2018年  NPO法人自然観察大学
第2回観察会
2018年6月24日
場所:さいたま市見沼田んぼ

草刈りあとでツバメの低空飛行を観察。
低く飛んで昆虫を捕らえる。

(写真:寿原淑郎)

観察会では、それまでずっと降っていた雨が、開始直前に止みました。
このレポートは当日の話題の一部ではありますが、今回もまたまた充実した内容です。(自画自賛!)
お時間のあるときにゆっくりとご覧ください。
営巣のための材料を集めに来たツバメ。泥をくわえて何度も往復する(写真:石井秀夫)
担当講師については【講師紹介】をご覧ください。写真提供者名はそれぞれに記してあります。
本レポートおよび本HPの写真などの無断転載はお断りいたします。
見沼たんぼの地形と歴史
「見沼田んぼ」は埼玉県さいたま市に広がる面積約1200ヘクタールの水田地帯で、都心から20〜30km圏内に残る最大規模の水田と言われてきました。しかし、耕作放棄や宅地化、公園化が進み、水田環境は大きく変化しています。ここでは自然観察の立場からみた見沼田んぼの地形や歴史を概観してみます。
<台地と低地の高低差を観察する>
埼玉県南部の地形は、台地と低地からなります。大宮から浦和にかけての台地は大宮台地といいます。台地は川に浸食され、台地と低地が複雑に入り組み、見沼田んぼもそうした入り組んだ低地の一つです。台地と低地の高低差は、次の方法でも調べられます。
台地や湿地を貫いてJR武蔵野線が東西に走っています。電車はほぼ水平に敷いた線路を走ります。そのため線路は低地部分を盛り土して高くし、台地部分は削って低くします。高低差は、「JR東浦和駅の線路から階段の上までの高さ」+「見沼田んぼの盛り土した線路までの高さ」で求められます。ぜひ調べて見てください。
<芝川から斜面林を観察する>
見沼田んぼの地形を観察するもう一つのポイントがあります。見沼田んぼの中央を南北に流れる芝川付近に立ちます。西の東浦和駅方面を見ると、緑の斜面林が北に続いています。東の川口市方面にも緑の斜面林が北に続いています。この二つの斜面林に挟まれた低地が見沼田んぼです。
<縄文時代の見沼を想像する>
台地の縁(へり)には、たくさんの縄文時代の遺跡(貝塚)があります。貝塚からはハマグリ、カガミガイ、サルボウ、アカニシ、マテガイなどの海水産の貝が見つかっています。
縄文時代の貝塚から見つかった海水産の貝。左上よりカガミガイ、ハマグリ、サルボウ、アカニシ。(写真:唐沢孝一)
ということは、縄文時代(5000〜6000年前)はこの付近は海だったことになります(気温が高く、東京湾の海水面は現在より4〜5m高かった)。また、ヤマトシジミなどの淡水産の貝、マガキやハイガイなどの汽水産の貝なども見つかっています。海に淡水の川が流れ込んでいたことが想像できます。さらにマダイやクロダイ、スズキなどの海水魚の骨や丸木舟も出土しています。これらのことから縄文人がどんな生活をしていたかを想像してみてください。
<自然の沼から用水の時代へ>
気温の低下とともに海岸線が後退し、湿地や沼に変わりました。これが見沼の原型です。中世には神秘の沼という意味で「御沼」「神沼(みぬま)」と呼ばれました。
江戸時代前期、幕府は伊奈忠治に命じて荒川下流域の新田開発を手がけました。その用水を確保するため、芝川の大間木(さいたま市緑区)と木曽呂(川口市) の間に堤を設け、巨大な溜池(見沼溜井)を造りました。堤の長さが八丁(約870m)だったことから「八丁堤」といいます。
<新田開発と代用水>
