2016年  自然観察大学 第1回
2016年5月15日(日)
場所:東京都立野川公園
すがすがしい新緑と五月晴れの、絶好の観察会日和でした。
3年ぶりの野川公園ですが、いつも新鮮な発見があります。
今回もかなり充実したレポートになっていると思います。
残念ながら観察会に参加いただけなかったみなさん、お時間のある時に、どうぞゆっくりとご覧ください。(もちろん、参加いただいた方も復習として…)

担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物については、飯島・中安・村田・金林の各先生に適宜分担していただいたため、このレポートを作成いただいた方の名前を記しました。

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野川公園の概要
野川公園を流れる野川は、2〜3万年前の古多摩川が武蔵野台地を削った国分寺崖線の湧水を集めてできたと考えられています。
野川公園の前身は、ゼロ戦で有名な中島飛行機の三鷹研究所で、終戦後、跡地を米軍が接収しました。その土地を国際基督教大学が購入しましたが、その後大学は、所有していたゴルフ場等を東京都に売却しました。その土地を東京都が昭和55年に都立野川公園として開園したのです。
東京都公園審議会の答申『都立公園の整備と管理のあり方について』(平成15年)によると、野川公園を含む多摩・丘陵ゾーンの公園は、「多摩地域におけるさまざまな動植物の生命を育む緑の核としていくと同時に、雑木林や河川・湧水など多様な緑の資源を活かし、子供たちの総合的な学習・自然体験活動の拠点として活用していくべき」と述べられています。
(鈴木信夫)
野川公園内を流れる野川。画面左に崖(はけ)がある
イチョウの花
イチョウの木は、いま、新緑できれいです。
株の下を見てみるとたくさんの銀杏(ぎんなん)が落ちています。これは去年の秋に落ちたものです。
イチョウは銀杏の生じる木と生じない木があります。前者が雌株で、後者が雄株です。このような植物を雌雄異株(しゆういしゅ)といいます。
ここにあるイチョウは雌株です。
イチョウは4月下旬から5月に花を付けます。上を見上げてみてください。
花がわかりますか? 緑色で小さいので見つかりにくいですね。
枝先近くの葉柄の付け根で観察できますが、ちょっとわかりにくいです。
足元をよく見てください。雌花が落ちています。
花といっても花弁も、がくも、雌しべも見られません。
柄の先に小さな粒が付いています。この粒が胚珠です。多くは2個ついています。
裸子植物ですので胚珠は子房に包まれていません。
前年の秋に落とした銀杏と今年の雌花
次の観察会ではどのようになっているか継続して観察したいと思います。そのときは、さらにイチョウの生殖のメカニズムについても考えてみましょう。
雄花は少し早く咲きます。この時期には花が咲き終わり、花粉を飛ばした花殻が落ちています。
(村田威夫)
公園入口にあるイチョウは、まさに新緑
イチョウの雄花と雌花
「写真で見る植物用語」より)
クスノキの葉の交代と花
サービスセンターの脇に1本の大きなクスノキがあります。
てかてか光る黄緑色の葉が鮮やかですが、これらの葉はすべて今年の春の新葉です。
春に新旧の葉を交代させる常緑樹は少なくありませんが、多くの常緑樹の葉の寿命は数年あり、古くなった一部の葉だけを入れ替えます。
クスノキの場合は葉の寿命が1年で、新葉と交代に古い葉はすべて落ちてしまいます。地面のたくさんの葉は今年の春に落ちたものです。
大きなクスノキ。黄緑色が鮮やか
クスノキの花
次は花を見てみましょう。ちょうど盛りの時期で、たくさんの花が咲いています。
クスノキは街路樹としてもよく見かけますが、高いところの枝先に咲く小さな花をじっくり見たことのある方は少ないのではないでしょうか。幸い、この木は枝を目線の高さにまで下ろしてくれているので、間近で観察することができます。
ルーペで拡大して見てみると、なかなか可愛い花ですよ。
