自然観察大学
2013年12月15日 自然観察大学 室内講習会
2013年の活動を締めくくる、第1回室内講習会が開催されました。担当講師は岩瀬名誉学長の後継者との呼び声高い植物担当・飯島和子先生と、昨年から話題沸騰の新刊「水辺の生きもの」著者の岩瀬徹先生、柄澤保彦先生、浅間茂先生、田中正彦先生。総勢5人の先生方による、中身の濃い講習会になりました。

満席の講習会場で開会あいさつをされる唐沢学長。横で恥ずかしそうにうつむいているのは事務局・脇本


私の自然観察農村で感じた自然
飯島和子 先生
東京湾岸埋立地をはじめ各地の植物群落の遷移や植物の特性を調べ、植物の教材化を試みてきた。近年、新たに農業をはじめるとともに実践的な動植物の観察を続けている。
【おもな著書】「校庭の雑草」「イネ・米・ごはん」(全国農村教育協会、共著)
飯島先生は、千葉県立農林総合研究センターを早期退職し、2010年より、北関東の某地にて田舎暮らしをはじめられました。10年程前まで使われていた農家に移り住み、屋敷や竹林・屋敷林の手入れ、稲に各種野菜・果樹(ブルーベリー)づくりを行われています。
飯島先生は、千葉県立衛生短期大学にお勤めの際は、校庭の一角を“植物群落遷移実験地”とし、約20年間その移り変わりをモニタリングされていました(「植物群落は動く」http://sizenkansatu.jp/09daigaku/index_s1.html/2009年室内講習会
農作業や地元農家の方々との交流を通して感じた“農村の自然”について、生態学の視点を交えつつ、お話しいただきました。
●稲作り・野菜作り
 何といっても主食が大切と、稲作りをすることを考えました。移り住んだ農家は10年程空き家だったので手入れが必要でしたが、水田は区画整理がなされ、稲作は行われていましたので、そのまま稲作りをはじめることができました。化学肥料や農薬は使わないで栽培する計画でしたので、堆肥や鶏糞を混ぜた土を入れて、栽培することにしました。水は、井戸から地中に埋設された導水管を経て、蛇口をひねるとポンプアップされるよう整備されています。代掻きなど機械による大掛かりな作業はご近所の農家の方が行う際に一緒にお願いし、手作業で行える作業―苗づくり、田植え、草刈、稲刈りなど―は自分たちで行っています。除草の回数は最低限にし、生えていても問題の無い場所や時期は、そのまま放置しました。そのためでしょうか、水田の周囲のある一角はチガヤ群落となり、それも高さのそろった良いチガヤらしく、近所のラッキョウ栽培農家さんが保存に使うと、刈り取っていかれました。どのように使われるのか聞きそびれてしまいましたので、今度聞いてみようと思います。
春。ネジを緩めるだけで水田に水がはいります
春。田植えの準備ができました
初夏。イネの花
 
秋。刈り取った稲を自然乾燥します
(以上4点 飯島和子)
“放置”というと手抜きのような印象を与えてしまいますが、“雑草による緑化”と考えると、また趣も変わってきます。チガヤが生えていることでセイタイカアワダチソウやススキが入り込むのを抑制する効果があります。周辺に自然と生えてくるカラスノエンドウは、ブルーベリー園等の冬季の緑化植物として利用できると考えています。農村では一年中、雑草と呼ばれる植物が種類を変えながら、何かしら咲いています。タネツケバナも、緑化にと考えて見ているのですが、異なる個体が一年中、花を咲かせているのが観察できました。
冬。カラスノエンドウとメマツヨイグサ
春。タネツケバナの花
 
春。ホトケノザ
農村では一年中、何か花が咲いています
(以上3点 飯島和子)
 畑作物もつくっています。畑は長らく耕作されていなかったため、タケ・ササが生える藪でしたので、ご近所の方にタケ・ササ除去を目的とした耕起をトラクターで行っていただきました。栽培作物はケール、ラッカセイ、ジャガイモ、サトイモ、カボチャ、トウガラシ、ダイコン、ハクサイ、ソラマメ等々と一年を通して何かしら収穫を楽しめるように植えていきました。鶏糞・牛糞を入れて土づくりを行い、農薬は無使用。そのためかケール(アブラナ科の野菜)には、一年中、様々な成長段階のモンシロチョウが見られます。その話を試験場の方にしたところ、実験用にと定期的に幼虫の採集や食草(えさ)栽培の依頼がくるようになりました。虫も人も寄ってくる畑です。
収穫した赤い皮のジャガイモ
いろいろな大きさのジャガイモ(男爵)
ケールについたモンシロチョウの幼虫
 
