2016年  自然観察大学 第2回
2016年6月26日(日)
場所:東京都立野川公園
 
クスノキの葉の色もすっかり落ち着きました
観察会のシンボルツリーともいうべきイチョウ
担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物については、村田・金林・飯島・川名の各先生に適宜分担していただいたため、このレポートを作成いただいた方の名前を記しました。

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イチョウの雌花のその後
第1回の観察会で見られた雌花は、どのように成長したでしょうか。
前回は、枝についている雌花は小さく(2〜3mm)、緑色で、葉の中から探すのが大変でした。地面に落ちているものを観察しました。
今回はどうでしょう。見上げてみると枝(短枝)に葉の間から、大きく成長した球形の実が見られます。
(本来は種子ですが、分かりやすくするため実と表現しました)
成長したイチョウの実(種子)
下に落ちている実を、割ってみましょう。周りはクリーム色の厚い層があり、中心に緑色をしている部分が見られます。前者は種皮で秋に強烈な臭いを出します。後者は秋には硬い殻で覆われ、中に胚と胚乳ができます。
5月に雌花の珠孔から入った花粉は、雌花から栄養を得て花粉管に成長し、しばらく休眠します。9月初旬に、管内の核が分裂して2個の精子を作ります。やがて管から出て、すぐ近くにある卵細胞まで泳いで行き、受精します。この過程を発見したのが平瀬作五郎氏(1896)です。
近くのイチョウの木の下に実生がたくさん見られます。この実生は放置したらどうなるでしょう。
次回もこのイチョウに注目してみましょう。
 
(村田威夫)
イチョウの実(ぎんなん)の断面

「写真で見る植物用語」より)

イチョウの実(ぎんなん)の断面

「写真で見る植物用語」より)

カラスの営巣
6月19日の下見の際、バーベキュー広場のヒマラヤスギ林で「カラスに注意」の貼り紙を見つけました。
樹上でカラスが営巣しているようですが、どの木なのか、木のどこなのか、葉や枝が邪魔でなかなか見つかりません。樹高25mもある大木の、上から4〜5m下の枝にある巣をようやく見つけました。
今日は「カラスに注意」の貼り紙は撤去されて、もうありません。雛は巣立ったようです。
そこでみなさんには巣を見つけてもらうことにしましょう。
すぐに見つかった人、なかなか見つからなかった人など様々ですね。
カラスは人の手の届かない高所で繁殖し、市街地ではよく電柱に営巣します。巣材が電線に触れてショート事故を起こすため、電力会社では繁殖期にはカラス専従職員がパトロールに当たっています。
ちなみに、カラスの巣の近くでハシブトガラスの幼鳥を見かけました。巣はハシブトガラスの可能性が高いのですが未確認です。
(唐沢孝一)
下見の時にあった貼り紙

(写真:唐沢孝一)

樹上のカラスの巣(円内)

(写真:唐沢孝一)

なんとか確認できたカラスの巣

(写真:唐沢孝一)

ギンリョウソウ
木の根元に、真っ白のちょっと変わった植物が見られます。ギンリョウソウという腐生植物で、葉緑素を持たないため真っ白です。
ふつうは森林の中の湿り気のあるところで見られるのですが、このような場所で見られるのは珍しいことです。
以前は土壌中の有機物を利用していると考えられていたのですが、最近の調査では、菌を介して樹木の栄養分を吸収して生活していることがわかってきました。
ギンリョウソウ

(写真:飯島和子)

花の中を観察する

(写真:唐沢孝一)

ギンリョウソウの花の中は青い
真っ白に見えますが、花の中を覗いてみると、青色でとても美しい色をしています。この青いのは柱頭で、マルハナバチなどの訪花で受粉して液果をつけます。
代表して花の中の観察をしていただきましょう。
(飯島和子)
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サトセナガアナバチ
宝石蜂と呼ばれるすばらしく綺麗な蜂です。体はエメラルドかサファイア(翠碧)、腿はルビー(緋)。
また親が子供に食べさせる獲物がとっても嬉しい。嫌われ昆虫のトップ、ゴキブリなのです。習性に関しても、ゾンビ使い・エイリアンと興味深いキャッチコピーが満載です。
 
