2015年  自然観察大学 第3回
2015年10月4日(日)
場所:千葉県我孫子市岡発戸・都部谷津
後援:我孫子市
さわやかな秋晴れのもと、豊かな谷津での、たのしく充実した観察会でした。

秋といえば実りの季節です。さてどんな話題が登場したのか、ごゆっくり見てやってください。
担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物については、飯島・中安・村田・川名の各先生に適宜分担していただいたため、このレポートを作成いただいた方の名前を記しました。

当日観察された生き物のリスト

植物
オオブタクサ
つる植物
ヤブツルアズキ、ヤブマメ、ツルマメ、クズ、カナムグラ、ヤブガラシ、ヤマノイモ、カラスウリ、スズメウリ
キツネノマゴ
ナンテンハギ
ヨメナ(カントウヨメナ)
サワフタギ
クリ
マテバシイ
コブシ
ヒノキ
サワラ
アメリカネナシカズラ
ひっつく実
フジカンゾウ、ヌスビトハギ、イノコズチ、ハエドクソウ、チヂミザサ、ミズヒキ
ヒガンバナ
コブナグサ
水辺の植物
ヒレタゴボウ、チョウジタデ、コナギ、キクモ、タコノアシ、ミゾソバ、アゼガヤ、ミズワラビ、デンジソウ、ジュズダマ
カラスノゴマ

 

昆虫・クモ
ヤマトシリアゲ(夏型)
キチョウ(キタキチョウ)
イチモンジセセリ
チャバネセセリ
オオトリノフンダマシ(卵のう)
オナガグモ
ジョロウグモ
ナガコガネグモ
キバチ(ヒラアシキバチ)
シオカラトンボ
ノシメトンボ
アキアカネ
マイコアカネ
オニヤンマ
オオアオイトトンボ
イナゴ(コバネイナゴ)
ツチイナゴ
クビキリギス
鳥・その他
モズ
ジムグリ
ヤマカガシ
アカガエル
オオブタクサ(飯島先生)
オオブタクサが生えています。葉の形からクワモドキという名もあります。
草高はどのくらいあるでしょうか。背の高い浅間先生の身長が1m80cmとのことなので、4mはあるようです。ここにあるのは今年芽生えたもので、短期間にここまで成長しました。これで1年草とは驚きですね。
これだけ高いと十分に太陽の光を受けることができて、ほかの植物との競争に有利であると考えられます。

ちょっと困った雑草ではありますが、谷津守人の方たちにお願いして、この一角だけ観察会のために刈らないで残しておいていただきました。
オオブタクサと浅間先生(身長1m80cm)
オオブタクサは推定4m以上。
オオブタクサは先端のほうに雄性の花序をつけ、その元のほうに雌性の頭花を数個つけます。もう果実になっているようです。雄性の花序は落ちてしまっていますが、多量の花粉を飛ばすので、花粉症の原因となります。
オオブタクサ雄花序(左)と雌花序(右)。(「形とくらしの雑草図鑑」より)
ところで、セイタカアワダチソウのことをブタクサと呼んで、花粉症の原因になると思い込んでいる方が多いのですが、それはまったくの誤りです。
オオブタクサとブタクサは風媒花ですが、セイタカアワダチソウは虫媒花です。虫媒花は花粉の量が少なく、風で飛ぶことはありません。
たぶん、黄色い花が一面に咲いて目立つので、濡れ衣を着せられてしまったのでしょう。
ヤブツルアズキ(飯島先生)
オオブタクサのとなりに、マメの莢(豆果)をつけたつる植物があります。
ヤブツルアズキという植物です。畑で栽培されるアズキの野生祖先種と言われています。野生種と栽培種との中間的な形態のものや、雑種もあるとのことで、同定のむずかしい植物です。ここで見られる個体も葉の形や茎の色など、典型的なヤブツルアズキの形態ではないようです。

1週間前には花が見られたのですが、花の時期は過ぎてしまったようです。花は淡黄色で、マメ科の特徴である蝶形花ですが、竜骨弁がねじれてちょっと変わった形をしています。
豆果の中の種子は長さ約5mm、褐色の斑のある黒色で、アズキのような形をしています。