がく片と花弁に当たるものが3枚ずつあり、中心にある雌しべを、雄しべが3本ずつ4重に取り囲んでいます。ただし、最も内側の3本の雄しべは機能を失って小さくなっており、上から見ただけではよくわかりません。雌しべの柱頭は三角形で、完全に開いた花ではすでにその役目を終えており、黒ずんで見えます。濃い黄色でよく目立つ6つの粒は蜜腺です。
クスノキの花にはハエやハナアブの仲間などが蜜や花粉を求めてやってきます。クスノキの花は浅い皿形で、彼らにも利用しやすい花なのでしょう。
(中安均)
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ミズキとクマノミズキ
これはクマノミズキで、向こうに見えるのがミズキです。
ミズキはいつもこの時期の第1回観察会だと花が咲いているのに、今年は終わってしまい残念です。
クマノミズキは対生(写真:金林和裕)
ミズキは互生
ミズキとクマノミズキはよく似ていますが、見分けるポイントがいくつかあります。
まず葉の付き方がミズキは互生でクマノミズキは対生になっています。葉が先端に集まっているので分かりにくいですが、枝を見ると分かりますね。
次に、花の時期がミズキに比べてクマノミズキの方が1か月くらい遅いので区別できます。6月の観察会では花が見られるでしょうか。
ミズキの枝ぶりには特徴がある
今度は枝の先端を見てください。先端にはつぼみがついています。
そうするとこの先から枝を伸ばすことができませんね。どうやって枝を伸ばすかというと、近くの葉の脇芽から横に枝を伸ばします。ですから枝振りに特徴があります。
樹形は両種とも幹から一年ごとに放射状に枝を出すので独特の形をしていて、古い樹ではよく分かりませんが若い樹だと枝の出た回数でおおよその樹齢が分かります。
ミズキの材は白く滑らかなので、こけしや塗り箸に利用されています。
(金林和裕)
カントウタンポポとイヌムギ
野川公園には在来種のカントウタンポポが多数見られます。
カントウタンポポの特徴は、総苞外片が内片の半分ほどで、反り返らず上端に角状突起があります。
一方、セイヨウタンポポは総苞外片が反り返ります。
カントウタンポポ(左)とセイヨウタンポポ(右)。総苞外片で見分けられる
最近、タンポポの形態に少し変化が見られるようになりました。この総苞片の形が不規則な雑種型と思われるものが増加しています。
幸いなことに、野川公園では雑種型ではない、本当のカントウタンポポが多いようです。
通路の左側は人通りが多いのか、それとも頻繁に草刈りされているのか、みな草丈が低いですね。
ここで見られるのがカントウタンポポです。
次に、通路の反対側の雑草を見てください。
ひざくらいまでの、草丈の高い雑草群落になっています。
通路を挟んで左側にはカントウタンポポが多い。右側はイヌムギなどイネ科雑草が繁茂している
今、イヌムギなどのイネ科植物の優占しているこの雑草群落は、数年前はカントウタンポポの群落でした(HP観察会レポート2007参照)。これほど大きいカントウタンポポの群落はあまりないので、いつまでも維持されるといいなあと思っていました。ところが、いつのまにかイヌムギの群落に変わってしまったようです。
要因はいろいろ考えられますが、雑草群落は常に移り変わっている(遷移)ということだと思います。公園など人が利用する場所では草抜きや草刈りなどの管理がなされますが、このような作業は、移り変わりの時期を遅らすことはできても現状を維持することはむずかしいことです。
カントウタンポポからイヌムギの優占する植物群落への移り変わりは、管理のむずかしさを示しているのだと思います。
(飯島和子)
ヒメツチスガリ(ナミツチスガリ改め)
草むらにジョギングする人が作った道が続いています。途中にある旧ゲートボール場入口は工事用の車が出入りするためか、特に広く裸地が広がっています。
そこに中心に穴の開いた小さな土の盛り上がりが5,6か所あります。待っていると胸の下に花蜂をかかえた狩蜂が飛んできて、獲物ごと穴の中に入ってゆきます。
白いペンは、狩蜂の巣穴の目印。右は早朝からツチスガリを観察して泥だらけの田仲先生
ナミツチスガリの巣

(図:田仲義弘)