冬越し中のソラマメ
(以上4点 飯島和子)
●果樹栽培と屋敷林の手入
 ブルーベリー栽培では、加工・販売まで行っています。ブルーベリーは房状に果実をつけますが、熟するタイミングはバラバラのため、摘み取りには手間がかかります。収穫したブルーベリーは近所の道の駅に出荷しています。
 屋敷林は、スギ林とクヌギ林です。スギ林では間伐・下草刈り、クヌギ林では下草刈りを行いました。これらの作業は自分たちで行うのではなく、林業研修地として提供し、おおぜいの方々の参加によって整備を行っています。このような作業で林内が明るくなり、シュンラン、ヤマユリ、ヤマツツジ、ウグイスカグラ、マンリョウなどの林床植物の開花が見られるようになりました。これからもこれらの林床植物の生育に適したような管理を続け、植物の変化を見ていきたいと思います。
夏。色づき始めたブルーベリーの実
春。ブルーベリー園で見られる野生のキイチゴ
夏。屋敷林の林床で見られるヤマユリの花
 
間伐で林床が明るくなった屋敷林
(以上4点 飯島和子)
●農村 ― 最も人との関係の深い場所
 農作業を行っていると、植物だけではなく、様々な生き物が農村―水田や畑を利用していることを感じます。モンシロチョウにコバネイナゴやオンブバッタなどの昆虫類、水田ではマガモの群れや稲に作られたカヤネズミの巣などが見られます。セスジスズメの幼虫にサトイモの葉を齧られたり、ブルーベリー園にはイラガ類の幼虫が見られたり、と迷惑なお客様もいますが、それらの動植物が農村の四季を形作っているのだと思います。
こういった生物の記録は、農作業や栽培作物との関係も意識しながら残しています。いずれ、この場所を生き物の観察会や、農業体験の場として、人と自然が身近に触れ合える場にしたいと思っています。
農耕地とその周辺で見られる植物の種類
物置小屋に造られたツバメの巣
サトイモの葉を食べるセスジスズメの幼虫
用水路を泳ぐカモ類
 
イネに作られたカヤネズミの巣
(以上4点 飯島和子)

