2015年  自然観察大学 第2回
2015年6月21日(日)
場所:千葉県我孫子市岡発戸・都部谷津
後援:我孫子市
梅雨の真っただ中に開催された第2回観察会ですが、なんとか最後まで天気がもってくれました。
観察対象も第1回に引き続き多く、充実した観察会になりました。
岡発戸・都部谷津の全体図
担当講師については【講師紹介】をご覧ください。
植物担当は村田威夫先生・飯島和子先生・川名興先生・岩瀬徹先生に分担していただいたため(植物)としました。

当日観察された生き物のリスト

植物
イタドリ
クサフジ
ハルジオン
ヒメジョオン
オオブタクサ
メマツヨイグサ
クズ
ガマ
アメリカネナシカズラ
オカトラノオ類
クリ
アカマツ
マテバシイ
カマツカ
ニワトコ
ショウブ
カニクサ
デンジソウ
アメリカネナシカズラ

 

動物
・昆虫
ヤマトツツクモバチ
ヤノナミガタチビタマムシ
ツマグロオナガバチ
オオアメイロオナガバチ
ガガンボモドキ
シオカラトンボ
オオシオカラトンボ
ノシメトンボ
ハグロトンボ
・クモ
ヤマトコマチグモ
カバキコマチグモ
ゴミグモ
・鳥
ウグイス
オオヨシキリ
タヌキの足跡
・哺乳類
タヌキ(足跡)
カヤネズミ(巣)
・両生類・爬虫類
シュレーゲルアオガエル
トウキョウダルマガエル
アオダイショウ
イタドリの話(中安先生)
植物は移動できない分、動物以上に熾烈な戦いを静かに繰り広げています。この一画に広がるイタドリ群落と周囲の植物の観察を通して植物同士の競争関係について考えてみましょう。
イタドリの群落を背に説明される中安先生
群落の周囲にはオオブタクサやセイタカアワダチソウなどが見られますが、群落中心部には生育していません。クズはイタドリ群落の一部に覆いかぶさるようにつるを伸ばしています。イタドリとこれらの植物がどうなるか、今後も継続観察していきましょう。
さて、今度は草をかき分けてイタドリ群落内部のようすを覗いてみましょう。とても暗くて、ほかの植物はほとんど生えていませんね。
春、イタドリは急速な初期成長で一気に地上部を占有し、密生群落を形成します。スタートダッシュできるのは前年までに地下部に貯えておいた物質を使うことができるからで、小さな種子からスタートする一年草に比べると圧倒的に有利です。
また、茎のつくりにも秘密があります。ちょうどここに刈り取られたイタドリがありますので持ってみてください。とても軽いでしょう。軽い上にとても丈夫で、杖としても使えそうです。
茎を割って内側を見てみましょう。中空で節があり、タケそっくりですね。タケとイタドリとはかなり違った植物のグループですが、茎のつくりが似ていることには合理的な理由があります。円形、中空にすることで軽量化し、節約した資材で草丈を高くすることができるのです。強度不足は仕切りを入れることで補います。合理性を追求すると結果は似てくるのですね。
イタドリ群落にほかの植物が少ないことのもう一つの理由として考えられるのはアレロパシー(他感作用)です。他の植物の成長を阻害する物質を根から分泌する現象で、セイタカアワダチソウでの例が有名ですが、ヨモギやクズ、そしてイタドリなどでも知られています。
このように、競争関係など、生き物同士の様々なかかわりもそれぞれの種の生活様式や形態を進化させる上での大きな要因となったと考えられます。
イタドリの茎の縦断面

(中安均)

ウグイスのさえずり(唐沢先生)
谷津を歩くと、「ホーホケキョ」とウグイスのさえずりが聞こえてきます。雄が縄張りを形成するとき、あるいは雌に求愛する時などによくさえずります。しかし、鳴き声は目立ちますが、なかなか姿を見せてくれません。それは、藪や茂みなど、見通しの悪い環境を住処にしているためで、それによって声による情報伝達(vocal communication)が発達したと考えられています。
岡発戸のヨシ原でさえずっているオオヨシキリも、「声は目立つが姿は見つけにくい」タイプです。
説明される唐沢先生

(石井秀夫)