八代将軍吉宗の時代、幕府は新田開発のために井沢弥惣兵衛為永に命じ見沼溜井を干拓して水田化を図りました。八丁堤を取り壊して水田化したため、用水が足りません。そこで、溜池の水に代わって利根川から水を引いて代用したことから、この水路を「代用水」といいます。代用水は、見沼田んぼの東の縁と西の縁に分流させて水田に水を供給し、排水した水は中央を流れる芝川に集められ、芝川は荒川に合流し、江戸へ物資を運ぶ海運(通船)として利用されました(見沼通船と通船堀の歴史は省略します)。
<昭和から平成へ>
通船は、物資の輸送が陸路に代わって衰退し、1930(昭和6)年に廃止されました。その後、関東地方は狩野川台風(1958年9月)による大被害をうけました。そのときの見沼田んぼの貯水量は1000万トンといわれ、下流域の水害防止に役立ち、治水能力が再認識されました。1965(昭和40)年には「見沼三原則」が制定され、農地の転用防止や治水能力の維持などが図られ、水田地帯が維持されてきました。しかし、その後、都市化や農業を取り巻く環境変化もあり、1995年には見沼田んぼの「保全・創造・活用の基本方針」が定められました。これにより規制が緩和され、1998年からは見沼田んぼに相応しくない土地の公園化が県によって進められました。
水田での生物観察。2005年6月実施の自然観察大学の観察会。(写真:唐沢孝一)
左の水田の13年後の姿(2018年6月実施の観察会)。右側は水田から畑地に、左側はオギやヨシの群落に遷移が進んだ状態。(写真:唐沢孝一)
自然観察大学で初めて観察会を実施した2002(平成14)年5月当時は、水田環境が大きく変化しつつある時期でした。それでも、各所で水田耕作が行われており、観察のポイントの一つとして「イネと雑草の関わり」を行いました。また、2005年6月の観察会で「水田の生物/チビケシゲンゴロウ、イネミズゾウムシ」を観察した水田では、13年後の今回(2018年6月)、「ヨシ原やセイタカアワダチソウなどの植物群落の遷移」をテーマに観察を行なうこととなりました。見沼田んぼの自然は大きく変化してきました。さらに今後、どのような変遷をとげるのでしょうか。今後の観察会を通して見届けたいと思います。
(唐沢孝一)
ゼニゴケの観察
道の脇にゼニゴケ(コケ植物)が見られます。
雌雄の生殖器も付いていますので見てみましょう。
その前に、植物の生活史の概要を説明しましょう。
植物の生活史には、胞子体(胞子を作る体)と配偶体(配偶子を作る体)の時期が見られます。
種子植物は花を咲かせます。その中に胞子(胚のう細胞、花粉)を作るので胞子体と呼ばれています。配偶体は雌しべの中に生じますが、胚のうや花粉管は小さいのでルーペで見ることはできません。
シダ植物の多くは葉の裏に胞子を作るので、胞子体です。胞子が発芽すると1cmくらいのハート状の体ができます。前葉体と呼ばれ、これが配偶体です。
種子植物やシダ植物は、いつも目にする体が胞子体です。
ゼニゴケはどうでしょう。
ふだん見ているゼニゴケは扁平な体をしています。
ここのゼニゴケは、いま2種類の傘状のものが見られます。破れ傘状の雌器托(しきたく)とおちょこのような雄器托(ゆうきたく)です。
雌器托の裏側には卵細胞が、雄器托には精子が生じます。ということは、このゼニゴケは配偶体ですね。
ゼニゴケの雌器托。黄色いのは胞子体。(写真:大野透)
ゼニゴケの雄器托。おちょこのような形。(写真:大野透)
雨粒がおちょこの皿状の部分に当たると、精子が飛び出します。さらに雨水によって運ばれて、運が良ければ卵細胞にたどり着き、受精します。
精子が卵細胞にたどり着くと受精をして、その後すぐにその場で胞子を作り、小さな袋状の体ができます。この袋(黄色)が胞子体です。
袋が破れて胞子が飛散し、それが発芽するとふだん見られるゼニゴケになります。
種子植物とシダ植物は胞子体が発達していますが、ゼニゴケは配偶体が発達しています。
ヒトの体も配偶体ですね。ヒトには胞子体はありませんが...
