2018年  NPO法人自然観察大学
第3回観察会
2018年9月30日
場所:さいたま市見沼田んぼ

開始早々、駅前広場でプランターの花を観察。
身近な生物を観察するのが自然観察大学です。

(写真:大野透)

台風の影響が心配されましたが、みなさんの願いが通じたのか、直前まで降っていた雨も止み、風もありませんでした。無事に観察会ができて、なによりでした。
フィールドの地図は第1回観察会レポートをご覧ください。
担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
写真提供者名はそれぞれに記してあります。
本レポートおよび本HPの写真などの無断転載はお断りいたします。
花の特徴から花粉媒介者を推理してみよう
駅前広場のプランターにきれいな草花が植えられています。ここでは、美しさをめでる観賞対象としてではなく、花粉媒介者(送粉者)を推理する対象として、それぞれの花の特徴を観察してみましょう。
花粉媒介を動物に頼る花は、相手を引き付け、その体に花粉をくっつけて、同種の別個体に運ばせなければなりません。植物は、そうした過程を最も効率よく遂行できるような花の特徴を進化させてきています。それゆえ、どのような動物が花粉を媒介しているのかを花の特徴から推理することができます。
<サルビア>
蜜が吸える花としてもお馴染みのこの花の名前を知っている方は多いようですね。ただ、サルビアというのは属の学名で、園芸用に栽培されているものだけでも、サルビアの仲間には様々な種類があります。この種類の正式名はサルビア・スプレンデンス Salvia splendens といいます。原産地はブラジルです。
サルビアの仲間(シソ科アキギリ属)は日本にも自生しています。アキノタムラソウやキバナアキギリなどです。
原産地では一年中花が咲いているようですが、日本での露地栽培では秋になると花は終わってしまいます。
遠目には花盛りのように見えるこの花壇でも、花を落としてがくだけが残っているものが大部分です。
花の特徴をあげてみましょう。
花弁だけでなく、がくや苞(早期に脱落)も赤い。
  長さ4cmほどの筒形で、先端が上下に分かれている(唇形花)。下唇は小さい。
  匂いは感じられない。
  蜜は多量にある。
これらの特徴から推測される花粉媒介者は鳥、原産地を考慮するとハチドリが最有力候補です。
ホバリングをしながらハチドリが花の中に嘴を差し込むと、シーソー型の雄しべの前方が下がって花粉が嘴や額にくっつきます。
サルビアの花。がく筒(上)と花冠(下)
花冠の先端から雄しべ・雌しべの先が見えている。
サルビアの花のつくりと送受粉の仕掛け。雄しべはシーソーのようになっている。
ハチドリの嘴がわりに爪楊枝を挿入すると、雄しべが動いて花粉をくっつける。
<ペンタス>(クササンタンカ)Pentas lanceolata
アフリカ原産のアカネ科の植物です。花冠が星形の5つに分かれていることから、ギリシャ語の5(penta)に因んでペンタスという属の学名が付けられました。
花は水平に広がる花冠裂片と、とても細くて長い花冠筒部からなり、真横から見るとT字に近い形です。
正面から見たペンタスの花。
真横から見たペンタスの花。
吸蜜に来たイチモンジセセリ。
こうした花の特徴から花粉媒介者は細長い口吻を持った虫、チョウの仲間と考えられます。原産地では赤い色を好むアゲハチョウの仲間などが来ていることでしょう。
今日は天気が悪く、花に来ている虫は見つかりませんが、下見の際にはイチモンジセセリが来ていました。
場所によっては、この花にはホウジャク類が頻繁に訪れます。
隣のプランターで咲いているナデシコはかけ離れたグループの植物ですが、花の形は似ており、やはりチョウ媒花です。ただし、ナデシコは離弁花冠で、独立した5枚の花弁の基部が筒状部を構成しています。
<ベゴニア>Begonia sp. シュウカイドウ科
ブラジル原産ですが、栽培品種は複数の種を交配して作出されたものです。
花弁(内花被片)もがく片(外花被片)も赤く、大きながく片の方がよく目立ちます。雄花と雌花とがあり、同一株についているのですが、見分けられますか?