ハリエンジュの樹幹に驚きの狩蜂が…
(田仲義弘)
まず最初に現れたのが雄で、大きい個体が雌です。
雌雄の大きさの差が顕著な狩蜂は「ただ一匹の獲物を一仔に与える狩蜂」です。獲物の大きさは様々、小さな獲物を食べれば小さな蜂、大きな獲物なら大きな蜂になります。そこに狩蜂の雌雄を産み分ける能力が加味されます。蜂は交尾すると貯精のうに一旦精子を貯め、産卵時に貯精のうから精子を出して受精卵を産みます。受精卵は大きな卵を産む大きな雌に、精子を出さずに未受精卵を産めば雄になります。それで雌は大きく、雄は小さい蜂になるのです。
(田仲義弘)
次に「ゾンビ使い」の意味を説明しましょう。
通常狩蜂は獲物の胸に刺針して麻痺させます。セナガアナバチも胸に刺針しますが、効果は弱く10分ほどで回復します。次に回復前に喉に刺針して大脳と胸部神経節を遮断します。
獲物のゴキブリは判断能力(大脳)と運動能力が解離したゾンビになります。
さらに外部センサーの触角を切りとってしまい脳を弱体化。
それで蜂がゴキブリの触角の根元をくわえて引っ張るとゴキブリは歩いてついて来るので楽に巣まで運ぶことができるわけです。
(田仲義弘)
最後は「エイリアン」、蜂の幼虫はゴキブリの外皮は食べず内部だけを食べて、中で蛹になり、外皮を破って出てきます。これが映画「エイリアン」で、生きている人間の体内で成長し、腹を破って出てくる様子を連想させるようです。
(田仲義弘)
エサキモンキツノカメムシ
ミズキの実がなるこの時期、葉裏や葉陰の葉の表にエサキモンキツノカメムシ(雌)が体の下に卵や孵化幼虫を保護している姿を見ます。
今年は少なく、やっと2匹見つけました。
1匹は卵、ほかの1匹は孵化幼虫を保護しています。
他の樹木でも産卵は良さそうなのですが、ミズキやクマノミズキを好みます。
この保護行動を抱卵といいますが、カメムシの卵にはタマゴヤドリバチの仲間が寄生するので、それに対して有効な保護といえます。
孵化した幼虫も捕食性の昆虫に食べられる危険があります。親は敵が迫ると体を傾けて防御の姿勢をとります。
2齢幼虫以降はミズキやクマノミズキの種子から吸汁します。ミズキ類を選ぶのは子育てのためでしょうか。
山崎秀雄)
実をつけたミズキ
エサキモンキツノカメムシの抱卵

(写真:山崎秀雄)

ヒイロタケ
これはヒイロタケというキノコです。サルノコシカケなどと同じ硬質菌で、枯れた木や切り株に発生します。
裏側をルーペで見て下さい。黒い点が見えますが、これは穴です。多くのキノコでは傘の裏はひだになっていて、その表面で子孫を増やすための胞子が作られます。このキノコは管孔とよばれる穴が集まったような構造になっており、穴の内側で胞子が作られています。
切り株には他にもたくさんのキノコが発生しますが、なぜここにはヒイロタケが発生したのでしょうか。ちょっと切り株を触ってみてください。

(触る参加者)

温かいですよね。多くのきのこの生育適温は25℃くらいで、35℃以上では生育しません。
ところが、ヒイロタケは35〜40℃が生育適温で、他のキノコが生育できない、直射日光のあたるこの切り株に発生することができるのです。
ヒイロタケはありふれたキノコで珍しいものではないですが、そのようなキノコこそ生態観察の対象にはもってこいだと言えるでしょう。
(根田仁)
切り株のヒイロタケ
ヒイロタケの傘の裏
拡大すると小さな穴が…
自然観察大学 特別講師 根田 仁 (ねだひとし)
森林総合研究所 きのこ・微生物研究領域長。博士(農学)。日本菌学会会員。
きのこについていろいろなことに興味があるが、主に分類の研究をしている。
30年以上きのこを採集しているが、きのこを見つけるのは苦手。
【主な著書】『たのしい自然観察 きのこ博士入門』(全国農村教育協会)など、きのこ・菌類に関する著書多数。
※ 根田先生によるきのこの観察会レポートは、
こちら→でご覧いただけます。
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ネジバナ
イヌムギやカタバミなどの群落の中にピンクの花をつけているネジバナが見られます。草高が10〜20cmで、定期的に草刈りをしている芝生や花壇の隅などで見ることができます。別名をモジズリともいいます。
多数の花をつけて(花序)いますが、そのうちの1つの花を見ると、ランの仲間であることがわかります。花粉は花粉塊として、虫に運ばれます。
ネジバナ

