2017年  NPO法人自然観察大学
第1回観察会
2017年5月14
場所:都立水元公園

2017年度の定例観察会は水元公園。自然観察大学としては初めてのフィールドです。
お時間のある時に、ゆっくりとご覧ください。

担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物については、飯島・川名・村田・金林の各先生に適宜分担していただいたため、このレポートを作成いただいた方の名前を記しました。
写真提供者名はそれぞれに記してあります。記載のない写真は自然観察大学の撮影です。本レポートおよび本HPの写真などの無断転載はお断りいたします。
水元公園の歴史を振り返る
面積約93haという広大な水元公園、今回の観察会ではほんの一部分を歩くのに過ぎません。
水元公園のある東京の下町の低湿地帯は太古より荒川、中川、江戸川などの氾濫に苦しめられ、江戸〜東京を通して治水は国家的な課題でした。江戸時代に始まった利根川への流路変更(瀬替え)、荒川放水路の完成(昭和5年)、中川放水路の完成(昭和38年)などによりようやく水害から守られるようになりました。
用意した特製の古地図(?)で水元公園の歴史を説明する唐沢先生
大場川にかかわる閘門(こうもん)橋。画面左に見える橋は現在の岩槻街道(写真:唐沢孝一)
閘門(正式名は、弐郷半領猿又閘門)。関板を矢印の溝に差し込んで水位などを調節した(写真:唐沢孝一)
社寺林のあとにはエノキの巨木。見上げるとその大きさにびっくり
この場所からは、大場川にかかる「閘門(こうもん)橋」が見えます。
明治42(1909)年完成のレンガ造り。川の水量・水位・流れる方向などを堰板で調節したのが閘門であり、中川からの逆流を防止しました。
水元公園の水域は、将軍吉宗の時代に水田の灌漑用水として造られた「小合溜井」に始まるといわれ、下流域(現・江戸川区や葛飾区)の水田を潤し、淡水魚の養殖にも利用されてきました。関東大震災(大正13年)後は防災公園として、日中戦争(昭和12年)以降は首都防衛や空襲時の避難場所。戦後は、GHQによる農地開放(昭和20年)により水田耕作が行われ、昭和40年代以降は再び水郷としての都市公園として整備。2011年の東日本大震災以降は災害時の避難場所として見直されています。
(唐沢孝一)
カワセミが繁殖できた理由
水元かわせみの里では、今年カワセミが繁殖し無事に巣立つことができました。
カワセミはどこで繁殖したのでしょうか。
ふつうカワセミは切り立った崖の土をトンネル状に掘ってその中で繁殖します。しかし水元公園では適した環境がほとんどありません。
水元かわせみの里では、2009年より人工的に崖を作ってカワセミを誘致し、カラスやアオダイショウなどの天敵を防ぐために板で被うなどにより成功しました。
カワセミの話がはじまるそのとき、止まり木にはカワセミが…
水元公園のカワセミの巣。手前は求愛給餌するカワセミの雄(左)と雌(右)。その背後の板の中央上の四角の奥に巣穴がある(写真:田仲義弘)
交尾をするカワセミ(写真:田仲義弘)
人為的にカワセミの繁殖を助ける取り組みは、国土交通省北海道開発局と鳥類の研究者の協力により実施された営巣ブロックの設置をはじめ、1990年代から全国にひろがりつつあります。
本来の営巣環境を保全することが重要であることは言うまでもないのですが、ちょっとした工夫でカワセミの繁殖を手伝うことができるのですね。
(越川重治・唐沢孝一)
関連記事
・自然観察大学2006年度室内講習会 「都市化したカワセミ」 唐沢孝一
・自然観察大学2003年観察会 「カワセミの構造色」 浅間茂
・話のたねのテーブルNo.62 電子顕微鏡シリーズ16 「色のない色(3)-鳥の構造色」 浅間茂
ミズキの話
この木はよくご存じのミズキです。
どこにでもある樹木で、5月初旬に林縁部で白い花をたくさん咲かせて、とても目立ちます。
もうそろそろ花は終わりですが、この花序を見てください。枝の先についていますね。
そうするとこの主軸の先端から枝を伸ばすことができませんね。
どうするかというと、花序の元のほうから脇芽を伸ばすことになります。
ここから少し枝が伸び始めているのが見えますか?
これを仮軸成長と呼びます。仮軸成長を毎年繰り返して、特徴のある枝振りになります。
ミズキの特徴的な枝振り
 