ベゴニアの雄花。花弁は2枚が基本。
ベゴニアの雌花。花弁は3枚が基本。
ベゴニアの雌花。花被片の下に3枚の翼を持つ子房がある。
がく片の下側を見れば、簡単に区別できます。雌花では3枚の翼状突起を持つ子房がありますが、雄花にはありません。
雄花・雌花の外見がとてもよく似ているのは、ベゴニアの狡猾ともいえそうな作戦です。ベゴニアは雄花も雌花も蜜を出しませんが、花粉を求めてやって来る虫は、雄しべのように黄色くて目立つ柱頭を持つ雌花にも間違えて止まってしまいます。雌花は報酬なしで、見せかけだけで虫を誘うので、だまし送粉と呼ばれています。
蜜を出さないので、メインゲストはおそらくハナバチ類やハナアブ類と考えられますが、栽培されているベゴニアに虫が来ているところを私はまだ見たことがありません。品種改良の過程で、花粉ができにくくなってしまったのかもしれません。
原産地(ブラジル)での調査例では、ミツバチ科とコハナバチ科が主要な花粉媒介者であることが報告されています。また、ベゴニアは庭にハチドリを誘引するのに適した植物の一つとして推奨されており、ハチドリもだまされることがあるようです。
(中安均 本稿は写真もすべて中安均)
つる草の観察
線路沿いのフェンスにつる草が見られます。カナムグラ、ヤブガラシ、クズなどです。これらはみな同じようにフェンスに巻きついたり、絡みついているように見えますが、よく観察すると、つるに違いがあります。
フェンスをおおったカナムグラを紹介する飯島先生。(写真:寿原淑郎)   カナムグラのつるととげ。とげで引っかかりながらつるが巻きつく。(「新・雑草博士入門」より)
<カナムグラ>
カナムグラは今、花が咲いていて一番目立ちます。
よく見ると、つるや葉柄に下向きの多数のとげがあります。触れるとき気を付けないと刺さるような鋭いとげです。このとげで他のものに引っかかるようにして伸びて行きます。
カナムグラは雌花と雄花を別の株につける雌雄異株の植物です。雄花の開花の方が早いようで、今は雄花が開花しています。晴れた日には花粉が飛び、花粉症の原因になると言われています。
<クズ>
次に、大きな葉のクズが見られます。
つるは太くしっかりしています。このつるにからまれたら、他の植物は負けてしまいそうです。
空き地や道端などでクズでおおわれた群落をよく見かけます。今は、増えすぎてやっかいものですが、夏から秋に咲く花はピンク色の蝶形花で美しいことから、秋の七草の一つとされてきました。
根からくず粉を採ったり、丈夫なつるはかごの材料などに利用されているようです。
ワイヤーにからみながらはい上がるクズのつる。(「新・雑草博士入門」より」)
ヤブガラシは巻きひげでからみ付く。(「新・雑草博士入門」より」)
<ヤブガラシ>
奥のほうに、ヤブガラシが見られます。
つるから出ている巻きひげが他のものに巻き付いて伸びて行きます。植え込みなどの植物をおおうようすから名前がつけられたのでしょう。
ヤブガラシも今花が咲いています。オレンジ色の花床と呼ばれる部分がよく目立ち、ねばねばしていて、昆虫がよく来ています。
このフェンス沿いには、アケビ、ツルドクダミ、ヘクソカズラなどのつる植物も見られましたが、刈り取られてしまったようです。それでも、新しい芽が伸び始めていますので、やがて、おおわれてしまうことでしょう。
(飯島和子)
ハグロハバチ
ナガバギシギシの葉に、たくさんの食痕がありました。よくみるとイモムシがくっついています。