「新・雑草博士入門」より)

よく見ると、花序のねじり方には右巻き、左巻きのものがあります。
それぞれ数えてみると、同数に近いようです。中には、旗のように一方だけについているものもあります。“ねじれないネジバナ”ですね。
ネジバナには、この時期(6月)に咲くものと、秋に咲くものがあります。
(飯島和子)
クモの餌の捕り方
今日は網を張るクモの餌の捕り方について3種類を紹介します。ここに小さな網がありますが、良く見えませんね。魔法の霧吹きでごらんの通り、網が浮かび上がります。霧吹きの中はただの水です。
・ジョロウグモ
馬蹄形で非常に目が細かいですね。ジョロウグモの網です。
網の目が細かいので小さな虫もかかります。だからどこでも生活できます。横糸に粘球がありそこにくっつくのです。
9月頃には大きな網になります。次回はその観察をしましょう。
・コクサグモ
この垣根に多く見られる棚網はコクサグモです。クサグモもいますがもっと大きな網です。
コクサグモは腹部の末端が赤色になっています。観察できましたか。
このクサグモやコクサグモの網は粘りません。コクサグモの網は霧吹きでこらんのとおり、棚網の上に無数の糸が引かれています。この糸にぶつかって落ちた虫が、クモによって糸をかけられ、捕獲されてしまいます。
・カタハリウズグモ
このクモの網は面白いですね。白い帯が網の中心部を渦のように巻いています。
カタハリウズグモの網です。白い帯を、隠れ帯といっています。
私はこの網を見ただけで、このクモはお腹がいっぱいであるか、空いているかが分かります。
お腹がいっぱいだとこの帯は縦になり、張力が減少するため小さな虫が掛かっても反応しません。逆にお腹が空いていると、このように渦巻き状になり、張力が増し小さな虫がかかると反応します。
ジョロウグモの網

(写真:浅間茂)

コクサグモの網の抱卵

(写真:浅間茂)

カタハリウズグモの網(渦状の隠れ帯)

(写真:浅間茂)

カタハリウズグモの網(縦状の隠れ帯)

(写真:浅間茂)

カタハリウズグモの糸の電子顕微鏡写真

(写真:浅間茂)

ウズグモの仲間以外の隠れ帯の働きについては、いろいろな説があり、まだはっきりしていません。
霧吹きをつかうと、網がはっきり見えますね。水平の円網です。この網はモップ方式で虫をからみつかせます。ここに電子顕微鏡で撮影した網の写真があります。この細い糸でからみつくのです。これは粘球と違い、雨が降ってもからみつき能力は弱くなりません。
(浅間茂)
キマダラカメムシとクサギカメムシ
芝生に数本のハナミズキが植栽されています。
予定していたキマダラカメムシが少ないようなので、まずキイロテントウを見てみましょう。
小さめのテントウムシで、体長5mmほどの大きさです。蛹の抜け殻もありますね。成虫の近くには、白い卵が産卵されています。
ハナミズキの葉が白くなっているのは “うどんこ病”です。キイロテントウはこのうどんこ病菌を食べます。
さて、本題のキマダラカメムシです。
少なかったので、予めハナミズキとケヤキの樹幹から採集しておきました。
ガラス瓶にキマダラカメムシの成虫、卵塊、若齢幼虫が入っています。
別の瓶にクサギカメムシの成虫と卵塊も用意しました。比較してよく見てください。
キイロテントウ。
葉の白いのはうどんこ病菌
キマダラカメムシ成虫

(2016年6月19日撮影)

