自然観察大学
2013年2月17日 自然観察大学 室内講習会
2013年初の講習会、担当講師は昨年より話題沸騰の「狩蜂生態図鑑」を出版された田仲義弘先生と、独特の「川名節」で聴者を巻き込むトークが人気の川名先生。終始笑いの絶えない、軽快でにぎやかな講習会になりました。
なお今回、講習会開催前に、前回の薄葉重先生による「虫こぶ入門」の資料DVDが上映されました。虫こぶの利用の歴史やその生態、宝石のように美しい虫こぶなど、その不思議さがとても印象深く、今後も注意して観察したいと思わせる内容でした。
講演に熱が入る川名先生。
最前列にお座りだった皆さん、クイズに沢山答えて下さりありがとうございました!

狩蜂の話「狩蜂生態図鑑」出版記念講演
田仲 義弘 先生
狩蜂の行動を長年研究するとともに、写真に収めてきた。
インセクタリウム高崎賞を受賞。長年つとめた大妻中学高等学校を退職し、2012年から写真家・サイエンスライターとして新たな活動を開始。
【おもな著書】「狩蜂生態図鑑」「校庭の昆虫」(全国農村教育協会、共著を含む)、「昆虫たちは天才だ」(祥伝社)、「チョウのフェロモン キリンの快楽」(講談社+α文庫、共著)
●鳥と比較して狩蜂の説明を試みる
 狩蜂は「どのような生き方をしている生き物なのか」を、近頃興味を持たれている“鳥類”と比較してのお話しが第一部。体長5〜8mmの狩蜂がアブラムシを捕獲するシーンなどの動画と併せてご紹介いただきました。冒頭で「鳥と比較して狩蜂を説明」と発言された時、どのように比較するのか見当がつかず目をパチクリしてしまったのですが、話が進むにつれ、なるほど、と納得。「狩り」をテーマに鳥類と比較することで、狩蜂の特異さが際立つように感じました。第二部はより具体的に「狩蜂」の特徴・生態の紹介と、二部構成の講演です。
鳥の動画は、家の近所でiphoneを使って気軽にはじめたと田仲先生。
●異なる「狩り」の本質
 狩りは「エサ=食べ物」を手に入れるためですが、その本質は少々異なるようです。鳥は獲物を狩るとすぐに殺して食べてしまう、または雛に与えますが、狩蜂では、獲物は自分が食べるのではなく、子供(幼虫)のために保管するもの、でした。新鮮なまま保管する必要があったため、獲物を殺さず生かさずの毒(麻酔液)を持つようになった、というのが2008年の田仲先生の室内講習会でのお話しです。
 また、「子育て」は、鳥では巣作り→産卵→孵化と続き、親は常に雛にエサを与え(随時給餌)育てます。対して狩蜂では、巣作り→狩り→(エサを十分巣に溜めてから)産卵→孵化した幼虫がそのエサを食べて育つ、となります。狩蜂では、親が世話をするのは産卵まで。エサも最初にまとめて用意してしまいます(一括給餌)。
 「寄生」という切り口では、鳥ではカッコウ・ツツドリ・ジュウイチでみられる託卵(労働寄生)、狩蜂では幼虫が獲物を食べる寄生(捕食寄生)があります。同じ“寄生”でも寄生の対象が違います。

キアシトックリバチ
狩りの獲物は子供の食べ物。親は狩蜂の特徴である細い腰(細腰亜目)という身体のつくりに制限され固形物を食べることができない。
(「狩蜂生態図鑑」15頁)
オオフタオビドロバチ
aの部屋では、幼虫によってすべての獲物が食べられているが、bの部屋では食べられず獲物が新鮮さを保っている。
(「狩蜂生態図鑑」11頁)
 「狩りの方法」では同じように、上空から襲いかかるキクイタダキとシロシタイスカバチ、水中で狩りをするカワセミとアケボノクモバチなどのクモバチ類の紹介がありました。
 鳥類と狩蜂、比較の視点はまだ見つかりそうで、いろいろと考えるのは楽しそうでした。
 そしてこの“比較”のまとめは「冬鳥夏蜂の勧め」です。冬に鳥類を観察・撮影し、夏は狩蜂の観察・撮影をメインにする。蜂は花粉を媒介するので植物に興味がある人も蜂の観察も楽しめるはず。「狩蜂生態図鑑」という良い本も出ましたので、皆さんも蜂の観察をはじめるチャンスです、と田仲先生はまとめられました。
 