お腹にも脚があるので、ガの幼虫のようですが、ハグロハバチという、ハチの幼虫です。幼虫は、おもにスイバ、イタドリ、ギシギシ類といったタデ科の葉を食べます。成虫は、4月から10月まで出現し、名前の通り黒い翅をもっています。日本全国に分布します。
ナガバギシギシにたくさんの食痕が…。(写真:大野透)
食痕の犯人はハグロハバチの幼虫。(写真:石井秀夫)
<腹脚の数>
ミツバチやスズメバチの幼虫を想像して、ハチの幼虫はすべて、胸にも腹部にも脚がないと思うかもしれませんが、実はそうでもありません。ハバチなどの幼虫は、第2腹節から後方に5−7対の腹脚をもっています。
幼虫には腹脚のほかに胸脚と尾脚がありますが、成虫のときは腹脚と尾脚がなくなり、3対の胸脚だけになりますね。
ちなみに、チョウやガの幼虫は、第3腹節から後方に4対、シリアゲムシの幼虫は、第1腹節から第8腹節に合計8対の腹脚をもっています。
ところで、ハチ目は、成虫の胸部と腹部の境(いわゆる腰の部分)にくびれの無い広腰亜目と、はっきりとした、くびれのある細腰亜目に大きく分かれます。
広腰亜目の方が原始的で、ハバチの仲間は、こちらに属します。そして、この広腰亜目の幼虫には、腹脚をもつものが多くいます。
ハチ目ハバチ類幼虫(ハグロハバチ)。3対の胸脚と、第2腹節から通常5−7対の腹脚をもつ。(写真:大野透)
チョウ目幼虫。第3腹節から4対の腹脚をもつ。(写真:大野透)
シリアゲムシ目シリアゲムシ類の幼虫。第1腹節から8対の腹脚をもつ。(写真:鈴木信夫)
<系統関係が見直されている>
さらに最近のDNAの研究によって、完全変態昆虫の系統関係が大きく変わってきました。以前は、化石や形態的特徴から、甲虫目あるいはアミメカゲロウ目(脈翅目)が、完全変態昆虫の中でもっとも原始的と考えられていましたが、DNA解析による複数の研究は、かつて高等と思われていたハチ目、その中でもハバチの仲間がもっとも原始的であることを支持しています。
(鈴木信夫)
ページトップに戻る
カシワ
第1回、第2回と観察をしてきたカシワですね。
前回はスーッと伸びた総苞片(殻斗:かくと)を観察しました。今回の観察会でどんぐりが見られたら良いですねとお話ししました。さて皆さんの頭の上にある枝先でどんぐりを探していただけますか?
いかがですか?
見つかりましたか?
ほとんど殻斗だけで中にどんぐりが見えません。
ここに小さめのどんぐりが一つありました。
今年は猛暑だったので生らなかったということでは無いようで、ここに唐沢先生と大野さんが他のところで採ってきたどんぐりがありますので見てください。このように他の所ではどんぐりが生っていたのです。
このカシワの木について、どんぐりの報告があったか以前の観察会の報告を調べました。
ほとんどの観察会の2回目のレポートで、
「次回の観察会でどんぐりが見られるか楽しみにしましょう」
と書いてありました。
ところが、3回目の観察会レポートではカシワの話が出てきません。ということはこの木にはほとんどどんぐりが生ったことがないのかもしれません。
みんなでカシワのどんぐりを探しました。(写真:大野透)
観察会で見たカシワのどんぐり。黒ずんでいる。左の方に総苞片だけのものが見える。(写真:大野透)
ほかの場所で見られたカシワのどんぐり。(写真:大野透、2018年9月24日千葉県柏市)
カシワの2度伸び。総苞片から先が2度伸びした枝。(写真:金林和裕)
それから前回枝先から新たな枝が伸びていました。2度伸びですね。
すでに若葉のようではなく他の葉と同じ色になっているので分かりにくいですが、総苞片のところからさらに伸びているのが2度伸びの枝ですね。
2度伸びを他の木でも見たことがあるでしょうか?
