自然観察大学
2014年2月16日 自然観察大学 室内講習会
2014年の活動初めとなる第2回室内講習会が開催されました。担当講師は新刊「植物生態観察図鑑 おどろき編」著者の本多郁夫先生と、シリアゲムシの専門家である鈴木信夫先生。ユニークで笑い声の絶えない講習会になりました。

夕日の差し込む中、本多先生の講演に聞き入る参加者の皆さん


知るほどに楽しい植物観察
「植物生態観察図鑑 おどろき編」発刊記念―
本多郁夫 先生
植物観察の結果を、ホームページ『石川の植物』に掲載して15年。観察を進めるとともに、新たな発見と疑問の出現に心やすまることがない毎日を過ごす。その感動と疑問を広く知っていただこうと出版活動を続けている。元・石川県立自然史資料館館長、石川植物の会理事、石川県地域植物研究会幹事。
【おもな著書】「知るほどに楽しい植物観察図鑑」(橋本確文堂)など多数。
『石川の植物』ホームページ→http://w2222.nsk.ne.jp/~mizuaoi/

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■実に面白い!?シリアゲムシの話
鈴木信夫 先生
日本女子体育大学教授(昆虫学)、日本昆虫学会・日本節足動物発生学会会員。理学博士。小金井市で子供たちの自然観察教室の指導スタッフとしても活動を続けている。
【おもな著書】「校庭の昆虫」(全国農村教育協会、共著)、「昆虫発生学 上」(培風館、シリアゲムシ目分担)、「フィールドガイドシリーズ 昆虫ウォッチング」(平凡社、ヤマトシリアゲ分担)
2本目の講演は、野外観察会でもおなじみの鈴木信夫先生によるシリアゲムシの話。普段見過ごされがちな昆虫ですが、そのユニークな生態と、それ以上にユニークな鈴木先生のトークで大盛り上がりの1時間でした。
●シリアゲムシとは?
シリアゲムシはシリアゲムシ目に含まれる完全変態の昆虫で、漢字では擧尾虫と表記されます。腹部の先端が前方に向かって反り返っており、サソリ(クモ綱サソリ目)やハサミムシ(ハサミムシ目)と近い仲間であると誤解されることがあります。
サソリに似ているシリアゲムシ(鈴木信夫)
世界では9科500種ほど生息しており、世界中に幅広く分布しています。日本では現在のところ4科47種が確認されており、シリアゲムシ科のほかにシリアゲモドキ科、ガガンボモドキ科、ユキシリアゲムシ科が生息しています。
このうちユキシリアゲムシ科は近年になるまで日本では発見されていませんでした。外国のユキシリアゲムシ科の種はその名の通り冬に成虫を観察できるのですが、日本のエゾユキシリアゲは夏に成虫が出現するので、見つけられなかったのかもしれません。
プライアシリアゲ(鈴木信夫)
日本において代表的な種はシリアゲムシ科のヤマトシリアゲで、本州、四国、九州に生息しています。この種のうち、標高1000m以下の低地にすむものは年に2回成虫が羽化する(年2化)のですが、春〜初夏に見られる1化目の成虫は黒っぽい色をしているのに対して、盛夏に見られる2化目の成虫はべっこう色をしています。かつては「ベッコウシリアゲ」という別種だと思われていましたが、研究により同種であることが判明しました。なお、標高1000m以上の高地では年1化のため、べっこう色の個体は観察されません。
●シリアゲムシの配偶行動
シリアゲムシ目の多くの種で、交尾の際に独特の行動が見られます。この配偶行動は種によって多少異なっており、フェロモンを放出してメスを寄せた後、翅を振動させて合図を出し、交尾をしてから雌が食餌をするもの(ヤマトシリアゲ)や、雌が食餌する前に雄の出した唾液の玉を食べるもの(プライアシリアゲ)、雄がまず唾液の玉を出してからフェロモンを放出して雌を呼び寄せるもの(キシタトゲシリアゲ)など、様々なパターンが観察されています。
交尾するヤマトシリアゲ(鈴木信夫)
しかししばしば誤解されているのですが、シリアゲムシの雄はプレゼントする餌を捕まえてから雌を探しに行くのではなく、餌場でプレゼントを確保し、その場でフェロモンを放出して雌を呼び寄せます。また、フェロモン放出や婚姻贈呈なしの交尾も行われます。特に餌が多い餌場だと、プレゼントをする必要がなくなるので配偶行動にも変化がみられるようです。
この雄から雌へのプレゼントに関して、アメリカ産のガガンボモドキ科では面白い観察結果が報告されています。
雌はプレゼント餌の大きさにこだわるので、雄は大きい餌をプレゼントとして選びます。また雌はプレゼントの値踏みを行い、雄から渡されたプレゼントを一度受け取っても、大きさや味が気に入らないと判断したときは、交尾をしないか5分以内に交尾を打ち切って去ってしまいます。
さらに、雌が無事に餌を気に入り、交尾が始まっても20分ほど経つと雄から交尾をやめてしまい、時には雌に渡したプレゼントを奪い返してしまいます。この奪ったプレゼントは別の雌へのプレゼントとして再利用されます。研究の結果、交尾を開始して5分ほどでは雌に渡された精子がほぼ0で、その後は時間に比例して増加していき、20分程度経過するとそれ以上は精子の数が増えていませんでした。そのためにこのような駆け引きが行われるようです。
また、雌のふりをした雄がプレゼントをだまし取る例も観察されています。
●シリアゲムシよもやま話
スカシシリアゲモドキという種は低地から高山まで広く観察されていますが、高山では翅が長いもの(長翅型)と短いもの(短翅型)のどちらもが見られます。また、体色や翅斑においても様々なパターンのものが観察され、形態的に非常に多様なものになっています。
このうち短翅型については、山塊ごとに遺伝的な隔離が見られ、それぞれの環境に適応して平行進化を遂げたと考えられます。とくに高標高域では低温、強風、強い紫外線といった厳しい環境に適応した「エコモルフ」という個体が観察されており、今後の研究の課題となっています。
シバカワトゲシリアゲという種は、1913年に新種として記載されました。このとき、採集した荒川氏に献名する形で「Panorpa arakavae」という学名が付けられました。
しかし実は、採取したのは「荒川氏」ではなく「芝川氏」で、達筆のせいか悪筆のせいか「芝川」が「荒川」と誤解されて伝わってしまったようなのです。
そのためせめて和名だけでも芝川氏に献名しよう、ということで「シバカワトゲシリアゲ」と命名されたといわれています。
シバカワトゲシリアゲ(鈴木信夫)
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講演して下さった講師の皆さん、本当にありがとうございました。
なお、講演の合間に、まもなく完成予定の新刊「ミミズ図鑑」著者の石塚小太郎先生より本の紹介がありました。日本ではじめての本格的なミミズの図鑑であり、情熱にあふれた熱いプレゼンに会場は圧倒されっぱなし。2014-2015年度の室内講習会での講演も予定されています。
発売が待ち遠しいですね!
松岡修造氏よりもアツい!? 石塚小太郎先生
 
レポーター 自然観察大学事務局
鈴木奈美子
脇本 哲朗

2013-14年 室内講習会
第1回の報告 第2回の報告   ページトップに戻る↑