花序のもとから脇芽が出る
ミズキの名の由来は水分をよく吸い上げることによります。枝を切ると切り口から水がしたたります。
写真はクマノミズキですがこのように水が出てきます。
また幹から輪生状に枝が出るので独特な樹形になっています。
ミズキの材は白く滑らかなので、こけしや塗り箸に利用されます。
岩手では小正月に切り取った枝に団子を刺して飾り、豊作を祈ります。
クマノミズキはミズキによく似ていますが、花の時期が1か月くらい遅く、葉が対生なので見分ける事ができます。
(金林和裕)
枝の切り口から水滴が落ちるクマノミズキ。春の一時期だけに見られる
当日参加いただいた三好さんから、水滴のしたたるミズキの写真をお送りいただきました。
数年前の春の彼岸の頃の写真だそうです。こんなことがあるんですね。
ありがとうございました。
(写真:山下安雄)
イネ科植物の花
イネ科の草はどこにでもたくさんありながら、同定のむずかしさからとかく敬遠され勝ちです。
今回のコースの道ばたにもたくさん生えていて、ちょうど穂が出て花が開いていたので観察の対象にしました。
よく目立ったのはネズミムギです。
観察にはルーペが便利です。穂の間から雄しべのやくがちらちらしています。よく見ると一つの花に3個あります。
その元の方に雌しべがあり、先に2本に分かれた羽毛のような柱頭が見えます。
花弁やがく片はありません。雄しべ、雌しべは2個のえい(穎)に包まれていました。だからこれで花? という感じです。雌しべの子房はやがて果実になります。イネも基本的には同じ構造です。
この小花が集まって小穂をつくります。また小穂が集まって穂全体をつくります。
ネズミムギの花(小花)
「新版 形とくらしの雑草図鑑」より
ネズミムギの小穂(左)
(右)
「新版 形とくらしの雑草図鑑」より
イネ科の草は茎(稈)と葉がどれもよく似ていて区別がつけにくいのですが、穂が出たときが同定のチャンスです。とはいってもそれがまた大変です。
ネズミムギとともに穂が出ていたのはカモジグサとイヌムギです。ここまでは区別がつけられます。ほかにオオスズメノカタビラらしきものがたくさんありましたが、小穂が細かく、はっきりとはわかりませんでした。
(岩瀬徹)
2016年の観察会は残念ながらお休みだった岩瀬先生ですが、
今年はバッチリ回復して、元気です。
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テントウムシの話
春は新梢にアブラムシが多数発生する時期で、それを食べるテントウムシ、ヒラタアブ、クサカゲロウの幼虫が多く発生します。
今回はその代表のナナホシテントウとナミテントウについて観察します。
カラスノエンドウにはアブラムシが大発生します。今は時期的にはアブラムシの減少期ですが、観察会には間に合いました。
テントウムシの食性はアブラムシやカイガラムシを食べる肉食、ニジュウヤホシテントウのように葉を食べる草食、ヒメテントウのように菌食があります。同一科内で食性が異なる種を持つのは珍しいです。そして、成虫と幼虫の食性も同じです。
ここにはナミテントウとナナホシテントウの幼虫、蛹、成虫の3世代がみられます(2種の写真提示)。よく見れば卵(卵塊)も見つかるかもしれません。この2種は幼虫、蛹、成虫で区別ができます。
ナナホシテントウ成虫
ナナホシテントウ幼虫
ナミテントウ成虫
ナミテントウ幼虫
ナミテントウ蛹
 