キクイタダキ
ホバリング飛行をしながらエサを探すことに気がついた田仲先生。思わぬところで撮影の練習ができる、と鳥の観察にも熱がはいるよう。
(田仲義弘)
シロシタイスカバチ
アブラムシを捕獲する際にホバリング飛行をするのでホバリングの撮影技術があるときれいな写真が撮れる確立があがる。キクイタダキ(鳥)もホバリングしながら狩りをするので、鳥の観察が蜂の観察、撮影の練習にもなる。
(「狩蜂生態図鑑」111頁)
●「狩蜂」の魅力
 “狩蜂”の特徴がだいぶ明確になってきたところで、第二部はより具体的に狩蜂の生態についての説明です。狩蜂は、それぞれの種で対象となる獲物、その運び方、巣の形など、特徴があるので個々の生態を観察するおもしろさと、“進化”の視点で思考するおもしろさがあるようです。ギゴシジガバチやルリジガバチの巣づくり(と撮影のコツ)を解説しながら「蜂を観ていると、産卵、巣作りが、もっと楽にできるハズなのに、同じ行動をくり返すのか不思議に思うことがある。例えば、ルリジガバチが獲物をくわえているのに腹から巣に入ろうと苦労している。キゴシジガバチのように頭から入れば簡単なのに、と思っているとそれを実行している近似種がちゃんといる」と田仲先生は話されていました。
 そして、より深く狩蜂の世界に没入しようとしたところで終わりの時間を迎えてしまいました。獲物の運搬方法、巣の形など、まだまだ講演の用意はしてあったようなのですがお聴きすることができず残念でした。
 蜂の観察は事務局からもお勧めいたします。そして観察内容や写真を自然観察大学のブログなどに投稿してみませんか。きっと、田仲先生からの反応があると思います!
(田仲先生、よろしくお願いいたします。事務局)
キゴシジガバチ
タナグモ、ヒメグモ、アシダカグモ、カニグモなどを狩る。狩蜂生態図鑑だけでなく、 クモの図鑑も欲しくなる。
(「狩蜂生態図鑑」104頁)
セナガアナバチ
ゴキブリを麻酔液で動けなくした後、頭部と体の神経を切断する。体の機能は生かしてあるので触覚を引っ張り、ゴキブリを歩かせて巣まで運ぶ。触角の邪魔な部分は切断してしまう。
(「狩蜂生態図鑑」37頁)
参加者の質問
前の方に座っていた女性から
Q:田仲先生はご自宅のベランダに竹筒を用意して、やって来る蜂を観察しているそうですが、ご近所から“蜂は危ない、危険だ”というような苦情はありませんか?
A:心配無用です。まず、毒の危険性から。講義で説明したとおり人に危害を与えるのは社会性の狩蜂のスズメバチやアシナガバチです。これらは巣を守るために強い毒を持ち攻撃に針を使用しますが、竹筒に巣をつくるような孤独性狩蜂は、最低限自分を守れれば良いので人に危害を与えるような毒は無く、普通人に攻撃をしたりしません。
 また、狩蜂は小さいのでご近所さんから観察する人間の姿は見えても蜂の姿は見えないと思います。ちなみに竹筒は“蜂宿”と呼んでいます。
 
ベランダで蜂宿の観察
(「狩蜂生態図鑑」173頁)
キアシナガバチ
社会性狩蜂。昆虫の肉団子をつくる。巣を守るため人を攻撃することもある
(「狩蜂生態図鑑」93頁)
「狩蜂入門図鑑」にサインをする田仲先生。
講演の後はサイン会となりました。ハチが飛ぶサインに皆さん、大喜びです。