ナミツチスガリは、踏み固められ、日のよく当たる赤土の裸地、そんな場所に巣を作る狩蜂の代表種です。穴は10〜15cm程垂直に掘られ、水平になって広い部屋に続きます。狩蜂は、1匹の仔に十分な獲物と卵が入った部屋を一つずつ作るものなのですが、ツチスガリ属のハチは巣坑を掘るとすぐに狩りを始め、数室分の獲物を貯めると、幾つかの部屋をまとめて作る独特の習性があります。
この場所には、ナミツチスガリの獲物として狩られることもあるアカガネコハナバチも営巣しています。不思議ですね。
しかしナミツチスガリの狩り場は花上で、花蜂が蜜・花粉集めをしている時に襲います。ですから、巣のくで隣人である花蜂を狩ることはありません(できない)。
…と、これで話は終わるはずでしたが、ここで一つ訂正があります。
みなさんに配ったガイドマップには「ナミツチスガリ」と書いてありますが、「ヒメツチスガリ」に訂正させてください。
今朝、早くここに来て、みなさんに観察してもらうためのサンプルを採集していたときのことです。
獲物をかかえた蜂を捕らえてビックリ。獲物はゾウムシで、狩蜂の方はゾウムシを狩るヒメツチスガリではありませんか。
獲物のコハナバチを運ぶナミツチスガリ

(写真:田仲義弘)

獲物のゾウムシを抱えて運ぶヒメツチスガリ。
巣穴の出入り口が右下に見える

(写真:田仲義弘)

これは意外でした。ヒメツチスガリは比較的珍しい蜂で、巣は薄暗い林床に作る蜂だからです。
それがこんな日当たりの良い所に作った巣を見つけたのは初めてです。
今回はいろいろと勉強させていただきました。
(田仲義弘)
ゴミグモ
これは先ほど観察したクスノキの葉です。葉脈が大きく三つに分かれていて、その分かれ目の部分が膨らんでいます。
これはダニ部屋といいます。この中にちょっと不格好なフシダニというダニが住んでいます。
ところで、ダニは脚が何本ですか?
そうです。8本です。
クモも脚が8本です。ダニと違って、クモは体が頭胸部と腹部の二つに分かれています。
さて、いよいよ本題です。
この網の真ん中にクモがいます。
分かりますか。ゴミにまぎれて、よく見ないとなかなか分かりませんね。ゴミグモです。
網の真ん中に縦の太い帯がありますね。これはゴミグモの食べかすや脱皮殻などを溜めたものです。
この太い帯に隠れるように、脚を縮めてじっとしています。
クスノキの葉のダニ部屋

(写真:浅間茂)

ゴミにまぎれてわかりにくいゴミグモ
ゴミグモ雌。ふだんは脚を縮めてじっとしている

(写真:浅間茂)

雌の網に糸を引いてじっと機会を待つ雄

(写真:浅間茂)

この糸の端にいる黒いのがゴミグモの雄です。一週間前に下見に来た時は、雄は網を張っていました。網を張るクモは、成体になると網を張らなくなると聞いたことがありますか。粘球のついた横網が張れなくなるのです。雄が張っていたのは、縦糸だけの簡単な網です。餌を捕ることはできません。
この雄は、脱皮をして精子を溜めるための準備をしていたのでしょう。クモの雄は精子をスポイトのように吸い取って触肢の先に溜めます。
ふつう、クモの雄は触肢の先が膨らんでいることで分かります。でもゴミグモの雄は体が黒くなるので、ひと目で分かります。
ゴミグモの雄は、雌の網の糸を引いて、求愛の合図を送って、慎重に近づきます。
下手をすれば餌と思われ食べられてしまいます。
(浅間茂)
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ヤセウツボ
草はらの中に、直立した茶色の植物があちこちに見られます。
これはヤセウツボという寄生植物です。
他の植物から養分を得ているので緑色をしていません。したがって光合成はしません。
ヤセウツボが何に寄生をしているか、掘って調べてみましょう。
(園に特別に許可をいただきました)
ちょっと分かりにくいかもしれませんが、タンポポの根にヤセウツボの根が付いています。
ヤセウツボ。タンポポに寄生していた
掘り出したヤセウツボ。タンポポの根にヤセウツボの根が合着している。ヤセウツボには球根のようなものがあった。右は合着した部分の拡大。
掘り出してくださったNPOスタッフのS.S.さん、E.N.さん、ありがとうございました。
ヤセウツボは主にマメ科やキク科の植物に寄生しますが、その他の植物にも寄生するといわれています。
昭和50年代頃から関東地方の道端や草地に見られるようになりました。本来はヨーロッパから北アフリカにかけて分布しているハマウツボ科の植物です。特に近年殖えています。
直立した茎に薄黄色で紫の斑点のある花が見られます。形はシソ科の花に似た唇形花を穂状に付けています。
1個の花にたくさんの種子ができますので、次回観察してみましょう。
(村田威夫)
ヤセウツボの花
寄生と着生
このソメイヨシノの上部の枝を見てください。なんとなく変な感じがしますね。
ソメイヨシノの葉と異なる、濃い緑色の小さい葉を付け、細かく枝分かれした植物が付いています。
ヤドリギという寄生植物です。
緑色の葉を付けていますので、光合成で糖を作りますが、地下部から養分を取り入れることができず、ソメイヨシノの茎に根を入れて養分を取り入れて生活しています。このようなヤドリギを半寄生植物という人もいます。
ヤドリギの実はレンジャクの仲間が好んで食べます。糞が茎に付着し、発根し宿主の茎の内部に入り込みます。レンジャクの渡りのコースにヤドリギはよく見られます。ヤドリギの観察は、宿主(落葉樹)が葉を落とした冬が適期です。
樹木に付着する植物には、寄生植物と着生植物があります。
寄生植物は、宿主内部に根を入れて養分を得ています。このヤドリギや、先ほどのヤセウツボがこれです。
着生植物は養分を取り入れることなしに、茎の場所を借りているだけです。ノキシノブ、セッコクなどがそうですね。
(村田威夫)
 