ナミテントウの紋様の個体変異
(本稿の写真はすべて山崎秀雄)
ナミテントウは成虫の背面の紋様の変異の大きいことでも知られます。紋様は遺伝します。遺伝の研究を容易にしたのは、ミツバチの幼虫の冷凍乾燥粉末により飼育ができるようになったからです。
 
変異例としてここに標本をもってきました(小型の標本箱を提示)。紋様変化の多い種としてヒメカメノコテントウも持参しました。
加えて斑紋変化の少ないナナホシテントウも見てください。数には変化がないものの大きさには変化のあることがわかるでしょう。
(山崎秀雄)
アカスジチュウレンジ
ハチといえば、ふつうは腰がくびれていると思いますね。
しかしそれはハチの仲間の半分で、ずんどうな腰を持った広腰亜目のハチもいます。
アカスジチュウレンジは広腰亜目に属するハチで、生活史は蛾や蝶の仲間と同じ「親が子供の餌になる植物に産卵し、卵からかえった幼虫がその植物を食べて成虫になる」です。生活史が同じといっても、蛾や蝶が単に植物に卵をつけるだけなのに対し、針を持ったハチの仲間は針を使って卵を植物の中に産み付けます。
アカスジチュウレンジの幼虫の食草はバラ類です。水元公園では数多く生えているノイバラに産卵しているのを見かけます。
新しく伸びた茎(新梢)を見つけると、産卵管の鞘(さや)で茎に切れ込みをつけます。
鞘は断面がU字型で両縁にノコギリの歯が付いています。それで腹を揺すると鞘がねじれて歯が前後に動き、茎を切ります。
少し切っては切り口に産卵管を差し込み卵を産み付ける。また少し切っては産卵、これを繰り返して1時間位で20卵ほど生みます。
卵は茎から水分を得て膨らみ、切り口が大きく広がります。だから園芸家に目の敵にされるんですね。
そして1週間ほどで幼虫が生まれます。小さな幼虫は1枚の葉の縁にきれいに並んで葉を食べます。脅かすと一斉に腹部を持ち上げて自分を大きく見せようとします。
可愛いと思うのですが、これもバラを栽培する人には…。
ところで、水元公園のグリーンプラザという都の施設では、ボランティアの方々がバラを栽培しています。
大きな声では言えませんが、そのバラにもアカスジチュウレンジは産卵しています。
(田仲義弘)
ノイバラに産卵するアカスジチュウレンジ。茎に産卵痕が見える
茎内の卵が膨れて切り口が広がった
葉の縁に並んで食べる幼虫
アカスジチュウレンジ幼虫。大きくなると単独行動
(本稿の写真はすべて田仲義弘)
※田仲先生が撮影した産卵シーンの動画は次で見られます。
 →https://www.youtube.com/watch?v=DXfmTgjxPHo
 
