■幼虫の誘惑―「癒し」と「驚き」に満ちた世界―
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川邊透さん
虫系ナチュラリスト。Webプロデューサー。大人気サイト「昆虫エクスプローラ(http://www.insects.jp/)」管理人。
自然の中にいると機嫌がよろしく、周囲に虫などが飛びまわっていると最高な気分になる。外見はボヤーとしているが、頭の中ではいつもへんなことを考えている。 |
2014年7月、見た目から虫の名前がわかる画期的な図鑑
「昆虫探検(エクスプローラ)図鑑1600」を刊行した。 |
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■はじめに |
昆虫のライフサイクルにおける成虫のおもな役割は繁殖と拡散であり、幼虫の役割はエネルギー蓄積です。この違いから、成虫には、目につきやすい、逃げやすい、出現時期が限られる、といった特徴があり、幼虫には逆に、目につきにくい、逃げにくい、出現時期が長い、といった特徴があります。つまり、幼虫は、発見するのは難しいですが、コツさえわかっていれば成虫よりも観察しやすい対象と言えます。
幼虫の魅力には、愛らしさ、変化と多様性、生き抜くための工夫、キャラクター性などがありますが、これらを十分に楽しむための二本柱は、フィールドワークと飼育です。 |
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■観察のコツ |
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■「可憐」に惑う |
「可憐」とは「可愛らしくいじらしく、守ってやりたくなるような気持ちを起こさせる」こと。まさに、幼虫たちのためにあるような言葉です。 |
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「可憐」な幼虫の代表格であるハバチの仲間の幼虫は、チョウやガの幼虫と似ていますが、腹脚が多い(5対以上)ことやつぶらな1対の単眼をもつことで見分けられます。 |
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コンボウハバチ科の一種の幼虫 |
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近年、南方系のクロコノマチョウが増えており、ススキなどに残された食痕も目立つので、幼虫が比較的簡単に見つけられます。
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頭部にウサギの耳のような突起をもったクロコノマチョウの幼虫 |
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冬は昆虫を見つけるのが難しい季節ですが、川の中では、春〜初夏の羽化に備えて水生昆虫の幼虫たちが人知れずすくすく育っています。 |
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水底の砂に潜って育つモンカゲロウの幼虫は、どこかモグラに似た風貌 |
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フィールドで見つけるのが難しいジャノメチョウの仲間の幼虫の観察は、母蝶を採集して採卵し、孵化した幼虫を飼育するのが近道です。 |
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あどけない顔を並べるサトキマダラヒカゲの若齢幼虫(飼育個体) |
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■「奇天烈」に惑う |
奇妙・珍妙な姿に驚かされるのも、幼虫観察の大きな魅力です。
アマゾンの奥地などに行かなくても、不思議な姿の幼虫たちを身近な自然でたくさん観察できるのは素晴らしいことです。 |
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おどけたヘビにしか見えないオオゴマダラエダシャクの幼虫 |
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長い胸脚をもつシャチホコガの幼虫 |
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自ら排泄した山盛りの糞を背負うユリクビナガハムシの幼虫 |
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歩く爪楊枝、ナナフシの幼虫 |
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過去に自分が脱ぎ捨ててきた古い頭部殻でトーテムポールを作るリンゴコブガの幼虫(飼育個体) |
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ナナホシテントウに似せた真っ赤な頭部をもつアオバセセリの幼虫(飼育個体) |
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■「匠の技」に惑う |
表皮が柔らかく、移動能力も低く、か弱い生き物の代表である幼虫たちは、鳥や寄生性昆虫といった天敵から身を守るため、擬態などの巧みな技を身につけています。進化の不思議に興じるためには、まずは、その驚くべき技の数々を見破らなければなりません。
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絶妙のポーズで獣糞になり切るギンモンカギバの幼虫 |
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ヨモギの花が咲く頃にだけ現れるハイイロセダカモクメの幼虫(どこにいるかわかりますか?) |
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アリになりすますホソヘリカメムシの幼虫 |
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天敵に自分の居場所を悟られないよう排泄した糞を遠くに飛ばそうとするヒメヤママユの幼虫 |
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ヒサカキの葉を絶妙の形に裁断し、安眠のための蛹室を作るニジオビベニアツバの幼虫(飼育個体) |
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■危険な幼虫 |
フィールドワークにあたっては、危険な幼虫についての知識をもっておくことが大切です。とくに、ケムシには、イラガ科、カレハガ科、マダラガ科、ドクガ科など毒毛をもつものが多いので、不用意に触らないよう注意が必要です。
しかし、ドクガ科の中にもリンゴドクガなど毒をもたないものがたくさんいますし、リンゴケンモン(ヤガ科)、セグロシャチホコ(シャチホコガ科)など無毒の幼虫が、有毒の幼虫に姿を似せていることがあるので騙されないようにしましょう。 |
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危険な毒毛をもつモンシロドクガの幼虫 |
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モンシロドクガにそっくりだが無毒のリンゴケンモンの幼虫 |
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■幼虫飼育の簡単レシピ |
チョウやガの幼虫は、比較的簡単に飼育することができます。いろいろ工夫をすると、手間、お金、場所といったコストを最小限に抑えながら、たくさんの幼虫を飼うことが可能です。
採集や飼育に必要な道具は、100円ショップなどで手軽に揃えることができます。昆虫観察のために開発された商品はほとんどありませんが、食品保存用のタッパーウエアも、園芸用の鉢底ネットも、アイデア次第で立派な飼育グッズに生まれかわります。
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幼虫の成長記録は詳細に書き残すに越したことはないが、飼育ケースにビニールテープを貼り、それに写真撮影日などをメモ書きしておくだけでもOK |
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食草は、採集日をメモ書きしたチャック付きポリ袋に入れて、冷蔵庫の野菜室に保管すると長持ちする |
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お手軽イモムシ飼育の基本形(キッチンペーパーを敷いておくと掃除が楽) |
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蛹化したら、アルミホイルで蛹室を作り、蛹の重量に応じてキッチンペーパーや鉢底ネットで羽化時の足場を備え付け、水を含ませたティッシュを入れて湿度を保つ |
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成虫が羽化したら、メモ書き用のビニールテープを飼育ケースからノートに貼り替えて整理しておく |
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日々、成長し、みるみる姿を変えていく幼虫を飼育することには無類の楽しみがあります。また、幼虫の姿だけでは種類を確実に見分けることが困難な場合も多いため、その幼虫がどんな成虫になるのかを直接確かめることができるのも飼育の大きな利点です。小さなガの仲間などは、身近に見つかる種類であっても、幼虫の形態や食草などがまだ解明されていないケースも多く、私たちが気軽に始めた飼育がきっかけとなって、まだ誰も知らなかった新しい発見につながる可能性もあります。
フィールドワークと飼育という、幼虫観察の二本柱にぜひチャレンジして、幼虫たちの魅力の虜になってください。 |
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※編集部注:捕獲・飼育した虫を再び放す際は、必ず採集した場所で行うようにしてください。
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