ソメイヨシノに寄生するヤドリギ

(写真:唐沢孝一)

ヤドリギは寄生植物だが光合成もできる

(写真:村田威夫)

ノキシノブは着生植物

(写真:村田威夫)

アカマツの花
アカマツの花が見られます。アカマツは雌花と雄花がありますが、同じ木につく雌雄同株です。
新しく伸びたシュート(枝)の先端についている赤い球のようなものが雌花の集まりで雌花穂、シュートの下のほうについている黄色いのが、雄花の集まりで雄花穂です。
この雌花穂が球果と呼ばれる松ぼっくりになって来年の秋に種子が熟します。今年の雌花穂の下には昨年のもの、その下にはその前年のものがついています。
球果の間のシュートの数を数えることで、樹齢がわかります。
アカマツはイチョウと同じ裸子植物ですが、胚珠はらせん状についた種鱗という鱗片の内側についているので、イチョウのように胚珠を外から見ることはできません。この胚珠が翌秋に翼のついた種子として飛散します。種鱗の開いた松ぼっくりがそのあとです。
雌花穂と雄花穂はそれぞれ、別のシュートについているものが多いようです。雌花穂と雄花穂が同じシュートについている写真を見ることがありますが、典型的な例ではありません。
(飯島和子)
アカマツ。雌花穂と雄花穂が観察できる
エゴノキの花と訪花昆虫
エゴノキの花が満開です。最盛期を少し過ぎたくらいでしょうか。
近くによると、ほのかに甘い香りが漂ってきます。
花はシャンデリアのようにぶら下がり、下を向いて開いています。
花冠は5つに分かれた星型に見えますが、基のところではつながって筒状になっています。5つに分かれたものが大半ですが、4つや6つに分かれたものもありますので、探してみてください。
黄色くてよく目立つ雄しべは10本あり、中心の雌しべを輪状に取り囲んでいます。基部は花冠にくっついていますね。こういったようすは下に落ちている花を見てもよくわかります。
がくはワイングラスのような形で、その縁は浅く切れ込み、5つの山と谷に分かれています。グラスの底には蜜腺がありますが、薄黄緑色で目立ちません。
みごとに満開のエゴノキ
エゴノキの花は下向きになる
花弁を除去した断面

(写真:中安均)

訪花するクマバチ

(写真:中安均)