すぐ近くに、ヤブマメが淡紫色の花をつけています。こちらの花は今が最盛期で、数個の花がまとまってついています。
ヤブツルアズキの実と花。(9月26日に撮影)
ヤブマメの花。
(「形とくらしの雑草図鑑」より)
ヤマトシリアゲ(鈴木先生)
前回の観察会で黒っぽいシリアゲムシを観察しましたが、今日は茶褐色のシリアゲムシが見られます。
じつはどちらもヤマトシリアゲです。
ヤマトシリアゲは、北海道の南部より南に生息します。
前年の秋に土中に産卵された卵から幼虫がかえり、蛹を経て、翌年の夏前に成虫になります。これを1化目または春型といいます。体色は黒く、交尾・産卵し、その世代は一生をおえます。
次世代が出現するのは、夏から秋にかけてです。この世代を2化目または夏型といいますが、いまここで見られるのがそれですね。体色がベッコウ色なので、ベッコウ型ともいいます。

自然度の高い、豊かな場所に住むとされています。
岡発戸・都部谷津はよいところですね。
2化目のヤマトシリアゲ雄(夏型)
1化目のヤマトシリアゲ雄(春型)
クリの実(川名先生)
クリが、ちょうどいま実になっています。
いつも食べるだけですが、たまにはじっくりと実のつくりを考えてみましょう。ちょっとややこしいですが、我慢して聞いてください。

クリの実は“いが”が特徴ですね。いがは総苞(そうほう)にあたるものです。前回の花の時期の写真とくらべて見ましょう。花穂の付け根近くに雌花がありましたが、この雌花が果実になりました。雌花序の総苞には鱗片があって、なんとなく“いが”に似ていましたね。

さて、果実と種子の関係を見ましょう。果実はいがの中にふつう3個あります。茶色の堅い皮は鬼皮といわれる果皮(かひ)です。
我われが食べるところは種子です。これは子葉が肥大したもので、胚乳はありません。全部が胚ということになります。
さて、渋皮はどうでしょうか。私は種皮(しゅひ)としましたが、これは意見の分かれるところのようです。岩瀬先生らの著された「写真で見る植物用語」では、渋皮までが果皮とされています。まぁ、本人(クリ)たちにとってはどっちでもよいことかもしれませんね。

ところで、3個の果実がつくということから、雌花は3個からなる花序だったことが分かります。花序を包むから総苞といいます。花を包むのは苞です。
クリの“いが”は総苞。中には普通3個の果実がある。

「写真で見る植物用語」より

6月の観察会で見たクリの花穂。付け根に近いところに、総苞に包まれた雌花の花序がある。画面右側は雄花。
クリと同じブナ科のコナラなどとは、樹全体は似ていて見分けにくいですが、果実はまったく違っていますね。
渋皮は種皮または果皮の一部とされる。

「写真で見る植物用語」より

果実の断面。食べるところは種子の子葉。

「写真で見る植物用語」より

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モズの高鳴き(唐沢先生)
「キィー、ギチギチギチ…」というけたたましいのはモズの鳴き声です。
昔から「モズの高鳴き」といって秋の風物詩として親しまれてきました。

モズはスズメ目の鳥で、大きさはハクセキレイほどの小さな鳥です。
が、気性は荒く、鋭い嘴で猛禽類のように振る舞うことから、「モズタカ」「タカモズ」といった異名もあります。江戸時代はタカの仲間に分類されていたほどです。
モズの雌雄の違いを紹介する唐沢先生
(石井秀夫)
モズは、杭やフェンスなどにとまって、じっと地面を見つめ、トカゲやバッタなどを狙い、一気に襲いかかります。そのため、スズメのように群れることはありません。縄張り内を単独で移動しながら獲物を探す生活をしています。

