自然観察大学
2014年12月14日 自然観察大学 室内講習会
2014年の活動を締めくくる第1回室内講習会が開催されました。担当講師はわかりやすい解説に定評のある、シダの専門家・村田先生と、話題沸騰の「ミミズ図鑑」著者の石塚小太郎先生。とても興味深い話を聞くことができました。

開会の挨拶をされる唐沢学長。会場は超満員で、立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。


シダって!新しい分類―
村田威夫 先生
自然観察大学講師。長年にわたって千葉県のシダ植物相の研究をしている。生物教師として長い間教育現場に携わってきた。シダ植物に限らず植物全般について、観察会でのていねいでわかりやすい解説には定評がある。
【おもな著書】「野外観察ハンドブック/シダ植物」(全国農村教育協会)
1本目の講演は、シダ植物の分類がテーマ。普段はあまり注目されない存在ですが、分類学の進歩によって、現在いろいろと話題になっているそうです。
●そもそも、シダって何?
シダ植物は植物の中ではやや地味な存在ですが、いったいどのような植物でしょうか。
ちょっと聞いてみましょう、シダっていったいなんでしょうか?
シダの形態「野外観察ハンドブック/シダ植物」より引用)
[前列の参加者のみなさんに問いかける]
ちょっと意地悪な質問ですね。
たとえば「シダとコケはどう違いますか?」なら、少し答えやすいかもしれません。
…そうですね、維管束があるのがシダですね。それ以外には、卵や精子を作る配偶体が発達しているのがコケ、胞子を作る胞子体が発達し、配偶体(前葉体)が、小さいが独立生活しているのがシダ、という区別もあります。
「シダと種子植物の違いは?」ならどうでしょう。
…そうですね、種子を作ることや、配偶体が発達しないで胞子体に寄生しているのが種子植物です。
このように、他の植物との違いであれば分かりやすいのですが、シダって何だろう? という質問に答えるのは非常に難しいですね。現在その分類に、大きな変更が起こっています。
●シダの分類について
シダ植物は葉の形質で大きく4つに分類されていました。
根も葉もないマツバランなどの無葉綱(マツバラン綱)、小さくて、1本の葉脈のみの葉をつける小葉綱(ヒカゲノカズラ綱)、トクサ、スギナに見られるような特殊な小葉的な葉を持つ楔葉綱(トクサ綱)、そして大葉を持つシダ綱(大葉シダ綱)です。
(※注:シダにおける小葉は、種子植物の複葉に関連した小葉とは違う用語)
マツバラン(村田威夫)
シダ植物の図鑑では最初に記載されるのが無葉綱でした。マツバランは、シルル紀〜デボン紀に生息していたとされる化石植物「リニア」に形態が似ていたため、シダ植物の中で最も原始的な仲間だとされていました。マツバランは根も葉もない簡単な形態です。この形態から、簡単な構造から複雑化するようにシダ植物は進化したと考えました。小葉と大葉の進化の違いは以下のように考えられていました。
1.茎の突起状の部分に維管束が入り込み、1本の葉脈を持つ小葉を持つ植物に進化した。
2.茎の二叉分枝した部分が扁平化や癒合化して複雑な葉脈を持つ大葉ができ、多くのシダ植物が進化した。
最近の分類学はDNAの研究結果を取り入れた分子系統分類が盛んになり、新しい見解が出されてきています。
小葉類と大葉類との間にDNAに大きな違いがあることがわかりました。維管束植物は小葉をもつ植物(小葉類)と大葉を持つ植物(大葉類)に分けられるようになりました。
小葉類にはヒカゲノカズラ綱のみが分類されました。大葉類にはその他のシダ植物と、そこから進化したと考えられる裸子植物や被子植物といった種子植物も含まれることになりました。
無葉類のマツバランは、どうなったのでしょうか。
DNAの類似性から、シダ綱の真嚢シダとして分類されていたハナヤスリ類に近いことがわかりました。マツバランの体が、原始的な構造を持っていると言う考えではなく、かつて持っていた複雑な構造が単純化したものと考えられるようになりました。
ハナヤスリ類との形質の類似性は、次のような点が上げられます。
1.多くのシダ植物の配偶体が扁平でハート型をしており光合成を行っているのに、短い棒状の形をしていて、地中性で、栄養を菌類に頼っている。
2.根が分枝せずに、根毛がない。