花を開く向きにも意味があり、花を下向きにするだけで、花に来る虫をある程度選別することができると考えられます。
下向きに開く花の多くは花蜂媒花と思われます。甲虫やハエ・ハナアブ、チョウの仲間はそうした花に着地するのが苦手で、利用しづらいでしょうね。
エゴノキの花にはクマバチ・マルハナバチ・ミツバチなど花蜂類がよく来ます。それ以外の虫も来ないことはありませんが、数は多くありません。クマバチやマルハナバチは雄しべの束に抱きついて止まり、雄しべの柄(花糸)の隙間から口器をがくの中に差し込んで蜜を吸います。このとき、毛むくじゃらの体に花粉がつくことになります。あるいは、すでに花粉が付いていれば受粉が起こるというわけです。
花は形状や開く向きなどによって特定の虫を選ぶことで、効率よく同種の花に花粉を運ばせることができます。一方、虫にしてみると、他の虫が利用しづらい花を利用できれば、優先的に餌が得られるというメリットがでてきます。こうした相互依存の関係が互いの形質の特殊化を進めたと考えられます。いわゆる「共進化」というやつですね。
(中安均)
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昆虫の進化を見よう
このトイレの周りに、昆虫の進化を見るよい例がありました。一つずつ紹介したいと思います。
・ヘビトンボ
トイレの壁にとまっているのはヤマトクロスジヘビトンボです。
ヘビトンボの仲間は、ヘビトンボ目という独立した目に分類され、完全変態昆虫の中でも原始的なグループの一つと考えられています。本州には、ヘビトンボ、ヤマトクロスジヘビトンボ、タイリククロスジヘビトンボの3種が生息します。
ヘビトンボは比較的よく見かけますが、このヤマトクロスジヘビトンボはめったに見られない種だと思います。
ヘビトンボ類の幼虫はきれいな川に住んでいて肉食性です。孫太郎虫と呼ばれ、古くから子供の疳の薬として知られています。
ヘビトンボ類は成虫になると樹液をなめて暮らします。夜間に灯火に集まる習性があります。ただし、大顎でかみつくので注意が必要です(毒はありません)
ヤマトクロスジヘビトンボ成虫。トイレの外壁にとまったまま動かなかった
シロタニガワカゲロウ成虫。卵塊を付けていた
・カゲロウ
ヘビトンボのすぐ近くの電灯に、カゲロウの仲間がとまっています。
メスのカゲロウで、尾端には卵塊が付いています。
カゲロウ目は、不完全変態昆虫の中でもトンボ目と並んで、最も原始的なグループです。
カゲロウ目の最大の特徴は、変態の仕方です。カゲロウは、卵→幼虫→亜成虫→成虫と変態します。すなわち、翅が生えているのに(亜成虫)、もう一度、脱皮するのです。他の昆虫では考えられない変態方法です。
カゲロウの幼虫は水生です。きれいな川に生息するイメージがあるかもしれませんが、かなり水質の悪い環境を好んで生息する種もあり、カゲロウ=きれいな環境、というイメージは必ずしも当てはまりません。
フタスジモンカゲロウの幼虫、亜成虫、成虫「昆虫博士入門」より)
<事務局より補足>
トイレ外壁の電灯にいたカゲロウの写真を専門家にお送りし、次のご意見をいただきました。
「写真はおそらくシロタニガワカゲロウ(ヒラタカゲロウ科)の雌成虫と思われます。山地渓流や平地流に生息する普通種です。腹部が黄色であることや、雌成虫では翅の前縁に黄色い部分があることなどが特徴です。この種は灯火に飛来することが知られているので、夕暮れ時の産卵飛翔の際、光に誘引されたのかもしれません。」
ご教示いただき、ありがとうございました。
余談ですが、この秋に「原色川虫図鑑−成虫編」(丸山、花田、野崎)が発刊される予定です。幼虫を扱った「原色川虫図鑑」の姉妹編です。ご期待ください。
・カキクダアザミウマ
すぐ近くにカキの木がありますが、何枚かの葉が葉巻状にカールしています。
これは、アザミウマ目のカキクダアザミウマの住んでいたあとで、残念ながら、住人たちは近くの樹皮下に移動して、空き家になっていました。
巻いた葉の中で集団で吸汁して成長し、そのあと樹皮下などに移動して夏を越します。
カキクダアザミウマに吸汁されて巻いてしまったカキの葉
カキクダアザミウマ成虫。体長は3mm弱と小さいが、アザミウマの中では大きい方だ。翅は羽毛のようだが、りっぱに飛べる
カキクダアザミウマさなぎ。活動するさなぎだ
アザミウマの仲間は、尾端に長い管のあるクダアザミウマ亜目と、管のないアザミウマ亜目に分類されます。アザミウマ目は不完全変態昆虫の中では、最も進化したグループとも考えられています。その理由の一つに、卵→幼虫→さなぎ→成虫という変態の仕方があります。完全変態昆虫のさなぎとは違いもありますが、さなぎの体内で幼虫の細胞が破壊され、成虫の細胞が形成されるなど、完全変態類のさなぎと共通する点もあります。
以上のことをまとめておきましょう。
1. カゲロウの仲間:不完全変態の中でも原始的なグループ。亜成虫のステージを持つ。
2. アザミウマの仲間:不完全変態のなかで最も進化したグループ。さなぎのステージを持つ。
3. ヘビトンボの仲間:完全変態の中では原始的とされる。
昆虫は、1→3の順で、不完全変態から完全変態へ進化してきたと考えられます。
ただ誤解されるといけないのですが、“原始的”とか“進化した”とかいっても、進化のどの過程で枝分かれをしたのか、ということにすぎません。原始的な昆虫が遅れているということではなく、それぞれ別の進化をした“現代に生きる昆虫”ということです。
(鈴木信夫)
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帰化雑草の話
この一角は新しく花壇が作られたようですが、雑草がいっぱいです。
野川公園にはカントウタンポポなど在来植物も数多く見られますが、ここには多くの帰化雑草が見られます。どのようなものがあるか見てみましょう。
一番目立つのが黄色い花のブタナです。別名タンポポモドキというようにタンポポによく似ていますが、茎が枝分かれして高く立つことや、茎に葉がつくところに違いがあります。芝生や道端などで数多く見られ、河川敷や休耕地では大群落になっていることがあります。
ブタナ。タンポポに似るが、茎が高く伸びて枝分かれする。別名タンポポモドキ
その下には黄色い花をつけたコメツブツメクサが生えています。マメ科の植物で、丸く見える花序は多数の花の集まりです。シロツメクサやアカツメクサよりもずっと小さいですが、花序の作りはそっくりですね。この植物も道端などで多数見られ、空き地では大群落も見られます。
花壇づくりは人為的に攪乱された場所ともいえる。こんなところに真っ先に生えてくるのが帰化雑草である。邪魔者扱いするだけでなく、雑草観察をたのしもう
コメツブツメクサとクスダマツメクサ

