1. 球果との出会い |
2005年7月、近くのIGL公園の植物観察会で、ヒマラヤスギの低い枝先に球果を見た。その円錐形の球果と端正な樹形に惹かれ、それ以来、私のヒマラヤスギ観察がはじまった。
植物画のテーマとしてヒマラヤスギを描きたくなったのだ。 |
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以後、機会を見ては近隣のヒマラヤスギを訪れ、球果や雄花、樹形の写真を写した。毎年12月半ばあたりから年初にかけて、成熟した球果が散らす鱗片や種鱗、舞い落ちた薔薇状のシダーローズを地面でよく見かけるが、球果は高所にあってなかなか間近に見ることが出来ない。 |
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2.雌花は何処にもない! |
雄花の開花は10〜11月頃。緑の小さな蕾から4〜5cmの雄花に成長し、黄褐色に完熟すると花粉を散らして落下し、あたり一面を黄色く染める。 |
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球果があるということは、雄花と同時期に雌花が開花して受粉しているはずであるが、それが一向に見当たらない。
調べてみると、開花時の雌花は約5mmと小さく、高所に在り、しかも樹齢30年を超えないと雌花を付けず、数も雄花に比べずっと少ない由。出会えないのも無理はない。
そう判るとかえって観たくなるもので、その後何年間も雌花を追い続けた。 |
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3.作品展に出品したヒマラヤスギの植物画 |
たまたま球果3個を枝付で手に入ったので、「フローラの宴展'10」(2010年12月)の出展作品としてヒマラヤスギの球果を主体に植物画を企画した。球果や花など分解・拡大して、植物の全形態が解るように描くことにした。私は自分の目で確認したものしか描かないという主義なので、こと細かに観察することになった。
残念ながら雌花(幼球果)だけは実物を見ることができず、図鑑やネット検索で得た知識を元に描いた。心残りの摸作画で、雌花は今後の課題として残した。 |
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4.雌花発見か! ぬか喜びした紫色の雄花 |
先ずは時季外れの変った雄花を御覧いただきたい。 |
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2010年の12月半ば過ぎである。知人から「歩道橋から目線下でヒマラヤスギの球果が見られる」という情報を得た。翌早朝、夜明けを待って訪問し、雄花と思って頂いて帰った2個をよく見ると内1個が上の写真のように紫色で、てっきり雌花と思ったのである。(実は勘違いだった)
すっかり興奮した私は、“雌花発見!”の知らせを、自然観察大学事務局に報告した。HPトピックス『ヒマラヤスギの続報』で“ヒマラヤスギの雌花穂は相変らずナゾのままです。観察できた方はぜひご一報ください”を見たのである。
揚々と標本や原画とともにニセ雌花情報を持参したのは、サンタクロースよろしくクリスマスイブのことであった。そのときは臆面も無く発見までの経緯を説明させていただいた。 |
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ところが「よくわかる-樹木大図鑑」(平野隆久、永岡書店)に雌花写真が掲載されているのが分かり、比較してみるとどうやらこれは雌花ではないらしいことが判った。その後このニセ雌花は葯隔も開いて、時期遅れの雄花であることが判明したのである。今となっては恥かしい限りである。 |
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5.遂に雌花を発見 |
今後の課題とした摸作画の雌花ゆえに、何としてもその実態を解明せねばと、ヒマラヤスギの多いSG公園とKT公園に狙いを定め、執念というべき決意で雌花を探し歩くことにした。暮れの12月28日のことである。
するとなんと奇遇にも、最初に訪問したSG公園の、それも最初に見た枝で、雌花(紫幼球果)を発見したのである。
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感激だった。夢にまで見た雌花である。 |
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この調子だと丹念に探せばもっと見つかるはずと期待して、双眼鏡持参で枝をたぐり寄せながら開園から閉園まで巡り歩いたが、とうとう見当たらなかった。
ニセ雌花発見のぬか喜びから、本物の雌花の発見と、興奮の覚めない2010年末であった。
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6.貴重な雌花の標本を入手 |
2011年正月明けの7日。大改修工事中のNJ公園で、あこがれの標本を入手することができた。
2013年まで続く工事でヒマラヤスギがいつ無くなるかも知れず、園長指名で入門許可を取付け、観察の希望を述べたのである。その結果、特別なはからいで、所長が付添う条件で今回に限り許可され、ヒマラヤスギを間近に観察することになった。
そうこうして、目的のヒマラヤスギにたどり着くと、一見しただけで、あの枝この枝に3個!
4個! 5個!! |
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なんということか… 夢ではない。現実の世界で雌花の群れに出会ったのだ。有難いことに標本として実物まで頂き、大感激・大感動でした。
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これまで雄花期(10〜11月)には毎日探したのに発見できなかったものが… それでも受粉が出来ないのでは雌花も育つはずがないと思い観察を続けていたのが、最後の最後にこの発見があった。執念であろう。
(事務局より:感動の雌花の写真を多数提供いただいたのですが、紙面の都合上選抜させていただきました)
昨秋散歩時に雄花を確認できなかったことから、写真の雌花(紫幼球果)の開花時期は一昨年の10〜11月であったものと思われるため、今後継続して可能な限り幼球果の成長の姿を観察して行くこととしたい。 |
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7.描いた植物画の修正 |
上記理由から、昨年のフローラ展(12/15〜12/19)に出品した作品の雌花2点(紫・緑の幼球果)は、今回の実物によって描き直した。この場を借りて訂正させていただきたい。 |
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注:ここまでの文章で雌花としたのは便宜的なもので、厳密に言うと雌花(雌花穂)ではなく若い球果のことです。 |
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余談:過去に撮った写真にも雌花らしいものがあった |
雌花を確認できたので、これまでに撮った写真を見直した所、それらしいものを写していた。 |
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これまで判断しかねていたが、断面写真の鱗片数の少なさと厚みから、雄花の葯隔ではなく雌花の種鱗と思われるが如何でしょう? |
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