです。
この、花序の下の部分がはじめに出てきたところで、つぼみ⇒雌しべ期⇒雄しべ期⇒果実と成長してきたわけです。いま雌しべ期の花は、このあと雄しべが出るということです。ひとつずつの花はそれぞれ雌しべ期、雄しべ期があって、雌性先熟(しせいせんじゅく)になりますが、花序全体を見ると“下から咲き上がる”となるわけですね。これは自家受粉を避ける仕組みで、オオバコ以外にもいろいろな植物でみられます。反対に雄しべが先に出る雄性先熟というのもあります。
ヘラオオバコの花序
『校庭の雑草』付録のCDからのプリントを使ってオオバコの開花順序を解説する飯島先生
“オオバコには雄花と雌花がある”なんて書いてある本がありますが、これは勘違いですね。
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イネ科雑草
あまり人の入らないところ、つまり踏まれないところでは、イネ科の雑草が繁っています。イネ科の種類を見分けるのは難しいですが、ここではネズミムギが多いようですね。
イネ科植物は稈(かん)といって、葉鞘が花茎を包むようにして補強の役割をしています。稈のほかにも葉舌などのイネ科独特の用語がありますね。
花も独特なつくりをしています。小さくて見にくいですが、ネズミムギの花は比較的大きくて観察しやすいので、みなさんそれぞれルーペで見てみましょう。
『校庭の雑草』p43より。
イネ科の特徴
ネズミムギの花
たくさんの花が集まって穂になりますが、一つ一つの花は小花(しょうか)といいます。開いた小花を見ると、雄しべが見えますね。もとのほうにある羽毛のようなのが雌しべ、です。花を包む穎(えい)などの特別の用語がありますが、それは『校庭の雑草』などで、あとで確認しておいてください。
ここではほかにもカモジグサとイヌムギ、カラスムギが見られます。
つる性、寄りかかり性の雑草
このあたりは踏まれない場所で、フェンスや樹もあります。
いろいろなつる植物がありますね。ヒルガオ、ヘクソカズラ、それにヤブガラシも顔を出しています。つる植物は巻きつき方でいくつかのパターンに分けられます
『校庭の雑草』p28-29。ここに掲載された雑草の多くが実物で確認できました。
●巻きつきながら伸びる
ヒルガオ、ヘクソカズラは茎が巻きつくタイプです。
主軸が対象にからまりながら伸びていきます。そこで芽を出しているクズも巻きつき型ですね。
●巻きひげを伸ばす
ヤブガラシは巻きひげをからませるタイプです。
注意してみると、巻きひげは葉の反対側から出ているのがわかりますね。ヤブガラシの巻きひげは葉が変形したものとされています。
●とげが引っかかりながら伸びる
ヤエムグラは全身に下向きのとげがあって、このとげで引っかりながら伸びます。寄りかかるものがなくても、ヤエムグラどうしで立ち上がっています。
ところで、カラスノエンドウも巻きひげがありますが、複葉の先が巻きひげになっています。
カラスノエンドウは、何かに巻きつくというよりは仲間どうしがからまっています。巻きひげがありますが、寄りかかり型のようで、一人では直立できなくても、みんなで支え合って立ち上がっていました。
支えあって立ち上がっている
カラスノエンドウ
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広場で踏まれる雑草
広場の雑草はみんなに踏みつけられて、草刈りをされます。
ここではロゼット型のオオバコや、シロツメクサ、スズメノカタビラのように低い姿勢の雑草が見られます。ナズナも低い姿勢になっていますね。
ヘラオオバコはこの広場では見られませんが、オオバコほど葉や茎が丈夫ではないので、みんなの踏みつけに耐えられないのでしょうね。
ロゼットという形は、成長点が地表近くの低い位置にあるので、草刈りからも逃れやすくなっています。
ほかにこの観察会で話題になった雑草
<カタバミとオッタチカタバミ>
カタバミとオッタチカタバミは、同じ仲間でよく似ていますが、昔からあったカタバミは、ほふく茎をはわせて低く広がります。
このところ増えているオッタチカタバミは地上部は全体が直立していますが、地下茎を伸ばして広がります。
踏み込み禁止にされた植えマスや、植込みのそばではオッタチカタバミが観察できました。通路の近くで踏まれやすい場所ではカタバミが見られました。踏みつけの度合いで住み分けているんですね。
『校庭の雑草』p76より
<スズメノエンドウ>
