2015年  自然観察大学 テーマ別観察会
身近な昆虫探検
  2015年7月12日
場所:東京都八王子市裏高尾小仏川周辺
  講師:山崎秀雄
写真では涼しげですが、この日は今シーズンはじめての猛暑。
心配された雨に降られることはなく、それはそれでよかったのですが、かんじんの昆虫は見当たりません。隠れて涼んでいるのでしょうか?
ちょっと残念な状況でしたが、観察できた虫の中からいくつか紹介させていただきます。
ルートはJR高尾駅を出発して、小仏川沿いを蛇滝口までさかのぼるコース。
前半は明るい桜並木の下の雑草の茂った環境で、後半は樹林の中の薄暗い小路になります。
今回は山崎秀雄先生の著書「昆虫博士入門」の発刊記念の観察会です。同書を携行してテキストに使用しました。ちょっと大きめで野外観察に不適という声もありましたが、熱心に利用いただいていました。
テキストの「昆虫博士入門」
次々に虫を見つけては「昆虫博士入門」で確認する翔太くん。虫の名前はスラスラ、本書の掲載ページもすぐに出てくる。すでに立派な昆虫博士だ。
●アサギマダラの食痕
キジョランの葉に、表面を丸く削った跡があります。
アサギマダラの幼虫の食痕です。残念ながら幼虫は見当たりません。
「昆虫博士入門」よりアサギマダラの項。
丸く溝を掘って、その中だけを食べるので、トレンチ行動といいます。この食べ方をするのは若齢幼虫で、成長した幼虫は普通に葉の端からかじります。
トレンチ行動はウリハムシの仲間でも見られます。美味しくない汁液を遮断してその中だけを食べるといわれていますが、本当のところは分かってないようです。
参加者のOMさんから、「長野県ではキジョランは見かけないがイケマの葉で同じように食べる」という情報をいただきました。キジョランもイケマも同じガガイモ科(キョウチクトウ科)の植物です。
●イシノミ
コナラでしょうか、コケむした樹幹にイシノミがいます。
イシノミ目という独立した目で、もっとも原始的な昆虫の仲間とされています。
じっとして動きませんね。普段はあまり注目されませんが、この機会にじっくりと観察してください。
コケむした樹皮にいたイシノミ。
保護色で目立たない虫だが、よく観ると驚くべき秘密が…
コケや地衣類を食べるとされる。
……ここで、イシノミファンという事務局Oが乱入する……
イシノミが普通の昆虫と違うところは、たとえば単眼です。複眼の下にある、横長の鼻汁のように見えるのが単眼です。昆虫界では常識はずれですよね。
イシノミの顔。
複眼の下にある褐色で横長の紋様のようなものが単眼。
「昆虫博士入門」では掲載できなかった秘蔵のカット。
もう一つ面白いのはジャンプです。ノミという名前があるくらいですから飛び跳ねるんですが、この体形でどうジャンプするか想像できますか? 腹部をたたきつけ、その反動でジャンプするんです。
今はじっとしていますが、つついたりすると瞬時に跳びます。
長い腹部をたたきつけて、その反動でジャンプする。
横から見ると体節ごとに付属肢(腹刺)があるのが分かる。まるで多足類のよう。
●樹液に集まる昆虫
こちらの樹(コナラ?)では、樹液に多数の昆虫が集まっています。
カナブンが数十頭いますね。きれいな金緑色のものはアオカナブンです。
コクワガタとスズメバチ、ヒカゲチョウの仲間も来ています。
ここは樹液がたっぷりあるためか、みんな仲良く食事中のようです。
樹皮のはがれたところに樹液を求めて群がる。
上の渋い赤胴色がカナブン。下の鮮やかな金緑色はアオカナブン。
(写真:石森愛彦)
コクワガタ。左右の大あごは大きさが違っていて、左前脚が欠けていた。
(写真:石森愛彦)
ヒメスズメバチ。腹部の先が黒い。
(写真:石森愛彦)
別の場所に、小さな樹液場があります。
こちらは2頭のカナブンが場所の取り合いをして、力の強いほうが独占しています。
ちょっと、いたずらをしてみましょう。
……昆虫博士の翔太くんがカナブンを指で押すと、頭でぐいぐいと押し返してくる。かなりの力。勝者だけに、力が強く、気も強いようだ……
●トゲアリ
コナラと思われる倒木、かなり腐朽しています。この上をアリがたくさん歩いていますね。
みなさん捕まえてルーペで観察してみてください。かまれると痛いですが、気を付けてください。
……痛っ、という声があちこちから上がり、しばし騒然。やがて落ち着いてそれぞれ観察し、おーっという驚嘆の声……
背中のところに大きなとげがありますね。
トゲアリといいます。体長約8mmと、アリとしては大きめです。
とげがいくつあるかわかりますか?