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メタセコイアの話
緑鮮やかな大木が見られます。公園ではよく見かけますね。
真っ直ぐ空に伸びた樹形で遠くからも目立ちます。
これが「生きた化石と言われるメタセコイア」です。
水元公園にはたくさん植えられていて、「メタセコイアの林」と呼ばれている場所があります。今日の観察会では行きませんが、次回のコースに考えてみたいです。
今回は、「生きた化石」と呼ばれる経緯を説明しましょう。
三木茂氏が日本の第三紀から第四紀にかけて出るセコイア属の化石を研究している中で、同属と特徴の異なる化石を見つけ「メタセコイア Metasequoia」として1941年に発表しました。この時点までは化石植物と思われていました。
1945年に中国四川省でセコイアに似た大木が発見され、調べた結果メタセコイアであることが分かりました。170万年前に絶滅していたと思われていた植物が発見されたというわけです。
緑鮮やかなメタセコイア。真っ直ぐに高く伸びる
このニュースは全世界に伝わり、大きな反響を呼びました。それでメタセコイアは「生きた化石」と呼ばれるようになりました。
戦後すぐにアメリカの学者が自生地を調査し、育種を試み、多くの若木を得ました。この若木の一部が、ゆかりのある日本に送られ、皇居に植樹されました。その後、挿し木でも簡単に増やすことができ、成長が早いので各地の公園や学校に植えられ、空に向かって真っ直ぐ伸び、30mを超す木まで見られるようになりました。和名を「アケボノスギ」と呼んでいます。
近くによって枝を見ましょう。葉はどれでしょう?
一見、細かい小葉をもつ複葉のように見えますが、そうではありません。
この細かい小葉に見えるものが、それぞれ1枚の葉です。
よく観察してみてください。葉は対生に付いていますね。
こちらに別の木の枝があります。メタセコイアによく似ています。(用意した枝を取り出す)
間近かで見てください。どこが違いますか?
葉の付き方が違って、こちらは互生ですね。
この木は、メタセコイアに近い仲間で「ラクウショウ」といいます。アメリカ大陸の東南部の沼地に自生しています。ラクウショウも水元公園内に見られます。落葉高木で、漢字では「落羽松」と書きます。
メタセコイアの葉は対生
ラクウショウの葉は基本的に互生
ラクウショウは湿潤地に生え、長く水没しても生育可能です。そのため気根を出して空中の酸素を取り入れています。別名「ヌマスギ」と言われています。
両者ともスギ科としていましたが、新しい分類でヒノキ科とされています。
次回以降この両種の観察が楽しみですね。
(村田威夫)
植え込みの中で育った樹木の実生
公園内の道路に沿って続くアベリアの植え込みの中から、いろいろな樹種の若木が顔を出しています。
エノキ、シュロ、シロダモ、サンゴジュ、ノイバラ、トウネズミモチ、タブノキ、ケヤキ、ムクノキ、アカメガシワ、アキニレなどがあり、実ににぎやかです。
アベリアの植え込みの中で育つ若木。
シロダモ、トウネズミモチ、サンゴジュ、エノキなど
(写真:中安均)
これらの植物は人の手によって植えられたものではなさそうですし、親木もすぐ近くには見当たりません。
どうしてこの場所で暮らすことになったのでしょうか。また、今後もこのまま順調に育っていけるでしょうか。「この子たち」のこれまでとこれからとを考えてみましょう。
植物は自由に動き回ることはできませんが、様々な方法で、種子を遠くへ散布します。これらの樹木の種子はどのような方法でここに到達したと考えられるでしょうか?
そう、鳥や風に運ばれてきた可能性が高そうですね。ケヤキとアキニレは風散布、それ以外の樹種はすべて被食散布(鳥や獣に実が食べられ、種子は糞とともに排出される)です。
被食散布の主役は主に鳥たち。タヌキなどの獣も樹木の種子散布にかかわっていますが、入り込むことが困難なほど細かい枝が密生した植え込みの中のような場所で糞をすることはまずありません。
鳥や風に運ばれてきた種子はあちこちにばらまかれますが、そこが生育に適した場所であるかどうかは運次第。植え込みから50cm外れてアスファルト舗装の道路上に落ちれば発芽もできずに終わってしまうでしょうし、広場に落ちれば芽生えることができたとしても人に踏みつけられたり、刈られたりして若木にまで育つことはできないでしょう。この場所で若木にまで成長できた「この子たち」はかなりの強運の持ち主ということになります。
では次に「この子たち」の将来のことを考えてみましょう。このまま順調に育っていけるでしょうか?
やはり難しそうですね。まもなく始まるであろう植え込みの剪定作業で刈りこまれてしまい、引き抜かれることはなくても、大きく育つことはできないでしょう。公園のように、人の手で管理された場所で野生の植物が生き抜くことはとても大変なことなのです。
植込みから顔を出した実生をみんなで観察
ここで一つの提案があります。
植え込みの一部の区画を剪定せずに残しておくというのはどうでしょうか。
そこでは生き物同士のかかわりや野生動植物と人とのかかわりに関する様々な観察ができるはずです。
※ 口々に“賛成、面白い”の声
ただし、放置したままではクレームが出そうですから、趣旨を明示した解説板を設置した方がいいですね。
(中安均)
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樹洞繁殖するムクドリとシジュウカラ
みなさんはムクドリやシジュウカラの巣を見たことはありますか?
ほとんどの人は見たことがないと思います。
両者とも樹洞繁殖する鳥なので、外から繁殖のようすを知ることは難しいのです。
ここでは、アキニレの樹洞で繁殖しているのが見つかりました。
ムクドリは戸袋や建物の鉄骨の隙間などの人工物の穴でもよく繁殖します。
少し離れた位置からムクドリとシジュウカラの営巣を観察
アキニレの樹洞で繁殖中のシジュウカラ
(写真:越川重治)
アキニレの樹洞で繁殖中のムクドリ
(写真:越川重治)
巣箱内のムクドリの卵(写真:越川重治)
繁殖後の巣箱内で見つかったたくさんのサクラの種子(核)(写真:越川重治)
ムクドリの卵を見た人はいますか?
ムクドリの姿はたいへん地味なのですが、その卵は宝石のターコイズ色(青緑色)のたいへん派手できれいな色をしています。
抱卵期間は約14日、育雛期間は約21日で雛には小動物や果実を与えます。小動物はコガネムシ、蛾、コメツキムシの幼虫、ミミズなど、果実はサクラ類、グミ類、クワなどです。
ムクドリでは確認されていませんが、餌を採取するために、嘴にはおそらくセンサーのようなものがあると考えられます
都市ねぐら(駅前の立ち木にねぐらをとる)などで嫌われ者のムクドリですが、農業害虫を食べ、そして果実を食べて都市生態系での種子散布者として重要な働きをしているのです。
(越川重治)
 