最近、ウグイスのさえずりについて、興味深い発表がありました。国立科学博物館の濱尾章二氏による「ハワイと日本のウグイスのさえずりの比較」です。
ハワイのウグイスは約80年前に日本人からの移民が持ち込んだものです。ところが、ハワイのウグイスのさえずりは「ホーホピ」とだいぶ単純です。(http://animal-channel.net/?p=1934)
濱尾氏によれば、ハワイでは一年中同じ島の中で生活しているため、競争が低下し、さえずりが単純になったのではないかと説明しています。
小笠原(父島)のハシナガウグイス.人を恐れずに接近してくる

(2014年8月撮影)(唐沢孝一)

本土のウグイス

(唐沢孝一)

ハワイだけでなく、本土から遠く離れた島では、姿や形、習性などが少しずつ異なる傾向が見られます。日本本土と小笠原(父島)のウグイスは、もともとは同じ種でしたが、くちばしの長さが大分異なります。くちばしなどの形態の変化(この場合は進化)は、長い年月を必要としますが、ハワイのウグイスのさえずりはわずか「80年」で変化した、というところが実に興味深いです。鳥の形態に比べて、鳴き声の方が変化しやすい、と言えそうです。
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クリの花(植物)
クリの花が咲いています。新枝の葉のわきから白い穂のような花序が出ています。花序のほとんどは雄花の集まりの雄花序、その基部についているのが雌花の集まりの雌花序です。
クリの雄花序(右)と雌花序(左)
雌花序は1つの花のように見えますが、3個の花が鱗片におおわれた総苞に包まれています。雌花序の上部には針状の花柱が多数見られ、ルーペで見ると、花柱が3つの束になっているのがわかると思います。この雌花序が受粉して、やがて、いが(殻斗)に包まれたクリの実(堅果)になります。堅果が熟すと殻斗は4つに割れ、3個の堅果が現れます。時々、果皮だけで中身のないものがありますが、受粉できなかったものです。
クリの花は虫媒花のため、強い香りがします。クリの木の近くを通りかかったときにこの香りを感じた経験があると思います。
クサフジと昆虫(中安先生)
クサフジの青紫色の小花が群れ咲く様はその名の通りフジに似ていますが、花序はフジのようには垂れ下がらず、上向きに立ち上がっています。
 
クサフジの花.翼弁・舟弁が押し下げられると雄しべ・雌しべが現れる

(中安均)

クサフジの花にはハナバチ類やチョウ類がよく来ます。一方、ハナアブ類や甲虫類の姿は見当たりません。マメ科の花の蜜や花粉はよくガードされており、彼らには利用できないからです。
マメ科の花の雄しべ・雌しべは一対の舟弁(しゅうべん)に囲まれた中にあり、その外側には一対の翼弁があります。クサフジの花を訪れた小型のハナバチ類は花に頭を押しつけるようにして口器を伸ばし、奥にある蜜を吸います。このとき脚を掛けた翼弁と舟弁が押し下げられ、隠れていた雄しべ・雌しべが外に出てきてハチの体に接触し、花粉がつきます。すでに体についていた花粉が雌しべの柱頭に触れれば受粉が行われることになります。
吸蜜中のシロスジヒゲナガハナバチの雌.口元に雄しべ・雌しべの先端が接触している

(中安均)

ストローを差し込んで蜜を吸うキアゲハ.雄しべ・雌しべは隠れたまま

(中安均)

花の蜜を吸いに来ている虫のすべてが花粉を運ぶとは限りません。中でもチョウの仲間は細長いストロー状の口器を花の隙間に差し込んで蜜を吸うので、花粉媒介に関与していない場合が多いようです。
花の元に口器を突き刺して蜜を吸うクマバチ(雌)

(中安均)

花の正面から口器を差し込んで蜜を吸うクマバチ(雄)

(中安均)