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■自然観察入門 ―私の小さな発見(その2)
川名 興 先生
小・中学校の教育現場(千葉県富津市立飯野小学校校長など)で身近な生物の観察方法を考え、広めてきた。自然観察大学講師。動植物の民俗学的側面にも興味を持ち、現在でも意欲的な活動を続けている。気さくで飾らない話し振りに定評がある。
【おもな著書】「校庭の雑草」「校庭の樹木」などの校庭シリーズ,「雑草博士入門」(全国農村教育協会、共著)、「クモの合戦」(未来社、共著)、「日本貝類方言集」(未来社)
当レポートは、川名先生の話されたことをそのまま簡潔にまとめたものです。
田仲先生の講演レポートとは若干文体が異なりますがご了承ください。
●はじめに
 観察とは「くわしく見る」ということですので、近くでじっくり見なくてはいけない、と思っている人が多いのですが、実際は自動車の車窓からでも、屋敷林をはじめ、いろいろな観察を行うことが可能です。もちろん、運転中は注意しなくてはいけませんが…
 大事なことは、「自分の眼で観察すること」 世間で言われていること、本に書かれていることでも、実際に観察すると間違いだと分かることがあります。
●老いたら丸くなる
 左がヤマモモ、右がヒメユズリハの葉です。どちらも、ふちがギザギザしている葉と丸い葉があります。ギザギザしているのは若い葉、丸いのは成長した葉です。年を取ると丸くなるのは、人間と同じですね。
ヤマモモ
(川名 興)
ヒメユズリハ
(川名 興)
●ヒルザキツキミソウはいつ咲くか?
開花時間「校庭の雑草 2009 P148より抜粋)
 この写真の花は外来種のヒルザキツキミソウです。このような和名がついていますが、実際に昼に咲くのでしょうか。
 調べてみたところ、日の出頃に開花した花は花弁の開きを変えながら咲きつづけ、なんと翌日の日没まで咲き続けました。しかも、しばらく観察していると季節によって咲く時間がずれてきたのです。
 このように、和名が実際のようすを表していない植物があります。ここでもやはり、自分の眼で観察することの大切さが分かります。
●ハマボウフウは一年中葉があるか?
 ハマボウフウは一年中葉が見られるといわれていますが、実際はどうなのでしょうか。
 これについて調べてみたのがこれらの写真です。南房総市富浦町の、同じ場所で撮影しています。
 2月は小さな葉が出ており、5月になると白い花が咲いていて、10月になるとまた葉だけになります。
ハマボウフウ(2012年2月24日)
(川名 興)
(5月9日)
(川名 興)
(10月23日)
(川名 興)
   
(2013年1月17日)
(川名 興)
 そして翌年の1月に同じ場所で撮影をしたのがこちら。ごらんのとおり、全く葉が出ていませんね。このように、1年を通して定点観測を行い、撮影し続けることでしか発見できないものは多いです。
●ケヤキの芽吹きはいつか?
ケヤキ(2011年4月7日)
(川名 興)
ケヤキ(2012年4月7日)
(川名 興)
 「ケヤキの芽吹きは毎年揃っている」とよく言われますが、実際はどうでしょうか。この2枚の写真は、おととしと去年の同じ日に撮影したものです。ごらんのとおり、全くようすが異なっていますね。このように、毎年同じときに撮影することでわかる発見があります。今年も忘れないように撮影しないといけませんね。
●一茶の句のやせ蛙・芭蕉の句の蝉
 一茶の句の「やせ蛙」は、なんとアズマヒキガエルだそうです。産卵のためにこぞって狭い池に集まるようすを詠んだ句だといわれています。
 芭蕉の句の「蝉」は現在ではニイニイゼミだといわれていますが、歌人の斉藤茂吉ははじめアブラゼミだと主張していたそうで、研究者と大論争になったといいます。
●オオキンカメムシはどこで越冬するか?
葉の裏で越冬するオオキンカメムシ
(川名 興)
川名先生がビニール袋で持参したオオキンカメムシ
 写真のカメムシはオオキンカメムシで、毎年千葉県の大房岬で集団越冬しているのを観察することができます。普通は常緑樹の葉裏で越冬するといわれていますが、注意してみてみると、落葉樹の葉裏でも越冬しているのを観察することができます。ただ、越冬中に葉が落下してしまうので、その場合はあわてて別の木の葉裏に移ります。葉の裏にいるのは紫外線を避けるためで、風が弱く日当たりのよいところに集まるようです。
●まとめ
私がこれまで自然観察を行ってきて、大切だと思ったのは以下の4点です。
自分の眼で観察すること(ただし過信はしないこと)
「証拠になるな」と思った時は写真を撮ること
定点観測は有効な手段であるということ
書籍などほかの観察記録を参考にすること
これらを心がけながら、ぜひ皆さんも実践してみてください。
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川名先生の講演では、参加者へ容赦ない質問が飛び、指された皆さんは少しびっくりしながらも答えて下さいました。
ここにあげたもののほか、ヤドリギ、マサキ、オオシマザクラ、エノキ、アブラコウモリ、ウメノキゴケ、ジョロウグモ、アオバハゴロモ、ワダン、キケマンやハマウドなどの冬緑植物が話題に上がりました。またおすすめの書籍として、以下の本の紹介も行われました。
●都会でできる自然観察 〔動物編〕(唐沢孝一、 明治書院)
●町なかの花ごよみ鳥ごよみ (菅野 徹、草思社)
●サルたちの遺言(三戸サツ江、祥伝社)
●自然を楽しむ 自然と遊ぶ (飯島和子、文芸社)

2012-13年度 室内講習会
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