……6本(3対)だ、いや8本(4対)だよ、と声が上がる。ケースに入れて観察しても激しく動くので数えにくい……
よく観ると、前胸・中胸・後胸に各1対と、腹柄(胸部と腹部をつなぐ部分)に1対、合計4対(8本)です。
腹柄のとげは釣り針のような形をしています。どうしてこんなとげがあるんですかね。
指にかみついて離れないトゲアリ。
撮影のために指を犠牲にしたのはIHさん。
OMさんの指にとげが刺さって抜けなくなった。
どうしてこうなるの?
(写真:石井秀夫)
標本にすると、大きく頑丈そうなとげがよくわかる。
腹部がいつも下向きになっているのも特徴。
(写真:山崎秀雄)
不思議なとげに興奮し、ついイラストに…
(石森愛彦)
……トゲアリがこの日の一番人気のようで、たくさんの写真をお寄せいただきました……
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●小仏川で川虫探し
みんなで川べりに降りて川虫を探してみましょう。
石を裏返すと、何か見つかると思います。
……全員が思い思いに川虫を探す……
川虫は大きく分けるとカゲロウ目、トビケラ目、カワゲラ目の幼虫ですが、ここではカゲロウの仲間がたくさん見つかりますね。見つかるのは小さな幼虫ばかりですがルーペで拡大してみましょう。
全員が思い思いに川虫を探す。
中にはそのつもりでゴム長の方もいた。
ここで多いのはヒラタカゲロウの仲間です。名前のとおり平たい体形で、脚は6本とも前向きについています。石にしがみついて渓流に流されないような形ですね。よく観ると、腹部の両側にえらがあるのが分かります。
ヒラタカゲロウの一種の幼虫。
平たい体形と前向きの脚、腹部両側のえらに注目。
プラナリア。
昆虫界以外から特別出演。
プラナリアもたくさんいますね。下見の時はヒラタドロムシも見つかったんですが、残念ながら今日は見当たらないようです。
……観察した石は、元の位置に戻しましょう、という参加者の自発的な声。さすが、みなさん意識が高い……
……大ぜいでワイワイやっている中を、カワトンボが飛来……
帽子にとまる人なつこいトンボはアサヒナカワトンボです。
この仲間の分類ではいろいろありましたが、近年のDNA解析による研究で、アサヒナカワトンボとニホンカワトンボの2種に分けられました。この地域にいるのはアサヒナカワトンボです。
アサヒナカワトンボ。「昆虫博士入門」より
●まとめ
天候に恵まれましたが、暑さのためか虫は少なかったですね。
1週間前の下見の時は、雨の合間の曇りでしたが、ヒメギスなど多くの昆虫が葉の上に出て観察しやすかったのですが… 
暑さで隠れてしまったんでしょうね。昆虫観察は難しいです。
昆虫観察用のための完全装備の山崎先生。
この日は思ったように虫が出ず、
いつもの笑顔がちょっと引きつり気味かも…
以下、当日は残念ながら話題にできなかったのですが、予定していたものを記しておきます。
クズの昆虫(食痕に注目)
コフキゾウムシ:成虫が葉のふちをかじる。ギザギザの食痕を残す。
オジロアシナガゾウムシ:茎に産卵し、幼虫は茎内で成長。虫こぶとなる。
クズノチビタマムシ:幼虫が葉の中にもぐり、中を食べる。アメーバの形の独特の食痕となる。
カンゾウの昆虫(捕食者と非捕食者の関係)
キスゲフクレアブラムシの集団と、その捕食者であるヒラタアブの幼虫、クサカゲロウの幼虫の関係。
バッタの仲間(前脚で形とくらしを見る)
捕食・雑食性のヒメギスと、草食性のイナゴ・フキバッタ類の前脚を比較。同じバッタ目でも、捕食性はとげが目立つ。形とくらしの典型的な例となる。
(さまざまな翅を見る)
バッタ目:前翅はやや硬く背中を覆う。後翅は膜状で扇子のように折りたたむ。滑空が得意。
コウチュウ目:前翅は硬く体の保護、滑空などにも使用。後翅は前翅より長く、折りたたむ。
チョウ目:翅をたたまずに積極的に利用。色や模様の目立つ種もある。翅も含め全身鱗粉・鱗毛がある。
さまざまに進化した翅の形と、生息環境(くらし)を考える。

参加いただいたみなさん、暑い中ありがとうございました。
当日は虫が少なくて残念でしたが“あまり気にしないように”と、みなさんから励ましの言葉をいただきました。
また、今回のレポート作成にあたっては、たくさんの傑作写真をお寄せいただきました。ありがとうございました。全部の写真は掲載しきれませんでしたが、ご容赦ください。
写真を送っていただきながら申し上げにくいのですが、観察会では、みんなが観察できるように注意をお願いします。最優先の目的は撮影ではなく観察ですので。
ひょうきんな顔のキマワリ。
アカボシゴマダラ幼虫。外来種。
みんなの注目を集めたオオケマイマイ。カタツムリの仲間。
(写真:石森愛彦)
高尾名物? ガビチョウ。外来種。
(写真:石井秀夫)
(レポートまとめ:事務局O)
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2015年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告 テーマ別観察会 その1 :野草・雑草を観察しよう