ショウブの花は?
ショウブとハナショウブを取り違えている人はかなり多いと思います。
「ショウブが咲いた」というと、たいていの人はハナショウブのことを言っているのでしょう。
分類上はショウブはショウブ科(サトイモ科)で、ハナショウブはアヤメ科です。
本当のショウブがここで見られます。
葉にまぎれて見つけにくいですが、わかりましたか?
ショウブの花は、肉穂花序(にくすいかじょ)といって、円柱状の小さな花が集まってできています。
ショウブは漢字では菖蒲と表します。
『牧野新日本植物図鑑』によれば、「菖蒲はセキショウの漢名」とあります。一方、『万葉植物事典』では、「万葉集の“あやめぐさ”の表記は菖蒲草、菖蒲、安夜女具佐」などとあってショウブを指します。ややこしいですね。
昔から、5月の節句にショウブの葉を入れた菖蒲湯に浸ると心身ともに健やかになるとされています。
ショウブの葉を鉢巻きにして“勝負”にかけて勝ちを祈ったともいわれています。
また、薬用、虫よけ、邪気払いに利用されてきました。
ショウブの花 ショウブ科(サトイモ科)
ハナショウブの花 アヤメ科
(写真:川名興)
ショウブの地下部。香りが強い
ショウブの鉢巻きで勝負!
ちょっとてれる川名先生
じつは私のカバンの中にもショウブがあります。これは私の家の庭から掘ってきたものです。
みなさんで匂いをかいでみてください。
よい匂いでしょう。地下茎はもっとよい香りではありませんか?
(川名興)
*:『万葉植物事典』山田卓三・中嶋信太郎、1995、北隆館
ユリノキの花
ユリノキの花が咲いています。
北アメリカ原産で、明治初期に渡来したと言われています。
ユリノキは公園などによく植えられていますが、高木が多く、このように目の高さで、花が観察できるのはめずらしいですね。
近寄って観察してみましょう。
別名チューリップツリーと呼ばれるように、チューリップのような形の花です。
花被片は9個。外側の3個はがく片で、白緑色でくるっと巻いています。内側の6個は黄緑色で花弁、内側の基部にはオレンジ色の斑紋があります。めしべは円錐形に多数まとまってついていて、紫色の柱頭も見えています。その周りに線形のおしべが多数ついています。

ユリノキが下枝まで花をつけていた
ユリノキの花(写真:飯島和子)