クサギカメムシ成虫。キマダラカメムシより一回り小さい
キマダラカメムシはクサギカメムシより一回り大きく、背中の黄斑が目立つことから昆虫愛好家に人気があります。
植込みで成虫越冬、そこに植えられたハナミズキに多いようです。6月ころ産卵し世代交代する年1回の発生です。
国内では最初1783年に長崎で記録され、徐々に東進、都内では2008年以降、小金井市、三鷹市、小平市とその周辺で確認されています。
晩秋に家屋に飛び込んでくるクサギカメムシに代わって、今後キマダラカメムシが増えてくるのか? 果樹のブドウやナシなどが加害されないか?
いま注視されています。
(平井一男)

キマダラカメムシ幼虫(2014年7月29日野川公園)

(写真:坂部重敬)

※参加者からの声:
「井の頭公園でも見た」「地球温暖化で増加したのか?」「においはきつくないか?」「キマダラのにおいはいい匂い」などの声が上がりました。みなさんの注目度も高いようです。
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小さなどんぐり
ここに小さなどんぐりがついています。
見えますか? 葉の付け根についていますよ。
次に少し移動してください、こちらの木にも小さなどんぐりがついています。
ご存じの通りはじめの木はコナラで、こちらはシラカシです。落葉樹、常緑樹の違いがありますが同じ仲間でコナラ属です。
この小さなどんぐりはまだ殻斗(かくと)に包まれています。殻斗はクリのいがに当たる部分で、どんぐりの帽子のところです。殻斗にも模様の違いがあってシラカシは同心円状でコナラは鱗状になっています。
さてこの小さなどんぐりはいつ咲いた花からできたのでしょうか。
それは今年の春、4月中頃から5月頃に咲いた花が受粉して、この小さなどんぐりになりました。そして今年の秋にどんぐりに成熟します。
本当に秋に成熟するのか目印をつけておきましょう。
このコナラやシラカシのようにその年の秋にどんぐりに成熟するものと、翌年の秋に成熟する種類があります。
足下に昨年のシラカシのどんぐりが落ちています、今年芽生えたものと思われる実生も沢山ありますね。
参考までに、当年に成熟するどんぐりと、翌年に成熟するどんぐりを上げておきましょう。
・花が咲いた年の秋にどんぐりが成熟する主な樹種:
コナラ、ミズナラ、カシワ、シラカシ、アラカシ、イチイガシなど
・翌年の秋にどんぐりが成熟する主な樹種:
クヌギ、アカガシ、ウラジロガシ、マテバシイなど
(金林和裕)
コナラの若い果実

(2016年6月19日撮影)

シラカシの若い果実

(2016年6月19日撮影)

コナラの雌花(2016年6月19日撮影)

(写真:金林和裕)

カラスの死骸と集まる虫
・カラスの死骸
6月19日の下見のとき、自由広場の東側トイレの近くでカラスの死骸を見つけました。体が小さいこと、翼や尾羽の羽がストロー状の「羽鞘」でくるまれていることから幼鳥と判断しました。
骨は白骨化し異臭を放ち、いろんな昆虫が死骸を分解しているところでした。1週間後の観察会当日まで死骸が無くならないよう木の根元に運び、落ち葉や草で覆いました。
今日の観察会の朝、早めに出かけて死骸を確認し、山崎先生が死骸を分解する昆虫を採集する段取りでした。ところが、予想以上に分解が進んでいたため、死骸は動かさずそのまま観察することにしました。
ここでの観察のポイントは3つ。
第一は、白骨化した嘴の色です。カラスの嘴は黒色ですが、骨は白色です。嘴の色は、骨を覆っているケラチン質の膜の色であることが分かります。
カラスの頭骨を手に話をする唐沢学長
カラスの幼鳥の死骸(2016年6月19日)

(写真:唐沢孝一)

白骨化した初列風切羽。翼の骨に固定されている(2016年6月19日)

(写真:唐沢孝一)