ふだんゼニゴケが見られる所では、雌雄の配偶体はふつうかなり離れた場所に見られます。一方の傘しか見られないことが多いですが、ここでは二つをくらべて見ることができました。
雌の傘の裏に黄色い胞子のうができずに、全体が褐色になって枯れてしまう物をよく見かけます。うまく受精できなかったのでしょう。
褐色になったゼニゴケの雌器托。(写真:村田威夫)
お椀のような杯状体。中にある粒が無性芽。(写真:村田威夫)
ゼニゴケはもう一つの生殖方法を持っています。
ゼニゴケの体の表面にお椀状の物が見られます。その中に小さい粒が見られます。これが無性芽です。多くの場合はこの無性芽がこぼれて発芽して配偶体になります。
今日はゼニゴケの2種類の傘とお椀が観察できました。
<チャレンジしてみよう>
雄の生殖器を見つけたら、上から皿状の部分に水を1滴垂らしてみましょう...
うまくいくと、白い小さな泡状の粒々が出てきます。ルーペで見てみましょう。それが精子です。
今回は前日の雨で精子が出てしまったので、残念ながら実験できませんでした。
みなさんの家の近くのゼニゴケで、ぜひチャレンジしてみてください。
(村田威夫)
エノキのハムシ
水路沿いのエノキの葉が穴だらけになっていますね。これはハムシのしわざと思われます。
エノキウスバヒゲナガハムシといいます。ちょっと長い名前ですね。エノキハムシという異名もあります。成虫の体長は7mm前後、コウチュウ目ハムシ科ヒゲナガハムシ亜科です。
エノキウスバヒゲナガハムシ。別名エノキハムシ。左からエノキの葉の食痕、成虫、幼虫。(写真:大野透)
4月後半に越冬後成虫が出現し、5月前半に産卵開始、ふ化後6月中旬には成虫が発生します。年1回の発生とされています。
このハムシは年により多発することがあり、特に住宅地や神社、草むらに自生するエノキに多発するようです。
(平井一男)
カシワ
みなさんご存じのカシワですね。大きな木です。
前回5月の観察会の時には雄花がまだ付いていましたが、もうほとんど見られなくなりました。
さて、雌花はどうなっているでしょうか、モシャモシャとしていた毛のようなものに囲まれていましたが、今はこのようにスッーと伸びて大きくなりずいぶん形が変わりましたね。これがドングリの帽子の殻斗に当たります。枝先にたくさん着いていますが9月にはどのような形になり、どのくらい残っているか楽しみですね。
5月中旬(第1回観察会)のカシワの雌花。(写真:村田威夫)
6月下旬(第2回観察会)のカシワの実。(写真:大野透)
カシワの二度伸び。明るい黄緑色の葉。(写真:大野透)
それから、枝先に新しい葉が出ているのがありますね。
ふつうは春に葉が展開した後5月中旬頃に芽ができて、そのまま冬芽になり越冬して来春展開します。
ところが、この新しい葉は6月初旬に動き出し展開したものです。
カシワやクヌギなどコナラの仲間はこのような性質があるようです。ただしすべての枝から新しい葉が出るのではなく、比較的栄養状態のよい太い枝から出るようです。このような性質から南方系由来の樹木ではないかという説もあります。
また樹皮は厚くタンニンが多く含まれているので、皮のなめしや染料に利用されていました。
(金林和裕)
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ゴマダラチョウ
カシワの木のそばにあったエノキの若木で、ゴマダラチョウが羽化していました。ゴマダラチョウは、北海道から九州に分布するタテハチョウ科の昆虫です。
成虫は、5月から8月ごろに発生して(年2回から3回)、幼虫はエノキの葉を食べて成長します。エノキの根元に積もった落ち葉の中などで、幼虫の状態で越冬します。
羽化したばかりのゴマダラチョウ。左の白いのが羽化殻。(写真:石井秀夫)