これからの分類学の大きな課題は、DNAの研究からいろいろな形質について再検討(評価の見直し)を行っていくことです。
コヒロハハナヤスリ(村田威夫)
●シダとワラビの違いは?
ヒメシダ(村田威夫)
ヒメワラビ(村田威夫)
さて、野外で観察会を行っていると、よくシダの名前を聞かれます。
その時に「これは○○ワラビですよ」と言うと、「ワラビの仲間ですか! では食べられるのですか?」と聞かれることがしばしばあります。
語尾に「〜ワラビ」とつく種はたくさんあり、その中には食用となるワラビと関係の薄いものも多く含まれています。
語尾に「〜ワラビ」とつくものと「〜シダ」とつくもの、その違いについて、葉身の長さと幅の関係を調べてみました。
まず、「〜ワラビ」56種の、葉身の幅を1としたときの長さの平均値を調べてみたところ、1.34でした。つまり、長さ幅の比は1:1に近いということが分かります。
対して「〜シダ」の方はというと、平均値は2.73、最大値は16.67にもなりました。
つまり「〜ワラビ」は幅の広い葉を持ったものに付けられる傾向があり、「〜シダ」は細長い葉を持つものに付けられる傾向があります。
中国ではシダ植物の語尾に「蕨」の漢字がついています。
●質疑応答
Q.シダの同定のポイントを教えてほしい
A.一番確実なのは、シダを知っている人と一緒に探索をすることです。シダの判別・同定はとても難しく、図鑑の写真だけではわからないことも多いです。
もし、どうしても写真で判別しなくてはならないときは、葉の裏の胞子嚢群の形、包膜の有無や形などが判別ポイントになるので、そこを撮影しておくといいでしょう。
Q.植物の遷移の流れの中で、シダはどの位置にあるのか
A.とてもいい質問です。植物が遷移していく中で、まず日当たりのよい場所を好む陽性の植物が生え、その後徐々に陰性の植物に置き換わっていくことはご存じだと思いますが、実はシダ植物にも、種によって、光に対する適応の仕方が違います。草原に生えるもの、陽樹林のような比較的明るい林床に生えるもの、陰樹林のような暗い林床に生えるものがあります。ご自身で観察される際に、そのことに注意していると面白い記録が得られるかもしれません。

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■ミミズの願い もっと私を知って!
『ミミズ図鑑』刊行記念―      
石塚小太郎 先生
成蹊大学理工学部講師。高校生物教師の傍らでミミズ研究に取り組み、学位を取得(農学博士)。2004年、日本土壌動物学会奨励賞を受賞。2014年、皆越ようせい氏とともに『ミミズ図鑑』を刊行。
現在もミミズの研究と普及啓蒙活動に情熱を燃やし続けている。
書籍紹介はこちら
2本目は、「ミミズに関心を持ってどのような動物であるかを知って欲しい!」という石塚先生の熱い思いのこもった講演です。
●ミミズは大地を耕して、大地を潤し、生態系を支える
ミミズといえば、皆さんが思い浮かべるのは、「土をきれいにする」という言葉でしょう。それは事実だと言われています。では、一体その仕組みはどのようなものなのでしょうか。
●土壌の団粒構造はミミズによってつくられる
ミミズは土を摂食します。そして、その土がミミズの腸を通過し、排泄されるときには、糞粒と呼ばれる小さな粒状のものとなります。これに土壌粒子や有機物が結合してできたものが団粒とも呼ばれています。団粒構造をもった土壌は、通気性や排水性に優れると同時に保水性も高まります。土壌の団粒構造は植物の生育に欠かすことができないものなのです。
ミミズは土壌環境の改善に寄与し、生態系に多大な貢献をしていると言えるでしょう。
土を摂食するミミズ(『ミミズ図鑑』p.139)
摂食した土は約1日で腸を通過し排泄されます。
大地の土はみなミミズのお腹を通過したものなのです。つまり、ミミズの糞が大地を覆っているのです。右図では、糞粒が地表一面に広がっているのが分かります。細かい粒状のものが、ミミズの糞粒です。
 