クヌギやコナラ、シラカシ、ケヤキ、クスノキでも見られますね、多くの樹木で2度伸びがあるようです。
(金林和裕)
ヤノクチナガオオアブラムシの観察
大雨でアリが作った蟻道(ぎどう)も流されてしまうのではないかと心配しましたが、何とか無事でした。
ヤノクチナガオオアブラムシは5月の観察会 第1回レポートでも取り上げました。そのときは実際に観察できた方が少なくて、残念でした。
今回は蟻道を少しだけ壊してみましょう。
中に多くのアブラムシがいるはずです。
運び屋のアリがいても、運ばれる前にみなさんに観察してもらえると思います。
下が濡れていますが、マットを用意してきたので膝をついて、ルーペでよく観察してください。
暗くて見にくいので、懐中電灯も用意してきました。
※ 交代でヤノクチナガオオアブラムシを観察。みな満足したようす。
<ヤノクチナガオオアブラムシの生活環>
さて、このアブラムシは1年を通じて、同じ植物の同じ株の蟻道で生活しています。
春の受精卵からふ化した幹母(かんぼ)から命のバトンタッチ(世代交代)がスタートします。
その後、何世代かの胎生雌虫を経て、晩秋に雄虫と卵生雌虫が現れ、交尾し、卵生雌虫が受精卵を産みます。
少しややこしいですが、アブラムシ類はふつう次のような生活環をたどります。
越冬卵
 ↓
幹 母
 ↓
胎生雌虫(数世代)
 ↓
有性世代産出虫
 ↓
雄虫と卵生雌虫(交尾)
 ↓
越冬卵
今日の観察会では「胎生雌虫」を観察できます。成虫と幼虫が混在していますが、すべて胎生でなかまを増やしています。
<甘露の処理>
ところで、アブラムシはお尻から甘露を出しますね。
それをお尻につけたままにしておくと、黒かびにやられてしまいます。
アブラムシはその甘露を処理する方法として、次の3つの手法を開発しました。
(1) 後脚を使って甘露を蹴飛ばす。
  (2) アリに甘露をなめてもらう。
  (3) アブラムシの体から繊維状のワックスを分泌し、それが甘露に吸着し球型の液滴(リキッドマーブル)を作る。
ヤノクチナガオオアブラムシは(1)のような動作ができないので(2)の方法をとりました。
(3)については虫こぶを作るアブラムシで見られます。
詳細は2019年2月の室内講習会でお話しする予定です。興味のある方はぜひ参加してください。こちらから室内講習会募集をご覧いただけます。)
アリとアブラムシは共生で有名ですが、アリの巣には他にもたくさんの好蟻性生物が住んでいます。蟻道に興味を持った方はぜひ「アリの巣の生きもの図鑑」(大学出版部協会 を手にとって見てください。きっとまた別の世界が開けると思います。
(松本嘉幸)
暗くて低い位置なので観察しにくいが、懐中電灯と膝をつくためのマットを用意。松本先生の気配りに感謝。(写真:大野透)
ヤノクチナガオオアブラムシ卵(越冬卵)。(写真:松本嘉幸、3月4日撮影)
同ふ化幼虫と卵殻。長い口針が尻の後方まで伸びるのが見える。(写真:松本嘉幸、4月3日撮影)
蟻道の中のヤノクチナガオオアブラムシ。今回観察できたのはこのタイプ。(写真:松本嘉幸、5月15日撮影)
交尾。雌の尻の上の小さいのが雄。(写真:松本嘉幸、11月15日撮影)
尻の先の甘露をもらうアリ。(写真:松本嘉幸、9月20日撮影)
フェアリーリング
竹林の近くの広場で見つけたキノコ。
よく見るとリング状に生えています。
キノコが環状に生える現象を「フェアリーリング」といいます。
木の根もとのフェアリーリング。残念ながらキノコが小さく、暗くてわかりにくい。(写真:大野透)
参考:カラカサタケのフェアリーリング。(写真:唐沢孝一、2018年9月19日、千葉県市川市、江戸川の土手)
西洋ではこの輪をつくったのは妖精(フェアリー)であり、この輪の中で躍るという言い伝えから「フェアリーリング」の名がつけられました。
9月中旬〜下旬に、公園や土手の草地、ゴルフ場の芝生などでしばしば発生します。