参考:アカボシゴマダラ夏型成虫。(「季節の生きもの観察手帖」より)
近縁の種に、アカボシゴマダラがいますが、最近では、こちらの種の方をよく見かけると思います。
しかし、アカボシゴマダラは本来、日本では奄美大島とその周辺にしか生息していないとされています。沖縄では、ずいぶん昔に採集された記録しかありません。
関東地方などに生息するアカボシゴマダラは、中国大陸の亜種が人為的に持ち込まれたようです。ちなみに、中国産のこの亜種が最初(1995年)に発見された場所は、埼玉県秋ヶ瀬公園と言われています。
アカボシゴマダラも年2回から3回は出現します。5月ごろに出現する春型は、翅の黒色部分が少なく、後翅の赤い斑紋も消失して、ウスバシロチョウを大きくしたようにも見えます(特に雌)。幼虫の餌や越冬の仕方は、ゴマダラチョウと同様で、野外でのゴマダラチョウとの交雑の可能性は低いと考えられていますが、要注意外来生物になっています。
(鈴木信夫)
シキミ
この常緑の木はお墓やお寺などに植えられ、仏事に使われるシキミです。
ここに実がついています。まだ若い実ですが、形が何かに似ていませんか?
香辛料に使われている八角によく似ていますね。
シキミの若い果実。猛毒。(写真:金林和裕)
参考:シキミの花。(写真:大野透、4月撮影)
でも同じ仲間で似ているからといって八角の代わりに使ってはいけません、猛毒です。植物体全体に毒がありますが果実は特に毒が強く注意が必要です。またシキミや八角にはシキミ酸が含まれていて、このシキミ酸からインフルエンザの薬タミフルが開発されました。
ただしシキミはタミフルの原料として使用されていません。
(金林和裕)
クサグモの観察
さあ、今日は実験です。この音叉を使って、このクサグモを招き寄せましょう。この棒で音叉を叩いて、そっと網に触りましょう。強く触ってしまうと、クモは警戒して出てきません。
クモが出てきて音叉に触ったら、音叉を糸でグルグル巻きにしたら です。
※ みなが音叉を手に、恐る恐る試してみる。
なかなかうまくいきませんね。あっ出てきました。はい です。
何人のヒトが成功しましたか? 三人が ですね。
音叉に招き寄せられたクサグモ(写真:石井秀夫)
おや、オニグモで試してみようとしていますね。
おっ糸を巻きましたね。でも音叉を離すとき網が壊れてしまったようです。円網の横糸の部分に粘球がついていて粘るので、糸が音叉にくっついたようです。
日本には網を張るクモが6割、徘徊性のクモが4割います。網を張るクモは目が悪いので、餌がかかると糸の振動で感じます。求愛もそうです。俺は雄だよ、餌じゃないよと糸の振動で心を伝えます。
ところで、このクサグモの糸は粘りませんでしたね。棚のような形をした棚網の上に糸が引き巡らされて、迷網部になっています。虫がそれにぶつかって落ちるとクサグモが駆け寄ってきて、糸を掛けます。音叉の実験で成功した人は、その音叉の振動を餌と勘違いしたのです。失敗した人が多かったのは、音叉の網の触れ方でしょう。急な網の揺れで、クモが危険と思ったのか、満腹だったのでしよう。成功しても、何回か繰り返すと、反応しなくなります。これを慣れといいます。慣れとは科学用語です。
ところでこの写真を見てください。このクサグモは雄ですか、雌ですか? そうです。雄です。先端の触肢が膨らんでいますね。昆虫では触角といわれている部分ですよ。成体になる一歩手前の雄です。成体になると複雑な構造になり、この場所に精子を蓄えます。種類によってこの構造が違うので分類の目安になります。
このクサグモの雄は、当然俺は雄だよという信号を送り、雌の網に侵入し、前脚でトントンと雌に催眠術をかけ、コロリと眠らせてから、交尾する催眠術師です。

クサグモ雄亜成体。(写真:浅間茂)