「モズの高鳴き」は縄張りをめぐっての争いです。なぜ9月〜10月の秋に縄張り争いがおこるのか、その理由はつぎのように考えられています。
春に平地で子育てを終えた親鳥は、いったん姿を消して高原などに移動します。残った子ども世代が縄張りを張ります。
秋になると、そこに親世代が戻ってきて、縄張りをめぐっての争いが起こります。
そのときの鳴き声が「高鳴き」というわけです。
高鳴きは、いわば「口げんか」であり、さらにエスカレートすると追い回したり取っ組み合いの闘いへと発展することもあります。

成鳥も若鳥も、雄も雌も、各1羽で縄張りを確保して冬に備えます。しかも、縄張りは越冬のためだけではなく、雄にとっては来るべき春の繁殖の際にも重要な意味をもっています。雌は、雄の縄張りの善し悪しを品定めをして、配偶者を選択するからですね。

縄張りと言えば、「縄を張って囲ったもの」というイメージをもちやすいですが、実際に縄があったり線が引かれているわけではありませんね。
縄張りを越えての出入りがあり、そのつど小競り合いが見られます。闘いや小競り合いによって縄張りは維持されている、と言うこともできます。

ほら、話をしている間に、あちらでモズどうしが激しく追い合っています。縄張り争いですね。
ジムグリ(浅間先生)
田仲先生がジムグリを捕まえてくれました。
今年産まれた幼体です。
成体はなかなか見ることができませんが、幼体は9月頃よく見かけます。
ジムグリは名前の通り地面に潜って生活しています。モグラやネズミのトンネルに入って、小型の哺乳類を食べています。頭部が小さいのも、地面に潜るためです。
ビニール袋に入れたジムグリを紹介する浅間先生。
ジムグリ幼体。(浅間茂)

 

握り拳に似たコブシの実(村田先生)
この木を見てください。何か面白い、実のような物がぶら下がっていますね。
よく見ると赤い丸い粒が見られます。
枝を引き寄せてみましょう。握り拳に似た果実です。この木は「コブシ」です。
この果実の形が拳に似ているのが名前の由来といわれています。

赤い丸い粒が顔を出していますが、これが種子です。

コブシの花は春先に大きな白い花を付けますね。
写真のように、白い大きな花弁の中央に、たくさんの雄しべがあります。
その雄しべに取り囲まれた中心に多くの雌しべがあります。
花が済むと、多くの雌しべとそれが付いていた部分が長く成長します。
秋になるとこれが握り拳のように成長し、中の赤い種子が顔を出します。握り拳は1個の花が生長してできた果実で、このような実を集合果と呼んでいます。

5月の第1回の観察会ではクワの実を見ました。クワの実はたくさんの花が密に集まっていて、それぞれが果実になりかたまって、あたかも1個の実のように見えましたね。こちらのような果実は複合果と呼んでいます。
一見似た果実でも成り立ちまで考えないといけませんね。

枝をよく見ると枝先に大きな芽が見られます。
芽は毛を密に付けた鱗状の構造物で覆われています。これを芽鱗と呼びます。この中に花芽が保護されています。
寒い冬をこのまま過ごして、来春花を咲かせます。

別の葉の付け根にも小さい芽がありますね。葉になる芽で葉芽と呼びます。硬い芽鱗に覆われていますが、毛は少ないです。

秋は植物の冬越しの準備が見られます。
コブシの若い果実(右)と熟した果実(左)
コブシの花

「写真で見る植物用語」より

コブシの芽(花芽)
コブシの芽の断面

「写真で見る植物用語」より

谷津に隣接するゴルフ場のフェンスにからむスズメウリ。
熟した果実は白い。
草刈りされずに、たいせつにされていた。
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ジョロウグモ(浅間先生)

ジョロウグモの名前の由来は、「女郎蜘蛛」と思われている人が多いですが、女郎ではなく、実は身分の高い上臈です。
平安時代、後宮などに仕える女官で身分の高い順に上臈、中臈、下臈と続きます。江戸幕府の大奥の職名としても上臈という官位が使われています。
そう思って観察すると、赤・黄色の艶やかさは高貴な色合いに見えます。
 