クサフジの花にはクマバチも頻繁にやって来ます。クマバチの体はクサフジの花よりずっと大きいのですが、うまく花を操作できるのでしょうか。
観察しているうちに、クマバチがクサフジの花の蜜を吸う方法には2通りあることに気付きました。個体によって違うようですが、詳細な観察はこれからです。
1つ目は花の付け根に鋭い口器を突き刺して蜜を吸う方法です。体が雄しべや雌しべに触れる可能性は全くなく、花粉媒介の役には立ちません。
2つ目は小型ハナバチと同様、花の正面に頭を押しつけて口器を差し入れる方法です。こちらは報酬(蜜)に対してちゃんと仕事(花粉媒介)をする「良心的なクマバチ」かと思ったのですが…。
よく観察してみると、クマバチは複数の花を一緒に抱きこむようにして止まっており、このような止まり方では雄しべ・雌しべが舟弁の外に出てくることは偶然にしか起こらないように思えます。撮影した写真を拡大してみても外に出ている雄しべ・雌しべは確認できませんでした。
花の正面からでも、口器を抜き差しするだけでは花粉はつかないのではないかと思い、爪楊枝をクサフジの花に抜き差しして確かめてみましたが、花粉はつきませんでした。
花と虫とは互いに影響を与え合いながらそれぞれの形態や行動などを進化させてきました。両者の関係は相手のために好意で何かをしてあげるという助け合いの関係ではなく、自己の利益を最大にするために互いに相手を利用し合うしたたかな者同士の関係のようです。
コマチグモと寄生する蜂(浅間先生・田仲先生)
ヤマトコマチグモの住居

(浅間茂)

カバキコマチグモの住居

(浅間茂)

コマチグモやフクログモは、ヨシやススキの葉を折り曲げて住居をつくります。岡発戸で多く見られるのは、ヤマトコマチグモです。2週間前までは、同じような形をしたアシナガコマチグモの住居が見られました。これらの住居には、はじめ雄の成体と雌の亜成体が中に入っています。雌の脱皮後に交接し、その後に雌は産卵、その中で子グモが育つまで保護します。
卵を狙う一番の敵はアリです。人が産室(住居)を開けてしまうと、すぐにアリに襲われてしまいます。
一つだけ、ちょっと変わったちまき状の住居があります。これはカバキコマチグモの住居です。今の時期には、卵と雌のカバキコマチグモが入っています。母グモは孵った子グモに自分の体を餌として与えることで知られています。
コマチグモ類の住居は立派です。これならば、それをそのまま利用する狩蜂がいても不思議ではありません。そんな生活をしているのがツツクモバチです。日本では2種類知られていて、ここで見つかるのはヤマトツツクモバチです。
ツツクモバチはススキの葉から葉へと飛び回って、これはというコマチグモの住居を探します。適当なものが見つかると、住居のまわりを回りながら中の状態を見極めます。クモの大きさはどれくらいか、既に卵を産んでやせ細ってはいないかなどを調べています。自分に襲いかかってくる敵が家の周りにいる…中にいるクモは気が気ではないでしょう。ハチは天気が良い時にだけ活動するので、葉を通して見える不気味なその影に震えているかもしれません。
ツツクモバチ・産卵のようす

(田仲義弘)

産卵するコマチグモの住居を決めると、葉を噛んで傷を付け、前脚でその裂け目を開いて中に入ります。そしてコマチグモの脚を大顎ではさんで、腹の先を頭胸部の腹側に差し込み、針を打ち込んで麻酔します。コマチグモが眠っている間に、目覚めたコマチグモが卵を取り除けない場所である腹部の付け根に慎重に卵を産み付け、クモが目を覚ます前に巣から出ていきます。
ハチは麻酔薬だけではなく、産卵を阻害する物質も注入しているようです。幼虫が食べるのはクモだけで、卵を食べません。産卵されたのでは食べ物が少なくなってしまいます。
ツツクモバチが寄生したコマチグモの住居の見分け方をお伝えします。1つ目は透かしてみて中にクモの卵が無いか。2つ目は緑色の葉に変色した傷痕があるか。葉に付けたキズは変色して白や茶色になるのでわかります。3つ目はアリがいるかどうか。クモが元気ならば、巣に近づくアリを追い払っています。
寄生された住居を開いてみると、今の時期ならば、中にハチの繭が見つかります。
なお、ツツクモバチはクモに寄生するハチですが、系統的には狩蜂として扱われます。
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チビタマムシの話(山崎先生)
ケヤキの食痕

(山崎秀雄)

ケヤキの葉に黒っぽい大きな斑点とギザギザの食痕があります。この食痕はヤノナミガタチビタマムシによるもので、黒い斑点はその幼虫が葉の中に食い入っているためにできます。本種は年1世代で、成虫越冬した成虫はケヤキの葉を食べ、5月上旬から交尾産卵をします。卵は主にケヤキ、まれにムクノキ葉上に産みつけられます。孵化幼虫は卵の接着面から葉の中に食い入り葉肉を食べ、中で蛹になり、7月には羽化します。幼虫は糞を糸状につなげ、室内を汚さないようにしています。秋の気温が下がる時期になるとケヤキなどの樹皮下や物の隙間に入り冬を過ごします。
葉肉内に入るので葉の表裏の表皮に守られ、周りが餌なので理想のすみ家といえます。生活空間が狭く餌が少ないので大きくはなれないのですが、それなりに繁栄しています。時に多く発生することもありますが、樹木は枯れることはないようです。幼虫が葉の中に入る虫を潜葉虫といい、ハエ目やチョウ目などにもそのようなタイプの昆虫が存在します。
ヤノナミガタチビタマムシ成虫