「新版形とくらしの雑草図鑑」より)

アヤメ科のニワゼキショウとオオニワゼキショウが咲いています。
この2種はよく似ていますが、見分け方を紹介しましょう。
ニワゼキショウの花は全開して大きいですが、オオニワゼキショウの花は中途半端に開く感じで、小さく見えます。草丈はオオニワゼキショウのほうが高くなります。子房を見ると、オオニワゼキショウのほうが大きいことがわかります。
どちらもはなびらが6枚のように見えますが、よく見ると、花弁とがくが3枚ずつ2重になっています。このような、花弁とがくが同じような形をしているものを花被片と呼びます。6枚に見える花被片は外花被片3枚、内花被片3枚からなります。
花被片を裏から見ると筋が見えますね。外花被片は筋が5本、内花被片は3本であることがわかります。
ハルジオンとヒメジョオンの花も見られます。
花の時期に差があり、ハルジオンの花はもう終わりですが、ヒメジョオンの花はこれからです。
ハルジオンの花はつぼみのときにうなだれるようにつく、葉のもとのほうが茎を抱く、茎が中空であることから見分けることができます。
ワルナスビも花を咲かせています。ナスと同じような形の白い花に黄色の葯が目立ちます。花壇をつくるときに周辺に押しやられたのか、花壇を囲むように生えています。ワルナスビとはひどい名前ですが、とげがあることから名づけられたのでしょうか。
(飯島和子)
ニワゼキショウとオオニワゼキショウの見分け方

「新版形とくらしの雑草図鑑」より)

ワルナスビの花

「新雑草博士入門」より)