このような棚網を張るクモは、他にコクサグモがいますが、クサグモより1か月ほど遅れて出てきます。似たような生活をする生物は発生時期をずらしているのが多いです。
(浅間茂)
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踏まれる強さと雑草の関係
ここは、かつては田んぼであったところを横切る道です。
車は滅多に通らず歩く人も少ない、いわば農道のような道ですから、雑草が見られます。
人家のブロック塀寄りには高さ50cmぐらいの雑草群落ができ、道の中ほどには高さ5cm以下のまばらな雑草群落があります。踏まれる強さによって群落の勾配ができているのがわかります。
背の高い方の群落にはメヒシバ、エノコログサが多いですね。
道の中ほどの踏みつけられるところには草丈の低いオヒシバが多く、オオバコも混じります。
それらの間にはハキダメギクやカモジグサ、ユウゲショウなどが生えています。
ブロック塀沿いから道の中ほどにかけて、雑草群落の勾配ができている。(写真:大野透)
踏みつけられるところにはオオバコ、タンポポなどが目立つ。(写真:大野透)
オヒシバは、踏まれるところでは地面に張り付くような形になる。(写真:大野透)
オヒシバは踏まれるところの地面に張り付いたような形から、踏みつけの弱いところのかなり立ち上がった形まで変化があります。いかにも雑草の柔軟さを示しています。
エノコログサは昔に比べるとずいぶん早く、もうさかんに穂が出ています。穂の形を見るとエノコログサそのものではなく、オオエノコロとされるものではないかと思いますが、変異があって断定できません。
1週間前の下見のときの状況。柵の向こうに丈の高いセイバンモロコシ。路上には踏まれ方の強弱により雑草のすみわけが観察できる。(写真:大野透)
観察会当日、きれいに刈られてしまった草地を背にしながら、持参のセイバンモロコシを手にする岩瀬先生。(写真:石井秀夫)
下見のとき一面にセイバンモロコシの群落であったところが、この日は全面きれいに刈り取られていました。しかも目当てにしていた農道上の群落まで刈られていたのには困りました。
わずかに残るオオバコやセイヨウタンポポ、イヌムギなどの姿を見て、雑草はこれぐらいのことでは消滅しない、しばらくしてまた路上群落は回復するであろうと応援したい気持ちでした。
(岩瀬徹)
植物の移り変わり(遷移)を考える
目の前に、ヨシとオギの草地が見られます。ヨシやオギは水分の多い場所に見られる多年生のイネ科植物です。
耕作をやめた水田あと。画面左側の黄緑色はオギ、中央奥の背の高い濃緑色はヨシ。(写真:寿原淑郎)
稲作りをやめて水田が放置されると、すぐにイヌビエなどの1年生のイネ科植物が生えてきます。数年後にはこのような多年生のイネ科植物に変わります。水田または沼のような水分の多いところにヨシ、その周囲または埋め立てて畑として使われていたようなところにオギが生えたと考えられます。
草地がこのまま放置されると、より乾燥した土地に生えるセイタカアワダチソウやススキなどが増え、やがて木が侵入してきます。ここでも、クワの幼木が見られますね。
途中で草刈りなどの人手が加わると遷移は遅れますが、同じように進んでいきます。
今回の観察コースではイネの栽培されている水田やエノキ、クワ、アカメガシワ、ヌルデなどからなる林も見ることができます。水田→草地→林の遷移を同時に観察できることになります。
クワ、アカメガシワ、ヌルデのように草地に侵入して成長する木をパイオニア植物または先駆植物と呼び、養分の少ない土壌でも生育しやすい特徴があります。
(飯島和子)
アブラムシとテントウムシの寄主転換
ここではヨシが広がっています。今日はヨシの葉上のアブラムシを観察しましょう。