 

同・幼虫と糞

(山崎秀雄)

ここの手の届くところにムクの葉に食痕があります。葉を1枚取って観察してみましょう。幼虫が入っていますね。葉の中の幼虫は脚がないのでどちらが背側か分かりません。
※ここで参加者から「腹側が上の場合はすぐに裏返しになりました」というコメント
そうですね。もし動かないときは、頭部を見て口が下に向いていれば背中側です。
日本産チビタマムシ属(Truchys)は23種いますが、そのうち2種は本州に産しません。千葉県産は15種、そのうち2種には千葉県北部の記録はありません。我孫子市産は10種、岡発戸・都部谷津産は7種と多いです。岡発戸・都部谷津の昆虫生息調査はよくなされているようですが、その報告書を見ると、枯れ木に由来するタマムシ類は少なく、小型、食葉性(潜葉性)種に偏っています。それはこのヤノナミガタチビタマムシのように、森林斜面にいる小さい種が生息しやすい環境なのだということを表しています。
オナガバチの産卵(田仲先生)
先月、この枯れたエノキには、枯れ木に産卵して子供の食料にするクロヒラアシキバチの死骸と、そのキバチの幼虫に寄生するニホンヒラタタマバチ、同じくキバチの幼虫に寄生するオナガバチ類の雄がいました。
さて今月はどうなっているでしょう。オナガバチの雌がやって来て産卵していますね。ハチは雌社会ですので、次世代を残すためのほとんど全ての作業は雌だけで行っています。
先月は雄が多かったため、種類が特定できませんでしたが、雌を見て種類が分かりました。やや小型(体長50mmほど)で前翅の先端近くに黒帯があるのがツマグロオナガバチ、大きい方(体長70mmほど)がオオアメイロオナガバチです。
産卵するオオアメイロオナガバチ

(田仲義弘)

同・ツマグロオナガバチ

(田仲義弘)

どちらも体長より長い産卵管を木に垂直に打ち込み、中にいるキバチの幼虫に卵を産みつけます。
産卵する時はまず触角で中のようすを探り、産卵管を差し込みます。産卵管は先端まで神経が通っているので、幼虫に触れればそれと分かりますが、大変なのは産卵管の打ち込みです。脚を突っ張り、腹部を真っ直ぐに立てても、腹部の高さよりも産卵管の方が長いからです。
これは推測ですが、産卵管と鞘のついている腹部の先端を300度くらい回転させて、腹側から背中側に押し込み、腹部背板の間の透明な膜を膨らませて、そこに一時納めていると思われます。これで針を垂直に立てることができます。
また後脚の付け根(基節)の左右に半円形の凹みがあり、左右あわせてできた円形の穴に産卵管と鞘を通すことで、長い産卵管を操り、産卵の時に狙いを定めやすくしているようです。
チョウゲンボウの話(唐沢先生)
岡発戸の生物に詳しい浅間先生によれば、ここにはオオタカやチョウゲンボウなどの猛禽類が生息しているそうです。観察会の時に観察できるとよいのですが、なかなかそうはいきません。ところが今日は、チョウゲンボウを直接手にして観察してもらいます。
今日お持ちしたのは、たまたま江戸川土手で拾ったチョウゲンボウの若鳥の死骸です。外傷はなく、胃は空っぽだったので、冬の寒さと飢えで死んだようです。鳥は手にして見ると、遠くからウォッチングしている時とは大違いです。嘴や翼、足の爪など、どの部分をとっても実によくできています。
翼を持ってみて、どうですか?
参加者「軽いです」
曲げてみると、しなやかで、実に丈夫ですね。足の爪に注目して下さい。小鳥をこんな風に(毛糸の靴下を丸めたものに引っかけて)爪で引っかけて捕らえます。爪の先がどれほど鋭いか、ご自身の肌を引っかいてみて下さい。
自然観察では、「見る」「聞く」「嗅ぐ」「食べる」「触る」など、五感をはたらかせることが大切です。
が、鳥の場合は実際には「食べる」「触る」は困難です。そこで、次善の方法として、死体が手に入った時には観察用に活用してみてはどうでしょう。
丈夫でしなやかな翼の羽(初列風切羽)について解説する唐沢先生