ヒマラヤスギの実生
公園のあちこちに、ヒマラヤスギの大木が見られます。
ヒマラヤスギは、西アジアからヒマラヤに自生するマツ科の植物です。英語ではヒマラヤシーダー(Himalayan cedar)と呼ばれています。ヒマラヤマツにするとところをヒマラヤスギと名付けてしまいました。
秋には、松ぼっくりに似た球果を付けます。これは第3回の観察会で観察可能だと思います。
みなさんの足元を見てください。
ヒマラヤスギの根元には、この球果が一枚一枚?がれた、種鱗がたくさん落ちています。
種子は羽状の薄い翼が付いていて、風で飛ばされるので見つけにくいです。
まれに何かの原因で種子がついたままになった種鱗も落ちています。
ヒマラヤスギの種鱗。これには種子がついたままだった

(写真:村田威夫)

ヒマラヤスギの若い球果(左端)と芽生え。
中央の二つは子葉の先に種子がついたまま
ところどころに小さな実生が見られます。細い松葉のような葉が子葉です。裸子植物には多子葉の物が多く見られます。子葉の下部の赤い茎のような部分を胚軸と呼びます。
また周りには、昨年の秋に咲き、茶褐色に変色した4〜5cmの穂状の雄花穂も落ちています。雌花も同じ頃に付けるのですが、小さいので下からは見つかりません。
雌花が成熟した球果になるには1年以上かかるようです。次回の観察会でも注意をしてみましょう。
(村田威夫)
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野川公園で繁殖中のスズメ
スズメは、日本では市街地の人家の屋根のすき間や電柱の腕金(うでがね)などで繁殖するのが普通です。ところが、1週間前(5月8日)の下見で、ほぼ公園の中央、電柱の腕金にスズメが出入りしているのを見つけました。
※ ここのスズメは、なぜ市街地から離れた公園で繁殖しているのでしょう?
それが問題です。
※ 最近の人家は、スズメが繁殖できるすき間がなくなった。
とも考えられます。
東京都心の丸の内では繁殖場所がなく、皇居外苑のトイレの屋根、楠木正成銅像の馬の尾の中などで繁殖しています。スズメによる「人離れ現象」かもしれません。
ヨーロッパでは、市街地にはイエスズメ、林にはスズメが生息しています。
スズメの英名はTree Sparrow、林の鳥です。
日本にはイエスズメがいないので、スズメが人家周辺で生息している、と考えられています。ひょっとしたら野川公園での繁殖は、スズメ本来の習性なのかもしれません。
※ スズメがどこまで人家から離れて繁殖するのか?
※ 林で繁殖するスズメが増えていくのか?
そこがスズメ観察のポイントの一つです。
(唐沢孝一)
ひなへの給餌を終えて腕金から出てくるスズメ

(写真:石井秀夫)

市街地から遠く離れた電柱の腕金(丸印)で繁殖中のスズメ

(写真:唐沢孝一)

ひなへの給餌を終えて腕金から出てくるスズメ(写真:田仲義弘)
カラスの話
野川公園にいるカラスには、ハシブトガラスとハシボソガラスがいます。
名前の通り、おでこが出て嘴が太いものがハシブトガラス、おでこが出ないで嘴が細いのがハシボソガラスですね。都心でみかけるカラスの大部分はハシブトガラスです。
この変わった形の建物はなんでしょうか。
東京都が約100箇所で設置しているカラス捕獲トラップです。入り口の近くに太い針金が吊ってあり、入ったカラスが外に出られない構造になっています。
(捕獲トラップの構造は東京都環境局のHPを参照
それでは東京都のカラスは、減っているのでしょうか。
都市鳥研究会が30年前から5年ごとにカラス調査を行っています。グラフのように1985年より増え続けていたカラスは、2000年の18,664羽をピークに減り始め、2015年には4,816羽となり約1/4になりました。調査場所は明治神宮、自然教育園、豊島ヶ丘墓地の3箇所であり、東京都全体ではありませんが、傾向はつかめています。
ところで、カラスは頭の良い動物で知られていますね。
そんなに簡単に捕獲トラップに入るのでしょうか。
トラップに入ってしまうカラスは若い経験不足のものが多く、繁殖に関わるベテランのカラスは、あまり捕獲されていないといわれています。
カラスが大きく減った原因は、カラスの専門家に聞くと「生ゴミ対策の徹底」が大きいそうです。生ゴミのネットかけの普及、夜間・早朝のゴミ収集が効いてきたようですね。また、都心で繁殖し始めたオオタカやノスリの捕食も関係している可能性もあります。
(越川重治)
ハシブトガラス(右)とハシボソガラス(左)