(唐沢孝一)
ページトップに戻る
クモの観察
<ジョロウグモが小さい>
今年は夏が暑かったせいか、ジョロウグモの雌が小さいですね。
ということは餌となる昆虫が少なかったんでしょうね。
ジョロウグモの雌(写真の下)が小さく、雄(上)と同じくらいの大きさのものが多い。(写真:大野透)
ツツジ類の植え込みでクサグモの卵のうの写真を見せる浅間先生。このあとみんなで卵のうを探した。(写真:寿原淑郎)
<クサグモの卵のう探し>
ところでこの場所は前回クサグモの棚網が見られた場所です。
今見られる棚網は、クサグモではなくコクサグモです。
ではクサグモはどこへ入ったのでしょう。もう産卵が終わって見ることはできません。
クサグモの卵のうは、この写真のようになかなか素敵な形をしています。
棚網の中心部の管状住居の場所につくります。
見つからないように枯れ葉などいろいろくっ付いて、分かりにくいですが、みんなで探してみましょう。
葉をつづった中にクサグモの卵のうがある。かなり見つけにくい。(写真:石井秀夫)
参考:見本で示されたクサグモの卵のう。美しいだけでなく、ちゃんと成虫も写っている。さすが!(写真:浅間茂)
さすがですね。4つも見つかりました。
クサグモは、この卵のうの中でふ化して1齢幼虫で冬を越します。
クモの冬越しも様々です。コクサグモはふ化せず冬を越します。
成虫や幼虫で暖かい所に隠れて越冬するクモもいます。
あっ、ここにオニグモの仔グモが網を張っていますね。
オニグモは幼虫越冬して、2年で成虫になります。
(浅間茂)
ヌマガエル
最近どこでも見られるようになったのが、このヌマガエルです。
本州中部以西・四国・九州が本来の生息地です。
20年ほど前から関東地方でヌマガエルが見られるようになりました。
ヒトの手によって運ばれた国内外来種です。
稲刈りの後このあたりを歩くと、ピョンピョン跳ねているのはすべてヌマガエルです。
このように模様がないのが多いのですが、背中に白線がある個体がいます。
ところで、このカエルは雄でしょうか。雌でしょうか。
分かりませんね。まだ稚ガエルです。雌は雄よりやや大きくなります。
雄はひっくり返すと、あごの両脇に黒斑があります。「鳴のう」の所です。両脇を膨らまして鳴くんですね。
ヒキガエルとツチガエルは鳴のうがありません。
ヌマガエルは4〜8月が繁殖期です。南方系ですから、暑さにも強いです。
ツチガエルが見つかったといって、ヌマガエルを持ってくる人がいますが、腹が白いので区別は容易です。
水田でカエルの鳴き声で、おやアマガエルとちょっと違うなと感じたら、それはヌマガエルです。
あちこちにどんどん増えて困ったものです。
(浅間茂)
 
ヌマガエル。背中に白線のないものが多い。(写真:浅間茂)
背中に白線のあるヌマガエル。(「水辺の生きもの」より)
鳴いているヌマガエルの雄。繁殖時期にひっくり返して、真っ白であれば雌、あごのところに黒斑があれば雄。(写真:浅間茂)
イイギリ
赤い実が房状についています、イイギリですね。
先ほど見たカシワと同様に、この葉で食物を盛っていたので飯桐と名がつきました。
雌雄別の木で、この木は当然雌ですね。
この実は葉が落ちても残り、赤く色づいてとても目立ちます。
鳥によって種子が散布されるのですが、あまり美味しくないのか、すぐには食べられず年明けまで残っていることが多いようです。
同じようにピラカンサやナナカマドもきれいな赤い実をつけますが年明けまで残ることが多いですね。
この果実は液果の漿果で、割ってみると中に多数の種子があります。地面にたくさん落ちていますので、割って中を見てください。
(金林和裕)
 
花のときから観察を続けたイイギリの木。果実が色づき始めた。(写真:大野透)
イイギリの果実。このときは橙色だったが、このあと赤くなるはず。(写真:大野透)
果実を割ると、中に多数の種子がある。(写真:大野透)