モモコフキアブラムシです。細長く、灰白の粉を吹いているので一見灰白色に見えますが、よく見ると体色は黄緑色〜緑色ですね。背腹部の横縞も目立ちます。
このアブラムシは、春は近くのモモの木の新葉にいたはずです。多発することがあって、モモ栽培の害虫として知られています。
モモコフキアブラムシはモモ、スモモなどの枝上で卵で越冬し、翌春ふ化して新葉に移動します。6月には有翅虫が現れ、夏寄主であるイネ科のヨシに移動します。
ヨシでくらしたあと、晩秋に再びモモに移動して越冬卵を産む、というわけです。

ヨシ葉上のモモコフキアブラムシ成虫と幼虫。(写真:大野透)
ナミテントウ成虫とハチに寄生されたモモコフキアブラムシ。マミーという。(写真:平井一男)
ジュウサンホシテントウ成虫。(写真:平井一男)
ヒメカメノコテントウ成虫。(写真:平井一男)
ヒラタアブ蛹。(写真:平井一男)
ヨシの葉上のモモコフキアブラムシ群を巡り、近くにナミテントウ、ナナホシテントウ、ジュウサンホシテントウ、ヒメカメノコテントウが見られます。ナミテントウが多いですね。
ここにはほかにクサカゲロウ、ヒラタアブなどの捕食性昆虫もいます。
さらにアブラバチやアブラコバチに寄生されたアブラムシ(マミー)もいますね。丸く膨れたようなアブラムシがそれで、このアブラムシはすでに死んでいます。背中に穴があるのは、ハチの脱出孔です。
テントウムシ類はモモやギシギシなどから移動してきたと思われます。
今回の観察では、夏に見つかりにくいテントウムシ類が6月のヨシ原にたくさんいることがわかりました。
アブラムシを巡って多様な捕食性昆虫、アリ類が生態系を成していることがわかります。
(平井一男)
草原の鳥、キジ
よく知られている童話『ももたろう』の本の表紙を見てください。最近の本では訂正されているのですが、多くの古い本では間違いが見つかります。雄のキジの首に白い輪があるのです。
白い輪があるキジは大陸にいるコウライキジで、北海道と対馬,本州・四国・九州の一部、琉球諸島などで狩猟のために移入されました。
絵本のキジが、どこかおかしい?(写真:寿原淑郎)
コウライキジ。首に白い輪がある。
(
「いきものログ」(環境省)より転載)
キジ。首に白い輪はない。(写真:越川重治)
在来のキジの雄は、首の周りに輪がありません。在来のキジはユーラシア大陸に分布するコウライキジ P.colchicus の亜種*で、本州、四国、九州に分布し北海道にはいません。キジは日本の国鳥でもあります。
繁殖期になると雄は、目の周りの赤い肉垂(にくすい)が大きくなります(右写真)。この肉垂は、ニワトリのトサカと同じで皮膚の裸出部です。繁殖期には、雄は赤くて動くものに特に過敏になり、時々赤いボックスをつけた郵便局員のオートバイを追いかけ回すこともあります。
繁殖期になると大きくなる雄の赤い肉垂。
(写真:越川重治)
   
     
   
キジの母衣打ちの連続写真。(越川重治)
繁殖期には雄は「ケーン、ケーン」と2回鳴いて、その2回目の時に激しく羽を打ち鳴らし「ドドドドッ」と羽音をたてます。これを「母衣打ち(ほろうち)」といい、縄張り宣言と雌に自分の存在を知らせるはたらきがあると考えられます。「ケーン」という高鳴きは、個体ごとに声紋が違い、個体識別できるそうです。また、「けんもほろろ」の語源になったともいわれています。
*亜種:同じ種でも分布する地域により色や形に違いがみられ、地域間で異なる集団と認められる場合、これらを「亜種」という。
(越川重治)
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マルバスミレの果実と種子
今、みなさんの足元にはスミレの群落が広がっています。
...と言ったら驚かれるでしょうか?