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■谷津の水辺の生きもの ―水辺の生きもの」刊行記念リレー講演
岩瀬 徹 先生
「水辺の生きもの」では植物を担当。千葉県立千葉高等学校教諭など長く生物教育の現場にあって、身近な植物の生活を通して自然を観察する方法を研究し、それを広めてきた。自然観察大学名誉学長。
柄澤保彦 先生
「水辺の生きもの」ではトンボを担当。元中学校教諭。千葉県野田市および流山市で教壇に立つ。
「千葉県動物誌(千葉県に産するトンボ)」分担執筆、「柏の自然発見」「野田市理科副教本」など地域版冊子の共同執筆多数。身近な自然の紹介につとめている。
浅間 茂 先生
「水辺の生きもの」ではカエルを担当。生き物と環境の関係を主テーマに水環境、クモの生態、ボルネオの生物を研究。近年、電子顕微鏡と紫外線・赤外線カメラを用いた独自の観察を開始している。
自然観察大学副学長。
田中正彦 先生
「水辺の生きもの」ではメダカを担当。千葉県の干潟や淡水の魚類を中心に、その分布や生態を研究。現在、NPO法人ちば環境情報センターやちば・谷津田フォーラムなどの活動で、谷津田・里山の保全に取り組んでいる。千葉県立千葉高等学校教諭。
北限のトビハゼを守る会代表、佐倉市緑の基金評議委員。
後半のプログラムは、「水辺の生きもの」著者陣による大変豪華なリレー講演。
それぞれの先生が担当された生きものについて話されたのですが、来場された皆様から「時間が短すぎる」とクレームをいただくほど充実した講演になりました。
●はじめに(岩瀬先生)
今回の講演は「水辺の生きもの」刊行記念リレー講演です。
これまで、「水辺」をテーマに取り上げた図書は、自然観察大学関連ではありませんでした。内容については企画の段階で二転三転しましたが、最終的には「身近な水辺」の象徴ともいえるトンボ・カエル・メダカの3種と、植物たちになりました。
これらの生きものが住む水辺は、身近であったがゆえに人間の影響を大きく受け、数を減らしています。人間が追いやってしまった生きものですが、だからこそまた戻ってきてほしいと強く思います。
●トンボに掴まえられて40年水辺からの報告(柄澤先生)
まず皆さんに「5876」「203」「82(76)」「53」という4つの数字を提示します。これはなんの数字と思いますか?
正解はトンボの種類数です。5876は世界のトンボの種類数、203は日本の種類数、82は千葉県内で観察された種類数で、うち6種は偶産種と言えるので実際の生息数は76種、そして最後の53は千葉県野田市内で確認された種類数です。私はこの野田市内で、40年にわたりトンボの観察・研究を続けてきました。
これらのトンボの多くは、野田市内にある谷津や低地の水辺で観察することができます。
(柄澤先生が谷津で観察したトンボの一部が紹介される)
ホソミオツネントンボ
サラサヤンマ
ヒメアカネ
シオヤトンボ
(以上4点 柄澤保彦)
さて、野田市船形というところに、かつての農業用水池のひとつ「はきだし沼」があります。
ここには、絶滅危惧 I B類に定められた「オオセスジイトトンボ」「オオモノサシトンボ」という2種のイトトンボが生息しています。15年前からここの環境保全活動と、これらのトンボの観察を続けてきました。
オオセスジイトトンボ(柄澤保彦)
オオモノサシトンボ(柄澤保彦)
この2種は、関東以北の環境の整った古い沼に局所的に生息しており、全国でも20か所ほどでしか観察されておらず、年々現存産地が減少している種です。
このはきだし沼でも、個体数が減っているのですが、その最大の原因だと考えられるのが、肉食の外来魚による捕食の影響です。
はじめにここに現れたのはオオクチバスでした。釣り人によって持ち込まれたのだと思われますが、成魚3個体が確認され、それらの駆除は2001年に完了しました。しかしその後、2009年にブルーギルの稚魚が確認されました。
ブルーギルが確認されてから、観察されたトンボの年間を通した種類数は20種台から10種台に激減し、またイトトンボ類に限れば10種から5種へと半減してしまいました。
前述の2種のトンボに関しても例外ではなく、オオモノサシトンボの観察数は激減、オオセスジイトトンボにいたっては絶滅の可能性すらあります。
オオセスジイトトンボは他のイトトンボを捕食する傾向が強いのですが、ブルーギルによってそれらのイトトンボのヤゴが捕食されてしまうと餌が少なくなって、直接的な食害とのダブルパンチを受けることになり、絶滅の危機に瀕することになってしまったのだと考えられます。
いったん侵入されてしまうと水棲生物の駆除はなかなか難しく、現在もブルーギルとのエンドレスの戦いが続いています。(2013年11月末までの累積ブルーギル駆除数、3543個体)
オオイトトンボを捕食するオオセスジイトトンボ(柄澤保彦)
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●カエルの生活(浅間先生)
自然観察大学の野外観察会場になっている千葉県我孫子市の岡発戸・都部谷津など、千葉県の谷津には数多くのカエルが生息しています。
特によく見かけるものはアカガエル、アマガエル、そしてトウキョウダルマガエルです。
カエルは水辺や陸、水中などいろいろな場所に生息していますが、産卵場所はいずれも水辺です。
一番身近に見られるアマガエルは、足の指に吸盤があり、木に登ることができます。しかし、大半のカエルには吸盤がありません。彼らには面白い特徴があり、なんとお腹から水を飲むことができます。飲んだ水は膀胱にためておくことができます。
トウキョウダルマガエル(浅間茂)
トウキョウダルマガエルは水辺に見られるカエルで、水田や周辺の用水路に生息し、産卵はおもに水田で行います。