(石井秀夫)

チョウゲンボウの爪の鋭さを体感する皆さん

(石井秀夫)

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休耕畑の雑草(植物)
背丈の高いヒメジョオンの群落

(岩瀬徹)

ヒメジョオンのロゼット

(岩瀬徹)

台地を上ったこの場所は、数年前には畑でしたがその後放置され雑草群落になりました。
その初期がどんな群落であったか、残念ながら記録がありません。今年の第1回(5月17日)のときは、ハルジオンがよく成長し花盛りでした。今回(6月21日)はヒメジョオン群落に代わっていました。
地面にはハルジオンのロゼットが多いですが、ヒメジョオンのロゼットもあります。しばらく見ているうちに区別がつくようになります。ヒメジョオンの結実はこれからですから、いまあるロゼットは開花個体の子孫ではありません。おそらく昨年の秋遅くか今年の2、3月ごろに発芽したものでしょう。年内に茎が成長することはなく、また来年のいまごろになるでしょう。
発芽から枯れるまで、少なくとも1年半はかかります。そのため単純な越年草(冬生1年草)とは違います。これをあえて2年草としたいのは、遷移の位置づけが微妙に違うからです。
ここの群落内には、セイタカアワダチソウやヨモギ、アズマネザサなどが侵入しており、あと数年放置されるとこれら多年草が優占する群落に代わると予想されます。
ガガンボモドキの話(鈴木先生)
ガガンボモドキが、休耕畑のそばの林内で見つかりました。ガガンボモドキは、先月の観察会で見られたヤマトシリアゲと同じシリアゲムシ目に属する昆虫です。
シリアゲムシの餌は、傷ついたり死んだ昆虫やクワの実などです。そのため、雄は餌のある場所で雌がくるのを待ち、やってきた雌が餌を食べている隙に交尾します。
それに対して、ガガンボモドキは生きている小昆虫を捕まえて食べるので、餌を捕まえやすいよう、脚先(ふ節)はカマ状になっています。
餌をとるガガンボモドキ

(鈴木信夫)

カマ状になっている脚先

(鈴木信夫)