スミレ類は早春に咲く花の代表的なものですが、その他の時期のようすについては、あまり注目されることはないようです。今回は初夏のスミレのようすを観察してみましょう。
この林にあるのはマルバスミレという種類で、春にはよく目立つ白い花を咲かせます。今の時期(6月下旬)では葉が春の時期よりずっと大きく、形もちょっと違っていますね。
参考:春のマルバスミレ(4月に撮影)。
スミレ類ではよくあることで、花期以降に大型化した葉は夏葉と呼ばれています。このような変化は光環境の変化(上層の草木の葉が茂ることで光量が減る)に対する適応と考えられます。
マルバスミレの夏葉はハート形に近くなっており、丸みを帯びるようになるアオイスミレの夏葉と紛らわしく、識別に迷うことがよくあります。でも、果実のようすを見れば両者の違いは一目瞭然です。アオイスミレでは花が咲き終わった後、花茎は横に倒れこみ、地面に接したところで果実は成熟します。果実は球形で、その表面にはたくさんの毛があります。一方、マルバスミレの果実は垂直に立った花茎の先で成熟します。果実は卵形〜紡錘形で、表面に毛はありません。

参考:アオイスミレの果実と種子。
マルバスミレの若い果実。
ところで、マルバスミレの春の花の写真と今の時期に観察できる若い果実の写真とを見比べてみて何か違和感を感ずるところはありませんか? 
...そう、果実のついている花茎の長さの方がずっと短くなっていますね。
これはなぜかというと、今の時期に見られる果実は春の目立つ花からできたものではないからです。
スミレ類の多くは、よく目立つ花(開放花)を咲かせた後に、まったく目立たない別タイプの花(閉鎖花)をつけます。
閉鎖花は閉じた状態のまま、その中で受粉・受精して種子をつくります。今の時期に見られる果実はこの閉鎖花からできたものなのです。
開放花が大きくて目立つ色の花弁の花を葉よりも高い位置につけるのは、その方が送受粉を託す虫の誘引に有利だからと考えられます。一方、閉鎖花は目立たせる必要はないので、余分なコストをかけて花茎を高くしなくてもよいということなのでしょう。
マルバスミレの閉鎖花。
省エネ・省資源で経済的、しかも結実率は100%。子孫を確実に残す上では閉鎖花による繁殖法の方が圧倒的に有利なようですが、弱点もあります。同一個体内での受粉・受精によってできる子孫には遺伝的な多様性は望めません。
開放花での虫媒による繁殖法で遺伝的な多様性を得ることをもくろみ、閉鎖花による繁殖法で確実な種子形成も担保しておく。可憐なイメージのスミレにもしたたかな生存戦略があるのです。
次に種子散布の方法と種子のようすを紹介しておきます。他の多くのスミレ類と同様に、マルバスミレには2通りの種子散布法があります。
1つ目は「弾き飛ばす」方法(自動散布)です。果実が成熟すると上向きになり、3つに裂開します。その後、ボート状の裂片が乾燥すると幅が狭まり、納まり切れなくなった種子が外に弾き飛ばされます。
2つ目は「アリに運ばせる」方法(アリ散布)です。マルバスミレの種子にはアリが好む付属物(エライオソーム、種枕)が付いていて、その部分をアリがくわえて運んでいきます。なお、アオイスミレの場合はアリ散布のみに特化して、エライオソームの大きさは日本産のスミレ類の中では最大です。花後に花茎が倒れる特徴もアリ散布と関連があるものと考えられます。
マルバスミレ裂開後の果実。
マルバスミレの種子。
参考:アオイスミレの種子。
では実際にマルバスミレの果実のようすを観察していただきましょう。実を結んでいる個体の傍に目印を付けた棒を立ててありますので、分散して観察してください。種子を入れたサンプル袋も回覧しますので、ルーペを使ってエライオソームのようすを確認してみてください。