カラスノエンドウに少し似ていますが、スズメノエンドウは全体が細くて小さく、花もごく小さいですね。果実も小さくて、中の種子はふつう2個です。
ノエンドウ(野豌豆)のなかまで、大きいのがカラスで小さいのがスズメということですね。この仲間ではもう一つ、カスマグサという雑草がよく見られます。カラスとスズメの間なので“カスマ”ということのようです。
『校庭の雑草』p71より
<コゴメイヌノフグリ>
コゴメイヌノフグリは比較的新しい帰化植物ですが、この木場公園では以前から見られ、5年前のここの観察会でも話題になりました。都内のあちこちで増えているようです。
同じゴマノハグサ科のフラサバソウによく似ていますが、前回2008年の観察レポートで見分け方を紹介しています。
<ミチタネツケバナ>
タネツケバナによく似ていますが、街なかに多いのはこのミチタネツケバナです。
タネツケバナよりも果実の枝が広がらずに立っているので、全体の姿は細身に見えます。
この果実は、さわると莢がはじけて種子を飛ばします。
『形とくらしの雑草図鑑』p41より
<カラクサナズナ>
アブラナ科の雑草ですが、独特な姿形をしています。においも独特で、インチンナズナという別名もあります。残念ながら直前に刈り取られ、わずかに残ったカラクサナズナを大切に観察しました。
写真の4個のがく片の間にある角状の白いのが花弁とされています。
※ ロゼット型や、つる性・寄りかかり性など、「校庭の雑草」に掲載されているとおり、環境によって生育する雑草のタイプが違ってくることが、フィールドで確認できました。生活型、生育型による分類の考え方が、雑草観察の現場に役立つことが実感できます。
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※ 飯島先生の最後のあいさつが印象的でした。
飯島:
今日の観察会のテキスト「校庭の雑草」では、私は現在の2009年発行のものから著者として参加させていただきました。
私はずっと以前から「校庭の雑草」をボロボロになるほど愛用していたので、共著者として声をかけていただいたときは驚きました。
「校庭の雑草」は、素晴らしい情報がたくさん詰まっています。今日家に帰ってから、いま観察したことを読み返して、そして今後とも末永く愛用していただければ嬉しいです。
今回のテキスト「校庭の雑草」
岩瀬徹、川名興、飯島和子 共著
出版社(全農教)の書籍紹介はこちら
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参加者アンケートでお寄せいただいた意見を紹介します。
雑草にもそれぞれ生育に適した環境があることがわかった。興味がわいた。
植物の生活型を意識しての観察ははじめて。とても有意義な時間だった。
踏みつけの度合いなど、環境によって生育する雑草が違うというのが実感できた。
タネツケバナ(ミチタネツケバナ)の種子を飛ばすのが体験できた。おもしろかった。
ヘラオオバコの受粉の話が印象に残った。
イネ科のことをわかりやすく解説いただき、実物を見ながらなのでよく理解できた。
実物を確認できるのがよい。季節で種類も姿も異なるので、冬も含めて毎月雑草の観察会をやると楽しいのでは? 先生方が忙しいので難しいでしょうね…
テキストの『校庭の雑草』に関して … 
「 構成がよい」「単なる分類の図鑑ではなく“雑草の形とくらし”から説明があるのでわかりやすい。」
※ 都合のよい回答だけを選んでいるわけではありません(笑)
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参加いただいたみなさんに喜んでいただき、何よりでした。またアンケートでは多くの方からていねいにご回答いただきました。ありがとうございました。
終了後はみなさん熱心に木場公園内の「帰化植物見本園」を興味深く観察しておられました。この植物園は帰化雑草の植物園ですから、旺盛な繁殖力で管理はさぞかし大変なことと思います。長年、地元の方の熱心なボランティアで管理されています。(感謝)
報告:自然観察大学 事務局0

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2013年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告
テーマ別観察会:江戸東京の歴史と自然
野鳥観察