このトウキョウダルマガエルが観察できる水田が年々減ってきています。
稲刈りと同時に、隠れ場を失ったカエルを狙ってサギなどの鳥が集まってきます。カエルはすばやく水田から用水路に移動します。トウキョウダルマガエルの足には吸盤がなく、壁面がコンクリートの用水路では飛び込んだら、上に這い上がることができません。そのため、土水路がないと彼らは生き延びることができないのです。
他には、ヒキガエルもよく観察されます。
彼らの行動で有名なのが、春先に見られる生殖活動「ガマ合戦」です。このときの雄雌比を観測したところ、多くの場合〈雄:雌=3:1〉となっていました。ヒキガエルの雄は1〜2年で成体になるのに対し、雌は3年ほどかかること、また雌は産卵すればその場から離れますが、雄は一週間くらいその場にいることがその要因と思われます。
ガマ合戦の時の雄ガエルは必死で雌を捕まえます。その抱える力はとても強く、間違えてウシガエルの雌に抱きついた場合、ウシガエルは声もだせず、圧死してしまいます。
ガマ合戦のようす(浅間茂)
谷津田にはシュレーゲルアオガエルも生息しています。
一般的にアオガエル類は、木の上に泡で包まれた卵を産むのですが、シュレーゲルアオガエルは特異的に、水田の畔に穴を利用してそこに産卵します。
また普通、カエルの卵は紫外線から保護するためメラニン色素によって黒い色がついていますが、アオガエル類は卵を泡で包んで保護しているので卵の色は薄い黄色みがかった白色です。
モリアオガエル(阿部さと子)
さて、私はよくボルネオ島に生物観察に行きます。
日本の2倍の広さをもつボルネオではなんと148種類ものカエルが確認されており、またそのうち89種類は固有種です。
動物学者ウォーレスが名付けた有名なカエルで、ウォーレストビガエルという「空飛ぶカエル」がいます。飛ぶといっても、水かきを広げて滑空するといった程度で、落下に近いものです。高木の間を移動するために、トビガエルの仲間は指の間に皮膜が発達したのでしょう。
またアジアミドリガエルという、トウキョウダルマガエルに似ているカエルが現地の水田で観察できました。
アシナシイモリの一種(浅間茂)
カエルではないのですが、アシナシイモリという変わった両生類を観察することもできました。彼らは足を持たず、見た感じはミミズのようですが、眼を持っています。
両生類は有尾目(サンショウウオ類)、無尾目(カエル類)、それとこのアシナシイモリ目の3つに大きく分類することができます。このアシナシイモリは熱帯雨林でしか見られません。
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●千葉県淡水魚事情政令市千葉市にメダカが群れるわけ―(田中先生)
千葉市は東京からほど近い政令指定都市ですが、たくさんの里山や谷津があり、そこには多くの貴重な生きものたちが生息しています。
特に淡水魚に関して言えば、谷津田を中心に絶滅危惧種の魚類が多く観察されています。なぜこのように多くの生きものたちが観察できるのでしょうか。
谷津田とは、谷地形の底を水田に活用したもので、その湿地植生や周囲の斜面林などが一体となって豊かな自然を形成しています。千葉市や佐倉市の調査では、スナヤツメやホトケドジョウ、そしてメダカといった絶滅危惧種のレッドリスト入りしている魚類が、谷津田とそれに続く小川で数多く観察されました。
谷津田に泳ぐメダカの群れ(田中正彦)
谷津田、枝沢が多く残されているからこそ、貴重な淡水魚が生息し続けられるのだと言えるでしょう。
さて、私は1999年から、市民参加型のメダカの分布調査を行っています。いつでも、どこでも、だれでも参加できるカードを使った調査で、これを通して市民が身近な水環境に関心を持ち、メダカの住める環境を保全するきっかけとなることを主目的としています。なお、他種と間違えている可能性があるところは、確認のための追跡調査を行ってより正確な情報を集めるようにしています。
この調査によって、千葉県においてメダカは南房総や東京隣接地域以外の県内各地に広く分布し、とくに千葉市や北総地域の谷津田や土水路に多く生息していることが分かりました。
メダカの住む下大和田の谷津田(田中正彦)
メダカの多い水路には、以下の特徴がありました。
・土の護岸、底質が泥または砂泥。
・水深が浅く、緩やかな流れ。
・挺水植物が茂っているところがある。
・生活排水や農薬の流入が少ない。
・水温変化が少ない湧水が安定的に供給。
・水田との間に段差がない。
・隣接する水田で米づくりが行われていて、泥上げや草刈りなどの水路管理がきちんと行われている。
現在、これらの特徴を持つメダカの生息地の一つ、千葉市緑区の下大和田の谷津田で「谷津田プレイランドプロジェクト」という活動を行っています。米作りや伝承の遊び、自然体験を通して、谷津田・里山の保全について考えるという趣旨のイベントで、2000年6月から毎月行い、多くの市民、親子にご参加いただいています。
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講演して下さった講師の皆さん、本当にありがとうございました。
アンケートで「水辺の生きもの」テーマ別観察会を開催してほしい、という声をいくつかいただきました。今後の課題とさせていただきます。
次回の室内講習会は2014年2月16日(日)を予定しています。
レポーター 自然観察大学事務局
鈴木奈美子
脇本 哲朗
※「水辺の生きもの」の正誤表ができましたので、HPにて公開しております。ご参照ください。

2013-14年度 室内講習会
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