(写真:小椋緑)

野川公園に設置されていたカラス捕獲トラップ。入口の周囲に針金が吊され、入ったカラスは外に出られない

(写真:越川重治)

東京都心におけるカラスの集団ねぐらの個体数調査

(2015年、都市鳥研究会

クモのまどい(団居)
‘くぬぎ橋’の欄干に何か塊りが見えます。何でしょう。
そう。クモの子が集まって、塊りになっているのです。
卵のうの中で孵化して1齢になり、しばらく留まって脱皮して2齢幼体になってから、卵のうから出てきます。このクモの子の集団は2齢で、もう一回脱皮して毒腺が発達し、餌を捕らえることができる3齢になると、空を飛んで移動していきます。
クモのまどい(写真:浅間茂)
クモはどうやって飛ぶと思いますか?
手足をバタバタして飛んでいきます …それは嘘です。お尻から糸を流して、風と共に空中旅行をします。
それでは、そっと息を吹きかけてみましょう。
まさにクモの子を散らす、です。しばらく立つとまた集まってきます。
クモの子が集団で塊りになっているのを、まどい(団居)といいます。
ちなみに、このクモはメガネドヨウグモだと思います。
<浅間先生より報告>
間違うといけないので一個体だけ持ち帰り、顕微鏡で見てみました。どうもドヨウオニグモの幼体のようです。水田や水辺に円網を張るクモです。
(浅間茂)
ヒラタドロムシ幼虫
野川公園を流れる野川は渓流に近い清流で、川底には大小の石があります。
石の下にはカゲロウ、カワゲラなどの水生昆虫の幼虫がいるはずです。
さっきトイレの近くで見たのが、カゲロウとヘビトンボの成虫ですね。
じつは今朝(観察会当日)、みなさんに見てもらおうと、ヒラタドロムシの幼虫を探しました。ゴム長靴を履いて川に入り、拳大の石を約30個調べると1匹発見できました。頑張って全部で4匹発見しました。
(観察後、ヒラタドロムシはもとの野川に戻しています)
ヒラタドロムシ幼虫(背面)。平たく陣笠状で流されにくい形態。体長10mm。一見すると甲虫類の幼虫とは思えない。

(写真:山崎秀雄)

ヒラタドロムシ幼虫(腹面)。脚の爪がしっかりと石を掴むようにできている。後方(画面左)の白色のものは糸状のえら。

(写真:山崎秀雄)

この平べったいのがヒラタドロムシの幼虫です。体が平たいのは流されないための形でしょうね。
裏返しにすると、しっかりした爪のある脚です。これで石にしがみつくのでしょう。
体の後方の白い糸状のものは、呼吸のためのえらです。管状鰓といいます。えらの発達は広い水質域に生息できることを示しています。
口は小さくて、おそらく石に付く藻類を食べているのでしょう。
ヒラタドロムシは昆虫の甲虫目ヒラタドロムシ科という独立した科に分類されます。
世界では約100種、日本では20種弱です。すべて幼虫は水生で陣笠型、清流の石に付着して生活します。
ヒラタドロムシはその中で最大で、成虫の体長はおよそ7mmです。成虫は主に水辺でくらしますが、燈火にも飛来します。
ヒラタドロムシ成虫。茨城県八溝山で夜間燈火採集時に白布に飛来したもの。

(写真:山崎秀雄)

余談ですが、川底を見ているとエビやアメリカザリガニがいました。石を起こすと、カゲロウ類の羽化(亜成虫)が見られ、カワゲラ類の幼虫やヒルの仲間もいました。
水生生物の観察(水遊び)も楽しいものですね。
(山崎秀雄)

絶好の観察会日和で、話題もたくさんありました。途中までは予定通りの時間で進んでいたのですが、終盤でいろんなスターが登場し、終わってみるとかなりの時間オーバーでした。申し訳ありませんでした。
参加いただいたみなさん、講師のみなさん、そしてNPOスタッフのみなさん、ありがとうございました。
今回、講師陣に新しい顔がちらちらと見えています。いずれ近いうちにHP上でもきちんとご紹介できる予定です。よろしくお願いいたします。


2016年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告  
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