ジョロウグモの名前の由来は上臈蜘蛛。

(浅間茂)

このクモは臆病で、よく他のクモに網を乗っ取られています。一般に網を張るクモは、成体になると網を張れなくなります。
アシナガグモの雄が、ジョロウグモを脅して、網を乗っ取っているのを見かけます。
ジョロウグモは網の目が細かく、三重網ですので他のクモの円網に比べて分かりやすいはずです。もし他の種類のクモがジョロウグモの網の中央に陣取っていれば、それは網の乗っ取りです。
気をつけてみていると、他のクモ同士でも網の乗っ取りが観察できます。
ジョロウグモの網を乗っ取ったアシナガグモ。
画面右(網の中心付近)にアシナガグモ、画面左(網の端)にジョロウグモがいる。(浅間茂)
オナガグモ(浅間先生)
ここにマツの葉がひっかかっています。
あれ、触ると動きますね。これはマツの葉に擬態しているオナガグモです。

このように数本の糸を張っただけの網を条網(すじあみ)といいます。
ほら、この糸に触っても粘りませんね。このクモは、糸をつたわってくるクモを餌としています。
このタイプの網を張るクモは他にもツクネグモやオウギグモがいます。

ではどうやって獲物を捕らえるのでしょうか。
 1. 脚で相手に催眠術をかける
 2. すばやく噛みついて捕らえる
 3.脚(第4脚)に糸を引き出し、粘性のある糸を投げかける
さあどうでしょうか。
答えは3.です。

ちょっと離れた所に、緑色ではなく、茶色の個体がいます。見てください。
どうして色が異なるのか、理由はまだ分かっていません。
私は体半分ずつ緑と茶色の個体を見たことがあります。
マツの葉に擬態したオナガグモ。
獲物(クモ)を捕らえたオナガグモ。

(浅間茂)

茶色のオナガグモ

(浅間茂)

ヒノキとサワラ(村田先生)
ヒノキとサワラはよく似ていますね。
ここには、隣り合わせにヒノキとサワラが並んでいます。
簡単な見分け方を紹介しましょう。
葉裏をルーペで見てください。
葉の裏の白い線がY字になっているのがヒノキです。
サワラはX字、あるいはH字になっていますね。
いろいろ変化はありますが、おおまかにY字がヒノキ、X字がサワラです。
これらの白い線は、葉の合わせ目の気孔帯です。

ヒノキとサワラはどちらもヒノキ科です。
園芸品種がたくさんあって、○○ヒバといわれるのがそれです。
ヒノキの葉裏。Y字が見える。
サワラの葉裏。X字が見える。
キバチとオナガバチ(田仲先生)
このエノキの朽ち木では、第1回の5月にオナガバチの雄、第2回の6月にオナガバチの雌の産卵を見ました。
そして第3回目の今日、オナガバチ類の寄生相手(宿主)であるキバチの一種であるヒラアシキバチが産卵しています。

ヒラアシキバチは枯れ木の奥のやや湿ったところに産卵します。孵化した幼虫は材を食べ進みながら1年かけて成長し、蛹を経て、穴を開けて成虫が出て来ます。材は栄養が少ないのですが、キバチの幼虫は固い壁(樹皮)に守られて成長することができます。
一方で、固い壁は寄生者にとっても魅力的です。宿主であるキバチの幼虫に卵を産むことができれば、寄生者の子供は食料と安全な隠れ家が手に入ります。それでキバチには様々な蜂が寄生します。
獲物(クモ)を捕らえたオナガグモ。

(図と写真:田仲義弘)

ハチ目は広腰亜目と細腰亜目の2亜目に分かれます。

広腰亜目のハバチ(葉蜂)類(葉の中に産卵する)が祖先型で、食料の幅を広げる中でキバチ(木蜂、木に産卵する)が誕生したと考えられます。
キバチは木の中に卵を産むための長い産卵管を持っていますが、腰がくびれていない広腰亜目ですから、腹を自在に動かすことができず産卵には苦労します。なお、写真の産卵中のヒラアシキバチで後方に伸びているのは産卵管のさやです。