マダラマルハヒロズコガ
ミズキの幹に蟻道があります。
下見のときに、この蟻道の周囲に、マダラマルハヒロズコガの幼虫を見つけました。
今日は暗くて濡れているためか、残念ながら見つかりません。
幼虫が作る家が鼓(つづみ)のような形をしているので、別名ツヅミミノムシとも呼ばれますが、ミノガ科ではなくヒロズコガ科に属します。
面白い形の携帯用の家を木くずで作り(ネット上には糞で作るという記述もあります)、その中に住んでいます。
※ 「鈴木先生、ここにいます!」
……話をしている間に、誰かが鼓を見つけてくれました。
そうですね、マダラマルハヒロズコガの幼虫です。
ありがとうございました。見つかってよかったです。
木々が繁茂して薄暗い小さな森。そのミズキの幹の蟻道におもしろい虫がいるはずだったが…(写真:寿原淑郎)
さて、この鼓ですが、ミノムシの蓑とは違い、薄い2枚を何か所か糸で張り合わせているだけのものです。
中の幼虫が黒褐色の頭を右から出したかと思うと、次に左から出すので、びっくりします。

鼓から顔を出したマダラマルハヒロズコガ幼虫。(「昆虫博士入門」より)
鼓をはがしてみた。(「昆虫博士入門」より)
成虫は、6月から8月に出現し、本州、九州に分布します(石垣島からの採集記録もあります)。ヒロズコガの仲間の幼虫は、シダ植物、蘚苔類、地衣類、菌類など、種子植物以外の植物を食べるため、本種の食性が不明だった時には、植物食だろうと考えられていました。比較的最近になって、どうやらアリなどを食べる肉食であることがわかったようです。
ところで、チョウ目(鱗翅目)は、メス成虫の生殖口の構造から、4つの亜目に分かれます。
一番原始的なコバネガ亜目、次にスイコバネ亜目(これら2亜目の成虫は、口器がストロー状ではなく、咀嚼できる大あごをもっています)、次にコウモリガ亜目、そして一番高等な二門亜目となっています。ヒロズコガの仲間は、この二門亜目の中では、一番原始的と考えられています。
<話はそれますが…>
よくチョウとガの区別法を聞かれますが、世界に約180,000種が知られているガやチョウの内、チョウはその5%程度しかいないので、そもそもチョウとガを区別するのは、意味のないことといえます。
また、日本に限っていえば、触角の先端が膨らんでいるのがチョウ、とする区別法もよくいわれます。しかし、本州に分布するベニモンマダラというガの触角は、先端に向かって膨らんでいて、この方法も完ぺきではありません。
それでも、「どうしてもチョウとガを区別したい」、という方は、国内に限ってですが、日本産のチョウ、約300種すべてを覚えることにより、ガと区別できます。300種なら覚えられる範囲ですが、逆に日本産のガをすべて覚えるのは、お勧めできません。5,000種あるいはそれ以上いるので。
(鈴木信夫)
2011年の見沼田んぼの観察会で、マダラマルハヒロズコガを見つけました。終了まぎわだったため観察会では話題にできなかったのですが、「自然観察大学ブログ」に記事を掲載しています。よろしければ併せてご覧ください。「平面ミノムシ」
ページトップに戻る
稲刈りとサギ類の捕食行動
「見沼田んぼ」とは名ばかりで、以前に比べて「田んぼ」が減ってしまいました。
しかし、それでも、芝川に近いところにわずかに残っています。
9月下旬には稲穂が黄金色に色づき、稲刈りの季節を迎えました。
稲刈りは、昔はノコギリ鎌でしたが、現在はコンバインです。

稲刈り前の見沼田んぼの水田で、サギ類の話をする唐沢先生。(写真:寿原淑郎)
コンバインによる稲刈りに集まったチュウサギ。(写真:唐沢孝一、埼玉県春日部市)
コンバインは、水田の外側からぐるりと回りながら中心に向かって刈り進みます。2〜4列の稲を一度に刈り取るので、1枚の田んぼを20〜30分で刈ってしまいます。
刈り取りが始まると、イナゴやカエルが次々と飛び出てきます。