第二は、初列風切羽や尾羽が骨にしっかりと付いていることです。羽が骨に固定されているので力強く羽ばたくことができます。
そして第三は、死骸を分解する昆虫です(→山崎先生の解説へ続きます)
(唐沢孝一)
・カラスの死骸に集まる虫
カラスの死骸があると聞いて、今日の本番ではさぞや多くの昆虫が集まっていると期待していたのですが、今朝見ると腐敗が進み骨格の乾燥標本になっていました。オカダンゴムシがついているだけでした。これでは残念ながら死骸に集まる昆虫の話はできないとあきらめていました。
ところが、別の場所でカエルの死骸に虫がついている、という情報が入りました。
見てみると、ヒキガエルのかなり大きなもので、四脚が無く腹側からは背骨が見えました。
タヌキやカラスなどの鳥に食べられ、胴体だけが地面にあり、腐敗が進んだものと推測しました。
この死骸には小型のエンマム類、エンマコガネ類、小型ハネカクシ類がいます。たぶん、1週間前のカラスの死骸はこのカエルと同じような昆虫が集まっていたものと考えられます。
エンマムシは漢字で閻魔虫。名前の由来は死体に集まるからとされています。引導を渡すんでしょうね。
ニセドウガネエンマムシ
フトカドエンマコガネ
実際には、死体を食べるのではなく、死体にわいたうじ虫(ハエ類の幼虫)を食べます。平たいオールのような形の脚で、腐敗物の中を移動しやすくなっています。
エンマコガネの仲間は獣糞にも集まるいわゆる糞虫です。
動物が死ぬと、白骨化するまでに腐敗の進行状況により多くの動物、ことに昆虫に利用されます。カラスの死骸は、1週間で見事に白骨化していました。彼らは初期の分解で、循環に貢献しているといえます。
今回ヒキガエルの死骸に集まった昆虫を見ると、ここは自然が豊かであることが分かります。
(山崎秀雄)
ワルナスビの花のひみつ
ワルナスビはアメリカ南東部原産の植物ですが、日本だけでなく世界各地に帰化しています。
地下茎による繁殖力が旺盛で、一度生え始めてしまうと駆除が困難なことや、体中にとげがあることなどのマイナスイメージからこの不名誉な名がつけられたようです。
ナス科ナス属の植物で、花の特徴は同属のナスやジャガイモの花によく似ています。
5本ある雄しべの葯は黄色いバナナの房のようでよく目立ちます。花粉だらけのように見えますが、ちょっと触ってみてください。花粉は付きませんね。花粉は長い壷状の葯の内部にあり、外からは見えません。花粉を露出させないことで食害から守られていることになります。
成熟した葯の先端をルーペで拡大して見てみると、穴が開いているのがわかります。
花が揺すられるとその穴から花粉がこぼれ落ちます。黒い紙などの上で葯を指で弾いてみてください。埃のように微細な花粉が飛び散っているようすがわかります。
ナス科ナス属の植物の多くの種類は虫に媒介されなくても同花内での受粉で結実できる性質を持っていますが、基本的には虫媒花です。振動によって花粉を落とし、体についた花粉を運ぶ媒介法はBuzz pollination(振動送粉)と呼ばれています。Buzzというのは蜂のブーンという羽音のことです。
このタイプの花の送粉に最も適しているのは、マルハナバチのように花に止まったときも飛翔筋を細かく振動させ続けるハチです。葯をうまく振動させられる虫でないと、花粉はこぼれ落ちず、虫は花粉を得られないことになります。ハナアブなんかではだめでしょうね。また、このグループの花は蜜を分泌しない花粉花なので、チョウのように蜜だけを目的とする虫は来ません。
日本ではワルナスビの花は虫たちには不人気なようで、花を訪れる虫の姿を見る機会は滅多にないのですが、原産地ではどんな虫がやってくるのか見てみたいものですね。
(中安均)
ワルナスビの花。蕾は下を向いているが、花は横向きに開く。雌しべは上向きに反り返って葯の先から離れ、同花受粉を避けているようにみえる。

(写真:中安均)

成熟した葯の先端には穴が開いている。葯は2つずつがセットになっているので8の字のように見える。

(写真:中安均)

花を揺すったり、葯を指で弾いたりすると、花粉が散らばり落ちる。

(写真:中安均)