糞粒を排泄するミミズ(皆越ようせい)
ミミズの糞粒で覆われた地表面(石塚小太郎)
●ミミズには多様な種がある
ミミズは単に“ミミズ”としか呼ばれていません。多くの土壌動物研究者でさえ、そのようにしかミミズを呼ぶことができなかったのです。ですが、ミミズは実際には、多くの種が存在します。ここでは、『ミミズ図鑑』に掲載されている約60種の中から、5種を紹介いたします。色だけでなく、大きさ(体長、写真注釈参照)も様々であることがお分かりいただけると思います。
ヒトツモンミミズ
体長:90〜250mm
体色:茶色

(『ミミズ図鑑』p.42)
シーボルトミミズ
体長:240〜400mm
体色:青藍色

(『ミミズ図鑑』p..54)
タンショクミミズ
体長:80〜100mm
体色:乳白色

(『ミミズ図鑑』p..91)
ヤンバルオオフトミミズ
体長:210〜450mm
体色:黒紫褐色

(『ミミズ図鑑』p..128)

クソミミズ
体長:70〜130mm
体色:緑茶褐色

(『ミミズ図鑑』p..81)
種の分類に必要な形質は、ミミズの腹面にあるので、捕まえたら、ぜひ裏返してみて下さい。
ミミズの標本:
並べてみると、体色や大きさが様々であることにびっくり。

(石塚小太郎)
●ミミズの卵は頭から生まれる
驚くべきことに、ミミズは頭部から産卵(ミミズでは放卵という)するのです。その過程を概略的に紹介します。
まず、筒状の卵包膜と呼ばれるものが、環帯の体表上に形成されます。卵包膜はその中に卵を抱えたまま、前方(口のある側)に移動していきます(→)。
ミミズの体表上を口側に移動していく卵包膜
(『ミミズ図鑑』p.142)
卵包膜が口部まで移動すると、そのまま口部から離れ、産卵(放卵という)に至ります。ミミズの体から離れたもの(放卵されたもの)は、卵包と呼んでいます(→)。
ミミズの産卵(放卵という)の様子
(『ミミズ図鑑』p.142)
『ミミズ図鑑』の掲載写真を数多く撮影された皆越ようせい氏から、講演の最後に際し、メッセージをいただきました。
今回の講演ならびに『ミミズ図鑑』で得た知識を、次代を担う子供たちと共に、ミミズのいる実際の現場で活用して、ミミズに関する知識を広めていってほしいと思います。
石塚先生は、ミミズの新種を数多く記載し、フトミミズ属の分類体系を構築したことで、土壌動物学会より研究奨励賞(2004年)を受賞されています。
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講演して下さった講師の皆さん、そしてご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
よく見るとかわいい?ミミズの口器
次回は2015年2月15日(日)開催予定の第2回室内講習会です。
テーマは
1「昆虫の形とくらし ―口器―」(山崎秀雄先生)
2「日本ファーブル史 ―昆虫記は日本に何をもたらしたか―」(大野正男先生)
の予定です。奮ってのご参加をお待ちしております。
 
レポーター 自然観察大学事務局
脇本 哲朗
池上 陽介

2014-15年 室内講習会
第1回の報告 第2回の報告   ページトップに戻る↑