昨年の集合果の外側だけ残った花
(写真:飯島和子)
葉裏のユリノキヒゲナガアブラムシ有翅成虫と幼虫
秋には熟して、翼果の集まった集合果になります。木の上の方には、昨年の集合果の外側だけが残っています。
ユリノキは葉の形からハンテンボクとも呼ばれます。今は半纏の形の新葉が見られます。
よく見ると、葉に点々と何か光るものがついているのがわかると思います。これはアブラムシの排泄物で「甘露(かんろ)」と呼ばれています。
すぐ上の葉の裏にアブラムシがついていますね。その排泄した甘露が下の葉についたものです。このアブラムシは「ユリノキヒゲナガアブラムシ」であると、松本先生に教えていただきました。
ところでその甘露ですが、先日これをなめた方がいて、ほんのりと甘かったそうです。
(飯島和子)
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ヤニサシガメ
カメムシ類は共通の特徴として、針状の口器をもっています。その中で、前翅と後翅の形が大きく違うグループをカメムシ亜目といい、ヤニサシガメもこの仲間に入ります。
さらにカメムシ亜目はいくつかのグループ(下目)に分かれます。私たちがよく知っている、いわゆるカメムシ(アオクサカメムシやアカスジキンカメムシなど)がカメムシ下目に分類されるのに対して、ヤニサシガメはグンバイムシやトコジラミ(ナンキンムシ)と同じトコジラミ下目に属します。同じ「カメムシ」と付いていても、意外に離れた系統関係にあります。食性も普通のカメムシは一般的に植食性ですが、サシガメは肉食性(捕食性)と異なっています。
ヤニサシガメは、マツやスギなどの針葉樹でよく見つかり、幼虫は樹皮の割れ目などで越冬します。
そのため、害虫駆除のための「こも巻き」に、松の害虫であるマツカレハの幼虫と一緒になって潜っていることがあります。また、ヤニサシガメは幼虫も成虫も体表がベタベタしていますが、ネット上には、松ヤニを体に塗り付けているためという説明が多くみられます。しかし、自らが粘着物質を分泌しているという説もあり、真実はまだヤニ・・、ではなくヤミの中かもしれません。
ヤニサシガメにちょっと似ていますが、一回り大きなサシガメに、ヨコヅナサシガメがいます。
こちらは広葉樹の樹上でよく見かけます。ヤニサシガメと同様に幼虫で越冬しますが、大集団で越冬するのが特徴です。ヤニサシガメも複数集まって越冬することはありますが、せいぜい数匹といったところです。
ヨコヅナサシガメは脱皮した直後、体の多くの部分が真っ赤な色をしていて、その鮮やかさに驚かされます。赤い部分は時間とともに黒くなりますが、脚の付け根などには赤が残ります。
今ではよく見かけるヨコヅナサシガメですが、もともと中国や東南アジアに分布する虫で、昭和の初めに九州に入ったとされます。現在は関東以南に分布を広げ、長野県や新潟県の一部でも見つかっているようです。
(鈴木信夫)
ヤニサシガメはアカマツの新梢で見られた
ヤニサシガメ成虫。全身ベタベタ
ヨコヅナサシガメ成虫
 
羽化後間もないヨコヅナサシガメ。この角度からだと針状の口器がよくわかる
   
ヤノイスアブラムシ
イスノキに虫こぶがびっしりとついています。
ヤノイスアブラムシによる虫こぶです。
イスノキにはアブラムシによる虫こぶが5種類以上知られています。その中で、このヤノイスアブラムシは今の時期にふつうに見られるアブラムシです。虫こぶはこのアブラムシが仲間たちと暮らすための住み家です。
まず、春先にイスノキに産み付けられた卵から孵化したヤノイスアブラムシが、葉裏から口吻を差し込んでドーム型の虫こぶをつくります。虫こぶは葉が変形することによってできます。
この初めの1匹を幹母(かんぼ)といいます。幹母は胎生で、虫こぶの中で子虫を産みます。
1つの葉には複数の虫こぶができていますが、それぞれの虫こぶで、幹母が子虫を産んでいます。
ちょっと失敬して、虫こぶを切って中を見てみましょう。
※虫こぶの中を見て、みんなから驚きの声が上がる
翅を持った黒っぽいのが成虫(有翅成虫)で、ピンク色のが子虫(幼虫)です。
5月下旬には葉裏の三角錐の部分から虫こぶが裂開し、有翅成虫が出ていきます。長い翅でグライダーのようにして、目的地のコナラに次々に飛んでいきます。
コナラでは虫こぶはつくらず、有翅虫も出てきませんが、秋の終わりごろにまた翅をもったアブラムシが現れます。その有翅成虫はイスノキに戻る役目を持ったアブラムシです。
このときの有翅成虫は雄と雌を体内に宿しています。雄は1年に一度だけ現れ、有性生殖で産卵されます。
ほかの世代はすべて単性世代で胎生の雌虫(子虫)を産みます。
アブラムシは1匹の親虫が長生きはしません。次々と命のバトンを渡して世代を継承させます。
(松本嘉幸)
 