ヤセウツボ
前回園内のあちこちに見られたヤセウツボですが、枯れてしまったり、草刈り等で見られなくなりました。
帰化植物の多い草地の低木に隠れるように残っていました。
種子を観察してみましょう。花の咲き終わった部分を2〜3個いただいて、白い紙の上で叩いてみると、黒い小さな粒がたくさん落ちます。この粒が種子(約0.1mm)です。
1本の個体から数十万粒を生じるといわれています。
この種子は、地面に落ちて宿主の根の極近くにある種子のみ発芽し、宿主から離れた所では長く休眠するといわれています。
実際に、別の場所で1個の花からどの位生じるか丁寧に調べてみました。1,756粒を確認しました。1本の個体では、何粒になるでしょう。
(村田威夫)
ヤセウツボ
小さい黒い粒は種子
<後日談:村田先生から次の報告をいただきました>
ヤセウツボの種子の数について多くの文献には、1本で数十万粒と書かれています。
気になったことと、暑さに打ち勝つ修行として、近くの鹿島川土手にあるヤセウツボを調べてみました。平均的高さの株です。
1花に生じた種子の数は、1334、2182、2400、945、1743、2100、1433、1163、1478、2781でした。平均1,756粒です。1本の花は45個でしたから、79,020粒。せいぜい10万粒というところでしょうか。
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ヒマラヤスギの球果
野川公園内には多数のヒマラヤスギがあります。5月の観察会では昨年秋に落下した種鱗(しゅりん)と芽生えの観察をしました。(前回レポート参照)
今回は樹上に目を向けてみましょう。
少し離れて樹上を眺めると、枝の上に緑色の大きなまつぼっくり(球果)が多数見られます。
5月の観察会では目立ちませんでしたから、球果はこの1か月で急に大きくなったのだと思います。
この球果はいつ受粉したのでしょうか。図鑑などによると“秋に受粉して翌秋に結実し、種子を飛ばす”と書いてあります。1年でこんなに大きくなるんだ、と成長の速さに感心していました。
ところが、1週間前の下見のときに、大小の球果の並んだ写真が撮れました。
この写真を見て、受粉から1年間で結実するということに疑問を感じるという声が出ました。この大小2種類の球果のようすから、開花から種子ができるまで2年かかると考えたほうがいいのではという意見です。
10月の観察会では大小2種類の球果がどうなっているかを確認できることでしょう。その結果から開花から結実までの期間が明確になるかもしれません。
ヒマラヤスギは多くの公園に植えられていますが、開花から結実まで1年または1年以上かかるという記載がある程度です。身近にヒマラヤスギがあって、継続して観察できる方はぜひ挑戦してみてください。
「球果のついている木とついていない木がありますが、雌雄異株ですか」との質問がありました。
図鑑などでは“雌雄異株のように見えるが、雌雄同株、球果の数は年によりばらつきがある”などと書かれています。このことについても継続した観察が必要なようです。
「ヒマラヤスギはあちこちで見られるので、よく調べられているのかと思っていました。まだわからないことがあることに驚きました。」との感想をいただきました。
(飯島和子)
大きな球果を多数つけたヒマラヤスギ

(2016年6月19日撮影)

大小の球果

(写真:金林和裕)

5月に見た球果、長径は2cm弱

(2016年5月8日撮影)

カルガモの繁殖
観察会当日は野川に子供達が大勢入っていたので見ることはできませんでしたが、6月15日に野川のくぬぎ橋から雛4羽を連れたカルガモを見ました。
カモの雛は卵から孵化するとすぐに自分で餌を食べ出します。この時は岸辺近くのイヌビエやカモジグサの実を食べていました。カルガモは雑食性で水生昆虫や藻類を主に食べますが、雑草の実や葉も食べます。
カルガモというと都心の大手町のカルガモ親子の引越しが有名ですが、他にも市街地の池などで繁殖するカルガモが増加しています。この中にはマガモの特徴を持った羽を持つカルガモがいます。これはカルガモとマガモの交雑個体で、「マルガモ」と呼ばれています。みなさんが知っているアヒルはマガモを原種とする家禽です。また、アヒルとマガモを交雑させた個体を「アイガモ」と言います。すなわちマガモ、アイガモ、アヒルは同一種なのです。
なぜカルガモとマガモの交雑種が産まれやすいのでしょうか。最近のDNAバーコーディング(ミトコンドリアDNAの一部の領域を調べバーコード化し比較照合する技術)によると、カルガモとマガモの遺伝的差異は0%でした。(ちなみにハクセキレイとセグロセキレイは1.51%、ウミウとカワウは1.54%でした。)すなわちマガモとカルガモは、われわれが見ている姿の違いよりは、はるかに近縁だということです。
ところで、野川のカルガモ親子は日曜日にはどこにいってしまったのでしょうか。可能性が高いのはもっと上流の人が来ない所へ移動したのではないでしょうか。しかし、仁部富之助氏の本の一節によると、「雛が親鳥の胸部に嘴をもって食いさがり、親鳥はこれをさげて飛翔する」とあり、その観察例をあげています。驚くような奥の手があったのですね。
(越川重治)
イネ科の雑草を食べるカルガモ