雄は交尾の際、雌に捕まえた餌をプレゼントしますが、この行動は婚姻贈呈といいます。外国での研究によると、北アメリカのガガンボモドキの1種では、プレゼントが大きくておいしくないと、雌は飛んで行ってしまうそうです。雄にとって子孫を残すためには、いいプレゼントを見つけることが重要になります。餌を食べて交尾を始めたものの、やっぱり気に入らない餌だった場合、雌は雄から精子をもらう前(交尾後5分以内)に飛び去ります。
一方、20分以上交尾をしても雌が受け取る精子の量は増えないので、20分経つと雄は交尾をやめ、別の雌を探しに飛び立ちます。プレゼントがまだ使える場合は、強引に雌からプレゼントを取り上げて再利用します。交尾のシーズン、雄は一生懸命に餌を探しますが、クモの巣に引っかかって命を落とす雄もいます。そこで、雄の中には、プレゼントをもっている雄に雌の仕草(北アメリカのこの種類の雌は、交尾のときに翅をたたむ)をして近づき、うっかりだまされた雄からプレゼントを奪っていって、そのプレゼントを雌との交尾に使用するそうです。残念ながら? 日本のガガンボモドキの配偶行動では、この女装雄の存在は知られていません。
夏のトンボの話(鈴木先生・山崎先生)
田んぼを前に説明される鈴木先生と山崎先生
シオカラトンボとオオシオカラトンボ
この時期、田んぼや池の周りで、シオカラトンボやオオシオカラトンボが見られます。
オオシオカラトンボの方が、やや大きく、後翅の付け根が黒くなっているので、見分けが付きます。また、シオカラトンボの方が明るい環境を好みます。
この2種は、未成熟の時には雄も雌も胸部や腹部が黄褐色をしていますが、雄は成熟すると体表に白い粉が生じるので、灰色になります。シオカラトンボの雌をその体色からムギワラトンボとも呼びますが、未成熟な雄も体色からすれば、ムギワラトンボといえます。雄雌が連結して、精子の受け渡しが行われた後、雌が単独で水面をたたくようにして産卵します(打水産卵)。雄は産卵中、邪魔が入らないように近くを飛び回ります。
翅先に黒褐色の斑紋があるノシメトンボもたくさんいました。ノシメトンボはアカトンボの仲間で、「ノシメ」の由来は、腹部にある模様が「熨斗(のし)」の形に似ているからだそうですが、捕まえてじっくり見て見ましたが、「そうかなぁ」という感想でした。ノシメトンボの近縁種に、コノシメトンボがいますが、今回見られたのはノシメの方だけだったようです。
数は少なかったですが、アキアカネもいました。アキアカネは秋、収穫後の田んぼに溜まった雨水などに産卵します。発生が少し進んだところで卵は休眠状態になります。アキアカネの休眠卵は乾燥に大変強いので、乾燥した土の中で越冬し、翌春、田んぼに水が引かれると発生を再開させます。やがてヤゴが孵化し、ミジンコなどを食べて大きくなり、6月頃に羽化します。
稲作には田んぼから一時的に水を抜く、中干しという作業がありますが、羽化のタイミングより先に中干しが行われると、ヤゴは死んでしまうことになります。早期中干しの田んぼでは約50%のヤゴが死に、無事羽化したのは14%前後という調査報告もあります。最近アキアカネが減ったという話がありますが、この早期中干しも減少の一因かもしれません。
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谷津の話(浅間先生)
前回は谷津の全体の話をしましたが、今回はそのなかの排水路について見てみましょう。
上流は両面がコンクリートですが、この下流の一部は生態を考慮した護岸です。我孫子市が何千万円もかけて、上流と同じ護岸のコンクリートを壊し、このようになだらかな護岸に変えたのです。
この結果、谷津の生き物に大きな変化が生じました。以前はトウキョウダルマガエルが生息していなかったのですが、今はよく見かけるようになりました。今日も鳴き声が聞こえましたね。 
カエルというとどれも水辺に生息していると思われますが、産卵場所こそ池や水田が多いですが、生息場所は様々です。もちろん、水路や池などの水辺に生息するカエルもいます。ここでは、トウキョウダルマガエルとウシガエルがそれにあたります。
トウキョウダルマガエルは水田に卵を産み、そこで稚ガエルになります。しかし、稲刈りがはじまると、隠れる場所が無くなり、あっという間にサギの餌食になってしまいます。いち早く水路に逃げなければなりません。上流の排水路を見てください。両面がコンクリートでは落ちたら最後、吸盤のない足では登れません。水田の水は昔と違い、潅漑用水ですから、稲刈りが終われば排水路以外に水辺がなくなります。(今は谷津ミュージアムの会に参加されているボランティアの方々のお陰で、逃げる水辺もあります。)
下流の自然を生かした護岸から、入り込んできたトウキョウダルマガエルの鳴き声が聞こえるようになったのは嬉しいことです。また2月頃に、ニホンアカガエルが水田の凹みなどにできた雨の溜まり水に産卵しても、干からびて死んでしまうことが多かったのですが、ボランティアの方々の努力により産卵場所も確保されています。
上流の両面コンクリート護岸

(浅間茂)

下流に見られる生態を生かした護岸

(浅間茂)

カエルが増えれば、ヘビが増えます。ヘビが増えれば、タカもやってきます。今日も大きなアオダイショウの脱け殻を見ることができました。人によって支えられて、この豊かな谷津ミュージアムがあるのです。

講師のみなさん、本当にありがとうございました。また後援を頂きました我孫子市役所の方々、岡発戸で保全活動をされている谷津守人のみなさん、そして一緒に観察を楽しんでくださった参加者のみなさん、ありがとうございました。
次回の観察会は10月4日(日)を予定しております。
奮ってご参加ください!
観察会の前日に排水管にいたアオダイショウは、観察会の直前に脱皮したようでした。
我孫子市では「谷津ミュージアム」として地元の方々とともに、谷津田の環境を守るための熱心な活動をしておられます。
我孫子市HP→ http://www.city.abiko.chiba.jp/event/shizennonaka/yatsu_museum/index.html
(レポートまとめ 自然観察大学事務局 脇本哲朗)

2015年度 野外観察会
第1回の報告

第2回の報告

第3回の報告
テーマ別観察会:野草・雑草を観察しよう
テーマ別観察会:身近な昆虫探検
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