それを目当てにやってくるのがサギ類であり、コンバインが小動物を追い出すのを利用して獲物を捕らえます。これを「オートライシズム」といいます。

コバネイナゴを捕らえたチュウサギ。(写真:唐沢孝一)
カエルを捕らえたアマサギ。(写真:唐沢孝一)
集まってくるサギ類の多くはチュウサギとアマサギです。
ダイサギやコサギはほとんどやってきません。同じサギ類なのになぜでしょうか。
チュウサギやアマサギの嘴はやや短く、もともと草原でバッタなどを捕食するのに適しています。それに対し、ダイサギやコサギは嘴が長く、水辺や水の中に入り、アメリカザリガニや魚などを捕食する習性があります。
また、サギ類が全く飛来しない田んぼもあれば、数百羽が集まる田んぼもあります。サギ類の飛来状況を見ると、イナゴやカエル、ドジョウなどの豊富さ、あるいは農薬使用状況などを推測できるかもしれません。
唐沢孝一
ページトップに戻る
イナゴとウスイロササキリなど
収穫を控えた田んぼが広がっています。
あぜ道を歩くと、バッタのなかまが跳ねて出てきます。
下見のときにこの田んぼでイナゴとウスイロササキリ、クビキリギスを見つけました。
捕まえておいたので、みなさんで見てください。
<コバネイナゴとハネナガイナゴ>
普通に見るイナゴはコバネイナゴです。大きめで太いのが雌で、小さくて細いのが雄です。
イネの葉や穂を食べる農業害虫とされています。
コバネイナゴに似た、細くて小さいハネナガイナゴというのがいます。
ハネナガイナゴは水田ではほとんど見ることはなく、地域によっては準絶滅危惧種に指定されています。今日は、前もって山あいの休耕田で見つけておいたのを持ってきました。くらべて見てください。
ハネナガイナゴ(左)とコバネイナゴ(右)
参考:コバネイナゴの交尾。水田近くのサクラの樹幹で見られた。(10月撮影)
参考:コバネイナゴの卵塊。土中から掘り出したもの。(10月撮影)
参考:翌春ふ化した幼虫。マコモの葉の上で待機していた。(5月撮影)

ウスイロササキリがイネアオムシを食べる。
クビキリギスも捕食性のあるバッタ。
<ウスイロササキリとクビキリギス>
この2種も田んぼで見ますが、これらは捕食性のあるバッタです。
イネアオムシ(フタオビコヤガ)、アワヨトウなどのチョウ目の幼虫を食べます。
<話はそれますが…>
近年はイナゴをはじめ田んぼのバッタ類はずいぶん少なくなりました。
かつてはイナゴ捕りの名人という方が地域ごとにいたものですが、このごろはイナゴの佃煮も珍しくなりました。外国産のイナゴの佃煮もあって、見かけないバッタが混じっていることもあります。
イナゴ類は水田に卵塊として産卵し、春にふ化します。田植えのときに苗に農薬を処理する(育苗箱処理)ので、その影響で少なくなったのだと思われます。
米作りでは要防除水準という考えがあります。
水田で捕虫網を20回振って、イナゴが200個体捕れたとします。それ以上であれば防除が必要であり、それ以下であれば防除不要ということになります。
イナゴやウスイロササキリ、クビキリギス。バッタたちと仲良く共生したいものですね。
(平井一男 本稿は写真もすべて平井一男)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 
台風の影響による交通機関の乱れが心配され、ちょっと駆け足の観察会でした。
なんとか無事にできたのはなによりでした。
参加いただいたみなさん、講師のみなさん、ご協力いただいたスタッフのみなさん、ありがとうございました。
(レポートまとめ:事務局O)
第1回から3回とも参加いただいた方には修了証を進呈しました。(格調高い!)

2018年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告 テーマ別観察会
昆虫探検ウオーク
シダ植物観察会
ページトップに戻る