一方、寄生者のオナガバチ類は細腰亜目です。腰がくびれているので、腹部を自由自在に動かすことができます。
ダイナミックなオナガバチの産卵シーンは、前回の第2回で観察できましたね。
腹を真っ直ぐに立て脚もいっぱいに伸ばして、全身を櫓(やぐら)のようにし、体長より長い産卵管を突き立てます。朽ち木の中のキバチの幼虫を探して産卵するのです。(図のオオアメイロオナガバチ)

細腰亜目の仲間は自在に動く腹と産卵管で、動き回る昆虫に寄生したり、獲物を狩ったりして大いに繁栄しています。
ところで、キバチ(ヒラアシキバチ)は2、3頭が産卵中ですが、そのほかに産卵管を刺したまま死んでいるのがたくさんいますね。
死んでいるキバチはいくつも産卵した後、これが最後の産卵だったということでしょう。産卵は体力を消耗します。1個の産卵で死んでしまうとは考えられません。

前回の6月に寄生者であるオナガバチ類(オオアメイロオナガバチ、ツマグロオナガバチ)の産卵シーンを観察し、今回、寄生相手(宿主)であるキバチ(ヒラアシキバチ)が観察できました。
今年継続した観察会で、宿主−寄生関係、広腰亜目と細腰亜目が観察できたわけです。
この、いいあんばいに朽ちかけたエノキと、谷津のおかげです。
産卵管を刺したまま死んでしまったヒラアシキバチ。中央のものは産卵管から下の腹部を残して消失している。
春から秋まで、キバチとオナガバチを観察したエノキ。
3叉に分かれ、右の1本は朽ちてきのこが生えている。左の2本も衰弱していた。
当日は田仲先生の説明書きが張り出され、ポスターセッションのよう。
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動物の体にくっついて運ばれる実(中安先生)
斜面の森を抜け、台地上の林縁の道に出ました。ここには林内で見当たらなかった様々な植物が生えており、花や実を付けているものも少なくありません。特にこの時期には、動物の体にくっついて実が運ばれる「付着散布型」の種子散布をする植物が目を引きます。
それではここで「付着散布型」の植物を探してみてください。何種類見つけることができるでしょうか。
見つかったものを確認しながら、名前と特徴、くっつき方を簡単に紹介していきます。
フジカンゾウ(マメ科)
サングラスかブラジャーのような形の果実が特徴です。2つの果実が連なっているように見えますが、全体で一つの果実です。2個ずつ並んだうちの1つずつが分離して、果実の表面に生えた微細な “かぎ”でくっつきます。マジックテープ(面ファスナー)の原理と同じです。かぎは肉眼ではほとんど見えないほどの小ささですが、果実の表面を触ってみたときのザラザラ感で確かめることができます。
ヌスビトハギの果実も形はそっくりですが、フジカンゾウよりも一回り小型です。
【参考】自然観察大学ブログ:
アレチヌスビトハギ-ひっつく実の秘密⇒
フジカンゾウ(上)と
ヌスビトハギ(下)の果実。

(中安均)

イノコズチ(ヒユ科)
果実の背中にある2つの “とげ”でクリップのように引っかかります。とげは苞(ほう:花の下にある葉)に由来するものです。
イノコズチ(ヒカゲイノコズチ)の果実。(中安均)
ハエドクソウ(ハエドクソウ科)
一見すると、すっと伸びた果実のついた茎のようすがイノコズチに似ていますが、果実を拡大してみると違いが分かります。果実の先にある3本の爪は花の基部の上面に伸びたがく片に由来します。
花は横を向いて開きますが、花が終わると下向きになります。これはイノコズチでも同じです。         
花は横向きの方が来る虫が利用しやすく、果実を動物に引っ掛けるには“とげ”や“かぎ”が下を向いている方がよいのでしょう。
ハエドクソウの花と果実。(中安均)
ミズヒキ(タデ科)
名前は長く伸びた花序(あるいは果序)のようすを紅白の「水引」に例えたものです。果実の先の下向きの“かぎ”で引っかかります。かぎは雌しべ(花柱)の先の部分です。
ミズヒキの果実。(中安均)
チヂミザサ(イネ科)
縮れて波打つササに似た葉が特徴です。実の基部の長い毛(※)の表面に分泌される粘液で張り付きます。
※正確には小穂基部の第1苞穎および第2苞穎の先端の長いとげ
(芒:のぎ)
衣服に付着したチヂミザサの小穂。