マルバスミレでは夏の間は閉鎖花が見当たらなくなりますが、秋になるとまた見られるようになります。次の観察会(9月30日)にはどんな状況になっているか、また観察してみましょう。
(中安均 本稿は写真もすべて中安均)
エサキモンキツノカメムシの観察
多くの昆虫の雌は、産卵した卵を外敵から守ることはしません。そして、育児にエネルギーを使わない代わりに、そのエネルギーを卵の生産に回わして、卵を多数産卵します(ただし、一つの卵のサイズは小さくなります)
たくさん産めば、少しは成虫にまで成長するだろうという、「大量産卵産みっぱなし作戦」です。
その一方で、動けない卵や孵化したばかりの、ひ弱な子供の世話をする昆虫も一部にいます。卵を少なめに産んで(一般的に卵のサイズは大きい)、残ったエネルギーで育児をします。
みんなでミズキを見上げる... その先には何が?(写真:寿原淑郎)
今回、ミズキで見つけたエサキモンキツノカメムシも育児をする昆虫として有名です。およそ50個から100個程度の卵をミズキなどの葉の裏にまとめて産卵し、自分の体の下に隠して外敵から守ります。少なくとも2齢幼虫までは、この保護行動は続きます。
ミズキの葉裏はエサキモンキツノカメムシの子育てラッシュ。(写真:大野透)
1週間前の下見では、卵が目立った。(写真:石井秀夫)
こちらで抱えているのは1齢幼虫。(写真:大野透)
2齢幼虫。母親のもとから離れたがっているのかも。(写真:山崎秀雄)
前胸の両端にとがった角をもったツノカメムシの仲間であるエサキモンキツノカメムシは、広く北海道から奄美大島まで分布していて、成虫は5月から10月ごろまで見られます。
背中の小楯板と呼ばれる部分に、ハート形の黄色い模様(雄の方が黄色が濃いようです)があって、「ハートマークがかわいい!」と人気があります。
※ カメラマンにも人気のようでした。
成虫越冬で、樹皮下や落ち葉の中、樹木プレートの裏などでよくお目にかかります。種名の初めにある「エサキ」は、東京帝国大学出身の昆虫学者、江崎悌三博士の名前にちなんでいます。
往々にして昔の学者は親戚に著名な人物が多いもので、江崎博士も例外ではありません。興味のある方は、ネットで調べてみると面白いかもしれません(ちょっと、生物学から話が逸れてしまいました)
話が逸れたついでにもう一つ。以前たまたま購入した古書にあった、江崎悌三蔵書のスタンプです。
(鈴木信夫)
番外:セスジスズメ
サトイモの葉でセスジスズメの幼虫を発見しました。中齢の幼虫から成熟した幼虫まで、数えて見ると7匹います。
イッポンセスジスズメ(チョウ目スズメガ科ホウジャク亜科)に見えますが、よく似たセスジスズメというのもいます。成虫になって筋が一本か二本か見ないとわかりません。どちらもサトイモの葉を食べる農業害虫です。
手にとって触って見ましょう。
(平井一男)
セスジスズメ幼虫(写真:平井一男)
触れてみるとひんやり、つるつる。(写真:石井秀夫)

参加いただいたみなさん、講師・スタッフのみなさん、ありがとうございました。
次回観察会は2018年9月30日(日)を予定しています。
参加申し込みは2週間前まで受け付けています。お待ちしています。
ご案内と申し込み用紙はこちらへ 
(レポートまとめ 事務局O)

2018年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告 テーマ別観察会
昆虫探検ウオーク
 
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