虫こぶがびっしりのイスノキの前で話をする松本先生
ヤノイスアブラムシによる虫こぶの名称は「イスノキハタマフシ」。1つのイスノキの葉に複数の虫こぶができる。
虫こぶを切ってみると、中にはヤノイスアブラムシの有翅成虫がいた。ピンク色のものは子虫(幼虫)。このあと、虫こぶが裂開してヤノイスアブラムシが飛び立ち、コナラに移る(宿主転換)
*:ちょっとややこしいかもしれませんが、アブラムシはとても興味深い生活をしています。
  詳しい解説は松本先生の著書 「アブラムシ入門図鑑」 をご覧ください。
クサグモ
この植え込みには、たくさんのクモ網が張られています。
クサグモです。
取り出した魔法の水を霧吹きで拭きかけると…
どうですか、この通り網の糸が良く見えます。
魔法の水は、実はただの水です。
この棚状の網は棚網といいますが、棚状の網の上に不規則な糸がたくさん見られます。
クサグモの棚網。中心部にクモが見える
(写真:浅間茂)
これらの糸には粘着性はありません。網の上に落ちた虫が、この糸にぶつかり、出られなくなります。まごまごしている内に、糸を掛けられて餌食となります。
ではここで音叉を使って実験をしてみましょう。
さあ皆さん見てください。クモが出てきました。糸の震動を足の毛(聴毛)で感じます。
そして音叉を餌と間違えて、糸を巻いています。
たくさんいるので何度でもやってみましょうね。
クモがいったん警戒心を抱くとうまくいきませんが、どうでしょうか。
音叉を鳴らしてクサグモをおびき出す浅間先生
クサグモ幼体
一週間前にこのクモ(クサグモ)を見た時は、頭胸部が赤く、腹部は真っ黒でした。今は色が薄れ、腹部には模様が見えます。いまは幼体ですが、あと3回ほど脱皮すると成体になります。
雄は成体の一歩手前(亜成体)になると触肢が膨らみます。
成体になると触肢は複雑な構造(パルプ)になります。雄は特別な網(精網)を張り、そこに精子を付けて、スポイトのように精子をパルプに吸い込みます。雄のパルプと雌の生殖器は鍵と鍵穴のように、同種だけがうまく交尾ができるようになっています。
雄は成体になると網を張れなくなり、雌探しの旅にでます。クサグモは雌の網に入り込むと、前脚を使い雌の体をトントンと叩きます。雌は催眠術に掛かったように、眠りこけます。そこで交尾します。
網を張るクモの多くは、クサグモと違って網の振動で求愛をします。中には雌を糸で縛ったり、プレゼントをしたり、ダンスをするクモもいます。
いろいろなクモの求愛を観察できるチャンスがあるといいですね。
(浅間茂)

参加いただいたみなさん、講師のみなさん、ありがとうございました。
そして今回NPO会員スタッフとしてご協力いただいたNさん、Kさん、はじめてのフィールドで現地を案内いただいたIさん、Oさん、ありがとうございました。この場を借りて改めて御礼申し上げます。
次回6月25日の第2回観察会をお楽しみに。
(レポートまとめ 事務局O)

2017年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告  
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