(中安均)

この場所では以上の5種が見つかりましたが、これらの植物に共通する付着散布に関連した特徴とその理由を考えてみましょう。
★ 実のついた部分が長く突き出しています。
⇒動物の体に接触しやすい位置に実をつけていると考えられます。
★ すべてが草本で、丈の低い植物です。
⇒これらの植物が種子を運ばせるのに利用するのは主に地上を徘徊する鳥獣で、それらの動物の体高以下のところに実をつけていると考えられます。日本の大型野生動物だとニホンジカの体高が1mほど、人でもせいぜい2mです。
★ 主に道沿いや林縁に生育しています。
⇒人や動物がよく通る場所に生えていた方が実をくっつけるチャンスが多くなります。また、運ばれる種子がその植物の生育に適した同じような環境の場所に落とされる可能性も高いと考えられます。
★ 実は植物から自然には落下しにくい特徴を持っています。植物が枯れてしまっても、ずっと茎についており、翌春まで残っていることさえまれではありません。
⇒軽い刺激で簡単に落ちたり、飛ばされたりせず、動物の体に触れて取れるまで、チャンスをじっと待っていると考えられます。
衣服にくっついたハエドクソウの果実。
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トンボの話(鈴木先生)
アキアカネ、シオカラトンボやノシメトンボなどが盛んに飛び回っています。
水路ではシオカラトンボが産卵しています。水面に腹を打ち付けるようにする、打水産卵ですね。
シオカラトンボは、産卵時は雌雄連結をしません。雄は産卵する雌をガードするように、少し離れて上方を飛んで周囲を見張っています。
シオカラトンボは縄張り意識が強いらしく、意外に攻撃的です。
谷津ミュージアムの“とんぼ池”。
シオカラトンボの産卵や、いろいろなトンボが観察できた。
これは、シオカラトンボに空中戦で敗れて翅がボロボロになったオニヤンマです。さすがのオニヤンマも縄張りを守っているシオカラトンボの雄には、不覚を取ったようです。
シオカラトンボに攻撃されて、ひん死のオニヤンマ。泥まみれで落ちていた。
オニヤンマ。同じ場所で前週の下見で撮影。

(唐沢孝一)

アキアカネを一まわり小さくしたようなマイコアカネもいましたが、数は少ないようです。
マイコアカネの雄は成熟すると、顔の全面が青白くなります。これが白いお化粧をした舞妓さんのようなので、マイコアカネの名前が付きました。
といっても、お化粧をしているのは雄なのですが…
マイコアカネ。舞妓さんのように顔が白いが、じつは雄。
トンボの仲間は、大きく3つのグループ(亜目)に分かれます。
成虫の体の特徴でいうと、以下のようになります。
越冬するチョウ(山崎先生)
残念ながら今日は花が終わってしまって、あまりチョウが出ていませんでしたが、下見ではキチョウがハギの花に多く訪れていました。
キチョウは現在南西諸島以南のミナミキチョウとそれ以北のキタキチョウに分けられます。外見での区別は難しいので生息地で分けるしかありません。関東ではキタキチョウですね。

この時期、花を訪れるチョウは成虫越冬をするものが多くなります。
キタテハ、ヒメアカタテハ、アカタテハ、ムラサキシジミ、ウラギンシシミなどがあります。
多くは落ち葉の間や物の隙間に入りますが、ウラギンシジミのように葉常緑広葉樹の葉裏に着くものもあります。ウラギンシジミは見つけやすいので、冬の野外観察で探してはいかがでしょうか。

ムラサキツバメは関東地方では見ることは難しいですが、めずらしい集団越冬の傾向があります。
キタテハ。

「昆虫博士入門」より)