(2016年6月15日撮影)(越川重治)

野川のカルガモの親子

(2016年6月15日撮影)(越川重治)

水中の藻類を食べるカルガモ親子

(2016年6月15日撮影)(越川重治)

川虫の話
幼虫期(中には成虫期まで)を水中または水面で過ごす昆虫を水生昆虫といいますが、その中で河川に住むものを一般的に川虫(かわむし)と呼びます。
26日当日、野川公園のわき水広場で見つけた川虫は、トンボ目(オニヤンマ)、カゲロウ目、カワゲラ目、トビケラ目、ハエ目(ガガンボ)の幼虫でした。
水中で生活する川虫の多くは、呼吸のための鰓(えら)を持っていますが、鰓の付いている位置や形態は、グループごとに違いがみられます。
鈴木先生が用意した川虫を食い入るように見る少年たち。短時間でこれだけ採集した鈴木先生のウデと恵まれた環境にびっくり(観察後の虫は元に戻しています)
トンボ目のイトトンボやカワトンボの仲間には、尾端に3枚の鳥の羽のような扁平な鰓があります。オニヤンマなどは直腸に鰓があります。
カゲロウは、一般的に腹部側面または背面に、葉状の鰓があり、鰓を動かすことで水流を作り、呼吸しています。
カワゲラでは多くの種で胸脚の付け根に指状の鰓がありますが、トワダカワゲラの仲間は、胸部ではなく腹端に鰓があります。また、ミドリカワゲラの仲間は鰓を持っていません。カワゲラの幼虫を水の入った容器に入れていると、腕立て伏せをすることがあります。これは鰓に新鮮な水を送るための行動だといわれています。
トビケラでは、腹部に糸状の鰓をもつ種が多くいます。
水生のガガンボ幼虫は、尾端に呼吸盤と呼ばれる構造があって、鰓も付いていますが、呼吸盤にある1対の呼吸孔を使って、水面で直接呼吸することもできます。
オニヤンマはわき水広場にある川のように、水質の良い小さな流れに産卵します。成虫になるのに5年ほどかかるといわれていますが、今回見つかった一番大きな個体は、この夏、成虫になるものでした。
カワゲラの幼虫は一般にきれいな川に生息しますが、カゲロウの幼虫の中には(サホコカゲロウなど)、汚れた川に生息するものもいます。
トビケラの幼虫の多くは、ミノムシのように移動できる巣を作ります。巣の材料は落ち葉や砂粒などで、種類によって巣材も巣の形も違います。また、小石や網で川底の石に、固定式の巣を作るものもいます。一部の種類は巣を作らずに、水中を裸で移動して、餌を探します。
オニヤンマの幼虫
大きいものは今年成虫になるはず
カゲロウの仲間の幼虫
カワゲラの仲間の幼虫
カワゲラの仲間の幼虫

トビケラの仲間の幼虫(2011年長野県で撮影)

ガガンボの仲間の幼虫
※当日観察した川虫を撮りましたが、トビケラは撮影漏れで別の写真を載せました。申し訳ありません。

観察会当日は、梅雨の中のありがたい晴れ間でした。
おかげさまで充実した観察会になりました。参加いただいたみなさん、講師のみなさん、そして特別講師として参加いただいた根田仁先生、ありがとうございました。
観察会終了後の根田先生の感想を紹介させていただきます。
「きのこの観察会は多数やっていますが、このような植物や鳥、昆虫を全部まとめての観察会は初めてでした。とても面白かったです。
きのこの観察会では、名前を聞かれたり、食べられるかどうかの質問がほとんどです。僕は、そういった観察会は、ホントは苦手なんです。
自然観察大学のようにいろいろな生物を広く観察して、その中にきのこがある、というのが本来の自然観察だと思います。またぜひ参加したいと思います。」


2016年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告  
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