ウラギンシジミ。翅裏が銀色。

(「昆虫博士入門」より)

ムラサキツバメの集団越冬。
暖地性だが、関東南部でも集団越冬が確認された。

(「昆虫博士入門」より)

ヤマカガシとアカガエル(浅間先生)
みなさんよりも少し先を歩いていた時に、となりにいた村田先生が「あれは何だ」と指さしました。
見ると、湿地でピョンピョン跳ねるものがいます。
小さなヤマカガシに追われたアカガエルが逃げまわっているのです。
ヤマカガシが、それをすごい速さで追いかけています。
円形に大きく2まわりした所で、カエルの脚にかぶりつきました(写真)
獲物のカエルが大き過ぎたためか、飲み込めずに、脚にかぶりついたまま茂みの中に引きずり込みました。
…と、カエルだけ飛び出してきました。

ヤマカガシは奥歯に毒があります。カエルも脚を咬まれ毒を注入されたと思いますが、すぐには毒が働かないのかもしれません。
カエルは助けましたが(?)、ヘビには悪いことをしました。
ヤマカガシに脚を咬まれたアカガエル

(浅間茂)

バッタ類の脚と食生活の関係(形とくらし)(山崎先生)
秋はイナゴ・バッタ、カマキリなどが成虫になる時期です。
ここでは、コバネイナゴ、ツチイナゴ、オンブバッタ、クビキリギス、ツユムシ類、カマキリ類などが見られます。

バッタ目の昆虫は、イナゴ・バッタ類、キリギリス類、コオロギ類の3つに大きく分けられます。
これらの見分け方は、以前鈴木信夫先生が話されているので、そのHPレポートを見てください。
(2013年野川公園第3回)⇒
残念ながら草刈りをされてしまって、かんじんのバッタ類が減ってしまったようですが、捕まえておいたバッタの脚を見てみましょう。

コバネイナゴとツチイナゴは草食性です。コバネイナゴはイネ科植物、ツチイナゴはマメ科植物を食べます。植物食ですね。
脚の裏をよく観てください。
先端には爪の間に吸盤のようなものがあります。爪間盤(そうかんばん)といいます。
さらにその手前のふ節にも、肉球のような吸盤のようなものが並んでいます。
葉の上で生活するには安定するんでしょうね。
草食性のコバネイナゴ(左)とツチイナゴ(右)。前脚には吸盤や肉球のようなものが並ぶ。
雑食性で肉食の強いヤブキリの一種。
前脚と中脚にはとげが多い。
ヤブキリ類はキリギリスの仲間に属します。
この仲間は、肉食兼草食の雑食性で、ヤブキリのように肉食性の強いものもあります。
これらは前脚にたくさんのとげがあって、獲物の昆虫などを捕えるのに適しています。

バッタの仲間に近いカマキリの前脚は鎌のようになっていて、捕食性昆虫の典型的な例ですね。
トンボも捕食性で、脚にはとげが多いです。細くて頼りなさそうな脚に見えますが、拡大して見るといかにも捕食性昆虫の脚です。

 
参加いただいたみなさん、講師のみなさん、ありがとうございました。
後援いただいた我孫子市の手賀沼課のみなさん、そしてこの豊かな谷津を、魅力的な「谷津ミュージアム」として管理していただいている谷津守人のみなさん、本当にありがとうございました。
我孫子市HP→ http://www.city.abiko.chiba.jp/event/shizennonaka/yatsu_museum/index.html
 
最後は参加者全員で記念写真。
そして今年3回行われた野外観察会で、すべて参加いただいた方には、修了証が渡されました。
何ものにも代えがたい、貴重な修了証です。(何かの役に立つわけではありませんが…)
(レポートまとめ:事務局O)
※ 参加された方で、記念写真のデータを希望する方は、事務局までご連絡ください。Eメール添付でお送りいたします。

2015年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告
テーマ別観察会:野草・雑草を観察しよう
テーマ別観察会:身近な昆虫探検
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